【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第136話 捕獲

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……いや、尾行だからって喋っちゃダメってわけじゃねぇぞ」

「え!? そうなの!!!!!????」

「ただ大声は出しちゃダメだ」

 

 はっとして口を塞ぐ井原は、正真正銘のアホらしい。いつも騒がしいバカが喋んねぇから『尾行中は喋っちゃダメ』だと思ってるんじゃないかと思ったが、まさか本当にそうだとは。そうじゃないって教えたら大声出すし、どうしようもねぇなこいつ。もっとちょうどいい声量できねぇのか。

 

 夏、東京、街中、尾行。何をしているんだろうとずっと思っているが、俺も担任の秘密というか、名前すら知らないのはそろそろどうかと思っていたので尾行することに何の不満もない。ただ暑くてめちゃくちゃ鬱陶しいだけだ。あるじゃねぇか不満。

 

「センセーどこ行くんだろうな?」

「成人男性が一人で行くとこなんて限られてるだろ」

「どこ?」

「は? 知らねぇよハゲ」

「俺なんか変なこと言った?」

 

 自分で考えることを放棄して人に聞こうとするやつが大嫌いなんだ俺は。俺に質問するなら美少女になってから出直してこい。ちなみに暴力振るってくる上に胸がデカいやつはアウト。俺が身構えちゃうから。

 

 先生はどこの店にも入る様子がなく、街中をぶらぶらしている。クズなクセしていっちょ前に清潔感溢れるカッコしてるから、元々いい顔も相まって通行人にちらちら見られているのが気に入らない。女子生徒に手を出すゴミ野郎だって叫び回ってやろうかな?

 

「やっぱこうして見てるとセンセーってカッケーよなぁ」

「顔はいいからな。あとスタイル」

「運動神経も頭もいいぜ!」

「ただクズだ。終わってるなあの先生」

 

 井原が俺を見て驚いた顔をしているのはなぜだろうか。アホがやっていることだから気にしないことにしよう。

 

 あーあ。先生がイケメン男性教師とかじゃなくて、美人でムチムチばんややいんの女教師だったらよかったのになぁ。「氷室くん、私と夜までイノコリよ」なんて言われて俺は光莉に殺されるんだ。待て、今何で光莉が俺を殺したんだ?

 

「ていうかなんであんなにクズなのに先生やれてんだろうな。生徒同士でもめ事とかあっても『今日も猿が吠えてるな』って言うような人だぞ?」

「センセーもめ事起きた時大体逃げるから、それ恭弥が言ったやつじゃね?」

「名探偵かよ」

 

 俺が言ったことを先生が言ったってことにして先生の評価を下げようと思ったのに。井原からの評価が下がったところで先生にとっちゃ太平洋上空にある雲くらい興味のないことだろうけど。

 いやだってさ、クラスメイトが『小学校の頃の給食、ご飯がおいしかったかパンがおいしかったか』で揉めて、殴り合い始めたんだからそりゃ猿って言っても仕方ねぇだろ。そもそも俺らのクラスおかしいんだよ。確実にバカをまとめてぶち込んでるだろ。まともなのは俺と日葵と春乃くらいだ。

 

「お、センセー誰かと話してるぞ!」

「あの先生なら逆ナンとかありそうだな。女子高生に話しかけられてそれが警察に見つかって大事になってクビになんねぇかな」

「なんでそんな恐ろしいことをすぐに考えられんだ?」

 

 普段から考えてるからだろ。

 

 先生の方を見てみると、確かに誰かと話している。金髪の筋肉質で首元にタトゥーの入った色白の綺麗でカッコいい人だ。金髪の筋肉質で首元にタトゥーの入った色白っていうワードが脳にへばりついてるくらい聞き覚えがあるが、気のせいだろう。結構離れてるはずなのに金髪の筋肉質で首元にタトゥーの入った色白の人の目が俺をロックオンしてるのも気のせいだ。

 

「おい井原、逃げるぞ」

「え? なんで?」

「やっぱよくないと思うんだよ尾行すんのって。俺の良心が働いちまってさ」

「良心働いたのに逃げるって言葉使うのおかしくね?」

「こういう時だけ賢いのマジでやめろよ」

 

 お前みたいなアホに正論言われるとドキッてするから。アホはずっとアホやって周りに『あ、こいつがいるなら俺は大丈夫だな』って思わせる存在であってくれ。

 

 いやそんなことはどうでもいい。先生とあの金髪の筋肉質で首元にタトゥーの入った色白の人が知り合いっていうのは気になるところだが、一刻も早くこの場から離れないと。俺は井原から目線を外してもう一度バレていないかどうか確認するために先生たちの方を見た。

 

 金髪の筋肉質で首元にタトゥーの入った色白の人、ロメリアさんが俺の方に全速力で走ってきていた。

 

「うわああああああああああああああああ!!!!???」

「ちょっと、何で逃げるのぉ? あたしといいことしましょうよ」

「ちょっ、恭弥!? いきなり引っ張んなって!」

「俺はお前のためを思ってやってんだよ! 一歩間違えたらお前もおいしくいただかれるぞ!」

「あら、可愛らしいお友だち連れてるのね」

「ほら見ろ!」

「可愛いだって。あの人いい人じゃね?」

「純粋培養液出身かテメェ!!」

 

 あの迫力見てそう思える人間、この世に井原くらいしかいねぇだろ。だってゴツイ首元タトゥーオカマが全速力で走ってきてるんだぞ? 地割れより怖いだろ。捕まったら何されるかわかったもんじゃない。実際は喋った感じ全然危ないことしてくるような人じゃないってわかってるんだけど、理解していても怖いものは怖いんだ。

 

