【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第17話 関係性

「なぁ、修学旅行の夜みたいに『好きな子せーので言おうぜ』っつってどっちも言わない遊びしようぜ」

「え? いやだけど」

 

 千里にフラれてしまった。つれないやつである。

 

 色々あった今日。女性陣は妹の部屋へ、男性陣は俺の部屋へ分かれ、明日早起きして勉強を始めるという多分果たされることのない約束を交わしてから俺たちは布団に入った。

 思えば千里と一緒に遊ぶことは何度もあったが、一緒に寝ることは数えるほどしかなかった。ちなみに俺は床に布団を敷いて寝ていて、千里には俺のベッドを使ってもらっている。「女の子扱いしてない?」という千里の言葉に、「うん」と正直に答えたら指を折られかけてしまった。バイオレンスがすぎる。

 

「にしてもさ、俺日葵が泊まりに来てくれたのに何もなかったんだけど。どういうこと?」

「君がヘタレだからじゃない?」

「俺思ったんだけどさ、千里がいるからだと思うんだ。千里がいるとなぜか日葵と何も起こらず千里とばっかり何か起きる」

「それも君のせいじゃない? や、確かにズボン下ろしたのは僕だけどさ」

「お前もうちょっと自分の可愛さ自覚しろよ。俺が紳士じゃなかったらもう終わってるぞお前」

「自覚してるから一番ヘタレな君と一緒にいるんだよ」

 

 なるほどな。まぁ千里はそういう趣味じゃなくても抱けてしまいそうなくらい可愛いから、ヘタレな俺と一緒にいるのが一番安全なのかもしれない。実は俺はヘタレじゃないんだけど、千里の信頼を裏切るわけにはいかないからここは甘んじて受け入れておこう。俺は本当にヘタレじゃないんだけどな。

 

「もしかしたらさ。夜トイレに起きたら日葵とバッタリ会うみたいなことになるんじゃね?」

「なくはないかもね。一緒の家にいるんだし」

「おい一緒の家にいるとか言うのやめろよ。興奮するだろ」

「大丈夫だとは思うけど僕に近寄らないでほしい」

「大丈夫って断言できないからお前見るのやめとくわ」

「正直っていいことばかりじゃないんだよ? 時に友情に亀裂を入れる」

「友情から愛情に変わるなら安いもんだろ」

「代償が高いんだよ」

 

 冗談だよと一笑する俺に、「じゃあこっち向いてみろよ」と千里が低い声で俺に言ってきたので、「ごめんむり」と返すとベッドに置いてあるクッションを俺に向かって投げつけてきた。

 

「これ、仲のいい男女のコミュニケーションみたいになってるってこと気づいてんのか?」

「……君にばかり原因があるみたいな言い方してごめん。僕が十割悪い気がしてきた」

「お詫びに下脱いで見せてくれ」

「僕何回も男だって言ってるよね? 女だったら多分恭弥のこと好きになってるし、学校で勘違いされてるようなややこしいことにはなってないよ」

「ドキーン。俺の心臓が高鳴った」

「その反応ができるってことは君にそっちの気がないってことだね。安心したよ」

 

 流石千里。俺は緊張してると途端に喋らなくなるからな。それかいつもより支離滅裂な言動になるかのどっちかだ。

 女だったら俺のこと好きになってるってのは嬉しい話だが、逆もまた然り。俺が女だったら千里のことを好きになっていただろう。これは恋愛感情とかそういうものじゃなくて、ただ単純にずっと一緒にいたら楽しいのは誰か、みたいな色気もへったくれもない感情だ。

 

「今思うと朝日が男じゃなくてよかったわ。朝日が男だったらぜってー負けてるもん」

「朝日さん恭弥と似てるもんね」

「あ、俺と似てるんだったら大丈夫じゃん。負けねぇわ」

「夏野さんが恭弥のこと好きだっていうことは考えないの?」

「俺がそんな思考を持てるならヘタレになんかなんねぇよ」

「恭弥って変なところ自信ないよね」

「期待しすぎはよくないんだよ。特に色恋で期待しすぎると失敗する」

「期待しすぎてなくても、僕と付き合ってるっていう噂が流れる大失敗してるけど?」

「むしろそれで日葵と話せるようになったってとこあるから、これは成功だ」

「前向きなのはいいことだね。ちなみに僕は失敗だと思ってる」

 

