【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第163話 デート③

「わー! 広い!!」

「まるでテーマパークだな」

「? テーマパークだよ?」

 

 電車での出来事が衝撃的すぎてテーマパークなのにテーマパークじゃないと思ってしまった人、だーれだ? 俺!

 

 あの後、改札前で顔を真っ赤にした日葵が「い、いこ!」と言って俺の手を引いて改札を出て、手を握られたことにどぎまぎしながら「道違うぞ」と訂正し、無事に辿り着くことができた。

 やはりできて間もないからか人も多く、カップルもちらほら見かける。俺たちも周りから見たらカップルに見えるんだろうかと思うとドキドキが止まらねー!!

 

 一旦心を落ち着かせよう。

 

「絶叫系は無理なんだよな?」

「んー、うん。でも、恭弥となら乗ってみたい、かも」

 

 もじ、と俺の手をきゅっと握って上目遣いで俺を見てくる日葵に、俺は死んだ。なんだこの可愛い生き物は? こんな子とデートにこれるなんて俺は一体前世でどれだけ徳を積んだんだ? その徳の恩恵を受けすぎて来世がとんでもなく不安なんだけど。家によく出る名前がわからないタイプの虫とかになって一瞬で殺されんじゃねぇの俺。

 

「じゃあチャレンジしてみるか?」

「……ちょっと、ゆったりしたので慣らしてからがいいと思います」

「無理しなくていいぞ。楽しむのが一番だからな」

「せっかくだから、恭弥と一緒にぜんぶ楽しみたいの!」

 

 あれ? 今抱きしめてもいいよって言った? 気のせい? 気のせいか。どうやら気のせいらしい。俺の中の理性ってやつがそう言っている。ところで俺、嫌いなんだよね。理性のこと。うまくいきそうな時ことごとく邪魔してくるじゃんあいつ。

 

 ただあいつには助けられたことも多いので大目に見てやることにした。寛大すぎて周りの人がみんなスタンディングオベーションしてくれているように見える。偉くなったもんだな、俺も。

 

「それじゃあどうする?」

「……あれ」

 

 日葵が指した先には、柵に囲まれた場所にある蝶を模した小さな乗り物。地図を見てみれば、『おでかけちょうちょ』と書かれている。どう考えても幼児用のアトラクション。

 

「楽だろうけど、耐えきれるか? 羞恥心に」

「むり……」

「もうちょっと頑張るか」

 

 小さく頷いて、地図を見ながらむむうと唸る日葵の横顔を見つめる。

 

 思えば、こうして隣にいる事自体が奇跡なんだよな、俺。二年になるまで全然喋ってなかったのに、今じゃこうしてデートするまでになってる。彼氏彼女ってわけじゃねぇけど、よく頑張ったなぁ、俺。俺以外にも頑張ってる奴なんてごまんといるし、むしろ俺は頑張ってない方だとは思うけど、今くらいはこの幸せにこぎつけた俺の努力を褒めたってバチは当たらないと思う。

 

「じゃあこの『ふたごボブカート』っていうのは?」

「双子のボブに乗るってのか……?」

 

 日葵に乗ってもらえるなんて、羨ましいじゃねぇかボブ。語尾がボブみたいになっちゃった。

 

「とりあえず行ってみるか」

「うん!」

 

 本当に双子のボブに乗るアトラクションならやらなきゃいいし。流石にそんなことはないと思うけど、今の時代何があるかわからないからな。実際、俺の周りで何があるかわからないレベルのことが頻繁に起きてるし。

 

「ってか、手……」

「え、あっ、ごめっ……」

 

 そういえばと、手をずっと握っていることを思い出す。俺としてはこのままでいいような気もするけど、流石に心臓が持たない。さっきから俺の心臓でお祭りどころか大祭りが開催されてるし。きっと今レントゲンを撮ったら俺の心臓がサンバを踊っているだろう。

 

 俺が指摘すると日葵は慌てて手を離そうとした。離そうとした。けど離さない。離さずに、言いにくそうに口をもごもごさせた後、ちらちらと俺を見ながら。

 

「あの、あの、ね? 人多いから、繋いでちゃだめ、かな」

「ビッグバン」

「え?」

「気にしないでくれ」

 

 あまりの衝撃に衝撃をそのまま口に出してしまった。え? 繋いでちゃだめ、かな? ここが死に場所か? 俺が日葵と手を繋いでていいっていうのか? ヤバイ。今更意識して手汗かいてきた。俺の手のひらにスプリンクラーついてんじゃねぇかってくらい出てる。もう一生水には困らないってくらい出てる。汗って水の代わりになんのか?

 

「……はぐれちゃ、だめだしな」

「うん、はぐれちゃ、いけないから」

 

 心なしか握る力が強くなったように思えた。手汗かきすぎて「ぐちょ」って音鳴らないかなって心配だったけどその心配は杞憂に終わり、上がってくる体温を自覚しながらしばらく無言で『ふたごボブカート』に向かう。なんだよ『ふたごボブカート』って。「これで行きましょう!」っていう会議想像したら笑えてくんだけど。

 

「恭弥」

「ん?」

「いっぱい楽しもうね」

「……おう」

 

 日葵も照れているのか、ぎこちない笑みの言葉に、俺もぎこちない笑みで返した。

 

 

 

 

 

「かーっ、やってらんねぇわ。なんであんなの見ないといけないのよ。地獄よ地獄」

「僕が呼んだせいで……」

「気にしなくていいわよ別に。私まだ失恋引きずってたし、むしろすっぱり諦められるいい機会だって思うことにするわ」

 

