「今から体育祭の出場種目決めるから、決めてくれ」
LHRの時間。いつものようにクソ教師が教壇にすら立たず告げて、教室の隅っこにある椅子に座って眠り始めた。なんだコラ。推理でも始めんのか?
「体育祭っつってもなぁ。頑張ったって何ももらえねぇんだし、ウンコして帰るか」
「ウンコして帰ろうとしてるところ悪いが、お前が進行してくれ」
「俺と先生の仲なら仕方ないか……」
俺に面倒ごとを押し付けてきやがった先生にムカついたので、『確実に何かやましい関係がある』演技をしてやった。これによりクラスメイトが「まぁ氷室の悪ふざけだろ」「氷室くん成長しないなぁ」「おい、キショいぞ氷室」「恭弥……そうだったんだ」と先生に対して軽蔑の眼差しを向けるはずが、俺だけ被害を受けている。あと日葵に勘違いされている。損な役回り引き受けた上に心がぐちゃぐちゃにされました。
「日葵、千里、光莉、春乃、恭華、井原。あと有象無象。出たい競技とかあるか?」
「なんでその六人の名前だけ呼ぶんだ!!」
「俺たちの名前も呼んでよ!! ジェラシーがムンムンしちゃうわ!!」
「悔しかったら俺に名前覚えさせてみろ」
「俺レレレミリシュエール・フォン・アンヴェットフェンフォンって言うんだ。よろしく」
「よし、レレレミリシュエール・フォン・アンヴェットフェンフォンは死刑だな」
「体育祭の競技で死刑って聞いたことないんだけど……」
レレレミリシュエール・フォン・アンヴェットフェンフォンが処されたところで、競技リストを見ながら黒板に書きだしていく。うちの体育祭は特に変わったものはなく、100メートル走や部活対抗リレー、障害物競争や棒倒しクラス対抗リレーなどなど。この学校だけの競技を作ろうなんてはりきる教師はうちの高校にはいないらしい。
「足速いやつはリレーと100メートル走な!」
「っていうことは氷室と岸さんは確定で、恭華ちゃんはどう?」
「気安く名前を呼ぶなゴミ」
「ちなみに恭華は私と同じくらい速いで」
「三人決定! リレーと100メートル走って何人でなきゃなんだっけ?」
「リレーは四人で100メートル走は六人だな」
正直どの競技でもいいから、俺と春乃と恭華の名前をリレーと100メートル走の欄に記載しておく。どうせなら日葵にカッコいいところ見せたいし、得意な競技にでるのが一番だろう。ふふふ。なぜか春乃がすべてをかっさらう気がしてならないが、俺の勘は案外あてになるから気のせいだろう。じゃあダメじゃん。
しかし、競技数的に俺たちはもう他の競技でなくていいんじゃね? 騎馬戦は男全員出なきゃいけないからともかくとして、後はもう俺関係ねぇから誰かにバトンタッチしようかな……。
「リレー、あと一人なら僕が出てもいいかな? ちょうど男二人女の子二人でバランス取れるし」
「おい、誰か織部に計算を教えてやれよ。男一人と女の子三人だろ?」
「いや、これは氷室が織部に対してメスを教え込めてないからだ」
「織部くんかわいそう……。まだ手を出してもらえてないんだ……」
「キュピーン! これはもしや、リレーは棒を握っている女の子たちを至近距離で見れる最高の競技なのでは!? おい氷室、変われ!」
「投獄した」
「せめて通報のプロセス挟んでくれませんか……」
俺たちも大概だけど、やっぱこのクラスおかしいよなと思いながらリレーの欄に千里を入れておく。あと可哀そうだからちゃんと千里の名前の上に『男』って書いておいてやった。「やっぱり織部には優しいんだな……」「愛されてるねぇ……」などとなぜか俺と千里が付き合っている疑惑が加速しているが、もう今更だから気にしないことにする。
これでクラス対抗リレーに出る四人が決まった。俺、春乃、恭華、千里。連携っていう意味でも最高、運動能力的にも最高。向かうところ敵なし。すべてを置き去りにして一位になって日葵に褒めてもらうことにしよう。ふ、ふふふ。だ、ダメだって日葵……そんないい子いい子しないで……。
「恭弥が気持ち悪い笑み浮かべ始めたから、私が代わりに進行するわね」
俺は気づけば頭を掴まれて教壇に叩きつけられていた。もちろんそんなことができるのは光莉以外存在するはずもなく、仕返ししてやろうと脇腹をつっついたら「やっ」と甘い声。
「その、女の子に暴力はダメだと思って、ですね。その、許してもらうことは可能でしょうか?」
「……まぁ、いいわよ別に。みんなも血は見たくないでしょうし」
ほっ。どうやら命拾いしたみたいだ。多分この後みんなが見てないところで八つ裂きにされるが、お金を渡してうやむやにした後八つ裂きにされようと思う。俺が金を払う理由がねぇじゃねぇか。
「それじゃあ、日葵は私と二人三脚ね。これは決定事項。これより数分音を発したものは舌を抜き、目玉を抉り取る」
直訳すると、『文句言ったら殺す』ということだ。いや、訳さなくてももうそういう言い方してたな。こりゃ失敬。
光莉が静寂に包まれた教室に気分を良くしながら自分と日葵の名前を二人三脚の欄に記入し、ハートで囲む。日葵が恥ずかしそうにぷるぷるしているが、喋ったら殺されると思って必死に我慢している。光莉が日葵を殺すわけないのに……。
