「おじゃましまーす!」
「私がお邪魔してあげるんだからありがたく思いなさい」
「ぜひ帰ってくれ」
光莉は俺を無視してずかずかと家にあがった。生きてて恥ずかしくねぇのかな。
俺と千里の雑誌デビューという衝撃の事実を胸に抱え、うまいものを俺の自腹で購入し、なんで俺ばっかりが金払ってるんだ? という疑問も抱えつつ帰宅した。
色々考えた結果、やはり千里にも同じ気持ちを味わってもらおうということで雑誌を持つつづちゃんもお迎えしている。なぜかやたら俺の家を写真に収めているのはどういうつもりだろうか。時々俺にカメラ向けてきてるし。
「つづちゃん。その写真どうするつもり?」
「お父さんにあげようかと思いまして!」
「とんでもなく恐ろしいことになりそうだからやめてくれ」
「ダメですか……?」
「いくらでも撮っていいよ!」
「ダメに決まってるでしょ」
カメラをぎゅっと握って上目遣いでの「ダメですか……?」攻撃にノックアウトされ思わず許可を出すと、ちょうど二階から降りてきた薫に冷ややか目を向けられながら止められてしまった。いや、だって可愛かったんだもん。多分つづちゃんその仕草が可愛いって自分でわかっててやってるだろうけど、それが気にならないくらい可愛かったんだもん。
「つづちゃんさん。兄貴だけを撮るならいいですけど、家はやめてください」
「わかりました! ところで薫さん、氷室先輩と一緒に写る気はありませんか!」
「兄貴だけを撮るならいいですけど」
「わかりました! ところで薫さん、氷室先輩と一緒に写る気はありませんか!」
「兄貴だけを撮るならいいですけど!」
「わかりました! ところで薫さん、氷室先輩と一緒に写る気はありませんか!」
「NPCかよ」
どうやらつづちゃんは折れる気がないらしい。確かに薫はめっちゃくちゃ可愛いから写真を撮りたい気持ちもわかる。俺も薫が許してくれるなら一日中写真を撮ってアルバムに収めて行きたいくらいの気持ちがあるし、むしろここで薫に折れてもらえれば俺も薫の写真を手に入れる事ができる。
つまり俺はつづちゃん側に回ればいいということ?
「薫。そんなに断らなくてもいいだろ? つづちゃんが写真撮りたいって言ってるんだから」
「兄貴きらい」
「言ってるんだから、つづちゃん。早急に諦めてくれ」
「えぇー……薫さんの写真撮りたいのに……」
「いやん! しょぼんってしないで! 恭弥困っちゃうわ!」
「行きましょう薫さん」
「はい」
頬に手を当ててくねくねする俺を放置して、薫とつづちゃんはリビングへ向かった。なんで俺が放置されたんだろう? わからない。薫もつづちゃんもちょっと変わってるところあるからな。それを受け入れてこその年長者。俺はクールに微笑みながら二人の後を追おうとして、ふと千里が姿を見せないことに気が付く。
薫は降りてきたのに、千里が降りてこない。まさかあいつ、薫の部屋であはんうふんなことをしている……?
俺は千里を血祭りにあげるべく、階段を駆け上がって薫の部屋に突入した。
「薫のパンツは俺が守る!」
誰もいなかった。つまり俺は、妹の部屋に急いで突入して、一人で「薫のパンツは俺が守る!」と叫ぶとんでもないやつに成り下がってしまったということである。薫なら「何やってるの?」とただ単純な疑問をぶつけてくるだけで済ませてくれそうだが、一般人から見れば『妹の部屋に突入し、下着を死守しようとする色んな意味で危険な兄』に見えてしまうことだろう。俺は千里から薫のパンツを守ろうとしただけなのに。
「……何してるの恭弥」
「あ、千里。なんでお前薫のパンツ盗んでないの?」
「その手があったか! 流石の僕もそんな節操がないことはしないよ」
「隠しきれない欲望が飛び出してたぞ」
冷静になってさぁ下に戻ろうとドアの方を見た時、ちょうど部屋の中を覗いてきた千里と目が合った。どこにいたんだろうと一瞬思って、まぁ薫の部屋にいなかったなら別になんでもいいかと結論を出し、「先に行ってていいよ」と訳の分からないことをほざく千里をひっつかんで下に降りる。
「つかさ、お前、女子中学生の下着に欲情して恥ずかしくねぇの?」
「好きな人の下着に欲情するのは当然のことじゃないの?」
「おいおい。負けました」
「おいおい。勝ちました」
千里の言う通りだ。女子中学生の下着に欲情するのは性犯罪者の香りがぷんぷんするが、好きな人の下着に欲情するのは何も悪いことじゃない。ただ好きになった相手が女子中学生だったってだけで、じゃあマズいじゃねぇか。普通女子中学生を好きにならねぇって。いやでも薫くらい美少女で完璧な性格の持ち主なら全人類が好きになっても無理はない。きっと中学の男どもも薫のことが好きすぎてファンクラブどころか帝国ができあがってることだろうし。総帥は俺。つまり俺は中学生。