 確かに。千里にとって何の得もないもんな。俺は日葵と話せるきっかけが生まれた、みたいなところがあるからプラスって言えなくもないが、千里はマイナスもマイナス。元々女顔でそういう層に大人気だったのに、俺との噂が流れたことで人気が加速したまである。俺が日葵と付き合い始めて、千里が俺と付き合ってなかったってことがわかったらすぐに襲われそうな勢いだ。

 

「千里。お前だけは守ってやるからな」

「ほんとに頼むよ。怖いんだ。なんで僕男から襲われることに脅えなきゃいけないんだよ。どうせなら女の子に襲われたいよ」

「そっちのお姉さまにも需要あるんじゃね? 可愛がってもらえそうだろ」

「どうせならってだけで、僕は常にからかって僕が笑えるような女の子がいい」

「出たなクズ。お前そんなこと許してくれる女の子いると思って」

 

 待て。常にからかって僕が笑えるような、だと?

 思い返せば、千里に常にからかわれて、千里が楽しそうにしている女の子に心当たりがあるぞ。まさかとは思うけどな。ははは。千里に限ってそんな、ははは。

 

「まさかとは思うけど、お前薫のこと好きじゃないよな?」

「それ聞いちゃう?」

「どういうことだテメェ……」

「待って。ベッドに上がってこないで。二重の意味で危険を感じる」

 

 聞き捨てならない言葉にベッドへ上がり、馬乗りになって千里の顔のすぐ横に手を置いて逃げ道を塞ぐ。返答によっちゃただじゃおかねぇぞこいつ。

 

「確かに可愛い可愛い俺の妹を任せるならお前しかいないと思ってたが、実際にそうとなると話は違う。薫がお前のことが好きならまだしも、お前が薫のことを好きなのは許さん」

「なんでって聞いてもいい?」

「薫から好きになったなら応援できるけど、薫は押しに弱いから押し切られる可能性がある。だから俺が守るって決めてるんだよ」

「恭弥ってシスコンだったっけ?」

「家族は好きだ。誰だってそんなもんだろ」

 

 同じ体勢のまま言葉を交わす。全然薫のこと好きって言わねぇなこいつ。もしかして俺の早とちり? 嘘? 恥ずかしいんですけど。

 

「恭弥ってちょこちょこ素敵なこと言うからずるいよね。素敵なこと言う前に大体の女の子が離れていくからモテないんだけど」

「知ってるならサポートしてくれ。いや、俺は日葵一筋だからやっぱサポートいらない」

「サポートしてるよ。君がヤバい奴に見えるようにね」

「いらないって言った手前怒れねぇじゃねぇか。ぶっ殺すぞ」

「めっちゃキレてるじゃん」

 

 中学まではそこそこ女の子と話す機会はあったのに、高校に上がってから妙に話す機会減ったなぁって思ってたらこいつのせいだったのか。確かに千里と波長が合いすぎるから暴走してたってのは否定しないが、まさかそれも千里の計算だったなんて。俺は仲良くなる人間を間違えたかもしれない。

 でも千里いいやつだし面白いしいいや。

 

「お前、なんてことしてくれたんだ……もしかしたら女の子と話せてたら、日葵とも早く話せたかもしれないんだぞ?」

「どうかな。……最初の話に戻るけど、僕は薫ちゃんの味方だよ」

「夫になりますってか? いいだろう。まずはお兄ちゃんを倒すところから始めてもらおうじゃないか」

「じゃあ夏野さんの前でキスしようか」

「お前の勝ちだ。薫は好きにするといい」

「引き分けだよ。それをすると僕も死ぬ」

 

 俺は日葵に嫌われることはなくとも「やっぱり織部くんと付き合ってるんだね」と思われて、千里は「やっぱりそっちの気があるんだね」と思われて二人とも死ぬ。ダメだ。そうなると俺が千里と人生を共に歩む未来しか見えない。

 でも待てよ、千里の容姿なら「恭弥に無理やりやられたんだ……」って言えば恐らくまかり通るそうなると俺だけ終わりだ。『男の親友に欲情した挙句女の子の前でそいつを襲ったクソ野郎』になってしまう。恐ろしい奴だぜ、千里。今引き分けだって言ったのも俺を油断させるためだな?

