「宿題なんてしゃらくさいことやってんじゃないわよ!!!!!!」
「????????」
光莉が宿題をやっていたはずなのになぜか俺が「宿題なんてやってんじゃないわよ!」と怒られ、「千里と薫ちゃんの邪魔になるから」と家から引きずり出され、「なんか物産展やってるらしいわよ」と流れるようにデパートへ連れて行かれた。こいつ、もしかして今日俺をここに連れてきたいから家に突撃しにきたんじゃ……?
「さぁ、おいしいものを奢りなさい」
「俺に財布を期待するならそれ相応の可愛らしさを見せろ」
「あら、私は素のままで十分可愛いと思うけど?」
「へぇ。北海道の物産展やってるのか」
「無視はやめなさい。可愛いって言ったらしゃぶりつくしてあげるわよ」
「光莉。お前はそこそこ可愛いよ」
「こういう時に世界一可愛いじゃなくてそこそこ可愛いをチョイスするのはあんたぐらいね。気に入ったわ」
気に入ったなら殴らないでくれませんかね……。
まぁ今のは照れ隠しでそこそこって言っただけで光莉はめちゃくちゃ可愛いと思ってるから俺は悪くない。なんで殴ってきてんだこいつマジで。頭おかしいんじゃねぇの?
「人いっぱいいるわね」
「うまいもんいっぱいありそうだしなぁ」
「ウニホタテいくら牛ステーキ弁当っていうのがあるわよ」
「もう名前を捻る時代は終わったんだな」
商品名が160kmストレート。やっぱり捻った名前にするよりこっちの方がいいよな。何が入ってるかわかりやすいし、ウニとかホタテとかが好きな人が目につきやすい。光莉が欲しそうにしてるけど値段がちょっとアレなので無視して、人混みをかき分けながら進んでいく。
周りを見ると、家族やカップルが多い。売り場の人も積極的に声をかけていて、にぎやかというかなんというか。
「うるせぇな」
「あんたって時々本気で心無いわよね」
いや、その、ほら。夏休みになると予定がなかったらほとんど家じゃん? だから人が会話してるところとかそんな耳にしなくなるじゃん? そのギャップよ。これが夏休みじゃなかったら普段から会話聞いてるしうるせぇとか思わなかったけど、本当だよ?
「光莉、はぐれるなよ。おっぱいでかいんだから」
「はぐれることとおっぱいが大きいことの因果関係を教えなさい」
「ほら、引っかかったり……」
「あんたにくっついてるから大丈夫よ」
あぁ。だからやけに俺の背中が柔らかいと思った。なるほど、光莉が後ろからくっついてたんだな。やけに男から視線を感じるなと思ったら羨ましいとかそういう感じのやつね。どうだ羨ましいだろ。美少女のおっぱいを背中に押し付けてもらいながらおいしい食べ物を見て回ってるんだぜ俺。富豪のパイオニアか?
ただまぁ、おっぱいが押し付けられたところで男の中の男である俺はまったく動じない。光莉をおんぶしたときもむぎゅむぎゅだったし、あの時に比べれば今はまだ控え目な方だ。俺は内心バックバクのドッキドキである。めちゃくちゃ動揺してんじゃねぇか。
「そういえば今日晩御飯いらないって言ってきてるのよね」
「へぇ。どこの草食って帰るんだ?」
「道草食わせて帰らせようとしてんじゃないわよ。もちろんあんたの家でご馳走になるわ」
「図々しい女だな。嫌いじゃないぜ」
「きゃっきゃっ」
そこら辺に春乃いねぇかな……。光莉と二人きりだとどうもふざけすぎてツッコミがいなくなることが多々ある。もっとこう、場をビシッと締めてほしいんだよ。メリハリがない。ふざけ続けるのも楽しいけど周りから見たらただの痛いやつらじゃん。くっつきあっていちゃついてるカップルじゃん。
「恭弥、何食べたい?」
「ん-。せっかくだし海鮮系食いたいな」
「よく知らないけど、北海道と言えば海鮮って感じだものね」
あと肉。とにかく飯がうまいイメージがある。たこわさとかうにいかとかも売ってるし、いやん、あたし迷っちゃう!
せっかくだし千里と薫にも何か買って行ってやろうかな。あいつらのことだから俺の目がないところで二人でお料理してきゃっきゃしてるだろうけど、「こっちのがうまいぞ」ってクソ高い海鮮をボンって並べるのも面白いかもしれない。ぷぷぷ。飯なんか高けりゃ高い方が美味いに決まってるのにバカな奴らめ。
「……ねぇ恭弥。何かめちゃくちゃ見られてる気がしない?」
「ん? 俺が美男子で光莉が美少女だからだろ」
「……。え、えっと、恭弥がすごく見られてる気がするの」
美少女って言われて照れてるなこいつと思いながら、周りを見てみる。確かに見られているような気がする。特に女の人からが多い。ふっ、困ったな。俺がカッコよすぎて虜になっちまったか? 無理もないな。こんなにカッコよくて性格がよくて運動ができて頭がいいスーパー美男子の虜にならない女の子なんてこの世にごまんと存在する。は?
