【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第176話 それぞれの密?会

「……死んどる」

「……」

 

 恭弥くんと会った次の日。体育祭の代休を利用して光莉に『明日遊ぼー!』と送って『私を笑いたいのね?』って返ってきたときも相当やなと思ってたけど、まさかここまでとは思ってなかった。

 光莉は常に俯いて定期的に「日葵……」と呟き、死にながら生きているという表現が一番合うような状態で私の前に座っている。ぱーっと遊んで気分紛らわせようと思ってたけど、会った瞬間カフェに入って休憩を選んだのは間違いやなかった。

 

「信じられる? 私この二日間、いや三日間日葵と連絡とってないのよ? もう飲まず食わずと一緒よこれ。私に必要な栄養がまったく足りてない」

「いつもご飯作ってくれてる親御さんに謝れ」

「私の親が栄養バランス考えてご飯作ってるわけないじゃない」

「ほなその胸についてるもんはなんやねん」

「才能」

 

 ムカついたから胸をちょっと突いてやると、ぴくっと反応して「はぁ、はぁ」と興奮し始めた。よし、まだ大丈夫やな。光莉に変態性が残ってるうちはまだ安心。

 ……こういう風に光莉の状態を確認してる私も、随分毒されてるんやなぁ。自分のことはもうちょっとまともやと思ってたんやけど、流石にあんな濃い連中と四六時中一緒におったらおかしくなってまうわ。

 

「てか、毎日連絡とってたん?」

「当たり前じゃない。私たち親友よ? 羨ましい? 羨ましいでしょ!」

「日葵なしで生きて行かれへん体になんのは勘弁やなぁ……」

「は? 日葵に依存すること以上に光栄なことはないでしょ。殺すわよ?」

「すぐバイオレンスになんのやめぇや」

 

 ほんとに、どうするつもりなんやろ。連絡とってへんだけでこれなんやから、明日になって日葵がまだ意地張って光莉を無視とかしてもうたらとんでもないことになりそう。日葵はええ子やから多分謝ると思うし、恭弥くんも恭華も千里も、もちろん私も日葵と光莉が仲悪そうにしてるのは見てられへんから「流石に……」って思ったらなんとかするやろうし。

 

「ねぇ春乃。体育祭でのことも今までのこともそしてこれから先のことも全部私が悪いって自覚あるんだけど、日葵許してくれると思う?」

「今までのことはともかく、これから先のことは自覚あるんやったらやめろや」

「じゃあ聞くけど!! 好きって気持ちはやめられるものだと思う!!?」

「あれ、恭弥くんに対してのそれはやめたんちゃうん?」

 

 顔を上げて詰め寄ってきた光莉にカウンターを食らわせると、ぴたりと固まってゆっくりと離れていく。そして目をたっぷりと泳がせた後、上目遣いで「き、気づいてたの?」と一言。なんやこの子可愛すぎんか? 一瞬一晩を共にするんかと思った。

 

「や、そら気づくやろ。私かて角度とかいろんなもんは違えど光莉と同じ立場っちゃ同じ立場やし。なんとなくな」

 

 光莉から恭弥くんへのアピールがおとなしくなったというか、光莉が恭弥くんのことが好きっていうのは変わってないんやろうけど、それを伝え続けるっていうことはやめたような、そんな気がした。恭弥くんも恭弥くんで、ある日を境に女の子扱いしてるっちゃしてるけどどっちかっていうと『かなり仲のいい友だち』みたいな感じで光莉に接するようになってたし。

 

「どこでどうやってどんな感じに折り合いつけたんか知らんけど、私に一言くらい言うてくれてもよかったんちゃう?」

「……や、これはもう個人的なことっていうか、私がそうしたことで春乃の気持ちとかに影響与えたりしたらいやだなって」

「他人のどうこうでブレるような半端な気持ちなら、最初から持たんわ」

「かっちょえぇ……」

 

 私なら光莉みたいなええ子ほっとかんやけどな、と言いかけたのをぐっと堪えて微笑みに変える。きっと恭弥くんもほっといたわけやなくて、ちゃんと考えて光莉と向き合ってくれたんやと思う。まぁ恭弥くんのことやから自分からってわけやなくて、ただその場その場に流されて受け入れてた、みたいなこともありそうやけど。そういうとこが可愛くて、なんだかんだ誠実やから好きやねんなぁ。

 

「……こういう話になっちゃったから聞いちゃうけど、春乃は勝つ算段あるの?」

「ん? まぁ学生のうちは無理やろな。色々やってみたけど日葵が一番好きっていうのは絶対やろうし」

 

 あっさり言った私に光莉は目を丸くして驚いている。そんなおかしなこと言うたか?

 

「え、じゃあ、え? もう諦めてるとか……?」

「んなわけないやん。学生のうちはって言うたやろ? 人生まだまだ先長いんやから、チャンスなんかいくらでもあるやん」

「あんた、私の日葵から恭弥を奪い取る気……?」

「どうやろ、そういう形になるんかな? でも無理やりとかそういう風には考えてへんで」

 

 多分このままいけば恭弥くんは今年のうちに日葵と付き合うやろうし、それは避けられへん。なんやろ、軽く聞こえるからあんまり言いたないけどそういう運命っていうか、そんな感じがする。

 

「春乃。あの二人は付き合ったらもうそのまま結婚まで行っちゃうわよ。別れるなんてありえない」

「やろなぁ」

「やろなぁって……」

「でも人生何があるかわからへんで? 普段の二人を見てたらそら別れへんやろうけど、二人の人生は二人だけのもんやないし、そういうのひっくるめてチャンス期待するしか今んとこ勝ちの目ないから」

