【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第135話 アホを連れて

 お盆。世間一般的には田舎に帰っておじいちゃんおばあちゃんとの触れ合いを楽しむ時期だろうが、俺の両親は残念なことに一族から嫌われているので、我が家は今日もどこにも出かけることなく自宅でのんびりである。

 流石に千里、日葵、光莉、春乃の四人も祖父母のところへ行っているらしく、俺の両親は「二人でラブラブ旅行に行ってきます」と家を飛び出し、薫とため息を吐いたのがついさっき。俺たちも連れて行けと言わないのは、旅行先で両親がはっちゃけるのを知っているからだ。ていうかお腹の中に子どもいるならもうちょっと大人しくしとけや。

 

「兄貴はあんな親にならないでね」

「日葵と結婚できたらあぁならないだろ」

「光莉さんと結婚できたらあぁなるような気がして」

「いや、多分あいつ子ども溺愛するタイプだから大丈夫だろ」

「光莉さんと結婚する可能性、否定しないんだ?」

「俺今から逃げるから」

 

 気まずい話題が薫から飛び出してきたのを聞いて、俺は即逃げ出した。家を飛び出して、行く宛もなくぶらついていると薫から『逃げるって言って逃げ出した人初めて見た』というメッセージが来て誇らしくなってしまう。また"兄"の威厳を見せつけてしまったな。

 

 さて、どうしよう。いつもの四人はいないし、俺にあいつら以外の友だちはいないし、いやいるっちゃいるんだけど急に連絡するような仲でもないし、てなると俺はお盆に男一人でだらだら過ごす、家族と縁を切られた独身男性のような一日を過ごさなきゃいけないってことになる。そんなやついるのか? いる。地球は広い。

 

「……」

 

 ただ、俺は基本的に一人じゃ寂しい人間なので知り合いがいるであろうところに行くことにした。

 『オラクル』。あのチャラついた下半身でしかものを考えなさそうに見えて実はいいやつ日本代表かもしれない可能性を秘めつつある井原の、両親が営むケーキ屋さんである。薫にもケーキ買っていってあげたいし、ちょうどいい。井原には俺の寂しさを埋める道具になってもらおう。

 

 は? 俺は井原如きに頼らなきゃいけないのか? ムカついてきたな……。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 お店に入ると明らかに顔採用っぽい可愛い女性店員、ただし日葵の方が確実に可愛いしなんなら日葵と比べることすらおこがましいレベルの女性店員さんが元気よくいらっしゃいませとご挨拶。そういえばお盆なのにお店やってるんだなと思いながら店内を見渡してみると、お盆なのに結構客が入っている。田舎にも帰れねぇ旅行もいけねぇ貧乏人どもなのかな?

 

「ん? お、恭弥じゃん! どったん? 暇してんの?」

「は? 何気安く下の名前で呼んでんだ? ぶちのめすぞカス」

「相変わらずバイオレンス! そういう時は甘いモンに限るっしょ!」

 

 店内でケーキを食べているお客さんにナンパを仕掛けようとして「ケーキおいしいっしょ? これ俺の父ちゃんと母ちゃんが作ってんの! マジスゲェっスよね!」と家族自慢をしてお姉さま方から微笑ましい目で見られていた井原が俺の姿を見つけ、爆速ですっ飛んできた。根っこの人の好さがビシビシ伝わってくるから別に下の名前で呼んでくれてもいいんだけど、千里が先に井原と仲良くなってたからなんとなく気に入らない。

 

「今日はアレがおすすめ! アレ! アレ? なんだっけ。恭弥知ってる?」

「全部じゃねぇの?」

「いいこというじゃん! そう! 毎日全部がおすすめできる超激ヤバな店なんだよウチ! んで、ケーキ買いに来てくれたん?」

「お前に会いに来た」

「ドッキューン! 俺と恭弥の心の距離が秒速0.1mm! 心の友とはこのことか!?」

「うるせぇな……」

「そういうことは思ってても言わねぇのが人間だぜ!」

 

 俺は人間じゃねぇってのか……? という俺のブチギレをスルーして、井原は頼んでもないのに俺を席まで案内し、「ちょっと待ってて!」と言って店の奥に引っ込んでいった。既にここへ来たことを後悔してるところだったから適当にケーキを買って帰ろうと思ってたのに、どうやら捕まってしまったらしい。

 

 まぁ別に悪いやつじゃないしいいかと自分を納得させ、井原がくるまで暇だからメニューを開く。俺と千里の例の写真が一ページ目にデカデカと載っており、『俺の親友たち! カッケカワイイ!!』とバカみたいな字で書かれている。あぁ、どうりでこの店に入ったら視線感じると思った。

 

「お、気づいちゃった!? 親友たちの結婚だからどうにかして祝いたいと思ってさ! 注目されんの好きっしょ?」

「井原。俺たち結婚してねぇし、この写真だって無理やり撮られたんだ」

「えぇ!? マジ!? ワリィ! すぐ抜き取るわ!」

 

 トレーに乗ったケーキとコーヒーをテーブルの上に置いてから、井原が店の中を走り回り「メニュー一ページ目の美男美女、実際には美男美男なんだけど、それ結婚してねぇって!! 超アツアツカップルってだけ!! そこんとこよろしくオナシャス!!」と叫び回り、いい汗を流してから俺の向かい側に座った。

