【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第18話 スマートなお誘い

「これを見て欲しい」

「修学旅行のしおり……?」

 

 朝。いつものように文芸部室に集まった俺、千里、朝日、つづちゃん。俺は三人に相談をするために、俺の悩みの種である修学旅行のしおりを机の上に放り投げた。

 

「修学旅行の際、自由時間がある。行き先は大阪。そして自由時間は班行動でもなんでもなく、好きなやつと回っていいことになっている。ここまで言えばわかるな?」

「つづちゃん。簡単に言うと、恭弥は夏野さんを誘えないからどう誘ったらいいかな? ってなさけなくも僕たちにその方法を考えてくださいって頭を下げてるんだ。さぁ罵ろう」

「ちなみに昨日、日葵めちゃくちゃ男子に声かけられてたわよ。みんな偉いわね。勇気を出して声をかけるってすごいことだと思うわ」

「ちゃんと殺しておいたか?」

「当たり前じゃない。あ、ごめん今のなし。日葵がちゃんと断ってたから、私が手を下すことはなかったわ」

「殺したくて仕方なかったってことか。千里、つづちゃん。俺が日葵と行動を共にできて、なおかつ朝日に殺されない方法を考えて欲しい」

「楽しんだ後に殺されるというのはどうでしょう?」

「俺の命をあまり軽く見ないでほしい」

 

 名案と言わんばかりに指を立てたつづちゃんの案を一瞬で却下する。殺されない方法っつってんだろ。なんで殺されることに関しては諦めるの? それなら命優先して日葵との行動を諦めろよ。ていうか朝日は日葵を誘っただけで殺すなよ。

 

「別にあんたなら殺しはしないわよ。訳の分からない男子が今更声かけてたからムカついただけ。あんたと織部くんなら問題ないわ」

「俺と日葵だけで行動させるっていう選択肢はないのか?」

「殺すわよ」

「殺してんじゃねぇか」

 

 殺しはしないって言った後にすぐ殺害予告なんて、こいつはおかしい。おかしいから日葵と一緒に行動はさせないべきだ。当日なんとかこいつのおかしさを周知させて自由行動の時間宿で休ませてやろう。俺と日葵の幸せな時間に朝日は邪魔だ。

 でもやっぱり日葵と二人きりなんて緊張して何も喋れなくなってどこにも行けなくなって男として終わりそうだからついてきてもらおう。こいつは優秀なサポート役。俺のポンコツをなんとかカバーしてくれる兵士である。

 

「どうせ一緒に回ることになるなら朝日さんから言っておいてよって言おうと思ったけど、面白いから恭弥に誘わせよう」

「いいですね! その場面を撮って浮気男として氷室先輩を取り上げましょう!」

「おい朝日。悪魔が二体いる」

「仕方ないわね。天使の私が味方してあげるわ。あんたが誘いなさい」

「一瞬で寝返ってんじゃねぇよ牛」

「どこ見て言ってんの? 吸わせてあげましょうか?」

 

 むせた。ちくしょうこの女、俺が吐いた暴言に慣れてそんな返しをしてくるとは。暴言吐く割には俺が初心だってこと理解してきやがったな? くそ、ここでお願いしますとかなんとか言えば「キモ」と言われてビンタされるのがオチだ。つまり俺は恥ずかしさを抱えたまま「ぐぬぬ」と黙り込むしかない。

 

「え? それはつまり僕も吸っていいってこと?」

「違うわよ。死になさい」

 

 おっぱいを前にして知能がゼロになった千里が殺された。あいつあんな顔していざという時には性欲に正直すぎる。いけるかもと思ったらすぐ行く。その姿勢、嫌いじゃないぜ?

 

「うーん、修学旅行ですか……数日先輩たちに会えないと考えると、寂しいですね」

「つづちゃんに吸ってやるから、我慢しててくれ」

「あんた、『お土産買ってくる』を『吸ってくる』と間違えたって自覚ある?」

「つづちゃんも胸差し出さなくていいから。カメラ構えてるの見えてるよ」

 

 スクープのためなら己の身も差し出すというのか。見上げた根性だ。その根性に免じて俺の性欲からの言い間違いをなかったことにしてくれると大変助かる。

 

 許されなかった俺は朝日にビンタされて床へその身を放り出した。この女、自分に対するセクハラには甘いのに、自分以外に対するセクハラには鬼のように厳しい。いつもより三倍くらい痛い。クソ、言おうと思って言ったわけじゃないのに。

 

「あんたたちと自由時間一緒に過ごすの不安になってきたわ」

「確かに。日葵が可愛いから向こうの男どもに絡まれないか心配だ」

「それは普通に殺すから問題ないわよ。私が不安なのはあんたたち」

「僕は朝日さんが逮捕されやしないかって不安だよ」

「面白い記事書けそうなんでついていっていいですか?」

 

