【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第150話 心の傷

「兄ちゃん。俺風呂の記憶がねぇんだ」

「あぁ、俺もだ。俺たちは風呂になんか入っちゃいなかったんじゃないか?」

「二人とも気絶しちゃったから、僕が色々洗って……うん、色々洗って部屋まで連れてきたんだよ」

 

 部屋、布団の上。千里から学人を守りつつ、記憶を探っていく。風呂に入ろうっていう話はした覚えがある。ていうかそもそも学人が風呂に入っていないから連れて行かない理由がない。その後どうなった? 二人で入ってて、そうだ、後から千里がきたんだ。それで千里がとんでもないから逃げ出して、転んで……。

 

 待て、さっき千里、色々洗ってって言ってなかったか? 色々?

 

 学人と顔を見合わせる。そして土下座した。

 

「すまん、俺が不甲斐ないばかりに、お前の初めては千里に奪われてしまった……!!」

「いや、いいよ兄ちゃん。兄ちゃんこそごめん。姉ちゃんとはちゃんとした形でそういうことしたかっただろうに」

「いや、俺が転んだのが悪いんだ。鋼の精神で耐えて、あのまま温泉の中にいればこんなことにはならなかった」

「脱ぐよ」

「ウワー!!! 落ち着け千里! 千里落ち着け!!」

「やめてくれ!! これ以上俺の性癖を歪めないでくれ!!」

 

 どうやら俺は土下座する相手を間違えたらしい。千里に向かって土下座して、ちらりと隣を見ると学人も千里に土下座していた。「なんだ、この感覚……?」と言って少し頬を染めているからもう手遅れかもしれない。俺、明日なんて説明すりゃいいんだろう。「どう見ても女の子にしか見えない男の子に性癖を歪められました」って言えばいいのか? 殺されんじゃねぇのか俺。

 

 千里はため息を吐いて、「いいよ」と一言。恐る恐る千里を見ると、浴衣写真集でも出したんですか? と言いたくなるほど可憐なポージング。膝を畳んで足先を右に流し、膝に右手を置いて、体を左腕で支え、小首を傾げて微笑んでいた。きっちり浴衣を着ているからか肌の露出はほとんどないが、むしろ体のラインがくっきり出ていて非常にえっち。

 

「これ以上俺の性癖を歪められた……」

「気を確かに持て学人! よく見ろ、あれはどこからどう見ても美しく可憐で素敵で色っぽい女の子だけど、正真正銘男の子だ!」

「嘘だ……嘘だ……あれで女の子なんて俺、もうやってらんねぇよ」

「確かめてみようか。一緒に寝る?」

「やめろー!! 学人をこれ以上傷つけるな!!」

 

 もう楽しむことにしたのか、千里はクスクス笑っている。そしてショックな出来事が多すぎて金縛りにあっている学人に近寄り、頬に手を添えて耳元に口を寄せた。

 

「ね? 僕のこと、知りたくない?」

「はい!! 知りたいです!!」

「テメェ千里!! こうなりゃ俺がお前を犯しつくして、お前を女にしてやるよ!!」

「うわあああああ!!! 待って待って恭弥ごめん!! 調子に乗っちゃっただけなんだ!!」

「これが許してられるか!! 大人しくしてりゃあ幼気な少年の心をこれでもかと弄びやがって! こいつには未来があるんだぞ!!」

「くっ、そもそも君たちが僕に対して失礼な態度とるから、あっ」

 

 千里の腕を掴んで押し倒し、見下ろした。不安げに揺れる千里の瞳を真正面から覗き込んで黙らせて、静寂が訪れる。次に鳴った音は、学人のごくりと喉を鳴らす音。

 

 先ほど温泉に入ったからか、千里の肌は瑞々しく、更に紅潮している。少し暴れたからか浴衣が少しはだけ、真っ白な肌が俺を誘っているかのように見えた。

 

「千里」

「じょ、冗談だよね恭弥? この世にはやっていいことと悪いことがあるんだよ?」

「ヤっていいことと悪いこと? 心配すんな。俺がよくしてやるよ」

「学人くん!! 大人の人呼んできて!!」

「乱交か!!!??」

「君はどんな教育を受けてるんだ!!」

「待ってろ!! 随分恰幅のいい男を連れてくる!!」

「せめて女の人を連れてきてくれ!! 僕へのダメージを増やしてどうするんだ!!」

 

 ……どうしよう。冗談のつもりで押し倒したら、案外悪くないどころか止まれる気がしなくなってきたぞ? 千里も俺に合わせてノってくれたけど、俺が中々どかないから本気で不安そうな顔してるし。「あの、恭弥。えっと、ほんとに? うそでしょ?」って震えた声で言ってくるし。

 

 マズいぞ。俺はこのままだと本当に千里を女の子にしてしまう。千里が屈しない未来もあるが、俺は千里を女の子にできる自信しかない。どうしよう。薫に怒られるどころの騒ぎじゃない。絶縁されるだろ絶対。でも薫いい子だから「千里ちゃんは千里ちゃんだから」って許してくれるかも。まぁ心は俺のものなんですけどねあはは。

 

「助けてくれ!!」

「どうしたの!?」

 

 俺が叫ぶと、部屋のドアが開いて綺麗な女性が現れた。

 

 浴衣を着たドチャクソ色っぽい秋野さんだった。

 

「恭弥。僕は自分が助かったことを喜ぶべきか、今から君が災難に遭うことを悲しむべきか。どっちにすればいいと思う?」

「千里、学人。一緒に逃げるぞ。流石に秋野さんも人前では俺を襲ってこないはずだ」

「あ、秋野さん。こんばんは!」

「こんばんはー。学人くん、ほんとにいるんだね」

 