 

「言ってきた!」

「今ほどお前に悪気があったらと思ったことはない」

「?」

 

 こいつの場合100%善意でやってるから殺しづらいんだよな。これをやったのが光莉とかだったらぶん殴ろうとして返り討ちにあうのに。俺がやられるのかよ。あの最強生物どうにかしろよほんと。

 

 誤解を解くのも面倒だからそのままにしておくことにする。『美男美男』って気になるワードが発せられたからか、余計に俺へ注がれる視線が多くなった気がするけど、学校にいるときに比べたらはるかにマシだ。

 

「千里とかは今日いねぇの? あ、そっかお盆じゃん! イツメンと遊べねぇから俺んとこきたってこと? 嬉しさマックスあざあざパーティじゃん! つまり今から恭弥んち行っていいってこと!?」

「薫がいるからだめだ。悪影響がすぎる」

「薫ちゃんいんだ! 恭弥がカッケェからそうだろうなって思ってたけど、薫ちゃん可愛いし美人さんだよな!」

「お前もしかして薫に色目使ってる?」

「あんだけ可愛くて美人なら使わなきゃ失礼っしょ! ま、中学生だから性欲とか全然わかねぇし、なんだろ。モデル見てる気分? みたいな?」

 

 『中学生だから性欲とか全然わかねぇ』って部分、千里に聞かせてやりたい。やっぱ犯罪者だってあいつ。『好きになったのが中学生だっただけ』って苦しい言い訳してる犯罪者だって。やっぱ殺しとこう。性犯罪者は社会に必要ない。

 

「それに恭弥と一緒で絶対いい子だから、俺仲良くなりてぇんだよなぁ」

「いいやつだなぁお前」

「だしょ? 俺いいやつなんだよ!」

 

 あ、ちなみにこのケーキ俺の奢り! と言って、トレーの上に乗っていたケーキを俺の前に置いてくれる。底抜けにいいやつだなこいつ。いつも日葵と春乃がクズの濃度に負けてしまうから、純度100%の善性を真正面から受ける事ってあんまりないんだよな……。新鮮すぎる。浄化されて俺もいいやつになってしまうかもしれない。

 

 いや、いいやつの井原が俺のことをいいやつって言ってたから俺もいいやつなんだろう。クズ卒業だ。メスクズと乳クズには悪いが、俺は一歩先を行かせてもらうことにする。

 

「でも薫ちゃん受験生だもんな。邪魔しちゃワリィか」

「井原アホだし、勉強教えられねぇしな」

「流石に高校入試レベルはいけるって! 多分」

「赤点とらなかったことある?」

「ねぇ!」

 

 こういうアホが実は頭いいとかならギャップでカッコよくなるのに、こいつは期待を裏切らずストレートにアホで追試の常連。我らが担任も「お前はほんとにバカだな」と呆れながら匙を投げるアホっぷりである。ちなみに我らが担任は基本的になんでも匙を投げる。クズ野郎が。

 

「お前大学とかどうすんの? このまま店継ぐとか?」

「店継ぐために色んな勉強しねぇとって思ってっから、実は最近勉強中的な? 大学も行こうと思ってっし!」

「偉すぎる……」

 

 アホの鑑じゃん。俺なんか受験勉強しなきゃと思いつつ「まぁ俺天才だし今からみっちりやらなくていいか」ってだらだらしてるのに。ちなみに日葵は毎日してるらしい。偉い! かしこい! すき!

 

「でも俺さー。教師もいいかなって思い始めちゃたりしてるところもあるんだよなー」

「教師? なんでまた」

「安定してっから!」

「アホにあるまじき考え方してるなぁ」

「安定は大事っしょ。好きなことは土台しっかりさせてからやりゃいいし」

 

 なぜか大人に見えてきてしまった井原を感心しながら見ていると、ふと井原の視線がどこかで固定された。そして井原は面白そうににやりと笑うと、席を立ちあがって俺の腕を掴んだ。

 

「面白いモン見つけた! 行こうぜ恭弥!」

「ちょ、どうしたんだよアホボケ!」

「なんか罵倒増えてね? まぁいいや! いたんだよ!」

「いたって、誰が!」

「先生!」

 

 言いながら井原が指した先には、我らが担任、クズなクセに顔がカッコいいから人気のクズ教師が、ぬぼーっとしながらぶらぶら街中を歩いている姿だった。

 

「俺ら先生の名前も知らないっしょ? 私生活も謎っしょ? だから尾行すりゃあなんか掴めるんじゃねぇのって思ってさ!」

「おいおい、尾行なんてするもんじゃねぇって。人には人の生活があるんだから」

「そのサングラスどっから取り出したんだ?」

 

 こんなこともあろうかと持ってきていたサングラスをかけ、こんなこともあろうかと持ってきていたマスクを装着する。ふふ、俺は少しだけ有名人だからこの格好をしていてもなんの違和感もない。俺から発せられるイケメンオーラだけが心配だが、それを補って余りある完璧な変装。バレるはずがない。

 

「よし、行くぞ」

「尾行なんてするもんじゃねぇって言ってなかったっけ」

「細かいこと気にするな。男だろ?」

「確かに!」

 

 お盆。みんなが旅行や田舎に帰っている中。

 

 俺はアホを引き連れてクズ教師の尾行を始めた。

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