 

「で、そろそろどいてくれない? いくら恭弥とはいえ、ずっとこの状態は気まずいんだ」

「あ、悪い。薫のこととなると頭に血が上っちま、」

 

 どこうとしたその時、ずっと手をついていたからか力が抜けて、肘が折れ曲がった。そのまま体勢を崩して。

 

 俺と千里の体が見事に重なった。

 

 その瞬間、俺と千里はすぐにドアへ目を向ける。俺と千里がこうなった時、必ずと言っていいほど誰かがくるんだ。経験でわかる。流石に慣れた俺たちは体を重ね合いながら、必死に言い訳を考えていた。

 

 だが、俺と千里の予想に反して誰も入ってこない。なんだ、心配のし過ぎか。俺はゆっくりと体を起こしながら嫌な汗を拭い、千里と目を合わせて一言。

 

「……こっちのが気まずくね?」

「奇遇だね。僕もそう思ってた」

 

 俺たちは頷き合った後、今あった出来事を朝日に報告して、なんとか笑い話にしようと決意して布団に入った。

 

 ちなみに千里は妙に柔らかかったし、甘い香りがした。フェロモン出してんじゃねぇよカス。

 

 

 

 

 

 

 夜、同じ部屋に日葵がいる。もう一度言おう、日葵がいる。一緒の部屋に。夜。うふふでえへへである。断っておくが私に同性愛の趣味はなく、ただ可愛いものが好きで好きでたまらないだけだ。

 だから私は日葵が好きで、一緒に泊まれるってなったその時、寝る時に日葵に抱きついてやろうと考えていたのだが、困ったことがある。

 

「日葵ねーさんってまだ兄貴のこと好きなんだよね?」

「うっ……う、ん」

 

 私の目の前に、可愛いのが二人いた。

 

 そう、可愛いの二人を前にした私は、「どちらに抱き着けばいいのか?」と天才的な脳をフル回転させているのである。日葵に好きとか言われてて薫ちゃんに兄貴って呼ばれてる羨ましいクズにはぜひ死んでほしい。

 

 それにしてもあのクズは顔がいいから妹も可愛いと思っていたが、まさか性格もいいなんて。性格も可愛いし顔も可愛いし、もはや私の妹なんじゃないかって思い始めている。私も可愛いし性格もいいし、疑うところなんてどこにもない。

 

「ふふ。私ね、日葵ねーさんが兄貴と話してるところ見てると嬉しいんだ。どっちも応援したくなっちゃうし、どっちも大好きだから」

「薫ちゃんありがとう……!! 私も大好きだよ!」

「は? 私もだけど?」

「ひ、光莉? なんでキレてるの?」

「なんでもないわよ。キレてもないし」

 

 私の悪い癖は考えるよりも先に口に出してしまうところだ。日葵と薫ちゃんが可愛すぎてうっかり大好きって言ってしまった。あと薫ちゃんに大好きって言われたクズはぜひ火葬されてほしい。

 

 はぁ、なんでこんな妹が育つのかしら。だってあいつよ? 生ゴミの擬人化よ? 生ゴミと天使が兄妹っておかしくない? ここは私と姉妹で天使と天使の方がいいに決まってる。薫ちゃんもそう思ってる。

 

「薫ちゃん。私のことも光莉ねーさんって呼んで!」

「ねーさんって呼ぶのは日葵ねーさんだけなので、ごめんなさい」

「薫ちゃん、氷室の彼女は日葵しか認めないだって。日葵も可哀そうに」

「光莉って恭弥のこと嫌いなの……?」

「あいつと付き合うのは可哀そうだと思うけど、嫌いじゃないわよ。気も合うし悪い奴じゃないし、友だちとしてなら好き」

「……光莉ねーさん」

「嬉しいけどめちゃくちゃ複雑だからやっぱりやめてもらっていい?」

 

 どうやら薫ちゃんにねーさんって呼ばれるのはかなり不名誉な称号であるらしい。ねーさんって呼ばれるってことはつまり『氷室の彼女として認められる』ってことだから。

 

 ……いつか織部くんも「千里ねーさん」って呼ばれる日がきやしないだろうか。そうなったら笑ってやろう。

 

 あいつらの事故をすぐに笑ってやれるのは、今のところ私しかいないだろうから。


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