体操着に着替えた俺、春乃、日葵、光莉、千里、恭華。そして三つの紐があり、それを握った春乃が首を傾げている。
「恭弥くんだけ呼んだつもりやったんやけどな……」
「は? 二人三脚の練習でしょ? 私たちも出るもの。ねー日葵ー?」
「うん! 頑張ろうね光莉!」
「ところで、千里と私がここにいる理由はなんだ?」
「なんか僕が面白いかなって思って勝手に僕と恭華さんを二人三脚にエントリーさせちゃった」
と、本人は言っているが、俺のことが心配してくれているんだろう。千里はもう神様視点で全部見えてるんじゃないかってくらい俺たちの事情を把握してるから、「二人三脚の練習とかやりだしたら、もしかしたら修羅場になりかねないな……」って考えて自分と、あと道連れに恭華をエントリーさせたのかもしれない。
ただ、道連れにされた恭華は初心すぎるため、千里と二人三脚するという事実に目をひん剥いていた。
「へ、あ、え? 千里と、二人三脚?」
「そうそう。いやらしいことするけどごめんね」
「さてと、絞め殺すか。春乃、紐貸してくれ」
「殺人用の紐やないんやけど……」
あのクソメス野郎、俺の妹ばっかり狙いやがって許さねぇ……! もしかして俺が好きすぎるが故に氷室家の遺伝子に惹かれちまうのか? だとしたら野郎、次は母さんまで……!?
それはないな。流石の千里でもババアは対象外だろう。それに双子だからあんまりこういうこと言うのは気持ち悪くて嫌だけど、同年代なら恭華と二人三脚していやらしいことするなって言う方が無理がある。
「織部くん、ダメだよ? 恭華は恥ずかしがり屋さんなんだから、優しくしてあげないと」
「日葵。私は優しくするから安心してね」
「もう色々不安やし、日葵と恭華をペアにした方がええんちゃうか」
「はぁー??? それなら男同士と女同士で分けた方が健全だと思うんですけどー??? ……あ、それは無理な話ね。ごめんなさい」
「朝日さん。もしかして僕を女の子としてカウントした? やってやろうじゃねぇか」
妹の想い人が死ぬのは見過ごせないのか、腕捲りして光莉に挑もうとした千里は恭華に必死に止められていた。恭華の運動能力は春乃とタメを張るくらいだって言ってたし、そりゃ千里を止めるくらい造作もないよな……哀れ。
ただし、後ろから羽交い絞めにしていると胸が当たって千里がいい思いをしてしまうため恭華から千里を引っぺがして地面にたたきつけた。
「もう脳刻んだよ。遅かったね」
「俺が塗り替えてやるよ」
「ぁ……」
「はぁはぁ。日葵、安心していいわよ。日葵には私が刻み込んであげるから」
「なぁ恭華。『二人三脚の練習しよー!』って切り出す間もなくぐしゃぐしゃになってんやけど、対処法とか思いつく?」
「恭弥と光莉と千里を一緒にしたらダメだろうな」
「無理ってことかぁ」
まぁそりゃあ俺たちはセットで動くみたいなところあるしな。俺たち三人が一緒にいなくても三人のうち二人は一緒にいることの方が多いし。なんかこう、ひかれあうって言うか、類は友を呼ぶっていうか。は? このクズ二人と同じ類だと? ぶっ飛ばすぞコラ舐めてんのか。
このまま怒りを二人にぶつけるのもいいが、埒が明かないので練習を切り出すことにする。練習が始まった瞬間光莉は日葵の体温と柔らかさを感じ取ることに夢中になるだろうし、恭華に触れるであろう千里はぶっ殺して黙らせればいいだけの話だ。
「んで、春乃。練習っつったって、俺と春乃ならやんなくても合わせられんじゃね?」
「ん? んふふー。そ? まぁせやったら嬉しいけど、私も恭弥くんに触れられて平気でおれる自信ないし、その練習? みたいな」
「ならなんでここが保健室じゃないんだ?」
「恭弥。勘違いしてるところ悪いけど性行為の話じゃないよ」
なんだ。春乃が頬赤くしてもじもじしながら言うもんだからてっきりセックスの話かと思っちまったぜ。つかあぶねぇなオイ。日葵の前で他の女の子に発情するなんて最悪じゃねぇか。今まで何度かしてきた気もするけどそれは気のせいだとして、さっきの聞かれてねぇよな……?
「日葵。恭弥は春乃とセックスしたいらしいわ」
「え……」
「おいコラ乳。ちょっとこっちこいや」
日葵にとんでもないことを吹き込んでいる光莉をひっつかんで、そのまま引き寄せる。光莉は俺から目を逸らしてビブラートを利かせた口笛を披露した。二重にムカつくなこいつ。
「テメェ今何してた」
「ビブラート口笛」
「あとでやり方教えてくれ。お前日葵にとんでもねぇこと吹き込んでただろ」
「だってそうでしょ」
「バカ言うなよ? 俺がセックスしたいのは日葵だけだ」
俺の言葉を聞いた瞬間、光莉がその胸についている殺人兵器を俺にむぎゅーっと押し付けてきた。
「どう?」
「千里! 胸元パタパタしてくれ!」
「? こう?」
光莉の光莉にやられかけていた俺はしかし、千里の得意技『胸元パタパタ・ザ・エチチオブザウルトロン』によって正気を取り戻す。嘘。正気ではない。光莉がえっちすぎたのを千里のえっちすぎるので塗り替えただけだ。つまり、俺は光莉に欲情したんじゃなくて千里に欲情したことになる。だからなんだっていうんだ?
