【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第172話 体育祭⑦

 決着は、あっけないものだった。

 

 運動能力において一番劣っている千里・恭華ペアはお話にならないレベルで最下位。一位争いは俺たちと日葵・光莉ペアとなった。同じ麻袋に入り密着状態で体を揺らすという、青少年には死ぬほど精神的ダメージがくる障害物に手間取ってしまい、前を行く日葵と光莉を見て焦った俺の口から出た言葉が、勝敗を決めた。

 

 ──「俺が一位になったら、日葵に対して光莉の欲望を受け止めろって命令ができるんだぞ!!」

 

 よって一位は俺たち、二位は日葵と光莉、三位は千里と恭華という結果になった。

 

「ねぇ恭弥」

「なんだ?」

 

 競技が終わり、千里と密着状態にあり色々限界だった恭華がふらふらと消え、千里が薫に許しを請うために消え、俺の隣には光莉がいて、俺たちの視線の先には恨みのこもった目で光莉を睨んでいる日葵の姿があった。日葵の隣には春乃がいてなんとかなだめようとしているものの、日葵は頬を膨らませてご立腹の様子。

 

「あれから日葵が口きいてくれないんだけど、なんでだと思う?」

「それ本気で聞いてんのか?」

 

 俺がそうやって聞くと、光莉は本当に不思議そうな顔で人差し指を口元に添えて「ふにゅ?」と首を傾げた。ぶん殴ってやろうかと思ったけど相手は女の子だと自分を制し、俺の紳士っぷりに自分で驚愕しながら優しく光莉に接する。

 

「ムカつくんだよ、殺すぞ」

「は? 果てしなく可愛いでしょ」

「果てしなくはないだろ」

「えー? それって私が可愛いっていうのは認めるってことー? ぷーくすくす。まぁ仕方ないわよね。私ってすごく」

「可愛いぞ?」

「あっ……ぇぅ……」

 

 調子に乗り始めたのがクソウザかったので攻撃してやると、面白いくらいに顔を真っ赤にして俯いた。してやったりと勝ち誇った気持ちになるが、日葵の刺すような視線が俺に向けられ、そこに春乃の視線もプラスされてしまったので結果的に俺は敗北したのと同じになってしまった。なんだ? 俺はどこで間違えたんだ?

 

「んっ、んん! さて、私も二人三脚の時は流石にやりすぎたと思ってるのよね。つまり仲直りするために協力しなさい」

「ハン! じゃあ俺のケツでも舐めて懇願するんだな!」

「忘れられない思い出にしてあげるわ」

「ひぃん! お願いしますぅ!」

 

 イケメンなセリフの後に舌を出してべろべろと動かし俺に見せつけてきた光莉に、体を震わせながら懇願する。おい、俺が懇願してんじゃねぇか。流石俺が認めたライバル……!

 じゃあどこで舐めてもらおうかなと人気の少ない場所を探していると、俺の肩が誰かに掴まれた。さっきまで密着していたから誰のものかすぐにわかる。見れば、笑顔でブチギレていそうな春乃がそこにいて、同じく光莉が日葵に肩を掴まれていた。運動能力お化けな春乃と違い日葵は常識内の強さで光莉の肩を掴んでいるため、光莉は恍惚としている。

 

「あの、春乃さん。肩がミシミシって鳴ってるんですが……」

「日葵が怒ってんのに、ふざけるのやめぇや」

「光莉。私ほんとーに怒ってるんだからね?」

「ちっ、違うの! 違うの日葵! 私があまりにも日葵が好きすぎて暴走しちゃっただけなの!」

「今んところ被害者と目撃者と容疑者の証言が一致してるんやけど……」

「春乃。俺は悪くないと思うんだよ。邪悪は一人だけだと思うんだよ」

「ちょっと前の発言思い出してみ」

「『甘いな光莉!! 今俺は春乃と密着している!! つまり春乃の柔らかさ、体温、そして匂いをすべて感じることができるということだ!! 普段明るくイケメンな春乃がちゃんと女の子の柔らか」

 

 ちゃんとちょっと前のことを思い出したのに、春乃がえらくご立腹になって俺の口を手で塞いできた。せめてもの抵抗にもごもごしていると、「ちょ、こしょばい!」と言いながら笑いを堪える春乃の姿を見ることができた。

 何人かの男子が俺に親指を立てているのが視界に入り、仕方ねぇなと思いながら親指を立てて天高くつき上げ、そのまま下に向けた。お前らごときが春乃に欲情してんじゃねぇよゴミどもが。身の程を知れ、カス。

 

 俺と春乃がそんなやり取りをしている中、光莉は日葵に可愛らしく怒られており、デレデレした表情を隠そうともせず興奮していた。

 

「いくら私のことが好きだからって、保護者の方とか先生とか全校の生徒みんなが見てる前であぁいうことやっちゃいけないと思う!」

「うんうん」

「それに、光莉も危ないんだよ? 光莉可愛いんだから、その、え、えっちなこと言っちゃうと光莉がそういう子なんだって悪い人が勘違いしちゃうかもしれないし」

「うんうん」

「本当に恥ずかしかったんだからね! ……ま、まぁ反省してくれるなら、別にもういいけど」

「すきすき、ちゅっちゅっ」

「もうしらない」

 

 日葵はぷいっ、と光莉から顔を逸らし、応援席へと帰っていった。

 光莉は唇を尖らせてしばらく固まったまま日葵を目で追いかけ、そのまま首を傾げてまたしばらく固まった後、

 

「なぜ……?」

「クスリやってんのか?」

「ふっ、確かに。日葵という刺激的な女の子は、私にとって劇薬かも、ね」

「ちなみに日葵から『もうしらない』って言われると、結構頑固だからしばらく口きいてくれないぞ」

「うそだろ」

 

 光莉の表情が絶望に染められて、プラスの感情の一切が消え去っていく。光莉を構成するのは日葵への気持ちが9割と言っても過言ではない。光莉から日葵をとってしまえば、それはもう光莉ではないのかもしれない。でもおっぱいが大きいからやはり光莉は光莉だった。

 ただかなりショックだったらしく、光莉はそれから一切なんの反応も示さなくなってしまった。肩を揺すっても頭を叩いても尻を握っても一切反応しない。ちなみにやったのは春乃だぞ? 俺はやってないぞ?

