「さて、どうすればいいと思う?」
「お前は女性関係になると本当にポンコツだな」
「お前は恋愛関係になると本当にポンコツだよな」
「話はこれで終わりだ」
家、俺の部屋。光莉とのことを誰かに相談しなければと思い立ったが、よく考えれば日葵と春乃は無理だし、井原はまだ俺と千里が付き合ってると思ってるし、千里はアレでつづちゃんもアレだから残されたのは薫か恭華か聖さん。薫には迷惑をかけたくないし、聖さんはなんかもう脳が犯されそうなので恋愛関係がポンコツな恭華しか残っていなかった。待て、俺の交友関係狭すぎないか?
「まぁそう言うなって。俺が兄貴でいてやってるんだぞ? 日頃の礼に相談の一つや二つ乗ってやろうって思えないのか?」
「恭弥が兄貴だから乗ってやろうって思えないんだよ」
「じゃあ今から他人だ」
「そうやって血縁関係を一文で切り捨ててくるから相談に乗りたくないんだぞ」
だってあんまり双子って感じしないし何年間も離れてたし……。家で顔合わせて喋ったら大体同じ仕草で喋るし朝は同じ時間に起きるし、飯を食う早さも一緒だってくらいだ。魂から双子じゃねぇか。
そんな魂の双子なら、絶対相談に乗ってくれるはずだ。なぜなら俺も最初は渋ってても絶対相談に乗るナイスガイだから。これで相談に乗ってくれなかったら恭華との縁は切ろうと思う。恭華も今まさに自分の血縁関係がかかってるとは夢にも思わないだろう。
「そういうのは本人と話し合えよ」
まさか魂の双子に正論で殴りつけられるとは思わなかった。
「それができたら苦労しないと思いませんか?」
「やれ。不誠実を働いたのはお前だろ? だったら正面から謝る以外の選択肢なんてどこにあるんだ」
「ねぇと思ったからこうして他の選択肢がないか相談しにきてんだろうが」
「ならよかったな。ないってことがわかって」
そうかぁ。やっぱ正面から謝るしかないかぁ。でもどうやって? 「お前の前で他の女の子とのデートの話してすみませんでした?」喧嘩売ってねぇかそれ。光莉ならちょっとすりゃあ許してくれそうなんだよなぁ。「あんたのことだし、別にいいわよ」って。
……でもそれじゃだめか。だめなのか。だめだよなぁ。
「よし。ちょっと言ってくるわ」
「塵はかき集めてやる」
「せめて骨残してくれることを祈っておいてくれ」
恭華に背を向けて、戦場へと向かう覚悟を決める。俺こういうのは全然ダメだけど、今回ばかりはダメなんて言ってられない。光莉がいない日常は米のない茶碗と一緒だ。つまり茶碗。素敵じゃねぇか……。
「おい」
ドアノブに手をかけたところで、恭華から声をかけられる。兄貴に向かって「おい」だと? とブチギレながら振り向くと、恭華が俺に近づいてきて背中をぽん、と叩いた。
「背中を押してほしいなら、次からはちゃんとそう言えよ」
「……今お前も嫁に出さないことが決定した」
「婿をもらう」
「そういうことじゃねぇんだよ!!!!!!」
恭華が男を連れてきたら、恭華が選んだやつなら心配ないって油断させて一撃で殺してやろう。俺の妹たちは誰にもやらん。
廊下に出てスマホを取り出し、光莉へ『話したいことがあるから少し時間をくれ』とだけ送って、家を出た。
「いいわよ」
もういた。
「なんなのお前? もしかしてこの近くに引っ越してきたの?」
「違うわよ。私もちょうど恭弥に話したいことあったから」
真剣な表情で俺を見つめる光莉。きっと俺と同じ内容だろう。光莉はいいやつだから、光莉から謝ろうとしているに違いない。流石にそれは情けなすぎるから先に謝ろうとした時、先に光莉が口を開いた。
「暑いから中に入れくらい言えないの? 気の利かないゴミね」
「汗クセェから入れたくねぇんだよテメェ。ぶちのめしてやろうか?」
ぶちのめされながら家にあがられた。クソが。違うじゃん。もうあそこで話す雰囲気だったじゃん。確かにご近所付き合いとか考えたら中に入った方がいいけど、流れとかあるじゃん?
光莉に引きずられながらリビングへと向かい、まるで人形を扱うかのごとく座らされる。そして光莉が俺の隣に座ってから、光莉がそっと話し始めた。待て、なんで隣に座ってんだ?