 確実に面白いことになるとは思うがダメだ。それはつづちゃんにとって面白いだけであって、今の会話を聞く限りだとつづちゃんの手にかかれば俺たちの誰かが社会的に死ぬ。その筆頭は俺と朝日、日葵過激派である。

 

「でも大阪の人ってフランクなイメージありますから、先輩たちほどの美男美女なら絡まれてもおかしくないですね」

「おいおい俺と日葵が美男美女なんて照れるって」

「あんた以外の三人のことに決まってるでしょ? 照れるわ」

「つづちゃんが恭弥と僕を見ながら美男美女って言ったことを見逃す僕じゃない。どういうことか説明してもらおうじゃないか」

「えへへ」

「おい。つづちゃんの『えへへ』が可愛いから許してやれ」

「そうよ。『えへへ』、可愛いじゃない」

「君たちは年下と可愛いものに弱すぎる……!!」

 

 仕方ない。だってつづちゃん可愛いし。大体のことなら許せる自信がある。朝日もあんな記事出した相手だから最初はつんけんしていたが、一緒に話しているうちにめちゃくちゃつづちゃんのこと好きになってるし。初対面であれほど薫を好きになったくらいだ。可愛いもの相手ならすぐに好きになってしまう変態なんだろう。キモ。

 

 でもよく考えてみれば、ヤンキーくらいには絡まれそうだ。だって俺以外の三人美少女だし。一人紛い物が混ざってるけど、もう紛い物じゃないくらいの美少女っぷりだから美少女ってことでいいだろう。

 男からすると、美少女三人を侍らせるスーパー美男子は面白くない。変な因縁をふっかけられる可能性だってある。やばい。そうなったら俺がカッコいいとこ見せられるチャンスじゃん。なんか千里が知略で突破するか朝日がイケメンムーブかまして切り抜けるかの未来しか見えないけど、俺はそこまで情けなくないはず。

 

「まぁ今時絡んでくるヤンキーなんていないわよ。こんな時代にそんな非生産的なことするやつらがいたら天然記念物よ。大事にしてあげましょう」

「千里、ヤンキーになれば朝日が大事にしてくれるらしい」

「僕もこれ以上殴られたくないからヤンキーになろうと思う」

「殴られないように性格を改めればいいと思うんですけど……」

 

 それは無理だ。俺と千里は同時に首を横に振った。

 

 まぁ朝日は基本的に優しいし、ヤンキーになる必要もないだろう。ヤンキーになって朝日に殴られなくなったところで、同じヤンキーに殴られる未来が待っている。本末転倒だ。もしかしたら朝日はそうなることを予想して『大事にしてあげましょう』なんて言ったのかもしれない。恐ろしすぎる。

 

「ん、そろそろ時間ね。じゃああんたは頑張って日葵を誘いなさいよ。怪しくなったらサポートしてあげるから」

「朝日先輩やっぱり優しいですね! 頼りがいがあって好きです!」

「あらそんな。そんなそんな。ふふふ」

「恭弥、どう思う?」

「褒めておいてもしもの時に扱いやすくしようとしてると思う」

 

 邪悪な考えを持つ俺と千里は朝日の手によって制裁され、見事朝のHRに遅刻した。あいつが一番邪悪だろ。

 

 

 

 

 

 

「──夏野さん、俺と付き合ってください!」

「へ?」

 

 バカなやつがいたもんだ、と。好きな人が告白されているのにも関わらず、俺はそんなことを思っていた。

 

 休み時間、教室。シチュエーションはそんなところで、いや、付け加えるのであれば、今告白した男子をにやにやしながら見ている男子が数人いるってところか。大方、修学旅行誰誘う? みたいな話をしているうちにそういうことになったんだろう。学生なんてノリだけで生きている生き物だ。ありえない話じゃない。

 

 正直、俺はそんなバカに向ける意識なんざ持ち合わせちゃいなかった。なぜなら俺の後ろの席には、日葵に近づこうとする不埒な輩を片っ端からぶち殺す修羅がいるからである。

 

「落ち着け、落ち着け! お前女の子がしちゃいけない顔してるぞ!」

「止めないで氷室。我は日葵に近寄る不埒な者どもの一切を塵と化す暴虐の化身」

「ダメだ恭弥。朝日さんキャラが変わるくらいブチギレてる」

 

 流石と言うべきか、千里はバカが日葵に告白した瞬間、朝日の身を案じてすっ飛んできた。正直こうなった朝日を一人で抑え込める自信がなかったから大変ありがたい。

 しかしどうするか。もう朝日のおっぱい揉みしだいて怒りの矛先を俺に向けるか? そうしたら一瞬の幸福と引き換えに地獄への切符を手にすることになるが、他の誰かが死ぬくらいなら安いものだろう。

 

 千里に視線を送る。え? なに? あぁ、そういう……。俺じゃなきゃだめ? ちょうどいいからそうしろ? はいはいわかったよ。

 

