「よし、じゃあ片付けて寝ましょうか。あ、春乃。何するか言えないけど、今日は別の部屋で寝てくれない?」
「恭弥くんのプレゼントがまだやし、絶対別の部屋は行かへんで」
光莉がもはや性欲を隠すこともなく日葵に猛烈なアピールを送り、それを日葵が完全に無視して俺からのプレゼントをドキドキして待っている状況。それが今。
さて困った。俺というやつは結構シャイボーイで、なんとも思っていない相手なら気軽に何にでも誘えるが、好意を持ってる相手だと気の利いたセリフの一つも言えなくなってしまう。親友だけにとどまらず、色んな人からへたれと呼ばれる所以がここにあった。
なんか、いい感じに伝わってくれないかな。千里や光莉が相手だったら俺が何も言わなくても察してくれるのに、日葵はどうもそうはいかないらしい。日葵が俺の気持ちを何も言わなくても察することができていたら、そもそも俺の好意がバレるわけで、そう考えるとよかったようなよくなかったような。
「恭弥、もしかして日葵の誕生日プレゼント用意してないなんてことないでしょうね。もしそうだったら今日からあんたの名前は弥よ」
「神隠しかよ。俺の氷室恭を返してくれ」
「ほな私が苗字だけもらおかな」
「岸春乃氷室?」
「氷室春乃になろーっていうかわいらしいジョークやろが。激古漫才コンビみたいにしとんちゃうぞ」
「……! 恭弥、もしかして苗字をくれるの!?」
「落ち着け」
日葵は思考が飛躍しすぎる。俺も苗字をあげたいのは山々だが、それはまた何年後かにしてほしい。そうだな、俺くらいになると大学生でもうすでにかなりの稼ぎがありそうだから、三年くらい待っていてほしい。そうしたら氷室日葵にしてあげるからね……。
自分で言っていてキショすぎたので千里にも「キショッ」って思ってもらうために投げキッスをしておいた。無駄にいやらしい音をたてて投げられたキッスは、無の表情をした千里の手によって叩き落される。ひどい。俺からの愛をそんな風に扱うなんて……なに? はやくプレゼントあげろ? もう、せっかちな人……。
「ごほん。あー、日葵」
「はいっ」
「その、なんだ。なんか最近できたりできなかったりしたテーマパークだったりテーマパークじゃなかったりするところに行きたかったり行きたくなかったりするって言ったり言ってなかったりしたろ?」
「禅問答でもしてるん?」
「はは、見て薫ちゃん。君のお兄さんは女の子の前じゃまともに話せないらしい。そんな恭弥と比べてスマートな僕をどう思う?」
「兄貴の方が好感持てる」
「あぎ、ぐぎがぐぐぐ」
「まともに話せない部分を強調してどうするの……?」
よし、俺にしてはスマートに聞けたな。みんなから酷評されてるような気もするし、なんなら「禅問答?」って言われたような気もするけど気のせいだろう。
日葵は俺から聞かれて数秒首を傾げた後、俺が言ったことを理解したのか「あぁ!」と笑顔になって、
「うん! 光莉といこーって約束してたんだ!」
光莉を見る。一瞬目が合って、その間にアイコンタクトを済ませた。はぁ、まぁそうだよなぁ。確かに俺とお前は似てるし、日葵が行きたいって言ってたら一緒に行こうって誘うよな。一緒に遊べるチャンスだし。これは俺が悪い。行きたいって言ってるところなんだから光莉と約束してるって思い至らなかった俺のミスだ。
「それがどうかしたの?」
「いや、うん。気にしないでくれ。ははは」
困った。これじゃ俺のプレゼントがなくなってしまう。流石に光莉も「プレゼントを持ってこなかったな」って殺してくることはないだろうけど、日葵が悲しんでしまう。何かないか? 何もない。俺現金しか持ってない。女の子の誕生日プレゼントに現金なんて最低なことできないし、しようと思ってたことは一瞬あったけど流石の俺でもそれはやっちゃだめってわかってるし。
せめて笑顔でいようとニコニコしながら日葵と見つめ合っていると、日葵がなにやら難しい顔で考え込んでしまった。何? 何だその顔。かわいいけどこわい。俺の品定めしてる? 脳内日葵会議勃発してる? この男は将来の夫に相応しくないんじゃないかっていう議題で脳内の日葵たちが論争を巻き起こしてる? やめてくれ。いつもの笑顔を振りまく日葵に戻ってくれ。
「朝日さん。君には恭弥のプレゼントをどうにかする義務がある」
「悪いとは思うけど、プレゼントは自分で考えるものでしょ? 助け船は出さないわよ」
「恭弥くんなら二重三重に考えてきそうなもんやけど、日葵相手やったらポンコツになるんやなぁ」
「兄貴って時々謎の自信で突っ走るときあるので、珍しいことじゃないですよ」
ちくしょう。ちょっとだけ光莉が「あ、そういえば私その日予定できたのよね」ってさらっと言ってくれること期待したじゃねぇか。しないよな。日葵との予定をふいにするなんてこと光莉がするわけないし。
日葵が俺をちらちら見ている。そして首を横に振ったり傾げたり、何を考えているかわからないけど首が大忙しだ。かわいい。もしかして俺への誕生日プレゼント第二弾? 可愛い私を見て?