「障害物競争を乗り越えたら日葵と結婚できるって聞いたから、私出るわね」
「愛の障害物競争と勘違いしてるなら悪いけど、違うぞ」
「愛の障害物競争なら氷室も織部も夏野さんも出なきゃじゃん」
「仕方ないわね……」
有無を言わさず障害物競争への参加が決定してしまった。なんだこいつ。デカい乳ぶら下げてクラスを支配しにきやがったのか? 揉んでやろうか。……受け入れられたら俺が死ぬから、やめておこうと思う。もう光莉に不誠実な真似はやめようって決めたんだ。
「というか、高校生で大玉転がしってあるのね。誰が出る?」
「え? 光莉が出るんじゃねぇのか。胸にデケェ玉二つもぶら下げてんのに」
俺は光莉に持ち上げられ、千里の机に叩きつけられた。とんでもない衝撃音が響いたのにも関わらずこの高校ではこれが日常として処理される。「今の音は……レ#!」と絶対音感だと思われたいクラスメイトが全員に流されているのを可哀そうに思いながら、千里を抱え上げて膝の上に乗せ、千里の席に座る。
「ねぇ」
「あ、つい」
「いや、別にいい……よくない!!! 早くはなせ!!!!」
むぎゅーっとしてぽんぽんしてたらふにゃーってなってたのに、何がお気に召さなかったんだろうか。まさか俺が危うくビンビンになりそうだったから……? だから千里がお尻もぞもぞさせてたのか。まったく。エロイったらありゃしねぇぜ。
むっとしてぷんすこしている千里に優しく微笑み、「ごめんな?」と言ってから大体のことはなんとかしてくれる春乃様の方へ行く。俺に暴力働いてこないし、千里みたいに間違いが起きないし、一番安全だ。
春乃は近づいてくる俺を見て、人懐っこい笑みを浮かべながら手をひらひら振ってくれた。可愛いなこいつ……。
「どしたん? 春乃ちゃんが恋しくなった?」
「それもあるし、春乃のところが命の危険が一番ないと思った」
「命の危険は大体恭弥くんが原因やと思うけど……」
俺がいなくなったことにより、俺の代わりにと光莉が恭華を引っ張り上げ、二人で参加競技を決めていっている光景をのほほんと見つつ、あくびを一つ。いやぁ、春乃の近くは落ち着くぜ。なにせ問題が起きないからな。問題と言えば時折見せる春乃の仕草がエロくてたまらないくらいだ。大問題じゃん!
「でも一番安全って言うたら、日葵のとこちゃうん?」
「俺が耐えきれると思うか?」
「ふーん。私相手やったら耐えきれるん?」
「見なければ……」
「恭弥くんの視線は正直やもんな。えっち」
にやにやしながら俺をからかってくる春乃。ちょ、やめろよ……みんないるんだぜ……? さっきから日葵が『無』の表情でこっちを見てきてもいるんだぜ? 「なんで私のところにきてくれないんだろ……しょうがないか。最近までずっと話してなかったし、みんなの方が面白いし……やっぱり恭弥って面白い子の方が好きなのかなぁ。しかもみんな可愛いし、自信なくしちゃうなぁ」って落ち込んでるし。待て、俺今ナチュラルに日葵の思考を読みやしなかったか?
「なーなー恭弥くん。二人三脚って男女でもありやと思う?」
「どうだろうなぁ。教師とか親御さんとかが黙ってねぇだろ。体育祭は保護者も見に来るし」
「せんせー! 二人三脚って男女で参加もおっけーですか!」
「ん? あぁ。当人同士で合意があればいいぞ」
「ちなみにセックスの話じゃないですよ先生」
「あまり俺を見くびるなよ」
合意の話が出たからセックスのことだと思ったが、どうやら俺の早&とちりだったらしい。光莉も早とちりして黒板に『セックス』って書いちゃってるし。恭華が顔を真っ赤にして慌てて消さなきゃ大変なことになってたぞ、まったく。
「んー」
「? どうしたんだ? 春乃」
「やー、ちょっとな」
春乃が立っている俺の顔を覗き込んで、少し頬を赤くしながらいたずらっぽく笑った。
「二人三脚、一緒に出てくれへん?」
「俺は春乃と密着していやらしいことをしない自信がないけど、いいか?」
「じゃあオッケーってことやな! 光莉ー! 二人三脚私と恭弥くんで出るわ!」
「えぇ!? 恭弥と春乃がっ……んんっ! きょ、恭弥と春乃ね。べ、べべべべ別にいいんじゃない? ふん」
あいつ全然動揺隠しきれてねぇじゃん……。「いいなぁ」とか思うんじゃねぇよ俺の心抉り殺す気か。日葵も「あっ、えっ……うー」って言ってるし。ちなみに今のは『恭弥と春乃が!? それなら私が一緒にっ、あっ、でも光莉がるんるん気分で私と出るって書いちゃってるし……えっ、っていうことは当日みんなより近くで恭弥と春乃が二人三脚してるとこ見ないといけないってこと!? うー、どうしようどうしよう! でも私恭弥と二人三脚なんてしたら恥ずかしくて絶対うまく走れないし、光莉を振り切るなんて無理だし……!』って意味な。10割俺の願望。
そうこうしている間に、二人三脚の欄に俺と春乃の名前が刻まれた。……さて。
「二時間寝ても身体が痛くならないマットってあったかなぁ?」
「一緒に探そか?」
青少年の教育に悪すぎる春乃に「許してください」と謝罪すると、「嫌いやないやろ?」と一言。
はいっ!! と大声で返事した瞬間、クラス中の女子から軽蔑の眼差し、日葵と光莉から殺気を向けられ、恭華からは絶縁された。