「ん?」
文化祭当日。私の何が悪かったのか、同級生の女の子から告白されそうな雰囲気を感じ取ったので一人で校内を回っていると、なにやらにぎわっている教室を見つけた。確かあそこは隣のクラスで、イケメンだけど頭がおかしい男の子と、どう見ても女の子にしか見えない男の子がいるクラスだったはず。
そのクラスの前に人だかりができていて、しばらくしてちっちゃくておっぱいが大きい女の子が睨みを利かせ、「整列!!!!!!!」と怒号を放ち、人だかりを見事な列へと早変わりさせた。女の子なのに執事服を着てるのはなんでだろうと思ってたけど、あの睨みと怒号やったら納得やな。
何があるのか気になったので、あのクラスから出てきた女の子に話しかけてみる。
「すみません。あのクラスなにやってるんですか?」
「喫茶店みたいな感じです。兄……ん-と、バカがバカやってるので、行かない方がいいですよ」
そのままぺこりと頭を下げて行ってしまった。なんや可愛らしい子やったなぁ。なんとなく隣のクラスのイケメンくんに似てる気したけど。もしかしたらほんとにあのイケメンくんの妹かもしれない。兄……って言うてたし。
うん、喫茶店か。どうりで執事服とかメイド服とか着てる人多いなぁって思ってた。っていうことは、あのイケメンくんが執事服着てるとか? あのおっぱい大きい子も可愛いし、あのクラスはレベル高いんかもせんし。
「うわぁぁぁぁああああああ!!!!!」
「おい、待て!!! メイド服着てご奉仕しろ!! 普段俺を誘惑してる罰をここで受けろ!!」
「いやだ!! 僕は見た目こんなんだからこそ女装はしないって決めてるんだ!!」
「女の子が女の子のカッコして何がおかしいんだ!!」
「僕は男だ!!」
「何ィ!? 男!? ならメイド服を着ろ!!」
「ちょ、やめっ」
なんてことを考えていると、教室の中から騒がしい声が聞こえてきた。記憶違いじゃなければイケメンくんと女の子みたいな男の子の声。声まで女の子みたいやな。ほんまについてるんか?
声を聞いている限り、どうやらイケメンくんが女の子にメイド服を着せようとしているらしい。だからあんな人だかりできてたんか。確かに、あの子がついてるかついてへんか結構噂になってるし、本物の女の子の裸に比べて合法的にいやらしいもん見れるしな。
「なんでみんな見てるだけなの! 助けてよ! 襲われてるんだよ僕!!」
「ハーッハッハッハ!! 俺は普段の行動がアレだから死ぬほど敬遠されてるんだよ!!」
「メイド服着るよ」
「おい。俺を憐れんで『せめて僕だけは味方でいよう』って気持ちでメイド服着ようとしてんじゃねぇよ」
「なんで味方やったらメイド服着んねん」
思わずツッコんでしまい、慌てて口を抑える。でも周りはあの二人に夢中なようで、私を見ている人は一人もいなかった。敬遠されてる割には中心におるのが向いてるような気もするなぁ。
「よし。じゃあ俺が着替えさせてあげるから、乳首舐めてもいいか?」
「君は母親の子宮で文法を完璧に学んでから生まれ直してきた方がいい」
「俺をもう一度生むなんて母さんがかわいそうだろ」
「そう思うなら省みろ」
私は、気づけば列の一番後ろに並んでいた。あの会話を聞いてそのテンポのよさと周りを惹きつける何かにわくわくしながら。私が入るころにはあの子はメイド服を着ているだろう。よく男らしいって言われる私よりはるかに女の子なんやろうなぁ。
「絶壁だから一人に決まってるわね」
「オイコラ待てや」
どうやらさっきのおっぱいが大きい女の子はお客さんを案内する係のようで、私のところにくると私を一人だと決めつけて、「胸がないおひとり様です!!」と教室に向かって大声で叫び、私の胸を見て鼻で笑ってから「飽きたわ」と言って教室から可愛らしいポニーテールの女の子を引っ張り出してどこかへ行ってしまった。なんやあいつ。マイペースどころかちゃんとした社会不適合者やんけ。次会ったらぶっ殺したるわ。
ムカつきながら列を進み、私の番が来た。窓から見えていたが、中はちゃんとした喫茶店のような内装で、窓際に木製のカウンターテーブル、教室に点々とおしゃれな木製テーブルと椅子、明らかにVIP用に見える赤いソファが壁際に並べられており、執事服、メイド服を着た顔のいい男女はVIP用のソファに座って接客している。
「おかえりなさいませお嬢様。ただいま男の子なのに女の子にしか見えない男の子が女の子のカッコしたもはや男の子ではなく女の子の男の子が空いておりますので、なんか面白そうだからお嬢様につけますね」
「手抜きの早口言葉か」
教室に入った瞬間、イケメンくんが綺麗にお辞儀をしながら私を出迎え、隣に立つ激カワメイド姿の男の子……? を差し出してきた。あかん、可愛すぎる。何この子。なんか性的というか、ただ可愛いだけじゃないというか……。
「……あの、やっぱり恥ずかしいというか、着替えていい?」
「お嬢様、いかがでしょうか」
「いくらでも払うわ」
「スレンダー金髪美人お嬢様ご案内しまーす!!」
うまいこと言うなぁ、と思いながらイケメンくんの後ろについていくと、VIP席に通された。私をソファに座らせると、私の前に二人が跪く。
「お嬢様。当店はまず初めにお飲み物を提供しております。コーヒー、紅茶、あとは忘れたのでメニューをご覧になって決めてください」
「ん-、コーヒーで」
「だと思ってもう用意しておきました」
イケメンくんが指を鳴らすと、執事服を着たアホそうな男の子が私の前にあるテーブルにコーヒーを置いた。「砂糖とミルクは?」と聞かれたので「大丈夫」と答えると、「だと思って当店の砂糖とミルクはぜんぶ捨てました」と答えた。このクラスの赤字が確定した瞬間である。
「あの、跪くのやめてくれへん? なんか居心地悪いというか」
「では失礼します」
「恭弥、隣に座ってって意味じゃないと思うよ」
「隣に座ってって意味やで?」
「あ、そうなんですね。女の子にあんまり気安くしちゃダメだと思って……」
「お気を悪くしたのであれば申し訳ございません」
「申し訳ないと思うなら脚組むのやめぇや。や、気にしてへんけど」
しかもいつの間にか自分のコーヒー用意して飲んでるし。私まだ飲んでへんのに。
「……楽しい人なんやなぁ」
「お、わかります? 俺楽しい人なんですよ」
「恭弥。お客さんだよ」
「ええよええよ。私砕けてる方が好きやし」
「よし」
「僕の骨を砕こうと拳を握るな」
コーヒーを喉に流し込んで、ふわりと笑う。こんな言い方したら失礼やけど、この人毎日楽しいんやろうなぁ。友だちになれたらええんやけど……。
この二人、付き合ってる噂あるしあんまり近づくのもよくないかな。