 私たちの前には、初々しいカップルが如く手を繋いで歩いている恭弥と日葵が見える。如くっていうか、もうそうにしか見えないんだけど、私が知ってる限りではまだ二人はカップルじゃない。誰がどう見たって両想いなのに、当人同士はお互い好きって言ってないもどかしいどころかムカつく状態。

 

「朝日さんって、本当に気持ちのいい人だよね」

「電車のおっぱいのこと言ってるの?」

「あれも確かに気持ちよかったけど。あ、失言でした」

「いいわよ。怒んないって約束だもの」

 

 殴られると思ったのか、半歩引いて威力を流す体勢に入っていた千里がぽかんと間抜け面で私を見てくる。どうでもいいけど制裁しすぎたのかしら。もう体の使い方が武術やってるひとのそれに見えるんだけど。

 

「それより、あれを見てるとその」

「岸さん?」

「……春乃、大丈夫かしら。このまま二人が付き合うってことになったら、やりきれないわよね」

「それはないんじゃないかな」

 

 当たり前のように言い切った千里は、前を歩く二人を見ていた。

 

「恭弥は岸さんが自分のこと好きだってこと知ってるし、気持ちを聞かないまま、断らないままっていうのはないと思う。それに万が一そうなったとしても、岸さんはそういうの含めて勝負してたんだと思うから、やり切れはするんじゃないかな」

「そうは思えないのよね。だって、春乃は恭弥に好きになってもらえるようずっと考えてたんだから。私みたいに衝動的な恋じゃなくて、ちゃんと考えてた分きついと思うわよ」

「……朝日さんって人のことよく見てるよね」

「あんたもね」

 

 千里は、いつも自分より他人を優先しているような気がする。他人の位置に収まるのは大体恭弥だけど、私のことを気にしてくれたり、それこそ忌々しいことに日葵の相談にちょくちょく乗っていたり。恭弥のことが落ち着くまでって薫ちゃんの告白断るくらいだし、結構難儀な生き方してるなぁと失礼ながら思ってしまう。

 

「でもこれでようやくもうすぐで僕も薫ちゃんとお付き合いできるね。いやぁ死ぬほど我慢したよ。信じられる? 『あの、迷惑だと思うけど、声聞きたいから、電話してもいい?』なんて言ってくれるんだよ? 可愛すぎて死ぬかと思ったね、僕は」

「失恋した私に対する喧嘩なら、そろそろ買うわよ」

「待って。死ぬほどごめん」

「いいわよ。好きな人に対する気持ちが止めらんないって知ってるから」

「じゃあお言葉に甘えて、この間ね」

 

 一発殴ると、「流石にだめか……」と頬を抑えながらへらへら笑っていた。まったくこいつは、他人のことばかりだと思ってたらちゃんと自分のこと考えてて、しかも考え始めたらそれに一直線ってどんだけタチ悪いのよ。薫ちゃんに今からやめときなさいって言っておこうかしら。そ、それで、わ、私にしてみない? って、うふふ。

 

「そうかぁ。もうすぐか。恭弥のことだからもうちょっと先になるだろうけど、うふふ。もうちょっとで薫ちゃんといちゃいちゃできるのかぁ」

 

 ……。

 

「ねぇ、千里」

「どうしたの? 朝日さん」

「大丈夫?」

 

 へらへらしながら私の方を見た千里が、ピタリと固まった。

 

「なにが?」

「出さないようにしてたんだったらごめん。でも、恭弥が誰かと付き合うことになって、千里が薫ちゃんと付き合うことになったらさ。恭弥と千里が遊ぶこと少なくなっちゃうでしょ? ここのことだって、恭弥は最初千里とくるつもりだったって言ってたし」

「……ほんとに、よく見てるよね」

 

 敵わないなぁ、と言って千里はため息を吐いた。そのまま恭弥と日葵がボブスレーのように前後に分かれて乗るカートに乗り込んで、コースを爆走し始めたのを見届けてからゆっくり話し始める。

 

「うん、寂しいよ、やっぱりね。僕らは親友だし、いつも一緒だったし、マジかって思われるかもしれないけど、付き合ってるって噂されてもまぁ悪くないかなって思う程度には心許してたし」

「マジか」

「マジ。だってさ、あんなに面白い人いないよ? 恭弥といると毎日が鮮烈で、白黒の景色だって独特な色に染められちゃう。その隣に立っていられるのって、すごく幸せなことだと思うんだ」

 

 それは、よくわかる。私もその幸せが欲しくて頑張ってたんだし。春乃だって、もしかしたら他の誰かも恭弥の隣に立ちたいって思ってるかもしれない。

 

 口では汚いことを言いながらも、相手のことを気遣っていてほしいときにいてくれる。気づいてほしいときに気づいてくれる。笑ってほしい時にわらってくれる。バカよあれ。もうバカ。

 

「でもさ。恭弥が隣にいたいって思ってるのはずっと夏野さんで、いつかはそうなるってわかってたから。多分、大丈夫。それに、まったく遊ばなくなるってわけじゃないし」

「高校出るまでは一緒にいてって言ってみたら?」

「……それは、やめておくよ」

 

 多分、それを言ったら恭弥は僕を選ぶから。と言ってみせた千里にヤバさを感じつつ、私も多分そうなんだろうなと思ってしまったことに更にヤバさを感じて、「あれ? 今僕ヤバいこと言った?」と言い始めた千里にまたまたヤバさを感じた。

 

 ……まぁでも、あいつの親友ならそんくらいヤバくなきゃ務まんないでしょ。あれ? それ私もってこと?

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