【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第12話 中間テストの勉強についてのあれこれ

「中間テストが迫っている」

「うん、そうだね」

 

 中間テスト10日前となった今日、昼。いつものように中庭のベンチで昼食をとっている俺と千里。

 学生なら、テストが迫っているとなれば少しでも焦るのが普通だろう。ところが俺と千里は普通にそこそこ勉強ができるので、流石に勉強無しでとはいかないが苦労して勉強する必要もなくいい点をとることができる。

 

「定期テストなら問題ないでしょ。実力テストとかなら恭弥は苦労するだろうけど」

「だなぁ。そろそろ大学受験の勉強考えないとな」

 

 俺は習得が早いが忘れやすい、千里は習得が遅いが忘れにくい。つまり俺のいい点数はその場しのぎのいい点数であり、少し経ってから同じ内容をするとボロボロになる可能性が高い。だから、受験勉強は早めに始めて少しでも定着させておく必要がある。

 

「恭弥って恭弥なのに、そこらへん真面目だよね」

「俺みたいなやつが高卒だと、どこもとってくれないだろうからな」

「自覚あるんだね。でも大卒でもとってくれるところ少ないと思うよ」

「じゃあ自分で企業起こしたらいいだろ。大学は経営学科に決まったな」

「面白そうだったら協力するよ」

「面白いに決まってるだろ。俺だぞ?」

「ふふ、そうだね。じゃあ、高校卒業してからも一緒だ」

 

 そうやって笑い合いながら飯を食っていると、ふと気づいたことがある。

 中間テストを利用して、日葵にお近づきになれるんじゃね?

 日葵はこう言っちゃなんだが頭があまりよろしくない。勉強をしてもいい点数をとれるかどうか微妙なところで、中途半端な点数を取って終わることが多い。つまり、日葵に勉強を教えるなんていう素敵なことができるかもしれないということ。

 

「千里」

「夏野さんと勉強会? 僕に頼むより、朝日さんに頼んだ方がいいんじゃない?」

「俺は時々お前と通じ合いすぎて怖いよ」

「僕は親友って感じがして誇らしいけどね」

「はは、こいつめ。んなこと言うから勘違いが収まらないんだろうが」

「こういうこと言われて恭弥悪い気してないから勘違い収まらないんでしょ?」

 

 俺の負けだ。俺は千里にこういうことを言われて素直に喜ぶ純情ボーイである。ほら、だって親友から親友だって言われて嬉しくない親友がどこにいるんだ? 親友親友うるせぇな。

 けど、そうか、勉強会か。やるならどこでだろう。俺の家? 俺の家きちゃったりする? 家近いしちょうどよくね? そう、これは何もやましい気持ちも何もなく、ただ効率とその他諸々を求めた結果によるものであって、勉強するっていうことを一番に考えた結果だ。俺は薄汚れた精神の持ち主だが、それくらいの分別はつく。

 

「なぁ千里。勉強会にかこつけて、どうやったら日葵とえっちできると思う?」

「相変わらず欲望にまみれてるね。生き恥晒してみっともないと思わないの?」

「あのな、男子高校生が好きな子と一緒の部屋。これだけでもうえっちだろ?」

「なんで僕が間違ってるみたいな風に言うの? 我慢ならないんだけど」

「お前が間違ってるからだろ。お前は黙って俺と日葵がえっちできるような作戦を考えればいい」

「っていうわけなんだけど、朝日さんどう思う?」

 

 千里の言葉を聞いてすぐにその場から逃げようとするが、いつの間にか俺たちの前に立っていた朝日に確保される。腕をがっちりつかまれて、普段なら嬉しいはずの腕にあたる柔らかい感触も「死ぬ前にいい思いさせてやるよ」と言われているようでものすごく恐ろしい。

 

「楽しそうな話してたわね」

「よう朝日。今日も毎朝のぼる太陽がごとく、俺を照らしてくれるんだな。お前がいなきゃ俺という存在は輝けない」

「つまり逃がしてくれってことね?」

「話が早くて助かる」

「話がわかるとは言ってないわよ」

「千里」

「諦めて」

 

 一本背負い。一本背負いである。決して軽くはないはずの俺の体は軽々と持ち上げられ、背中から思い切り叩きつけられた。俺の運動神経を信頼しての一本背負いだろうが、ろくに受け身もとれないやつにやったら大事故だぞこれ。

 

「まったく、いい話持ってきてあげようと思ったら、相変わらず欲望にまみれてるのね。あなたを育ててくれる両親に申し訳ないと思わないの?」

「申し訳ないと思うから一度挨拶にきてくれ。俺が生まれてきた理由がわかる」

「行かないわよ。あんたの両親なら、勘違いして結婚させられそうだし」

 

 いや、俺の両親も俺の妹も俺が日葵大好き人間だってことを知ってるはずだからそれはないはずだ。「あらあら、愛人?」「恭弥、家は二軒の方がいいか?」「ふーん、おっぱい大きいもんね」程度のことしか言わないはずだ。

 まともなやついねぇじゃねぇか。

 

「あんた、さっさと起きなさいよ。パンツでも見ようとしてるわけ?」

「は? お前はアリに欲情すんのか? しねぇだろ?」

 

 腹の上に座られた。ちょ、出る。食ったばっかの妹特製サンドイッチが出る。「お母さんに追いつきたいから」って日々頑張ってる薫の頑張りを吐いてしまう。

 

「それで、織部くん。ちょっと勉強会しない? って誘いにきたんだけど」

「いいの? 一応男だよ? 僕」

「いいのよ。日葵も織部くんなら大丈夫だろうし」

「おい今日葵って言ったか? さっきのことは謝るから俺も参加させてくれ」

「今すぐ謝りなさい」

「俺はお前のパンツにすごく興味がある」

 