「ってか光莉、男に対して軽率にそういうことするのやめなさい。思わず揉みしだいたらどうするんだ?」
「私はいいけど?」
「失礼します」
「やめんか」
二人揃って春乃に叩かれて引きはがされる。そして今俺がやらかしていたことの重大さに気づき、日葵を見てみればぷくーっと頬を膨らませてぷんぷんしていた。は? 可愛すぎか? なんだあの可愛さ。もう犯罪じゃん。なんてこった。俺の好きな人が犯罪者なんて。それでも俺は日葵が大好きだよ! ちゅっ。
「結局乳か? 乳がええんか? あんな自己管理がなってへんゴミの塊の何がええねん。言うてみろやコラ!!」
「待て!! 確かにおっぱいが大きいのは大変魅力的だが、春乃のお尻もきゅっとしてて触り心地がよさそうでめちゃくちゃいいし、脚だってすらってしてて撫でまわしたいなって思うし!!」
「胸がないからって僻むなよって言いたいのよね」
「そう!! いや違う何言わせてんだ光莉テメェ!!!!」
「私はあいつが兄で恥ずかしい」
途中まで春乃を言い負かせそうだったのに、光莉が参戦して余計な一言を付け加えたせいで俺は春乃にビンタされ、もちろん光莉も脳天にチョップを喰らっていた。クソっ、これじゃあ俺は春乃に対して欲情してるアピールした挙句制裁されていいことねぇじゃねぇか!
ビンタされた頬を抑えながら泣いていると、日葵が俺の前にしゃがみ込んだ。え? 天使?
「恭弥。私は?」
「おい恭華。俺は今いったい何を聞かれてるんだ?」
「多分『私の魅力的なところはどこ?』って聞かれてるんだと思うぞ」
「日葵!! 私が教えてあげるわよ!!」
「光莉は黙ってて」
「おーよしよし」
意気揚々と踊り狂いながらやってきた光莉が一撃でやられ、とてつもないショックを受けたのか号泣してしまった光莉が春乃に慰められている。千里が「僕も号泣すれば女の子の胸で泣けるのかな……」と真剣に考えているのは放置するとして、今は目の前で起きたとんでもない問題をどうにかしなければいけない。
目の前には今か今かと自分の魅力的なところを言ってほしがっている日葵。え? 女神?
いや、そうじゃない。日葵は天使であり女神だけどそうじゃない。今はこの場をどうやって切り抜けるかだ。日葵の魅力的なところなんてそりゃもう星の数ほどあるしむしろ星の数が足りないほどある。なにやってんだ星もっと増えろ。だらしのねぇ。
「……やっぱりないんだ」
「え」
「光莉と春乃はすぐに出てくるのに私にはすぐ出てこないってことは、そういうことなんじゃないの?」
「バカ言うなよ多すぎてすぐには出てこねぇってだけだ。日葵が魅力的じゃなかったら全世界の女の子は魅力的じゃなくなる。なぁ恭華!!!!」
「そこで私に振るから恭弥はダメなんだぞ」
「恭華さん。ちょっと前までそこのポジションは僕だったんだけど」
「おい恭弥。日葵はいいとして、なんでこのメスも嫉妬してるんだどうにかしろ」
「ごめん」
そっちはそっちでどうにかしておいてくれ。多分ノリで嫉妬してるように見せかけてるだけ……ちょっとぷくってむくれてるじゃねぇか可愛いなオイ。あとで押し倒してみようかな。
「……えへへ、そっかぁ。うん、それなら。ごめんね? 急に変なこと言って」
「いや、俺こそ悪い。気持ち悪かったよな? 尻だとか脚だとかおっぱいだとか」
日葵の背後でおっぱいを持ち上げ、俺を釣ろうとしているカスはあとでぶっ飛ばすことにしよう。あいつ自分の体使って俺を陥れるのにまったく躊躇ねぇよな。いいことだぜ。眼福とはこのことだ。
「? 恭弥どうしたの? 私の後ろに何かある?」
「さぁ春乃!! 二人三脚の練習始めようぜ!!」
「お尻とか触らんといてな?」
「そんなぁ!!!!??? あ、今のは聞かなかったことにしてくれ」
「無理でしょ」
「はぁはぁ。日葵。私と汗まみれのセックスをしましょう。今のは聞いたことにして」
「やだ」
光莉が膝から崩れ落ちた。悪は去ったな……。
春乃が日葵と千里に紐を渡し、残った紐を俺と春乃の足に括り付ける。やだ、密着するのって結構恥ずかしいのね……。つか甘い匂いするし柔らかいし顔近いしなんだこれ。死刑か? なんか千里と一緒にいる時も同じような状況な気もするけど。
「……なんか結構緊張してまうな、これ。練習してよかったかも」
「……お、おう」
「……ほ、ほら、練習すんで! 手ぇ回して!」
「お、おう!」
「やっ、腰やなくて肩!! 肩!!」
「え!!!??? 尻!!!!??」
「ぶっ飛ばすぞコラ!!」
「いいなぁ」
「大丈夫? おっぱい揉む?」
「いらない」
「いらない……!!?」