「それで、聞きたいことはない?」
「父さんたちに何があったのかの詳細を。ロメリアさんは『詳しいことは本人たちから聞いた方がいいわ』って教えてくれなかったんですよね」
「わ。ロメリアの声真似そっくりだね」
「千里。俺を殺してくれ」
「君が死ぬなら僕も死ぬ」
「なるほどな?」
「今、僕が薫ちゃんと結婚するってなったら自害しようと心に誓ったね?」
なんでわかったんだろうという動揺を隠すためにお茶をすすろうとして、いつの間にか空になっていたことに気づく。そんなに喉渇いてたっけなと首を傾げていると、秋野さんがすかさずお茶を淹れてくれた。なんかこの人の厚意って裏がありそうで正面から受け取れねぇんだよな……。
ただ俺はお礼ができないほど落ちぶれてはいないので「ありがとうございます」と一言お礼を言って、何か変なものが入れられていないかにおいを嗅いでから千里に飲ませる。千里におかしな変化が表れなかったのを見て安心し、そこで俺は初めてお茶を飲んだ。
「おい。今自然な流れで僕に毒見をさせなかったか?」
「どうせ俺が死んだら千里も死ぬんだから、それなら千里だけ死んだ方がいいだろ」
「君の頭の中の等式と倫理観を叩き直す必要があるみたいだね」
「あの、それよりもまず毒見自体にツッコまないの……?」
「本当に申し訳ないんですが、秋野さんからほのかな犯罪臭がするので」
ひぐぅ、と秋野さんが涙目になってめそめそしだした。あーあ。千里がまた女の子……女の人泣かせちゃった。
「おい千里、ひでぇじゃねぇか。秋野さんは俺に協力しに来てくれただけなのにまるで昔好きだった男の息子を危ない目で見る超ド級不審者に違いないみたいなこと言いやがって」
「君と僕の秋野さんに対する心象が同じみたいで安心したよ」
だってこの人、見た目の若さを武器にして薄い格好してるし。ノースリーブでミニスカートって年齢考えたらしちゃいけない格好だろ。いや、しちゃいけないってわけじゃないけど、控えた方がいい格好だ。日葵なら絶対しない格好。それこそ春乃とかにうまく乗せられでもしないとこんな人に肌を見せるような格好はしないはずだ。格好格好うるせぇよ鳥か俺は。
「うぅ……いいもん私は一生過去の恋愛引きずる痛い独身女だもん……」
「俺が言うのもなんですけど、俺の父さんよりいい男なんてゴロゴロいると思いますよ。秋野さん綺麗で見た目もめちゃくちゃ若いですし、まだ選び放題なんじゃないですか?」
「……」
「千里。秋野さんは今誰を見てる?」
「恭弥」
「時には嘘をつくのも優しさだぜ」
どうやら俺は秋野さんの選び放題にノミネートされてしまったらしい。ほら、俺は心に決めた人がいるので。このまま俺を狙ってると二重に失恋、しかも親子二代からっていうとんでもない傷がつきますよ。やめた方がいいです。
「っていうか、父さんのどこがいいんですか? あんなクズで見た目だけがいいような男」
「どうしたの恭弥? いきなり自己紹介しだして」
「あとで本気で襲ってやる」
「あ……」
俺の冗談に千里は見事な絶望顔を披露。おい、冗談だって。秋野さんの俺を咎めるような目で見ないでください。あとお前絶望顔はちゃめちゃに似合うな。もうすべてに負けるために生まれてきたんじゃねぇの?
「こほん。えっとね。確かに、あの人はえっちだしどうしようもないし、見た目の良さと元々のスペックで何事もごり押しするような人だけど」
「千里千里。これ、日葵に同じこと思われてる可能性ってある?」
「同じ人としか思えないし、大いに」
なんてこった……。日葵にえっちって思われてるって最高に興奮するじゃねぇか。間違えた。最悪だ。俺は純粋で誠実でハイパー紳士で売っていこうと思ってるのに。この前アイドルのオーディションに応募しようと思ったら、「これ以上犠牲者を増やすつもり?」って薫に軽蔑されたからすぐに取りやめたくらい俺は紳士なのに。どれくらい紳士なんだ?
「でもね。うーんと、千里くん」
「? はい」
「千里くんはさ。なんで恭弥くんと一緒にいるの?」
「なんでって……」
千里がちら、と俺を見る。あまりにもメスすぎて可愛かったので思わず照れてしまうと、千里もなぜか頬を赤くしてぷいっ、と俺から目を背けた。
父さん母さん。俺は今夜、オスになります。
「恭弥はクズだし変態だしスケベだし、見た目の良さと元々のスペックでごり押しするようなどうしようもない人間だけど」
「だけど?」
「……一緒にいて、これ以上楽しい人はいないから」
耳まで真っ赤にして、俺とまったく目を合わせない千里。こいつ、自分から言うのはいいけど人に言わされるのめちゃくちゃ苦手だからなぁ。恥ずかしがって可愛いやつめ。あれ、ほんとに可愛いぞ? もしかして俺たち今新婚旅行にきてるんですか?
