【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第16話 大人の階段をのぼる

 リビングで勉強を続け、正直もう勉強しなくても余裕で点数は取れそうだったので、寂しがって俺たちのところに来た薫に勉強を教え、夜になり俺と薫で飯を作って食べた後。

 

「……」

「どうしたんだ朝日のやつ?」

「恭弥の料理の腕がよくて、自信を喪失してるみたい」

「兄貴って大体なんでもできるからね」

「確かに朝日料理下手そうだもんな」

「ひ、光莉は上手だよ! 自分で上手だと思ってたから、多分こうなったんだと思う」

「まさか日葵にとどめ刺されれるとは思ってなかったわ……」

 

 朝日が床に倒れこんだ。どうでもいいけど、お前食器片づけるの手伝えよ。苦笑いしながら日葵がお前の分運んでるじゃねぇか。

 つーか何がショックなのかね。俺に負けたから? それとも女として男に料理で負けるのがショックだったとか? 料理に男も女も関係ないだろとは思うし朝日もそういうタイプだと思っていたが、簡単には割り切れない何かがあるのかもしれない。

 

「まぁ気を落とすな。朝日くらい可愛い女の子なら、たとえ俺よりマズい料理でもおいしいって勘違いしてくれるさ」

「あんた、慰めるの下手ってよく言われない?」

「慰めるつもりで喋ったことが一度もない」

「省みなさい」

 

 朝日に殴られたので、いつの間にか日葵と一緒に洗い物をしてくれている千里に告げ口すると、「君が悪い」と一蹴されてしまった。悲しい。あとお前なんで日葵と一緒に洗い物してんの? 俺の気持ち知ってるよな? どけやこの女顔。メスにされるために生まれてきたような顔と体しやがって。

 

「薫ちゃんがね。『日葵ねーさんと一緒に兄貴が洗い物したら、絶対緊張してお皿とかいっぱい割るから』って」

「そんなはずねぇだろ。貸してみろ」

 

 布巾を手に取って千里が濯いだ皿を受け取ると、「手伝ってくれるの? ありがと」という日葵の声が聞こえ、耳から脳を溶かされてしまった俺は見事に皿を落とした。しかしその皿は割れる前に俺が落とすことを予測していた千里にキャッチされ、俺が手に持っていた布巾も強奪される。

 

「わかった?」

「俺はどうやら情けないやつらしい」

「知ってるよ」

 

 しくしく。俺は泣きながらリビングへと戻った。

 リビングには薫を可愛がっている朝日と、顔を赤くして可愛がりを受け入れている薫がいた。俺もまぜてもらおうかな?

 

「近づいたら殺すわよ」

「薫を人質にとるなんて、この外道!」

「殺されるのは兄貴だよ」

「お前、自分の兄貴が殺されるってのに冷静すぎるだろ」

 

 どうやらここにも俺の居場所はないようなので、「ゴムはしとけよ」と言って自分の部屋へ向かうことにした。リビングを出る時、「する場所がないわよ」と俺の背中に朝日の声が投げかけられ、確かにと思った後にそういうことじゃないよな? と首を傾げながら階段を上がる。

 みんな俺に構ってくれないから先に風呂に入ってやろう。一番風呂は一番えらいやつが入ると決まっているんだ。

 部屋に入り、パンツを取り出そうと衣装ケースを開ける。そこで、俺は考えた。

 

 日葵が泊まりにきてくれているこの状況、俺は勝負おパンツを履くべきなんじゃないのか?

 ただ、勝負おパンツを履いてそれを千里に見られたとしたら、「何期待してんの?」って冷めた目で見られ、今後一生ネタにされる。薫にも見られてみろ。軽蔑した目で俺を見て、「何考えてんの」って言われるに決まってる。

 だが、勝負所であることは間違いない。ならば勝負おパンツを履かずに一体何を履くというのだろうか。ここで勝負おパンツを履かないなら、もはや俺は何も履かない。そして俺の下半身は儚い状態になるのである。うふふ。面白くない。

 

 よって俺は、パンツを履かないことにした。勝負おパンツを見られたら恥ずかしいしな。

 

 パンツ以外の着替えとバスタオルを手に、階段を下りる。何かものすごい間違いをした気がするが、俺はいつだって正しい選択をしてきた。間違えたから今学校で俺と千里が付き合ってるって言われてる気もするが、それも気のせい。いつか正しくなる。

 

 俺は風呂が好きだ。心が汚い俺はせめて体は綺麗にと心掛けている。誰の心が汚いって?