ひっつかんでいた千里から手を離し、隣に並んでリビングに入ると、薫とつづちゃんが可愛らしく座り、光莉がテーブルの上におっぱいを乗せて「みてみて。おっぱい枕」と下品な一発芸を年下の女の子に披露していた。それで喜ぶと思ってんのかクソ女。俺たちは大喜びです。
「おい光莉。ぜひその枕で寝させてくれ」
「恭弥はぜひその枕で寝させてくれって言いたかったんだと思うよ」
「じゃあ100%伝わってるわよ」
「多分年下の女の子に下品なものを見せるなって言いたかったんだね」
流石薫。俺の言いたいことをわかってくれている。あと光莉は「はいどうぞ」っておっぱい枕を見せびらかしてくるな。俺がうっかり「ウワーんママ!!」ってその枕で寝ちまったらどうするつもりだ。薫に縁を切られてつづちゃんに写真を撮られてそれが出回って、結果俺の人生が終わっちまうだろ。
「光莉。そろそろ自分のおっぱいを武器にするのやめてくれないか? 俺が性犯罪者になったらどう責任とるんだよ」
「私が受け入れるから性犯罪者にはならないわよ」
「薫、千里、つづちゃん。申し訳ないが少し家を空けてくれ」
「日葵ねーさんに連絡するね」
「実は今ビデオ回してます!」
「後で具合の方を教えてね」
「敵しかいないと思いきや味方してくれそうなやつがいるな……」
思わず光莉の具合を教えてもらおうとしていた千里が、薫に睨まれて「違うんだ! ただ僕は朝日さんの具合がどうなのかと知りたかっただけなんだ!」となにも違わないことを言いながら弁解しようとしている。もしヤったとしても教えるわけねぇだろバカが。女の子とのそういうことを他の男にべらべら喋る男って最低だろ。
あれ? 千里はメスだから喋ってもいいのか?
「そんなことよりご飯食べましょ! ご飯! 恭弥がいっぱいおいしそうなもの買ってくれたの!」
「朝日さんってご飯の前だと著しくIQが下がるよね」
「元からクソ低いだろ」
「一」
「恭弥。カウントが始まったからもう朝日さんに下手なことは言わないようにしよう」
「三つたまったら制裁されそうだな」
「一で制裁するわ」
光莉が俺を引き寄せ、スマホを構えてパシャリと自撮り。流れるような速さでそれを誰かに送ると、一瞬で俺のスマホに通知が届いた。
「『光莉と一緒にいるの?』『楽しそうやな』。おい光莉。まさかお前、今の写真を日葵と春乃に送りやしなかったか?」
「えへへ……」
「もう、いけない子なんだからっ!」
「兄貴。ほんとにマズいことになると思うから逃げた方がいいよ」
「はは、まさか。『光莉が勝手に押し掛けてきたんだよ』って二人に送ったし、二人とも納得してくれるだろ」
「それを言われたら、多分お二人も押し掛けてくるんじゃないですか?」
「待ちなさい。私は恭弥に誘われたのよ」
「記憶力ゴミなのかテメェは。死にてぇのか?」
「あんた時々私が女の子ってこと忘れてるわよね?」
俺は男女平等なんだよ。そもそも男にも「死にてぇのか?」なんて言っちゃダメだとか言う意見は一切聞かない。
しかし、どうだろう。日葵が押しかけてきてくれるなら万々歳で、春乃も節度は守ってくれるだろうから別にいい。人の部屋のクローゼットの中で生活して、勝手にクーラーつけて勝手に宿題しながら勝手にアイスコーヒーを飲むとんでもないバカじゃないだろうから、別にいいんだよな。光莉は死んでくれ。
「ふむふむ。今押しかけてきてくれれば四人の修羅場が見れそうですね」
「もしかしてつづちゃん。僕を修羅場に参加させてる?」
「ヒロインレースが可視化できるなら間違いなく千里が先頭でしょうし、当然じゃない?」
「ネックなのは性別だけだもんね」
「薫ちゃん。本当に僕のことが好きなんだよね?」
「女の子に気持ち確かめるなんて野暮なことすんじゃねぇよ」
「君は僕を責める時だけイケメンになるのをやめてくれないか」
「千里ちゃんのことは好きだよ」
「恭弥がゲボ吐いた……」
薫が他の男のことを好きだと言った事実に耐えきれず嘔吐する。光莉がすかさずバケツを持ってきてくれたから床にまき散らすことは避けることができた。光莉が持ってきてくれた水で喉に残った嘔吐物を吐き出しながら、なんだこの完璧な介護はと戦慄し、「あんたゲロ臭いから歯磨いてきなさい」と吐き捨ててきた光莉を見て安心感を覚える。光莉はこうじゃないとな。
「あれ待って。なんで光莉うちのバケツの場所知ってたんだ?」
「この前家に侵入した時、ご両親が教えてくれたわ」
「さらっと侵入って言ってんじゃねぇよ」
「なんでうちの両親も受け入れるんだろう……」
「まぁ恭弥と薫ちゃんの両親だしね」
「ものすごくやりそうですよね」
ムカついたので両親に「今度から光莉を家に入れないでくれ」とメッセージを送ると、「あんなに可愛いのに?」と返ってきた。光莉を見る。「入れていいよ」と返しておいた。