 額にチョップを受けた後、立ち上がった朝日の蹴りを腰にくらった。そのまま朝日は千里の隣に座って、地面にうずくまる俺を冷たい目で睨みつける。

 クソ、そんなことするから最近朝日の素がバレてきて、一部の男子から俺が「羨ましい」って思われるんだぞ? 知ってんのかお前。俺が汗水たらしてそう言っている男子に「マジでやめとけ」って説得してることを。

 

「あんた、ちゃんとした犯罪者になる前に更生した方がいいわよ」

「こういうこと朝日にしか言わねぇって。冗談だってわかってくれるから」

「……そ、ならいいけど」

「朝日さんって結構チョロいんだね。ははは」

 

 千里がぶん殴られてベンチから叩き落されたところで、俺が朝日の隣に座る。

 少し距離をとられたことに悲しくなりつつ、勉強会の詳細について聞き出す。

 

「ってか、朝日からそういう話持ってきてくれるの珍しいな。頼んだらやってくれる優しいめちゃくちゃいいやつだけど、日葵と二人で勉強会したいと思ってた」

「普通に褒めるのは調子狂うからやめなさい。まぁ本音を言えば二人で勉強会したいけど、日葵も自分から『学校でも話しかけていい?』って言っておいて、それができてないっていうのが気になってたみたいだから」

「めちゃくちゃ嬉しいんですけどー!」

「キモイわよ」

「お前、そろそろ女の子の『キモイ』の威力理解しろよ?」

「してるから言ってるのよ」

 

 恐ろしすぎる。こいつは男を殺す兵器として大成できる才能を持っているに違いない。朝日の隣にへらへらしながら何事もなかったかのように座ってる千里には効かないだろうが、俺のように一般的な男の子にはかなり通用する。

 それにしても、そうか。日葵も気にしてくれていたのか。てっきり「あいつ本気にしてるんだけど。キモくない?」って思われてるかと思った。日葵がそんな子じゃないとは思いつつも、そう思わざるを得ないくらい話しかけてくれないから。

 

「ま、今だって日葵も一緒に誘いに行こって誘ったのに、なんか照れ臭いからってこなかったから勉強会しても変わらないかもしれないわね」

「死ぬ気で連れて来いよ無能」

「織部くん、こいつの家の宗派知ってる?」

「浄土真宗本願寺派」

「俺を殺して葬式のためにお焼香の勉強しようとするな。あとなんで千里は俺の家の宗派知ってんの? 俺ですら知らないのに」

 

 朝日は俺を殺して素知らぬ顔で葬式に行くつもりだったのか? 恐ろしすぎるだろ。サイコパスが過ぎる。大体そんなことしたら千里がブチギレるに決まってるだろ。今普通に宗派教えてたけど。

 そんなことより勉強会か、楽しみすぎる。楽しみすぎてにやけが止まらなくて千里と朝日にこっそり「キモイ」と言われるくらいだ。

 

 泣くぞコラ。

 

「それで、どこでやろうって話なんだけど」

「あぁ、それなら俺の家にしてくれ」

「殺すわよ?」

「俺まだ何にも言ってねぇだろうが!」

「先が予想できるから殺すって言ったんだと思うよ」

 

 本当に変なこと言うつもりはなかったのに、ひどすぎる。ついに泣いてやる。高校二年生の男が女の子と女の子みたいな男の子にいじめられて泣いてやる。そうすれば日葵も何事だと思って慰めてくれるに違いない。その後事情を聴いて俺が悪いと知って、俺を優しく叱ってくれるんだ。

 

 毎日泣こうかな?

 

「いや、ほんとに変な意味じゃないんだよ。薫……妹が日葵に会いたがってたからさ。俺のせいで会わせてやれなかったし」

「日葵はあんたと会いたくないだけで、妹さんとは会えたんじゃないの?」

「朝日さん。妹さんは自分が夏野さんと会って話したら、話せてない恭弥がかわいそうだからって我慢してたんだ」

「は? ほんとにあんたの妹?」

「ほんとに俺の妹。俺もびっくりしてる」

 

 薫は俺と両親と一緒に過ごしているからか、少しおかしなところはあるが常識人。更に真っ当に育ったためかなりいい子。そして美人。どこに出しても恥ずかしくない妹だ。俺がいつか薫の夫に「お兄さん」と呼ばれる日がくるのかと思うと、悲しくて寂しくて、だけどどこか嬉しくてもやもやする。

 シスコンだと笑うことなかれ。家族なんてそんなもんだと思ってる。

 

「ちょっと会ってみたいわね……。あんた顔はいいし、どうせ可愛いんでしょ?」

「おい、妹を変な目で見るなよ」

「見ないわよ。男でも女でも、綺麗な顔してたら目の保養になるでしょ?」

「まぁ恭弥の妹を見たいっていう気持ちはわかるよ。びっくり箱みたいなドキドキ感があるよね」

「俺の妹を勝手にエンターテイメントにするな」

 

 まったく、俺に妹がいるって聞いたやつの反応は大体こうだ。俺の妹だから何かあるはずって、面白い何かを期待して会いたがる。薫は本当に可愛くて美人でいい子なだけなのに。だからみんなびっくりした後薫のことが好きになる。日葵も、遠い記憶じゃめちゃくちゃ薫可愛がってたし。

 

「じゃあそういう風に伝えておくわ。日程は明日から放課後ずっとで、休みの日もでいい?」

「なんだ。神様だったんなら言っておいてくれよ。貢物は何がいいんだ?」

「あんたの誠意」

「千里。神様ってないものねだりが好きなのか?」

「身に付けなよ」

 

 俺に誠意なんてものがあったら俺じゃないだろ。そういうと、二人は納得した顔で頷いた。


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