【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第149話 親族

「え?」

「俺たちは夫婦じゃねぇし、さっき愛を育んで子どもができて、更にその子どもが急成長を遂げたわけじゃないので勘違いしないでください女将さん」

「兄ちゃん。ここは空気を読んで氷室学人って名乗った方がいいか?」

「そうなると学人は二度とお母さんと会えなくなるぞ」

「姉ちゃんがお母さんになるんだろ? じゃあ会えるじゃん」

「なるほどな……」

「いい加減にしなよ」

 

 学人と口をそろえて「はい!」と言うと、千里は可愛らしく怒りながら「まったくもう」と呟いた。

 

 学人を肩車した俺と、その隣でもう母性しか感じられないような微笑みを浮かべた千里と一緒に旅館へ戻ってきた。時はすっかり夜であり、旅行中だからと羽目を外し過ぎたのか酔っぱらっている人たちがちらほらいる。学人の教育に悪いので、「あぁいうのになっちゃダメだぞ」と学人に言うと、「兄ちゃんみたいになるのとどっちがダメ?」と聞かれてしまったので、俺は黙るしかなくなってしまった。

 

「恭弥」

 

 千里が言うなら間違いない。酔っ払いのおっさんより俺になる方がダメだと学人に伝えると、「まぁそりゃそうか」と納得されてしまった。こいつ四肢ぶっちぎって鳥の餌にしてやろうか?

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。女将さん、岸部さんって人が今日この旅館に泊まるはずなんですけど、連絡とかきてたりします?」

「え? 岸部様ですか? 明日とお伺いしておりますが……」

 

 千里と一緒に学人を見ると、学人が俺たちから目を逸らした。冷や汗がだらだら流れている。

 

「おい」

「……あの、その、楽しみで。いてもたってもいられなくなって」

「だからって一人でここまでくるか普通? お母さん心配してるっていうか心配どころの騒ぎじゃねぇだろ」

「すぐに連絡しないと。女将さん、この子岸部学人くんって言うんですけど、どうも先に一人できちゃったみたいで。親御さんに連絡したいので、連絡先とか教えていただいてもよろしいですか?」

「えぇ、少しお待ちください」

 

 女将さんは裏に引っ込んで、電話番号が書かれた紙と電話の子機を持ってきてくれた。それを「この子はうちの子ですっていうんですか?」という余計な一言とともに渡してきやがったので、「将来ちゃんと作りますよ」と返すと、千里に殴られた。

 

「おい! 学人が乗ってんだぞ! あぶねぇだろ!!」

「恭弥なら大丈夫でしょ。信頼してるよ」

「そ、そうか。へへへ……」

「おい兄ちゃん。バカだろ」

「三振が取れるタイプのストレート投げてくるなよ」

 

 ありがとうございます、とお礼を言ってから少し離れて、すぐに電話をかける。『怒られる準備できてねぇよ!!』という顔をしている学人を無視してコール音を三回聞いた後、電話口から「もしもし!!?」という焦った女性の声が聞こえてきた。

 

「あぁ、すみません。えーっと、今旅館『花簪』にきている氷室恭弥っていいます。なんか、学人くんが道端にいるの見つけて今一緒にいるんですけど」

『学人が!!!?? 一人で!!!!??』

「うるせぇよ!!!!!」

「恭弥!! 落ち着いて!!」

「常識を身に付けろよ兄ちゃん!!」

「お母さん。学人くんは賢いですね」

『や、賢さが過ぎるやろ!! なんで一人で行ってもうてんねん!!』

 

 千里を見た。俺と同じ予感がしているらしい。二人で頷いて、学人を見た。学人は首を傾げた。……そりゃ学人は知らないだろうしな。

 

『ん? っていうか氷室? んでその常識のなさ、もしかして翔也くんの息子さん?』

「人違いじゃないですか?」

『人違いじゃないですか? ってセリフ、人違いじゃない時しか聞かへんで』

 

 関西弁、そしてこの鋭さ。どこか春乃を彷彿とさせる。おいおい。まさか全員揃っちまったのか? 父さんに母さんに、秋野さんに岸部さん。そして……ロメリアさん? おかしくねぇか。今のところ役割的に言えばロメリアさんが千里の枠になっちまうぞ。そりゃ色々気を回しそうだし性別を超越してる感もあるけど、そこ以外はまったく違うじゃん。千里も複雑そうな顔してるし。

 

『まぁ確信あるんやけどな。春乃から色々聞いてるし』

「あれ、春乃とお知り合いなんですか?」

『姪』

「世界は狭いなぁ……もっと広くていいのに」

「狭いからこうして兄ちゃんが俺のこと見つけてくれたんじゃん」

「学人くん。君オシャレ過ぎない?」

 

 しまいには息子がこんなにイケメン。5歳児とは思えない言い回しするなーって思ってたら、岸家の遺伝だったか。恐ろしすぎるだろ。一族が本気になったら日本中を虜にできるんじゃねぇの?

