「ようこそお越しくださいました。ロメリア様からお伺いしております。氷室夫妻様ですね?」
「こいつどう見てもメスですけど男なんですよ」
「あらあら。愛の前に性別は関係ないというご教授ですね。ありがとうございます」
「そもそも夫婦じゃねぇっつってんだよクソ女将。ロメリアさんから何聞いてんだ?」
ロメリアさんがそんな冗談言うとは思えない。大方、「カッコいい男の子と女の子みたいな男の子がくるからよろしくね」くらいなはずだ。証拠に、「すみません、少し冗談で場を和ませようかと」と女将さんがお上品に笑っている。千里も初対面の相手からメス扱いどころか妻扱いされたから相当怒っているのかと思いきや、「いやいや、お気遣いありがとうございます」と女将さんの計算づくの胸チラですべてを許していた。
ロメリアさんからもらった温泉旅館の宿泊チケット、その当日。俺の両親は「ゴムなんか持っていくなよ」と言っただけで快く送り出してくれて、聖さんは「嫌なときは嫌ってちゃんと言うのよ」と言われて送り出されたらしい。なんか俺が襲うみたいな感じに思われてる気がしてムカつく。ったく、浴衣姿の千里に欲情しなきゃいいだけの話だろ? 無理だな。
「お部屋にご案内いたします。お荷物は……」
「あぁ、大丈夫です。そんなに重くないんで」
「彼女さんの分も持って、素敵な方ですね」
「……あれ、そういや僕『荷物』って恭弥に言われたから自然と渡しちゃったけど、あれってそういうことだったの?」
「あまりにもメスすぎるから男らしく振舞おうと思ったとか別にそういうことはない」
む、と口の先を尖らせて軽いパンチをお見舞いしてくる千里に胸をきゅんきゅんさせながら女将さんの後ろを歩く。
旅館はめちゃくちゃ立派なところで、学生で旅行しよう! なんて計画しても絶対に泊まれないような高級旅館。俺みたいなやつが歩いていいのかと思ってしまうくらい綺麗に清掃されていて、なおかつ顔採用を疑ってしまうくらい美男美女の従業員。木のいい香りが心を落ち着かせてくれるかと思いきや、隣に並ぶメスから放たれる強烈なフェロモンに脳を犯されてしばらく、俺たちの部屋についた。
「では、ごゆっくりどうぞ。お食事の時間は午後6時となっておりますので、予定の変更等あればお申し付けください」
「はい、ありがとうございます」
女将さんと別れ、部屋に入る。部屋は和室で、二人で使うには広すぎるほど。およそ6人で使っても十分すぎるくらいの広さがあり、家具の一つ一つも高級感が溢れていて、あれにうんこでもしようもんなら弁償しないといけないんだろうなって感じがする。それは高級じゃなくても同じ。
「お、お疲れ様。結構早めに来たんだね」
「あぁ、そうなんですよ。男二人旅ってあんましたことねぇなって思って、どうせならいっぱい満喫したいなって」
「用意とか色々あとにして、ちょっとおちつこっか」
「そうだな」
これまた高級そうな座椅子に並んで座り、テーブルの上に置いてあった高級そうな和菓子を対面にいる女性に渡して、女性が淹れてくれていたお茶を一口飲み、
「それで、誰ですか」
「あ、よかった。あまりにも自然に振舞うから、もしかしてどこかで知り合ってたのかもって不安になっちゃってた」
「最近恭弥に双子の妹がいたことが判明したくらいですから。知らない人が自分たちの部屋にいたくらいじゃ驚かないですよ」
そういえば恭華はあの日から薫と頻繁に連絡を取り合っているらしい。氷室で双子といってもやはり男女の違いがあるからか、俺と一緒にいるときよりも楽しそうにしているのが嫉妬で狂いそうになる。ずっと一緒にいたのは俺なのに、ぽっと出の恭華に薫を取られるなんて……!