千里の答えが満足いくものだったのか、にこにこしながら秋野さんが頷いた。それにさえ恥ずかしそうにしている千里がもう本当に可愛すぎたので写真に収め、薫に送ると『ねとられた』とメッセージが返ってきた。まだ寝てないぞ。
「ふふ。私も一緒。そんなどうしようもない人でも、一緒にいてこれ以上楽しいって思える人いなかったから。あの人と過ごす毎日が鮮烈で、すっごく面白くて。きっと、死ぬまで笑ってられるんだろうなって思えたから」
「……」
「なんで恭弥が照れてるのさ」
「いや、なんか、その」
わかる? 自分の父親が母親以外の人間からめちゃくちゃ褒められてて、しかも惚れられてるって理解できてしまう複雑さ。しかも千里が俺と一緒にいる理由と、秋野さんが父さんのこと好きな理由が一緒って、まるで俺に対しても好きだって言われてるみたいで照れてしまう。俺は日葵一筋なんだけどな???
「みんなも一緒だと思うよ。あの人と恭弥くんは違うところがあるとは思うけど、みんな恭弥くんと一緒にいるのが楽しくて、恭弥くんとの時間が面白いから。それに、根っこまで曲がってるわけじゃなくてちゃんと優しいし」
「恭弥。褒めてくれてるからってセックスできるわけじゃないよ」
「ゴムがねぇだろ」
「そういう問題じゃないだろ」
視界の端でゴムを取り出した秋野さんは見なかったことにして……。いや、違いますよね。俺と使うわけじゃなくて、淑女の嗜みとして持ち歩いてて、なぜか今のタイミングで取り出しちゃっただけですよね。
……俺、無事に帰れるかな。千里は言わずもがなクソザコだし、頼れるのは俺しかいない。
秋野さんがぶんぶんと首を横に振って、ゴムをしまう。そうですそうです。血迷わないようにしてください。俺の両親びっくりするから。旅行から帰ってきたと思ったら当時の同級生、しかも幼馴染が息子の嫁になってるんだから。びっくりしすぎて死ぬかもしれない。流石にあの両親でもこのインパクトには耐えきれないだろう。
「ん、んん。それで、恭弥くんが聞きたいのって、なんでお父さんがお母さんを選んだのかってこと?」
「あ、それですそれ。今秋野さん色々こじらせちゃってとんでもないことになってますけど、どう考えても母さんよりマシですし、秋野さんを選ばない理由がないじゃないですか」
「えへへ、ありがと」
「恭弥! 騙されるな! 確かにめちゃくちゃ可愛いけど君には夏野さんがいるだろ!」
あぶねぇ……。あまりにも日葵すぎて一瞬恋に落ちかけた。とんでもないことになってるっていう部分をすっ飛ばして褒め言葉だけ受け取って照れるところが日葵っぽかった。多分、この人も純粋なんだろうな。
「でも、秋野さんがその理由知ってるんですか?」
「えっと……」
気まずそうに秋野さんが目を逸らす。心なしかその頬は赤く、それだけで俺は色々察してしまった。千里も察しているようで、額を抑えて天を仰いでいる。
「……責任、取らなきゃいけないからって」
「千里。俺はどうやらできてしまった子どもらしい」
「だ、大丈夫だよ恭弥くん! その時はできてなかったから!」
「おめでとう恭弥。『その時はできてなかった』って言葉で『責任』が何を表すかが確定したよ」
「両親が結ばれた理由が『性』って……俺やりきれねぇよ。なぁ、助けてくれ千里」
「残念だけど、それに関して僕は君を歪ませることしかできない」
「もう結構歪んでる」
「別の部屋を取ろう」
別の部屋を取ろうと動き出そうとした千里の手を握り、体をびくつかせて大人しくなった千里を気にせず頭を抱える。いや、別にいいんだけどさ。男女の形は人それぞれで、そういうことから始まるものもあっていいと思うけど、ずっと好きだった幼馴染がいるのに別の女の子とそういう行為しちゃうのはねぇよ。
……でも、俺も断り切れる自信ないなぁ。断った時の表情とか気持ちとか想像したら、胸が締め付けられるどころの騒ぎじゃない。あいつらならそんなことしないって思ってても、確実になんて断言できないし。
「色々あったんだよ、色々。不幸とか色んなことが重なっちゃって、たまたまそういう空気になって、そうなっちゃったってだけ。だから、どっちかが襲ったとか襲われたとかそういうのじゃなくて、ちゃんと選んだんだと思うよ」
「それはそれで、なぁ」
幼馴染を放ってぽっとでの女の子と一緒になるなんて、俺には考えられ……考え……考えられない。考えられない? うん。
「恭弥くん」
うんうん頭を悩ませる俺の目を真っすぐ見て、秋野さんが優しく微笑んだ。何か見透かされているような、それでいてなんとなく懐かしいような、安心感。それを抱きながら、「はい」と返事する。
「『幼馴染だから』じゃなくて、ちゃんと見てあげて。一人の女の子として、記号としてじゃなくて。――君は、『何』かが好きなの? 『誰か』が好きなの?」
実際誰が好きって思われてるんだろうと気になったので、アンケートにご協力お願いいたします。
誰が好きですか?
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氷室恭弥
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織部千里
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夏野日葵
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井原蓮
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朝日光莉
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白鳥綴
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氷室薫
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先生
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岸春乃
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氷室恭華
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その他