 知り合い??????????? と首を100度くらい曲げると、学人が心底おびえながら「う、うん……」と答えてくれた。まぁそうか。当時の友人同士だし、知り合いでもおかしくない。

 

 とりあえず秋野さんがきて千里を押し倒したままだと色々マズいので千里の上からどいて、布団からもどく。秋野さんのあれこれを刺激しちまうと俺がとんでもないことになるからな。……日葵がこれくらい積極的になったらと思ったら結構興奮するけど、秋野さんは日葵じゃないし。

 

 学人は秋野さんの方へ走り寄ってダイブした。秋野さんは優しく受け止めて抱っこして、俺たちの方へ近寄ってくる。

 

「おい千里、どう思う」

「学人くんの初めては」

「秋野さんに」

「「奪われた」」

「アメリカドラマみたいな合わせ方するなよ」

「お前本当に5歳児か?」

 

 もしかしたら岸家の血を受け継ぐと5歳児から鋭くなるんだろうか。うちにほしいぞこの子。ふざけるのもできてツッコむのもできて、超万能プレイヤーじゃん。二刀流か? メジャーで成功するタイプか?

 

冬音(ふゆね)……学人くんのお母さんから頼まれてね。『あの子らだけやと面白おかしい通り越してまいそうやから、様子見てあげてくれへん?』って」

「そういう気遣いもマジで春乃だな」

「この良心は末代まで続いてほしいね……」

「俺で途切れそうな気がしてるんだけど」

「それはもしかして俺のせいか?」

 

 その場にいる全員が頷いた。影響される方が悪いんだよ。自分を持ってねぇからそんなことになるんだ。確固たる自分を持っていれば俺なんかに影響されることなんかねぇんだよ。

 

 そういえば学人は5歳児だったということを思い出し、仕方ないと頷いた。

 

「秋野さん」

「優姫」

「秋野さ」

「優姫」

「秋」

「優姫」

「調子に乗んなよ行き遅れが」

「ひぐぅ」

「なんてこと言うんだ恭弥!!」

 

 いや、ちょっとムカついちゃって……。あ、おい学人。「あと数年したら俺が貰ってやるよ」って秋野さんの頬撫でながらイケメンスマイル浮かべるな。その人もしかしたら本気にしちゃうから。子どもの言うことだからって「そうだねー。お願いしよっかな?」なんて言える精神状態じゃないんだから。

 

「私には恭弥くんがいるから」

 

 ほらまともじゃねぇじゃん。絶対病名のある精神状態じゃん。父さんと母さんは秋野さんほったらかして何やってんだ? 救わねぇとダメだろこんな哀れな人。二人がのほほんとしてるせいで息子の俺にしわ寄せがきてるじゃねぇか。

 

「……優姫さん」

「っ、はい!」

「恭弥、君ほんとに甘いよね」

「ちょっと想像しちまったんだ。日葵もこうなっちまうのかなって」

「あぁ……」

 

 やめてくれ。すべてを俯瞰から見れる千里が「あぁ……」って言うとほぼ確定したみたいなもんだから。いや、俺が日葵を一人にさせないから優姫さんみたいになることはないんだけど、ないんだけど!!

 

「優姫さんは、その、うちの両親とはそんなに会ってないんですよね?」

「うん。といっても年に何回かは会ってるけど、そんなに頻繁には会ってないかな」

「うちとは結構会ってるんだぜ。お母さんがほっとけないって言って」

「冬音さんはいい人だなぁ」

「え、なんで冬音はすぐに名前で呼ぶの……」

「学人がいるから、岸部さんって言うとややこしいでしょう?」

「あ、そっか」

 

 よかった。優姫さんが純粋でよかった。一瞬目が全部黒になったように見えた。めっちゃ怖かった。千里も「ひっ」って言って俺の浴衣掴んでぷるぷる震えたし。可愛いなお前。キスするぞコラ。

 

 優姫さんは脅える千里を見て首を傾げた後、学人をそっとおろしてきょろきょろ部屋を見て、押し入れの方へ歩いて行った。そしてそこから布団を取り出して、ばさりと俺の布団の隣に広げ始める。

 

「?」

「?」

「?」

「!」

「!」

「!」

 

 俺と千里と学人は揃って首を傾げた後、揃って気づく。

 

 こいつ、この部屋で寝るつもりだ……!!

 

 俺と千里は目を合わせて頷き、俺も協力する! と拳を握りしめた学人を見て三人で頷く。さぁ、この行き遅れを追い出す戦いをしようじゃねぇか……!!

 

「あ、ごめんね? もしかしたら一緒のお布団で寝ようって思ってた? 学人くんのお布団がなかったから出したんだけど……」

『すみませんでした』

 

 一斉に土下座した。すみません行き遅れとか言って。そうですよね。あなたは本来心の綺麗なお人なんですものね。俺は俺が恥ずかしい。こんないい人を行き遅れだって言って追い出そうとしていたなんて。そもそも俺の父さんと母さんが悪いんだろ。この人は何も悪くないだろ。ちょっとこじらせて好きだった男の息子を狙おうとしているだけ……とんでもねぇなこの人。

 

 三人で頷き合って、これ以上優姫さんを傷つけるのはやめにしようと心に誓った。俺たちはこれから、この人についた心の傷を癒していこう。

 

 優姫さんがもう一つ布団を敷き始めた。何してんだこの行き遅れ!!!!!!

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