「……辛くないの?」

「んなわけあるかい。こんなに人を好きになれるんやから、幸せ以外に言葉見つかる?」

「悪いことは言わないわ。私と結婚しましょう」

 

 指でバツ印を作ると、光莉が「あぁん!! フラれたぁ!!」と叫び、なぜかセクシーポーズをとった。ほんまになんでやねん。

 

 ……まぁ、なんかええ感じのことは言うたけど見ようによってはみっともなく縋り付いてるようにも見えるかもしれへん。でも、恭弥くんが日葵のこと好きやからって気持ちだけ伝えてはい終わりにはしたくない。だって、私が『好き』ってそういうもんやと思ってるから。気持ちに折り合いつけて、身を引いた光莉の『好き』を否定するわけやない。

 

 ただ、なんとしてでも恭弥くんの隣には私がいたいから。

 

「はぁ、なーんであんなクズが私たちみたいないい女に好きになってもらえてるのかしらね」

「好きになったもんはしゃあないやろ」

「あんたねぇ。そんなんじゃ婚期逃して一人寂しい人生送っちゃうわよ?」

「どうなろうと恭弥くんとは付き合い続けてくし、もちろん日葵とも光莉とも千里とも。せやから寂しくなんてならへん」

「えっ! それは私と結婚してくれるってこと!?」

「私が結婚したいのは恭弥くんやから」

「恋する乙女、強し」

「まぁでも」

 

 私は立ち上がって伝票を手に取り、見上げる光莉に笑顔を向けた。

 

「デートくらいはしたってもええで?」

「いやん! 好きになっちゃう!!」

「やめてくれ」

「急に突き放すな」

 

 冗談やんと笑いながら光莉の手を取って、楽しいデートへと向かう。私と遊んで日葵とのこと一瞬でも忘れてくれたらって思ったけど、そう簡単にはいかへんやろうなぁ。

 

 好きってそういうもんやし。

 

 ただちょっとムカつくから、刺激的な思い出にして塗り替えたろうかなとは思った。

 

 

 

 

 

「頼む!!」

 

 今俺は、窮地に立たされていた。

 

 場所はオラクル。昨日きたばかりだが今日は恭華と薫と春乃はおらず、俺の目の前には手を合わせて俺にお願いをしている井原がいる。

 そのお願いの内容は、

 

「恭華ちゃんと遊びてぇんだよ!」

 

 どうやら昨日の一件で恭華のことが気になってしまった井原が、恭華と遊びたいというもの。俺の可愛い妹に手ぇ出すとは上等だなってか俺と友だちになるやつってなんで俺の妹に手ぇ出そうとするの? おかしくねぇか。俺がもうそういうやつ集めてるみたいになるじゃん。俺が妹の平穏脅かしてるまであるじゃん。本人が脅かされてるって感じてるかどうかはともかくとして。

 

 井原はいいやつだ。顔はいいし運動できるし頭はそれほど良くないが、それは勉強ができないっていう意味で社会的に生きていくっていう意味ならむしろ頭はいい。それに気遣いができていつも明るくて周りを元気にしてくれる……あれ? 俺が断る理由どこにあるんだ? むしろ井原みたいないいやつが恭華をもらってくれるならこれ以上の安心はねぇんじゃねぇか?

 

 いや、ただ。

 

「お前、恭華のメイド服見た次の日にそれは邪すぎだろ」

「アー、まぁそう思われるよな。ただ、なんつーんだろ」

 

 井原は言いにくそうに一瞬視線を逸らし、また馬鹿みたいに俺の目をまっすぐ見つめた。

 

「なーんかさ。可愛い! とか美人! とか思っても、好き! とはならなかったんだよ俺」

「あーはいはい。昨日恭華見て新たな感情揺さぶられたからその感情の意味を確かめたいみたいなそういうやつ? 俺の妹を実験道具にするつもりか!!」

「突飛な想像マジ恭弥って感じ! やーでも意味を確かめたいとかそういうんじゃねぇんだわ。なんだろ、昨日恭華ちゃんもちゃんと女の子なんだなーって改めてわかった時、そういうの全部独り占めにしてぇ! みたいな感情がパーティ起こしててさ!」

 

 ……それってつまり好きってことなのでは? 早すぎねぇかほぼ一目惚れみたいなもんだぞ。なんか井原だったら一目惚れが一番似合う気がするし無理がないし別に思うところもないけど、なんか、なんだろうなぁ! この正面切って妹のことが好きって言われた時の気持ち! なんで井原クズじゃねぇんだよ応援したくなるじゃねぇかチクショウ!

 

「……あれ、てか恭華と遊びたいなら別に俺通す必要ないだろ。明日会えるんだからそん時誘えばいいだろうし」

「え、なんで? 恭華ちゃんって男苦手そうだし、恭弥がダメっつったら恭華ちゃんにとってもダメなんだろうなって思ったんだけど」

 

 俺は敗北を認めた。ダメなわけないじゃんこんないいやつ。これから先どこを探したって見つかんねぇよ。あぁこれで氷室家は安泰だ。恭華はまともっちゃまともだし井原はいいやつだし、初めて氷室家で素晴らしい遺伝子が生まれるかもしれない。

 

「っつーわけでお願いしてるわけなんだけど、ダメ?」

「ダメじゃねぇよ。その代わり、恭華の嫌がることすんなよ」

「おう、サンキュー! じゃあ早速明日連絡先聞くか!」

「ん? いや別に俺が教えるぞ」

「ダメだろそれ! フセージツ? ってやつだ!」

 

 俺はこの日、初めて男としての敗北を痛感して涙を流した。

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