「なんか、『カッコいい人いる!』みたいな感じの視線じゃないのよね。もっとこう、うーん」
「視線の正体をお教えしましょう!!」
光莉が頭を悩ませていると、フラッシュとともに元気な声が聞こえてきた。無遠慮に人を撮ってくるやつには心当たりしかない。
「つづちゃん」
「あら、久しぶりね」
「お久しぶりです! そして週刊誌デビューおめでとうございます!」
「週刊誌デビュー?」
バッとつづちゃんが見せてきたのは、恐らく女性週刊誌であろうもの。俺は男だから当然女性週刊誌を買ったことはないが、コンビニとかでよく見かける結構有名っぽい週刊誌……なんてことはどうでもいい。
問題はその表紙。
表紙には、タキシードを着た俺とウエディングドレスを着た千里がノリノリで写っていた。
「あぁ……」
「恭弥! 気を確かに!」
「結構評判いいんですよ! お父さんが撮ったこの写真! やっぱり被写体がよくて、先輩たちがお互い信頼し合ってるからいいものが撮れるんでしょうね!」
「人口呼吸いる?」
「舌を入れてくれ……」
「よし、大丈夫そうね。死になさい」
大丈夫じゃなくしてんじゃねぇよ。
そういえば、そうか。俺と千里撮られてたんだった。まさか無許可で載せるとは思わなかったから安心してたけど、つづちゃんのお父さんならお構いなしだろう。なんかつづちゃんが「私が先輩たちならなんだかんだ許してくれるって言っちゃって!!」って言ってるけど。何してくれちゃってんの?
「というかあんたこれ学校の連中に知られたらまた付き合ってる噂が加速するわよ」
「加速するどころかもうゴールインしてるんだけどこの写真。加速してゴールテープ切っちゃってるじゃん」
「私は応援してますよ!」
「うるせぇよ」
さっきまではあんなおいしそうに見えた食べ物たちもまったくおいしそうに見えない。あ、あのまぐろおいしそうだな。あとで買って帰ろう。
とりあえずこれは俺の中だけに閉まっておいて、千里には伝えないでおこう。もし学校で写真のことについて聞かれて「あぁ、あれのことね」なんて言ってしまえば載せる事を了承して撮ったと捉えられかねない。だから伝えないことで「なんのこと?」と自然と言わせるようにしておけば、勝手に撮られて勝手に載せられたとまだ言い訳でき……ねぇよそもそもなんで撮ったんだって話になるし。白鳥家マジで俺たちを追い詰めるために存在してんじゃねぇの?
「そういえばお父さんから定期的に被写体になってくれとの依頼がありますよ!」
「誰がなるか」
「報酬は弾むそうです」
「週9でいいか?」
「時空を超越してまでお金欲しがるんじゃないわよ」
俺と千里くらいなら一回撮るたびに何万かもらえるだろうから、高校生にとってはものすごい報酬だ。代償は日本全国の人に俺と千里が恋人だと勘違いされ、俺が千里以外の子と結婚したら浮気だとか不倫だとか言われるだけだ。最悪じゃねぇか。
「ちなみにさ。この週刊誌って千里が男だってことちゃんと書いてる?」
「書いてますよ! そのあたりはしっかり気を遣ってます!」
「男だって書いてない方がいいんだよチクショウが」
「まぁ千里なら男でも女でも変わんないわよ」
これでもう俺は街中を歩いてたら「女の子みたいな男の子と付き合ってる超絶イケメンだ……」って思われるじゃねぇか。これの何が嫌かって俺と一緒に歩いてる女の子が泥棒猫だって思われることなんだよな。というか日葵が泥棒猫だって思われることなんだよな。光莉と春乃は自分で跳ねのけるだろうけど、日葵は普通の女の子だし……。
「お父さんが芸能事務所から声がかかるかもって言ってましたよ。よかったですね!」
「女の子みたいな男の子と付き合ってるデラックスイケメンだからか? クソくらえ」
「そうなるとミラクル美少女の私にも声がかかるかもしれないわね」
「お二人とも幸せな脳みそしてますね!!」
喧嘩売ってんのかこいつ。でも可愛いから許しちゃう。
はぁ、まぁいいか。学校中での勘違いが日本全国に広がっただけだし。俺たちが気にしてなかったらみんな忘れてくれるだろ。クソ、なんで俺と千里こんな幸せそうな顔してんだよ。様々な障害を乗り越えてついに結ばれましたみたいな表情してんじゃねぇよ。なんでこんな表情できるの? 役者じゃん。芸能事務所から声かかったら頷いちゃおうかな?
対人能力がバグってるから一瞬でクビにされる未来が見えた。俺は先見の明がある素晴らしい人間である。
「はーアホらしい。うまいモン食って忘れよう。つづちゃんも何か食うか?」
「いいんですか! ありがとうございます!」
「ちょっと、奢ってもらうことに対して申し訳なさとかないの?」
「そう言うなら光莉には奢らない」
「いやん。冗談じゃないん」
くねくねしだしたので「ははは」と笑ってやると、「セクシーだった?」としつこく聞いてきやがった。うざかったのでシュークリームを買い与えると、にっこにこになって「ありがとー!!」とおおはしゃぎ。
は? かわゆ。