「朝日に殺されんなよ」

「君の勇気が花開けばね」

 

 キザなことを言って、千里はウインクを一つ。はぁ、千里がなんとかしてくれりゃいいのに。なんで俺なんだ。

 アイコンタクトで話し合った結果、『俺が日葵を修学旅行の自由時間に誘って、遠回しに断れるようにしろ』ってことになった。確かに、多くの目に晒されながら告白された日葵が告白を断りやすいのは、これが一番かもしれない。

 大勢の前で告白を受け、それを断るのがどれだけ難しいか想像に難くない。なんせ日葵は優しい子だ。どうすれば相手が傷つかないか、もしかしたらバカのことが好きな女の子がどういう気持ちになるか、なんてところまで考えているかもしれない。

 

 それを救えるのは、日葵のことが世界一好きな俺しかいないだろう。

 

「ちょっといいでしゅか」

 

 噛んだ。緊張しすぎた。最悪だ。後ろで千里が爆笑しているのが聞こえる。だって仕方ないじゃん。日葵を誘うんだぞ? そんなことをするってのに緊張しないってのは無理がある。そりゃ噛む。

 

「な、なんだよ」

 

 バカが俺を見る。邪魔するなってところだろうか。

 

 さて、どうしよう。何も考え無しにきてしまった。俺がやるべきことは日葵を誘うこと、それは間違いない。それプラス俺の立場も考えよう。俺は千里と付き合っていると勘違いされていて、もしナンパみたいに日葵を誘えば評判が悪くなる。俺の信頼が落ちれば勘違いの解消も遠のいてしまう。

 つまり、できるだけスマートに日葵を誘って、救出する。それが俺のやるべきこと。

 

「正直、すごいと思った。人に好きって伝えることはかなり難しいことで、めちゃくちゃ勇気がいることなんだ。どういう経緯であれ、それができたお前を俺は尊敬する」

「え、あ、うん。ありがとう?」

「俺はその気持ちを否定することはできない。好きな子と修学旅行を一緒に楽しむ。男なら誰だって一度はする想像だ。ちなみに俺は千里と一緒に楽しむことは決定してるが、そういう意味じゃない。勘違いしないでほしい。俺たちは付き合ってない」

「そんな言い方したら余計怪しまれるよ……?」

 

 いきなり現れた俺に困惑している日葵に言われ、『失敗した』と思いながら言葉を続ける。

 

「つまり何が言いたいかと言うとな。言葉がまとまってない。少し待ってほしい」

「お前何しに来たの?」

「なんかうまい言い回しないかなと思ってさ。考えてたんだけど無理だったんだよ。可哀そうな俺をどうか慰めてくれ。俺は今とてつもなく恥ずかしい」

「知らねぇよ」

 

 バカはどっちだろうか。これじゃ俺はただ場をかき乱すだけかき乱すお邪魔虫。男と女のロマンスを期待する観客から大バッシングを受け、評判はダダ下がり。満足するのは俺の醜態を見て爆笑している千里だけ。助けてくれ。

 

 日葵を前にするとどうもだめだ。いつもならもっとうまく回る口が全然うまく回ってくれない。ほとんど意味のない言葉を並べるだけで、結論はいつも先送り。

 

「アー、うん。今までのやつなしにしてくれ。ストレートに言うわ」

「は? なにを」

「日葵。一緒に修学旅行を楽しもう。自由時間、日葵と一緒に回りたいんだ」

「──」

 

 日葵が目を見開いて、俺を見る。自然と差し伸べた俺の手を見て、俺の顔を見て。

 

 日葵は、俺の手を取った。

 

「──うん、嬉しい」

「……って、朝日が言ってたぞ。あはは。ほんと仲いいよな」

「このヘタレ!」

 

 後ろから朝日が走ってきて、その勢いのままに俺にビンタ。かと思えば朝日は千里とハイタッチをかまし、千里がローリングソバット。

 

 俺は星になった。

 

「ほんと男としてダメね。最初から私が誘えばよかったわ」

「まぁまぁ朝日さん。恭弥も頑張ったんだから」

「そう思うならなんで蹴ったの……?」

 

 駆け寄ってきてくれた日葵に涙しながら声を絞り出すと、「あまりにも熱烈に誘うから嫉妬しちゃった」との一言。沸き立つクラスメイト。ぽかんとする俺。笑う日葵と朝日。

 

「織部くん、ほんとに恭弥のことが好きなんだね。あ、友だちとしてだってことちゃんとわかってるよ?」

 

 いや、違うんだ日葵。あの、あの野郎……!

 

 俺を見て笑う千里の目が、『こうした方が面白いでしょ?』と語っていた。面白さのためなら親友の恋が遠ざかろうともそっちを優先する、悪魔がそこにいた。

 

 勘違いは深まった。千里を問い詰めると「無意識だった。ごめん。ほんとうにごめん」と後悔の念に駆られながら必死に謝罪。お前なんなのほんと。


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