 

『いつか会いたいって思っててんなぁ。春乃も恭弥くんにおアツみたいやし』

「あんまそういうこと本人がいない場所で言わない方がいいですよ」

『どうせ本人もはっきり恭弥くんに好きとか言うてるんやろ?」

「あれどうにかしてくれませんか」

『ハハハ! 無理!!』

 

 まぁどうにかなるようならあんなことやこんなことしないよなぁ。どうせならめちゃくちゃ性格悪いとかだったらよかったのに、なんであぁも気持ちのいいというか、俺好みの性格してるんだか。美人だし。胸はないし。胸は関係ない。

 

『恭弥くんがおるなら学人も大丈夫やろ。ちょっと女将さんに代わってくれへん?』

「? いいですよ」

 

 女将さんに「代わってとのことです」と言って子機を渡すと、女将さんがそれを受け取ってしばらく話、頬を染めながら電話を切った。何言われたんだあの人。

 

「えっと、その、非常に申し訳ございませんが、本日は氷室様のお部屋で学人様を預かってほしいとのことで」

「……!!」

「おい学人脅えるな。大丈夫、俺が千里から守ってやるから」

「別にひどいことしないよ?」

「バカ言うな。お前性癖をこれでもかと壊そうとしてくんじゃねぇか。そんなお前が一緒の部屋で寝るだと? 犯されても文句言うんじゃねぇぞ」

「女将さん。別の部屋を用意してくれませんか?」

「よかったじゃないですか」

「この旅館は性犯罪を推進してるのか……?」

 

 それではごゆっくり、と言ってゴムを渡してくれた女将さんに感謝しながら部屋に戻る。いやぁ、気が利くぜ。部屋の中にぴったりとくっついた布団が並べられているのも更に気が利く。千里がものすごい勢いで離したから気遣いが無駄になったけど。

 正直、そうしてくれた方が俺も助かる。隣で寝てたら理性が持たない。そういえば俺、千里の肩借りて寝てたんだよな……?

 

「おい学人。男同士お互い守り合おう。千里に手を出しそうになったら思い切り殴るんだ」

「わかった! 任せとけ兄ちゃん!」

「なんで寝てる隣で大乱闘されなきゃいけないんだ」

「お前のせいだろ」

「僕だって好きでこういう風に生まれてきたわけじゃないんだよ!!」

 

 千里が激昂したため俺たち二人は悲鳴をあげながら部屋を飛び出した。まずい、学人がいるからって調子に乗りすぎた。このままじゃ「そんなに言うなら、試してみる? 僕と」と言われて理性を粉々にされるところだった。このままじゃ危険がすぎるから女将さんからもらったゴムを捨てて、「それなに?」と興味津々の学人に対し「避妊具」と誤魔化しながら旅館を練り歩く。

 

「忍者が使う道具じゃねぇってことか……」

「あぁ違う違う。男女の営みがあるだろ? あれで子どもができねぇようにとか、そういう目的て使うんだ」

「あれか! お母さんが毎晩うるせぇやつ」

「おいお前なんてこと教えてくれてんだよ。明日どんな顔して会えばいいの俺?」

 

 毎晩かよ。岸がそのまま成長したような人が毎晩……クソっ、俺には日葵がいるっていうのに! 興奮して仕方ねぇや……。とりあえず旦那さんが羨ましいので呪うことにした。

 

 いや、俺の方が幸せになるんですけどね??? むしろ俺が幸せ過ぎて相対的に俺以外の男が不幸だっていうまである。そんな俺の隣にいられる千里は幸せもの……あいつ男がどうか怪しいから別の話か。

 

「学人、風呂入るか? ずっと外にいたんだろ」

「入る! でも着替え持ってきてねぇ」

「脱衣所に浴衣置いてくれてるからそれ着とけ。パンツも買えるから大丈夫だ」

「何から何までありがとうございます」

「急に畏まるな」

 

 あらあら若いお父さんねぇ、という視線をおばちゃんたちから受けながら脱衣所に入る。俺まだ17だぞ。17で5歳の子どもいるってもう犯罪の香りしかしねぇじゃねぇか。俺はクズだけど、犯罪だけはしないんだ。ちなみに犯罪者みたいな考えはちょくちょく無意識でしてしまう。

 

 俺は捕まった方がいいかもしれない。

 

「一人で脱ぎ脱ぎできるか?」

「バカにすんな。殺すぞ」

「お前本当に岸家の血か?」

 

 もしかしたら俺の影響を受けてしまったのかもしれないと思い、明日土下座で学人のお母さんを迎え入れることが決定した。多分笑って許してくれるだろ。無理かな。無理だよなぁ。息子の口が信じられないくらい悪くなってるんだもんなぁ。

 

「よし、じゃあ入るか」

「でけぇ……」

「おいおい、どこみて言ってんだよ」

「大浴場」

「俺を殺せ」

「力が足りねぇ」

「あったら殺すのかよ。気に入ったぜ」

 

 ふっ、と二人で笑い合って、かけ湯をして一番大きな温泉に突入する。誰もいないので「飛び込めー!」という号令とともに二人でダイブした。大きな飛沫と小さな飛沫があがり、死体のようにぷかーっと二人で浮かび上がって同時に息を吐く。

 

「俺、ほんとに兄ちゃんの息子かもしれねぇ」

「せめて弟だと言ってくれ」

「兄ちゃん。俺と家族になる気はねぇか?」

「やだ、ときめいちゃう……」

「何やってるの二人とも」

 

 俺は聞こえてきたメス声に光の速さで反応し、学人を抱きかかえて千里が見えないように目を隠し、壁を向く。

 

「千里、なんでここにいるんだ」

「汗かいちゃったし、温泉に入ろうかなって。どうせ二人もいるだろうから」

「落ち着け。お前は綺麗な腕と脚をしていて、大変魅力的だからすぐさま視界から外れてくれ」

「……えっと、ありがとう?」

「なんでここで普通に照れるんだよチクショウ!! 行くぞ学人!! 悪魔から逃げるんだ!!」

「悪魔って搾り取るタイプのやつか!?」

「それよりエグイ!!」

 

 俺は学人を抱えて逃げ出し、思い切り仰向けに転倒した。千里が近づいてくる足音が聞こえた。

 

 死んだ。

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