まぁ恭華も妹ってことには変わりはないから、許してやることにしよう。
「えっとね。私、ロメリアに呼ばれてここにきたんだけど、何か聞いてない?」
「いや、聞いてないですね」
「……恭弥恭弥。もしかしてそういうサービスだったりする?」
「よく見ろ。布団が敷かれていない」
「ほら、情緒を大事にするタイプなんでしょ。親睦を深めてからとか」
「聞こえてるよー」
「こいつがあなたとセックスできるに違いないって息巻いてただけで、俺は失礼なこと言うなって叱ってたんです」
「僕、こいつに襲われたことあるんです」
「汚ぇ!」
千里みたいなメスが「襲われた」って言ったら事実になっちゃうじゃん。襲われないわけないって思っちゃうじゃん。対面の女性、そういえばよく見なくても美人さんが「あはは……」って俺から距離取りながら笑ってるし。十割信じてはいないけど警戒する余地はあるってことじゃん。
「……やっぱりあの二人の子どもならこうなるんだ」
「千里。嫌な予感がするから俺の鼓膜をぶち抜いてくれ」
「よしきた」
「あぶねェ!!!」
もっちゃもっちゃと団子を平らげて、串を俺の耳にぶちかまそうとしてきた千里の腕を押さえ、そのまま押し倒す。「やっ」と思わず興奮してしまいそうになる声が千里の口から漏れ出るが、そんなのに興奮してる場合じゃない。
「なにすんだよ!」
「お前がなにすんだよ! 人の鼓膜ぶち抜こうとしてきやがって!」
「君が言ったんだろ!」
「それを軽々実行するやつの方が問題だろうが! 鼓膜だぞ鼓膜! 人の聴覚奪うことに対して気持ちが軽すぎんだろテメェ!」
「ふ、二人とも落ち着いて! その、絵面がちょっと」
美人さんに言われ、ふと冷静に自分たちの姿を見てみる。
乱れる服、抑えつける俺、抵抗し、顔が赤い千里。
「ふぅ、悪いな千里」
「股間を抑えながら下がったことについて、僕は聞いた方がいい?」
「それはお前がどれだけ魅力的かって話か?」
「わかった。聞かない」
ほぼ教えたようなもんだけどな、と思いながら座り直し、「さぁ続きをどうぞ」と美人さんに促すと、なぜだか……いや、察しはついてるけどなぜだか懐かしそうな顔で俺たちを見て、穏やかに笑っていた。
「私ね。恭弥くんのお父さんの幼馴染、
「すみませんでした!!」
すぐに秋野さんと隣に移動し、土下座を披露。俺ほど土下座が似合う男はいないだろう。何度光莉に許しを請おうと土下座したかわからないほどだからな。
「ちょ、恭弥くん!?」
「父さんの罪は俺にぶつけて頂いて構いません! だからどうか、父さんに襲い掛かって妊娠し、家庭崩壊を起こすのだけはやめてください!」
「なんで謝られてるのかわからないし、そんなひどいことしない……しないよ!!」
「恭弥。『それもいいな』って顔をしていた秋野さんを見逃さなかった僕を褒めてくれ」
「ち、違うの! ほら、やっぱり好きな人だし! 一瞬迷っちゃうのは仕方ないでしょ!?」
「何も違うことないですよ。有罪です有罪。恭弥、君のお父さんはどうせ誘惑に負けて子どもを何人も作っちゃうようなろくでなしだから、僕たちでこの人をなんとかしよう」
「父さんは多分そんなことしねぇよ!!」
「怒るなら『多分』って言葉外してくれ」
確証はないから……。父さんは母さん一筋だろうし、実際子どもの前でいちゃいちゃ、子どもの前じゃなくてもいちゃいちゃしてるから大丈夫だとは思う。思う。
でも、相手がマズい。だって幼馴染だろ? 幼馴染って言ったらグーにとってのパーじゃん。勝てるわけがない。パーが迫ってきて「負けちゃえ。負けちゃえ」って言ってくるんだろ? 父さんグー出しそうだもん。つまりどういうことだ?
「と、とにかく! そんな謝ってもらうようなこと何にもないし、顔上げて……似てる」
「千里、助けてくれ。この人『恭弥くんならまだ独身だよね……』って悩む素振りを見せてる」
「よかったじゃん。一生独身の可能性が潰えて」
「俺は日葵と結婚するからそもそもそんな可能性ねぇんだよ!」
危ない目になった秋野さんから距離をとり、メスの隣に座る。やはり落ち着く。帰るべき場所っていうの? そんな感じするんだよな。
なんか俺が最終的に千里を選ぶ未来が少し見えてしまったので、自分で自分をぶん殴っておいた。千里と秋野さんが不思議がらないのは流石といったところだろう。千里は俺とずっと一緒にいるからで、秋野さんは似たような経験があるから。
「えっと、それでね。私が呼ばれた理由なんだけど」
「ごめんなさい」
「まだ告白はしてないよ」
「『まだ』……」
千里が不安そうに俺の服の端をぎゅっと握り、その手に自分の手を重ねて『大丈夫』だと伝える。流石の俺も、いくら美人だからって父親の幼馴染は恋愛対象にならない。だって、その、歳が、ねぇ? 年齢なんか関係ないって言いたいところだけど、現実はそうもいかないし。
「恭弥くんのお手伝い? みたいな感じだって。なにか悩んでることないかなーとか、迷ってることないかなーとか。私たちのことも、参考になったらなって」
「詳細は聞いてないですしね……。でも、いいですよ。俺は俺なりに答え出すんで」「なんて言ってるけど恭弥はヘタレなんで、ぜひお願いします」
「押せばいけるもんね」
「そんなことないですよ!!」
……待て。押せばいけるってことは、つまり。うちの母親は、父さんに『押した』ってことか? そうじゃないと今の発言でないよな。
秋野さんを見る。にっこり笑った。
「千里。俺を守ってくれ」
「え? ん……ふふふ。仕方ないなぁ。恭弥は」
もしかしたら秋野さんに『押される』かもしれないと恐怖を感じた俺が千里に縋ると、千里は心底嬉しそうに笑って気持ち胸を張った。かわゆいメスだなぁ。
実際誰が好きって思われてるんだろうと気になったので、アンケートにご協力お願いいたします。
誰が好きですか?
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氷室恭弥
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織部千里
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夏野日葵
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井原蓮
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朝日光莉
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白鳥綴
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氷室薫
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先生
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岸春乃
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氷室恭華
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その他