「……恭弥」
「はいっ」
バカなことを考えながら日葵を見ていると名前を呼ばれた。なんやかんやあって「もう二度と顔を見せないでください」とでも言われるんじゃないかとドキドキしながら返事すると、日葵はなぜか恥ずかしそうに俺を見ている。
「その、ね。勘違いだったら聞かなかったことにしてほしいんだけど」
「?」
「もしかして、その、プレゼントにね? 恭弥の誕生日に私がそうしたように、テーマパークに誘ってくれるつもりだったのかなぁ、って……そ、そんなわけないよね!! 今のなし!! 言ってみただけ!! いや、言ってない!! 何も言ってない!!」
「……」
「……」
「……」
「……そう、だったん、だ?」
「……」
頷くのも恥ずかしいから顎をしゃくれさせ、目をひたすらに泳がせる。嘘だろ。バレるのってこんなに恥ずかしいの? 最悪だ。「うわ、この人自分とのデートがプレゼントになるって思ってるの……?」って軽蔑されるじゃん。めちゃめちゃ自分に自信ある人間だと思われるじゃん。あーあ終わった終わった。氷室恭弥の人生は今この瞬間終わりました。お父さんお母さんさようなら。また生まれてくる新しい命にご期待ください。
日葵の顔を見れない。もしめちゃくちゃ気色の悪いものを見る目で見られていたらどうしようなんて思ったら見れるわけがない。そんな顔を見た日には国家を歌いながら国会議事堂の前で日本の国旗を燃やして暖をとる奇行をやってしまいかねない。
「光莉、ごめん!」
国家ってどんな歌詞とメロディしてたっけな、と思い出していた時。日葵の謝罪の言葉が聞こえてきた。
「また今度いこ! 私ね、初めては恭弥に連れて行ってもらう!」
「そんなぁ!!!!!!???????」
「はいだまっとこなー」
「牛脂あげるからおとなしくしとこうね」
「ひり潰す」
「ひり潰す?」
視界の端で千里が光莉にひり潰されているのが気にならないくらい、日葵の言ったことが理解できていなかった。
初めては恭弥に連れて行ってもらう。初めては恭弥にもらう。初めては恭弥にあげる。え? つまり初めてのセックスをしようということですか?
危ない。俺の人生が本当に終わるところだった。危うく「え、セックスしてくれるの?」って言いかけた。ホントに危ない。よく考えろ。日葵は光莉との約束は守りつつ、テーマパークに初めて行くときは俺と一緒に行きたいって言ってくれたんだ。つまり、俺のプレゼントを成立させてくれた。
「いいのか」
「うん。えへへ。恭弥といきたいなーって思ってたから、うれしい」
思わず跪いて「結婚してくれ」と言ってしまいそうになるくらい可愛い。えへへ? うれしい? 俺を殺す気かこのかわいこちゃんは。もしかしたら俺は既に死んでいるのかもしれない。最後の脳の機能を振り絞ってなんとか見せてくれている幸せな光景なのかもしれない。だったら実際に結婚してるところ見せろやカス。
「日葵の初めては全部私にくれるって言ってたじゃない!!」
「言ってないよー」
「言うてないんやって」
「私が言ってくれてたらいいなーって思ってるんだもん!!」
「重症だ。薫ちゃん、救急車呼んで」
「手遅れだから呼んでも意味ないよ」
何気に薫が一番ひどい。
よし、周りの声がちゃんと聞こえるくらいには冷静になってきた。日葵が恥ずかしそうに俺を見て笑っている。あへぁー。
「恭弥が壊れた!!」
「え、うそ、どうしたの恭弥!?」
「今のうちにぶち殺して捨てておきましょう」
「隙を見て殺人しようとしてんちゃうぞ」
「日葵ねーさん。一旦兄貴から離れてあげて」
「え……」
この日のそれ以降のことは覚えていない。ただ、意識を取り戻してスマホを見たら『日葵とでぇと!!』とカレンダーに恥ずかしげもなく記されていたのは確かだ。痛すぎだろ俺。