今思えば千里と日葵の関わりってそんなになかったように思える。あるにはあるんだが、個人的な関わりがそんなにないっていうか、二人きりでいたのって片手の指で足りるくらいの回数しかないんじゃないだろうか。
そんな千里が日葵に渡すプレゼント。日葵も俺以外の男からもらうプレゼントだからか、ちょっと緊張しているように見える。いや、見えない。そういや日葵って一番ナチュラルに千里のこと女の子扱いしてたもんな。そりゃ緊張しねぇわ。
「情けないことに結構悩んじゃってさ。喜んでもらえるかどうか不安だけど……」
「ん-ん! 悩んでくれたっていうのが嬉しい」
「光莉。千里が日葵に『悩んでくれたっていうのが嬉しい』って言って貰えてるけど、どうする」
「千里の形を変えてから考えましょうか」
「既に制裁加えてるやん」
それだけじゃ生ぬるいってことだよ。
千里が手に持っているのは小さな四角い箱。角の方が丸くなっていて、まるで指輪を入れる箱に見える。あそこから指輪が出てきたら俺マジで千里をぶっ殺しちまうな。ははは。
「気に入ってくれると嬉しいな。はい、どうぞ」
「え」
千里が箱を開けると、そこにはピンク色の宝石がはめ込まれた指輪があった。千里を見た。ものすごい冷や汗を流していた。もはや冷や汗で元々の顔がわからないくらいに。それでもメスさマックスなのは流石と言うほかない。
千里の様子を見るに間違えたんだろう。そもそもなんで指輪を持ってるんだっていう話になるが、それは多分いつでも薫に渡せるようにみたいなバカげた理由に違いない。
親友の間違いにいちいち目くじらを立てる俺じゃない。ここは穏便に笑って見過ごそうじゃないか。俺は千里の首を締め上げながらそう誓った。
「ち、ちが……ちが……」
「きょ、恭弥ストップ! ストップ!」
「恭弥。日葵がストップって言ってるからその状態で止まりなさい」
「10数える間に殺してやる」
「薫ちゃん。愛しの千里が殺されかけとるけどええん?」
「しらない」
「千里ー。薫ちゃんも怒ってるわー」
「かひゅ」
そろそろ危なそうなので下ろしてやると、「ごめん。ほんとにごめん。これは薫ちゃんにいつでも渡せるように持ち歩いてたやつなんだ。間違えた」とさっきまで首を絞められていたのにも関わらず流暢に喋り始めた。こいつ、殺されかけ慣れてやがる……!
つか、そんな大事なものなら間違えるんじゃねぇ、よ……? いや、間違えないよな。もしかして今の、薫に対するアピールか? 僕はいつでもいいよみたいな? こいつ、日葵を利用してアピールしやがったのか?
「許せないわね」
「あぁ。万死に値する」
「え? 芸術テロリスト?」
「バンクシーに値する」
「友だちやめよかな……」
光莉のしょうもない言葉に乗ってやったら、あまりのおもしろくなさに春乃から絶交宣言をされかけた。面白いものが好きだからってシビアすぎだろ。何回かは面白くないこと言っても許してくれよ。ていうか面白くないこと言う筆頭は光莉だし。
「こほん。気を取り直して」
俺たちに殺されないよう警戒しながら、千里は別の箱を取り出した。指輪が入っている箱とは間違えようもない細長い、メガネケースに見える箱。それを開けると案の定メガネが入っていた。
「この前、ブルーカットレンズが欲しいって言ってたからさ。度は入ってないけど、家とかで使ってよ」
「わー! ありがとー!」
千里がプレゼントしたのは、太い黒ぶちで、金の細い柄とブリッジのブルーカットレンズのメガネ。いつの間にそんな話してたんだ? まさか俺がいないところで日葵と会話を?