「ねぇ恭弥ちゃん。恭弥ちゃんのお友だちも。よかったらあたしたちとお茶しない?」

「えっ、なんでもう並走してきてんの!?」

「俺もいいんすか! あざっす!」

「もちろん。恭弥ちゃんのお友だちなら大歓迎よ。あたしはロメリア。よろしくね」

「俺は井原蓮っていいます! よろしくお願いします!」

「順調に仲良くなってんじゃねぇよ!!」

 

 叫ぶ俺に、ロメリアさんの腕が伸びてくる。捕まるわけにはいかないとロメリアさんの腕を叩き下ろそうとするが、逆にその腕を掴まれて胸の中に引き寄せられてしまった。

 

「捕まえた」

「井原逃げろ! ここは俺が時間を稼いでおく!」

「悪い人じゃなさそうなのにそんなこと言うの失礼だって」

「お前本当にいいやつも大概にしろよ」

「いいやつすぎるやつにキレるのは、クズの特権だな」

「あら、センセも追ってきたの?」

 

 ロメリアさんに抱かれながら、いつも教室でしか聞かない声を聞いた。渋くてカッコいい、耳元で囁かれたら思わずビクビクしてしまいそうになるこの声は、まぎれもなく我らが担任のもの。

 そんな我らが担任は、俺を見て呆れながらあくびをしていた。

 

「で、なんで俺をつけてきてたんだお前ら」

「井原が尾行しようって言いだしました。俺はやめておこうって言いました」

「そうなんすよ! 俺が先生の秘密知りたいっつって恭弥誘ったんです!」

「俺も乗り気でした。すみません」

「蓮ちゃんの人の良さに敗北したわね……」

 

 先生は「まぁどうでもいい」と本当にどうでも良さそうに、まるで『道端の小石を踏んでしまった』くらいの感覚で吐き捨てて、俺たちに背を向けた。

 

「軽いもんならが奢ってやるから、騒ぎすぎて警察のお世話になるのだけはやめろよ。んなことになったら担任の俺が呼ばれそうでめんどくせぇから」

「二人にいいこと教えてあげるわ。センセはクズに見えてツンデレちゃんなだけなのよ」

「男のツンデレって需要ないでしょ」

「えぇー? きゅん! きゅん! しちゃわない?」

 

 先生が本当に嫌そうな顔をしてロメリアさんを睨みつけていた。俺もその顔したくなる気持ちわかります。気が合いそうですね。

 

 

 

 

 

「それで、ロメリアさんと先生ってどういう関係なんですか?」

「何年か前にあたしのお店にきてくれてね。それ以来大の仲良しなの」

「仲良くしてたら色んな情報くれるから仲良くしてるだけだ」

「なぁ恭弥。ロメリアさんのせいで先生がツンデレにしか見えなくなってきた」

「俺もだ。お互い殴って目を覚ますことにしよう」

 

 ダメよ? とロメリアさんにウインクされたので大人しくすることにした。

 

 あの後近くの喫茶店に入り、各々飲み物を頼んで一息ついて。まずは気になっていた二人の関係から聞くことにした。もしかしたら先生とも同級生なんじゃないかって思ってたけど、そうでもないみたいだ。もしそうだとしたら先生は俺の両親とも同級生ってことになるし、それはなんかちょっとやりづらい。

 

「それで同じ学校に通ってたってことも判明したの。すごい偶然よね」

「だから氷室の両親とも同級生ってことになるな。ざまぁみろ」

「生徒に対してざまぁみろって言う教師初めて見ましたよ俺」

「やったじゃん恭弥!」

「なんでお前はこれをプラスだと思えんの?」

「初めてって嬉しくね?」

 

 なんかこいつ将来大金持ちの女の子に気に入られて結婚して悠々自適な生活送りそうだな。純粋すぎるから大金持ちの女の子の親にも気に入られそうだ。クソ、俺もいいやつを演じておけばよかった。そうすれば日葵からも「純粋な恭弥好き!」と言って貰えて今頃うふふだったに違いないのに。

 でも女の子は男のキケンなところも好きって今朝総理大臣が言ってたから、俺はキケンであり続けようと思う。

 

「それにしても、恭弥ちゃん今日もいい男ね」

 

 危険と隣り合わせではありたくないんだけど……。

 

「あたしね、センセと恭弥ちゃんってスッゴク似てると思うの。違うところと言えば年齢くらいじゃない?」

「あ、それ俺も思ってました!」

「不本意ながらよく言われます」

「目上の人間に似てるって言われて不本意って言葉使うところがもう似てるわ」

「俺は礼儀くらいわきまえるぞ」

「俺も敬語使ってるので礼儀はわきまえてます」

「敬語使えばいいってもんじゃなくね?」

「ぐぅ」

 

 ぐぅの音は出たがぐぅの音も出ない。井原きらい。俺に正論ぶつけてくるやつは大嫌いだ。日葵は除く。むしろ日葵には叱られたい。「もう、こら!」って可愛らしくぷりぷり怒られたい。

 

「あ、そうそう。今日あたしがセンセと会った理由なんだけどね。今度恭弥ちゃんと千里ちゃんをお借りするから、その報告ついでなの」

「恭弥ロメリアさんとこ泊まりに行くのか?」

「あぁ。とんでもないよな」

「とんでもなくなるかはあなた次第よ?」

 

 先生が俯きながら俺に一万円を渡してきた。え? 最後にこれでいい思いしておけってことですか? それ受け取るとほんとに最後になりそうなのでやめておきます。

 

「いや、そういえばお前の両親に金借りてたこと思い出してな。返しといてくれ」

「自分でやれダボハゼ」

「俺にダボハゼって言ってきた生徒はお前で27人目だ」

「せめて初めてであってくれ」

 

 俺こんなんだしなぁ。とぼやく先生に、その場にいた全員が頷いた。

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