【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第138話 目先に見える尻ぬぐい

「まぁ好きにくつろいでくれ」

「そういうことは家についてから言ってくれないかな」

「間を埋めたくて……」

 

 山道を歩き、氷室さんの後についていく。獣道のようなものではなく、人によって整備されている道で、地面がゴツゴツしているなんてことは一切ない。女の子になんの準備もなく山道を歩かせることが心配だったけど、それは杞憂だったみたいだ。というか元々夏野さん以外とんでもない化け物だし、地面がゴツゴツだろうと心配はなかったのかもしれない。

 

「それにしても意外やったなぁ。親戚がおるんやったら、その存在くらいは教えてくれてそうなもんやのに」

「私も覚えてないくらいだったから恭弥も覚えてないんじゃないかなぁ」

「それか教えたくもないような性格に難がある人とか」

「氷室家の人間はおかしいに決まってるから、別に気にすることないのに」

「それを私の前で言う勇気を称賛しようじゃないか」

 

 と言いつつほとんど怒った様子を見せないのは、やはり氷室家の人間ってところだろうか。そもそも氷室家を恭弥の一家しか知らないけど、それでも『氷室家』っていうカテゴリーが生まれるくらい強烈だ。

 氷室家の人間は、基本的に怒らない。パフォーマンスで怒ってるように見せることはあるけどそれはあくまでパフォーマンス。喜怒哀楽がイカレてるんじゃないかって思うことが多々あるくらいだ。多分恭弥なら親しい人を傷つけられでもしない限り大概のことは許せるんじゃないかな。なんだその優しい戦士みたいなやつ。

 

「それで、どのくらいでつくんだ?」

「なんで恭華がそれ聞いてくんねん」

「いや、覚えてるかなーって思って。ちょっと期待してさ」

「……」

「あーあ。岸さんが氷室さんを傷つけた」

「はぁ、胸とともにデリカシーまで失ったのね」

「胸は元々ないんだよ朝日さん。やめてあげよう」

「殺すぞ」

 

 山の中でふざけると本気で殺されかねないので、僕と朝日さんは手を上げて降参のポーズ。やれやれ、ジョークがわからない人だな。ほんとに関西出身か? いや、関西出身だから僕らを嫌いにならないでくれているのか。胸がないなんていうのを頻繁に言われるなんて、嫌いになられてもおかしくないから。

 

「緑がいっぱいあるから、夏なのに涼しいね!」

「懐かしいなぁ。あんときここに連れてきたときもそんなこと言ってたぞ」

「え、ほんとに?」

「実は私もそんなに覚えてないけど間違いない」

「間違いないがどういう意味か知らないらしい」

「田舎育ちだから教養がなくても仕方ないわね」

「光莉はなんでそう敵を作るような言い方しかできひんの?」

 

 多分敵ができても正面から打ち勝てるからだろう。あとシンプルにクズ。『これを言っちゃダメ』っていう倫理観は備わってるけど、考えるより先に口か手が出るタイプだから倫理観がまったく機能していない。ったく、原始人がよぉ……。

 

 でも確かに、夏野さんならいくつになっても言いそうだな、とは思う。夏野さんも思ったことを結構そのまま口にするタイプだし、感受性も豊かだから感動はまず間違いなくそのまま口にする。僕も「は? 夏に山? ふざけてんじゃねぇよ」って思ってたけど、いざ山に入ってみると結構涼しくてびっくりしたし。

 

 クーラーガンガンの室内の方がいいに決まってるけど。

 

「なぁ、もう歩きながらでもええんちゃう? 私らの関係性的なこと教えてくれんの」

「胸も風情もないなぁ。こういうのは思い出の場所でしっかりやるのがいいんだろ?」

「や、よう考えたら覚えてもない人についていってんのって危ないなぁって思って」

「……ぐすん」

「あー!! 春乃が恭華を泣かしたー!!」

「恭弥が泣いてるみたいでちょっとかわいい……」

「夏野さんの危ない発言は置いといて。だめだよ岸さん。こんなどこからどう見ても恭弥の血縁関係にある人を疑うなんて」

「せやから疑うんやろ」

「おい、氷室さん。僕らに近寄らないでもらおうか」

「今すぐ死になさい」

「今ので恭弥が普段どんな感じなのかわかっちゃったわ。とんでもねぇなあいつ」

 

 氷室家で本当に信じていいのは薫ちゃんだけだ。あとは信用ならない。恭弥もいい人みたいなフリしてるけど、いざというときは簡単に人を裏切れる人間なんだ。夏野さんと岸さんだけは絶対に裏切らないとは思う。あの野郎、クズなら裏切っていいって思ってる真のクズなんだ。

 

「氷室家の身の振り方をもう少し考えるとして、ほら、もうすぐだ」

 