 

「ん-、あかんなこれ。完全に何やられても反応せえへんわ」

「僕のこと呼んだ?」

「あぁ千里。今なら光莉のおっぱいを好き放題できるらしい」

「それじゃあ失礼して」

 

 本当に揉む気はないだろうが、千里が光莉の胸に手を伸ばすと一瞬光莉の姿がブレて、千里が吹き飛ばされた。地面を転がる千里は「お、オート反撃……?」と頬を抑えながら驚愕し、俺はそれを見てやはりと頷いた。光莉のことだ。暴力は身に沁みついていても不思議じゃない。春乃が殴られなかったのは女の子だからであり、別に触られてもいいからだろう。

 

「あれ、そういや薫ちゃんに許してもらったん?」

「二人三脚は仕方ないからって、そんなに怒ってなかったよ。面白くはなさそうだったけど」

「むしろさっきやろうとしたことの方が面白くなさそうだぞ」

「どうも。千里ちゃん」

 

 立ち上がった千里は恭華が連れてきた薫を見てすぐに土下座した。俺くらいになると香りで薫が近づいてきたかどうかわかるため、千里が光莉の胸に手を伸ばした時点で薫がいることに気づいていたがあえて言わなかった。なぜって? そっちの方が面白そうだったからさ。

 

「おい恭華。なんで薫を連れてきたんだ? 千里を地獄に落とせたのはかなりいいことだけど、クラスのやつがうっかり薫のことを好きになったらどうするんだよ」

「それは殺せばいいだろ。薫を連れてきたのは、光莉と日葵が喧嘩するだろうと思ってな。日葵を折れさせるには薫が一番だろ?」

「確かに。薫が日葵に頼めば一撃だもんな」

 

 日葵は薫にかなり弱い。薫ほど可愛くて優しくていい子が相手なら無理もないが、なんていえばいいのか。日葵に対する光莉からいやらしさをそぎ落としたかのような対応をする。だから大体のことであれば言うことを聞く。日葵がへそを曲げた時は大体薫がちゃんと日葵の話を聞いてちゃんと宥めてちゃんと納得させるというのがお決まりだったような気もするし、薫は対日葵最終兵器なのだ。

 

「本当は当人同士で解決した方がいいんだろーけど……」

 

 薫は光莉をつんつんと突いて、「ほんとに動かない……」と呟いてから日葵の方へと歩いて行った。

 

「なーなー恭弥くん。薫ちゃん私にくれへん? かわええしええ子やし、あんな完璧な子おる?」

「やらねぇよ。薫はどこにもやらん!」

「おい! 話が違うじゃないか!」

「恭弥。このメスは薫の前で光莉の胸に手を伸ばしておいて、面白いことを言うんだな?」

「あぁ、殺しといていいぞ」

「待」

 

 助けを求めるように俺へと腕を伸ばしてきた千里は無視することにした。恭華は俺より薫といた時間が短い分、まだ薫に対する気持ちにセーブが利かないんだ。だからこそ薫に不誠実な行動をとると問答無用で殺しに来る危うさがある。そして千里はその危うさに殺された。それだけのこと。

 

「えー、せやったら薫ちゃん妹にしたいんやったら恭弥くんと結婚するしかないんかぁ」

「おい、いやなことみたいに言うのやめてくれないか?」

「いやなわけないやん。恭弥くんのこと好きなんやから」

「そういうことさらって言うなよ! 意識しちゃうだろ!」

「意識してくれるん?」

 

 俺の顔を覗き込んで歯を見せて笑う春乃に不覚にもドキッとしてしまう。まずい、いつもなら助けてくれる千里は今恭華に殺されてるし、光莉は物言わぬ像となっている。今春乃からの攻撃を逃れるためには俺自身でどうにかするしかない。

 

「そ、そりゃあ、ね? 春乃みたいな女の子からそういうこと言われたら、ね?」

「そっか。うれしい」

 

 先ほどまでの明るさを前面に押し出す笑い方ではなく、ふわりと笑う春乃。時々こうして綺麗に笑うから、その度に俺はギャップで殺されそうになってるってことわかってんのか? わかってんだろうな。春乃はそういうのを計算でできる……いや、もしかしたらこれは無意識なのかもしれない。というかそうだろう。人の感情まで計算だと俺は思いたくない。

 ただそれとこれとは話が別。このままじゃ俺は春乃に攻め落とされてしまう! いや、落ちることはないけどその寸前まで行ってしまう恐れがある! 誰か助けて!

 

「えっと、ちょっといい?」

「薫?」

 

 そんな俺の情けない願いが届いたのか、申し訳なさそうに薫が声をかけてくる。春乃的にはタイミングが悪かっただろうに、春乃はまったく気にする様子を見せず明るく笑って「どうしたん?」と薫に視線を合わせる。あ、そういうとこ好き。

 

「日葵ねーさんがね、光莉さんとはしばらく口ききたくないって……」

 

 光莉は崩れ落ちた。

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