 

 スキップしながら脱衣所へ入り、秒で服を脱ぎすて洗濯機へシュート。薫は親父のパンツと一緒に洗うのは嫌がるが、俺のパンツと一緒に洗うのは嫌がらないのでまったく問題ない。いつかそういう日がくるのだろうかと思うと悲しくなるが、そうなっても広い心で受け止めてやろうと俺は全裸で頷いた。

 

 激烈に頭の先からつま先まで有能な俺は、既に風呂を沸かしている。基本的に熱いものが好きであり、熱いものが冷め始めたらあまり食べたくないし、ぬるいお湯は大嫌い。味がわからないくせにこだわりが強いんだ、俺は。参ったか。

 

 風呂に入り、頭、顔、体と順に洗い、湯船につま先からゆっくり入って行った。そういうえばシャワーよりもお湯につかって体をこすった方が汚れはとれやすいって聞いたことがあるが、あれ本当かな? そんなことやって薫にバレた日には地獄を見るよりも恐ろしい目に遭わされそうだから絶対やらないけど。

 

 あまりあいつらを待たせるのも悪いので、いつもより短めに済ませて風呂を出る。イケメンな俺が更にイケメンになったことを感じながら、髪を拭いて体を拭いて、全裸のままドライヤーで髪を乾かし、服を着た。なんでパンツないんだろうと思ったが、そういや勝負おパンツ履いたら恥ずかしいからだったなということを思い出し、パンツ以外はきっちりと身につけた。

 

 そこで、脱衣所のドアが開く。スライド式のドアの向こうから顔を出したのは、千里だった。

 

「あ、やっぱりお風呂入ってたんだ」

「おう。悪いな」

「君の家なんだから、誰も文句ないよ、っと」

 

 千里にしては珍しく、何もないところで躓いて俺の方に手を伸ばす。咄嗟だったため俺は反応することができず、千里の手が俺のズボンを捉えた。そして流石千里と言うべきか、俺のズボンをずり下ろしながら自分が床に倒れこまないように、膝をたたんで衝撃を殺し、なんとか倒れずに跪く状態に留めた。

 

「おい、大丈夫か?」

「危なかった。うん、大丈夫。ごめんね? 恭……」

 

 千里は、正面を見て固まった。

 ずり落ちた俺のズボン。ノーパンの俺。ちょうど千里の前にある俺の決戦兵器。

 

「なんかすごい音したけど大丈……」

 

 ドアの向こうから中を覗く朝日。ずり落ちたズボン。ノーパンの俺。千里の前にある俺の決戦兵器。

 

 千里を見た。真っ白な顔をして冷や汗をだらだら流していた。きっと俺も同じ表情をしていることだろう。これは流石にヤバい。薫や日葵じゃなかっただけマシだろうか。いや、誰にしたってマシなことなんてない。

 

「……そういうことね」

 

 朝日はそれだけ言って、脱衣所にいる俺たちと自分の世界を切り離すかのようにドアを閉めた。

 

「千里。なんか朝日が納得してたけど、どう思う?」

「冷静にさっきの状態を分析しよう。下半身裸の君、ちょうど君のモノが顔の前にある僕。それを見ていた朝日さん。そして僕と恭弥は学校で付き合ってるって噂になっている」

「朝日は勘違いだって知ってるけどな」

「僕は、また勘違いされるような現場だと思うけど」

 

 ふむ、と千里を見る。

 俺の股間の前に千里の顔があり、上目遣いで俺を見つめていた。

 

「あ、ヤバイ。今すぐそこをどいてくれ。早く」

「え、あ、うん。いや、ごめんね。ほんとに」

 

 千里は気まずげに俺のソレから顔を背ける。千里の優しさに涙しながら、俺はゆっくりとズボンを上げた。チクショウ、俺がパンツを履いていれば、こんなことにはならなかったのに……!