 氷室さんがもうすぐ、と言って指さした方向には高くまで続く石畳の階段。上の方には大きな鳥居が見えるから、恐らく氷室さんの家は神社なんだろう。神社に住んでる人なんているんだろうかって疑問は氷室家だからという言葉ですべて片付く。多分家を追い出されて神社に寄生してるんだろう。十分ありえるどころか100%そうに違いない。

 

「この先に私の家がある。さぁ、誰が一番にくつろげるか勝負だ!!」

「あ、待って!」

「あぁ!!!!! 日葵が私以外の女の子を追いかけていった!!!」

「千里、疲れてへん? 大丈夫?」

「役割的なことを考えると、岸さんが一番疲れてそうだけど大丈夫?」

「まぁ、いつものことやろ」

 

 僕は岸さんに一礼してから、元気よく階段を駆け上がるみんなを追いかけるように階段を駆け上がり始めた。

 

 

 

 

 

「へー!!!!!!! そんなことがあったんスね!!!!」

「実の息子である俺よりびっくりするな」

 

 先生とロメリアさんから学生時代の両親の話を聞いて。「もうほぼ俺たちじゃん」とドン引きしていると、井原が隣でオーバーリアクション。聞き手としては最高だが、当事者でもないのになんでそこまで驚けるんだろうか。感情の動きが活発すぎねぇか?

 

「だからちょっと面白くてな。当時面識はなかったとはいえ、氷室の両親は結構な有名人だった。ロメリアもな」

「あたしたちの話って有名だったみたいでね。詳細まで知ってるのはそれこそあたしたちくらいだけど、触りくらいは……そうね、蓮ちゃんって恭弥ちゃんたちについてどこまで知ってる?」

「仲いい!!」

「恭弥ちゃん。この子純粋から生まれてきたの?」

「らしいですよ」

 

 ロメリアさんとしては「関係がこじれてそう」みたいな回答を期待してたんだろうが、井原にそんなものを期待しても無駄だ。純粋から生まれたようなこいつは見たまんまで物事を受け取るから。本当に珍しい人間すぎて俺は感心を通り越して恐ろしくなっている。なんでこんなクソまみれの社会でここまで純粋に育つんだ?

 

「まぁつまりだ。お前は両親を参考にするもよししないもよし。というかお前と両親は……父親は違う人間だから参考にする必要はまったくないけどな。さっきの昔話は戯言程度で受け止めとけ」

「戯言で済ませる範囲じゃ無くないっスか?」

「なんでお前は俺より先に反応するんだよ。いや、うん。確かに戯言で済ませるには無理があるというか……」

 

 昔話に出てきた登場人物。俺の両親に、ロメリアさんに、あと二人の女の子。そして母さんは、父さんの幼馴染の親友。ポジションを俺たちで置き換えると光莉ってことになる。性格的に見てもそんな感じするし。

 父さんも幼馴染が好きだった、らしい。ロメリアさんも当時父さんからしつこいくらいそのことを聞いていたみたいだし、ただそれでも父さんは母さんを選んだ。

 

「ちなみにお前の親父の幼馴染は夏野みたいな子だったぞ」

「は? 日葵みたいな子を選ばずになんであんなの選んだんだ? マジで意味わかんねぇ」

「俺もお前を見てその結婚は失敗だったと思ってるよ」

「もう、センセ。冗談でもそういうこと言わないの」

 

 多分本気で言ってますその人。そういう人なんです。モラルをすべて捨ててその代償に教員免許を手にしたような人なんです。

 

「まだ話してないこともあるからね。あんまり本人たちがいないところで言うのもよくないし」

「俺が聞いたのって登場人物と結果と簡単な流れだけですもんね」

「きっと色々あったんだって! 理由もなく一生の選択する男なんていねぇもん!」

 

 どうだろう。俺は今のところ母さんに既成事実を作られたからだと思ってる。それくらい幼馴染を選ばなかったことが信じられない。バカなんじゃねぇのか? 幼馴染を選ばないってそれはつまり幼馴染を選ばないってことだぞ?

 

「その辺りは楽しみにしててね。恭弥ちゃんと千里ちゃんがくるその日に、ちゃーんと呼んであるから」

「氷室。お前の親父が選ばなかった女と会う気持ちを一言で答えて見ろ」

「尻ぬぐい」

「やだ! ちゃーんとあたしたちで解決してるから大丈夫よ! 思うところはあるかもしれないケド」

「新学期お前がいなくても俺がなんとかしておいてやるよ」

「こんな時に頼りがい見せないでくれクソ教師」

「俺はなんとかしてくれないんスか!」

 

 関係ねぇだろと一蹴された井原は、「ケチー!」と言いながらストローを口の端で加えプラプラさせていた。これを癒しに感じた俺はもうだめかもしれない。

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