「朝のことだけど」
「悪かった」
隣じゃなくて対面に座れやグレートバディが、と言いかけた口を咄嗟に「悪かった」の口に変え、そのまま発声する。当然光莉に向き直って頭を下げ、私服に着替えた光莉の生脚を見て「お、謝りラッキーとはこのことか?」と思うおまけつきだ。だからクズだって言われるんだぞ俺。
「女の子ってそういう視線に敏感なのよ」
「悪かった」
「途端にさっきの謝罪が軽く感じてくるわね……」
流石に俺もどうかと思ったので目を閉じる。クソ、「待て」をされてる犬ってのはこんな気持ちなのか? クセになりそうだぜ……だから犬は「待て」ができるんだな。
「別にいいわよ。あんたのこと好きだし。見られたって悪い気分じゃないもの」
思わず顔をあげて光莉を見る。光莉は目を逸らして、顔を真っ赤にしながらもにょもにょしていた。
なんだ? この可愛い生き物。ほんとに日頃俺を殺してる光莉か? 光莉がただ可愛くなったらおっぱいが大きくて可愛くていいやつで強い最強女の子様じゃねぇか。やめてくれませんか? 軽率に可愛いの。
いや、違う。そんなことより。そんなことよりで片付けられないほどとんでもなく可愛いけどそんなことより、今はっきり俺のこと好きって言いやしませんでしたか? 間違いじゃないよな。『隙』じゃねぇよな。俺の命狙ってるってわけじゃねぇよな。だって文脈考えたら『好き』以外ありえねぇし。
光莉は逸らしていた目を俺に向けて、ぴた、と一瞬固まってからまた何か言いたげにもにょもにょしている。もうとんでもなくとんでもないので、色々紛らわすために俺ももにょもにょすることにした。
「何してんの? キモイわよ」
「俺への暴言の鋭さ残してんじゃねぇよ」
なんでもにょもにょしないの? てっきりそのモードに入ったら暴言こないって思ってたんだけど。あんな可愛いことして暴言は健在って誰が予想できるんだよ。ちなみに俺は予想してたからもにょもにょした。
「……あのね。今日ちょっと、あんまりいつもの感じで話せなかったじゃない」
「あぁ。テンポ悪かったしな」
「うん。それがね、寂しかったの」
しゅん、と目を伏せてぽそりと呟くように言った光莉に頭を抱える。本当に光莉か? 全国の男子高校生を殺害するために生み出された可愛さミサイル搭載の最新鋭戦闘ロボじゃねぇのか? 素の戦闘能力も高い手の付けられない化け物を俺のところに寄越してきた理由はなんだ? いくら俺が将来有望だからってこんな最強兵器投入しなくてよくね?
「だから、思ったの」
光莉は、俺の目を真っすぐ見て言った。
「もう終わりにしようって」
「思ったの。恭弥は私や春乃のことも考えてくれてるし、ちょっとはよく思ってくれてるってこともわかるけど、私がいるあの場所で、日葵とのデートの相談するってことは、やっぱり恭弥には日葵しか見えてないんだなって」
「ねぇ恭弥。私、あんたが好き。一緒にいると面白くて楽しくて、心の底から笑えて。クズなクセに思いやりがあって、家族とか友だちとかを本当に大事に想ってて。周りから何て言われようと、どう見られていようと、いつでも自分でいられて。ヘタレで変態でスケベでアホでバカでどうしようも、ない、最低のクズ野郎、で」
「捻くれてるけどまっすぐな、あんたが好き」
「……でも、知ってる。わかってる。あんたが、なんて言われようと日葵が好きだってこと」
「だから、ひとつだけ。ひとつだけ、ワガママ言ってもいい?」
「一日だけ、一日だけ。私と思いっきりデートしてください」
俺が頷くと、光莉は笑って「ありがとう」と言ってから、リビングから出て行った。少しして玄関のドアの開く音が聞こえ、あぁ、光莉は帰ったんだなと当たり前のことを考えてしまう。
「兄貴」
リビングで、しばらくぼーっとしていると薫の声が聞こえた。薫は俺の方へ歩いてくると、俺の頭を撫でながら。
「頑張ったね」
「……俺は、何もしてねぇよ」
「んーん」
俯いている俺の顔を覗き込んで、優しく微笑みながら。
「好きって気持ちを受け止めるのって、すごく難しいことだから。兄貴がへらへらしてるように見えて、すごく悩んでたの知ってるよ。妹だもん。だから、頑張ったね」
「俺はただ、受け入れて、流されてるだけのクズ野郎だ」
「そんなことない。兄貴は、いっつもカッコいいよ。大丈夫。大丈夫だから」
「あれ、朝日さん」
「あんた、こういう時はいっつも出てくるわね」
「こういう時って?」
いつもよりゆっくりと帰っていると、見知ったメス顔が声をかけてきた。こういう時に一番会いたくないやつ。無駄に察しがよくて、人のことを気にかけてる優しいクズ。
「……何かあった?」
ほら。私のこと見ただけでこんなセリフ吐けるなんて、だから会いたくなかったのよ。
「何? 私を見ただけで何かあったって、一発狙ってんの? 殺すわよ」
「朝日さん。女の子にあんまり面と向かって言いたくないけど、ひどい顔してるよ」
「は? このウルトラ美少女捕まえてひどい顔って目イカレてるの?」
「恭弥には言えない。岸さんにも言えない。もちろん夏野さんにも言えない。だったら、僕くらいには吐き出そうよ」
いっつもふざけてるくせに、こういう時はふざけてくれない。ちょっとふざけてくれればそれで笑って誤魔化せるのに、誤魔化しながらいつも通りになるのに、こいつはそれを許してくれない。
「……千里。私ね、恭弥のことは諦めることにしたわ」
「……そっか」
「アピールしたら鼻の下は伸ばすけど、ずっと日葵のこと考えてるのよ? あいつ。もうちょっと頑張ればいけたかなって思ったんだけど、でもね。やっぱり私」
「うん」
「日葵に、恭弥に。好きな人たちに幸せになってほしいなって思っちゃった」
「……朝日さんに、ひどいことしたね。僕」
「そんなことないわよ。むしろ、ありがとね。あんた、いい男よ」
「朝日さんはいい女だよ」
「知ってるわよ、バカ」
女の涙は見ないようになんてキザなことを考えてるのか、私から目を逸らしている千里を軽く殴って、「ごめん」なんて言いやがったメスをもう一発殴っておいた。