 

「どう、しよっか」

「正直に言うしかねぇだろ。千里が俺のモノを欲しがった間違えた。千里が躓いて俺のズボンを下ろしただけだって」

「今絶対に君に説明させないでおこうと決意したよ。あとなんでノーパンなの?」

「だってお前俺が勝負おパンツ履いたらバカにするじゃん」

「……どういうこと?」

 

 どうやら千里には俺の高尚な思考が理解できないらしい。可哀そうに。ついでに俺と親友なばっかりにこんな目にばっか遭わされて可哀そうに。

 

「いい? 僕が説明するから、君は何も言わないでね」

「安心しろ。そんなにいっぱい喋んねぇよ」

「一言も喋るなって言ってるんだよ」

 

 ドアを開け、二人でリビングに向かう。リビングはすぐで、そこには日葵と朝日、薫がいた。

 

 朝日は俺たちを見ると不自然なくらい猛スピードで目を逸らした。

 

「千里、泣きそうだ」

「僕も。どうしようだめかもしれない」

 

 露骨な朝日の反応に俺たちは精神的に大ダメージを受け、あまり弱音を吐かない千里がついに弱音を吐いた。そりゃたまったもんじゃないよな、あんな勘違いされたら。

 

「あ、朝日さん。さっきのはその、勘違いだよ。いつもの」

「そ、そう。うん、わかってるわよ。あんたたちっていつもそうだもんね。ちゃんとわかってますとも織部さん」

「おい、変な階段上ったと思われてるからさんづけされてるぞ」

「僕は朝日さんの上下関係の基準がそれってことにまずびっくりしてるよ」

 

 俺もだよ。どうやら朝日も俺に似て気が動転しているとポンコツになるらしい。普段はすごい頼りになるのに。お前もしかしてうちの子か? 薫が朝日の家の子か? そうじゃなきゃおかしいぞ。俺に似すぎだろ朝日。

 

「二人とも、なんでずっと立ってるの?」

「は、ははは。そういやそうだな。座ろうぜ千里」

「そうだね恭弥。座ろうか」

 

 アイコンタクトを一つ。そして俺たちは風のような速さで朝日を挟み込むようにして座った。一瞬何が起こったかわからないと俺たちを交互に見た朝日は、俺の股間と千里の口を見た。お前絶対勘違いしてるだろ。

 

「ど、どうしたのよ氷室さんと織部さん」

「まずさん付けをやめてくれ。そんな不名誉な敬称いらねぇんだよ」

「簡単に説明するね。僕がこけた。僕がズボンを掴んでしまった。ずり落ちた。恭弥がノーパンだった。あぁなった。わかった?」

「待って、なんでノーパンなのよ」

「勝負おパンツ履いたらバカにされるから」

「……どういうこと?」

 

 日葵と薫に聞こえないようこそこそ話していると、千里とまったく同じ反応が返ってきた。なんでわかんねぇんだろこいつら。やっぱり俺のことまったくわかってねぇな。

 

「……わかった、あんたたちならありそうね。ちょっと気が動転しちゃった。ごめんなさい。ちなみに日葵には言ってないわよ」

「そうか。流石朝日。ちなみに日葵『には』ってどういうこと?」

「恭弥」

「ん?」

 

 千里が指をさす。その先を見た。

 薫が俺たちを気まずそうに見ながら、妙に日葵に優しくしていた。

 

「薫。ちょっと話そう」

「や、やだ」

「あ、氷室が死んだ」

「薫ちゃんにちゃんと拒絶されることなかったからね。仕方ない。薫ちゃん。ちょっとお話しよっか」

「……何もしない?」

「ははは。僕が何かするわけないじゃないか。朝日さん。僕だけだと心が折れそうだからついてきてほしい」

「情けないわね、あんた」

 

 千里と朝日が立ち上がり、一瞬で薫を挟み込む。俺、さっき千里とあれやってたんだよな。すげぇ怖いじゃん。

 

「恭弥、薫ちゃんと喧嘩したの?」

「ん? いや、ちげぇよ。第一それなら日葵に薫の説得を頼むわ」

「? なんで?」

「だって俺以外で薫が一番信頼してんの日葵だろうからな。なんとなくわかるんだよ」

「……そっか」

 

 日葵が嬉しそうににこにこしてる。可愛い。日葵も薫のこと好きだからなぁ。

 

 この後、薫がなおも気まずそうにしながら「勘違いしてごめん」と俺に謝ってくれた。しばらくは千里の口と俺の股間を薫が見れなかったのは言うまでもない。そもそも俺の股間を見ることなんて今までまったくない。


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