光莉を見てみる。憤怒。どうやらそんなことを言ってたのは知らないらしい。
「恭弥、朝日さん。別に二人で会ったわけじゃなくてね、薫ちゃんに会いに行ったときばったり夏野さんと会ってさ。その時に聞いたんだ」
「薫に会いに行っただって?」
「地雷を避けたと思ったら避けた先に地雷があった……」
「だから会いに来るなら兄貴に言った方がいいって言ったじゃん」
ほんとに。黙って会いに行くから印象悪くなるってのがわかんねぇのか? ちなみに会うって言われたら俺も一緒に遊ぶ。そして薫に嫌な顔されてとぼとぼ出て行く。しくしく。俺に味方なんていないんだ……。
まぁ千里のことだろうし、勉強を教えるとかそういうので会ってるんだろう。薫は勉強を教わる必要がないし、わからないところがあったら俺に聞いてくれるからその必要はないんだけど、薫も千里と会う口実が欲しいだろうしな。あーあ。世界中がゲロまみれにならねぇかな。
「ねね、かけてみてもいい?」
「私によだれを? いいわよ」
「邪悪は滅んでくれ」
「なら一緒に死にましょう」
「え、ずるい! 私も一緒に死ぬ!」
「浪人八年目オフ会か。恭弥くんと日葵は死なせへんからな」
「おっぱいに嫉妬して私を死なせるのはやめなさい」
春乃の『死なせないリスト』から光莉が漏れてしまった。多分三人の中で一番生命力が強くてしぶとそうだから自力でなんとかできるって思ったんだろ。春乃はなんであろうと人を見捨てるやつじゃないし。光莉がおっぱい煽りし続けたら多分殺されるだろうけど。
千里が「いいよ」と言うと日葵はにこにこしながらメガネをかけた。あ。かわいい。少し大きめのメガネだからか、元々小さかった顔が更に小さく見える。かわいい。素敵。好き。なんかこう、普段メガネかけてない子のメガネかけてる姿って新鮮でいいよな。そもそも日葵なら何をかけてもつけても可愛いに決まってるんだけど。
「日葵がわいい!!!!!」
「おうち感増してかわええなぁ。めっちゃ似合ってるで」
「日葵ねーさんかわいい」
「うん、ぴったり。僕の目に狂いはなかった」
「やった! ありがと!!」
ぴょんぴょん跳ねそうな勢いで喜んでいる日葵を見て、全員がほっこりした。かわいい。恋愛的な意味じゃなくてもう純粋にかわいい。人類の宝だろ。日葵を傷つけた人間は死刑にするべきだ。
だってこんな純粋な子いないぜ? プレゼント一つで跳ねるくらい喜ぶって可愛さの化身じゃん。愛の獣になっちまいそうだ。
俺が獣になるかならないかの瀬戸際で震えていると、日葵が俺を期待するような目でちらちら見てきていることに気づく。ここでなんで見てるんだろうなんて思う鈍感な男じゃない。きっと、俺にも似合ってるとかかわいいとか言って欲しいんだろう。みんながいる前で? ふふふ。恥ずかしいとかその他色々な事情があって無理。
「きょ、恭弥。どう?」
無理だったはずなのに、日葵から直接聞いてきた。めっちゃ緊張して目が泳いでるし。そんなになるなら聞かなきゃいいのに。いいのに! かわいい! もう、仕方ないんだから。
「可愛いぞ。似合ってる」
「ふ、ふふ。そっか、そっか! えへー」
光莉が日葵の可愛さにやられて首を180度回転させ背骨がすべて砕け、部屋中を跳ねまわってから元の姿に戻った。いや、実際にはそんなことなかったんだがそれくらいの衝撃を受けたっていうのが俺にはわかる。多分、今光莉に簡単な算数の問題を出しても「ひなげし」と答える。それほど脳が働かないくらい可愛さにやられたということだ。
「ぐ、やるわね……まさか私をこんなになるくらい追い詰めるほどのプレゼントをあげるなんて……」
「朝日さん頻繁にその状態になってるよ」
「日葵が着飾ったら大体こうなるしなぁ」
「しかし私だって負けてないわよ! 日葵! 私からのプレゼントを受け取りなさい!」
そう言って光莉が取り出したのは札束。その瞬間光莉は「あ、これ直前でなしにしたやつ。ちょっと待って」と言って札束を懐にしまった。お前、いくらなんでも札束って……俺が一番最初の三択で消したやつじゃん。ったく、日葵に関することだとほんと頭のねじがぶっ飛ぶよなこいつ。
「これ!」
「? なにこれ」
札束をしまって次に取り出したのは、1ページに写真が2枚程度しか入らないであろう小さなアルバム。日葵が不思議そうにそれを開くと、日葵の顔がみるみる優しい笑顔に変わっていった。
「私と日葵の思い出を詰めに詰め込んだアルバムよ!! 最近邪魔者が多いから、改めて私たちが親友だってことを再確認しないとね!!」
「親友ってより犯罪者だったしな」
「最上級の悪質ストーカーだよね」
「いつ日葵が襲われるかはらはらしてたわ」
「いちゃらぶえっちがしたいから襲うわけないじゃない」
「今はっきりえっちって言ったな?」
こいつほんとに男だけが好きなんだよな? 両方ともいけるわけじゃないよな? 日葵相手ならワンチャンありそうなんだよな……。こいつの日葵に対する愛異常だし。多分俺も女の子だったら日葵とえっちしたいって思うから気持ちはわかるけどそれとこれとは話が別だ。クソ犯罪者め。今更親友アピールしても無駄なんだよ。
見ろ。日葵が感極まって光莉に抱きついてるじゃねぇか。あ。
「千里、春乃、薫、聖さん……はいつの間にか潰れてるな。光莉のお墓を立てよう」
「葬儀は予約したよ」
「ご家族にも連絡したで」
「事件性ありそうだから警察にも連絡したよ」
光莉は死んだ。