「恭華、最近なにか変わったことでもあった?」
「うぇええっ!?」
昼、屋上。いつも通り六人で昼飯を食べていると、突然日葵がどちゃくそ可愛らしく首を傾げながら言った。
変わったことと言えば、井原と連絡を取り合うようになったのと、その井原から好きだって言われたこと。もちろんそれに対する耐性なんて恭華は持ち合わせていないため、『なにかありました』と言っているのと同じくらいのわかりやすい反応を示した。恋愛関係に関してポンコツなんて誰に似たんだろうな、まったく。
「べ、別に、何もないぞ」
「そういえば恭弥は井原くんのこと蓮って下の名前で呼ぶようになってたよね。普通に井原くんと仲良くなったっていうのも考えられるけど、薫ちゃんといい関係になった僕としては何か理由があって恭弥と井原くんの距離が近くなったって思ってるんだ。じゃあその理由が何かっていうのと今の恭華さんの反応考えると、井原くんと何かあったのかなって僕は思うんだけどどうかな?」
「キショい名探偵がおるな」
「恭弥のことに関してガチすぎるのよねこいつ。寒気がするわ」
「自分のこと棚に上げとんちゃうぞ」
むしろ日葵に対する光莉の方がガチだろ。俺に対する千里もガチで千里に対する俺もガチだから俺からは何も言えないけど。
しかし、こうも饒舌に語ったってことは千里さては知ってたな? いや、知ってたっていうより察しがついてたって言うべきか。薫はプライベートなことは例え相手が千里であろうと教えないだろうし、蓮は「学校であんまり話しかけない方がいいよな? 恭華ちゃん俺と話してるってとこみんなに見られたら恥ずかしいだろうし!」っていう理由で目に見えるところで恭華と蓮は喋ってないし。
……でもよく考えたら恭華死ぬほどわかりやすいから、喋ってなかったとしてもちょくちょく蓮に対して反応してたしな。人の感情の機微に鋭いこいつらなら気づいてて当然か。
「まぁでも日葵。こういうのあんまり突っついてやるもんじゃないわよ。ただでさえ初心なんだからそっとしておいてあげないと」
「日葵のことやから察しついてなかったんやろうけどな」
「……? え、織部くんの言ってたこと合ってるの?」
一人だけ鈍い子いたわ。流石日葵可愛い。一人だけきょとんってしてから申し訳なさそうに恭華を見ている。日葵は恋愛関係に疎いっていうかただ純粋なだけなんだろう。むしろ千里と光莉と春乃が鋭すぎるんだ。人のこと見すぎだろほんと。
「……合ってる」
「え! よかったね! 井原くんと仲良くなったんだ!」
「恭弥。あれだけ純粋なのに私からの愛ははっきりとセクハラだって認識してるのはなんでだと思う?」
「はっきりとしたセクハラだからだろ」
「夏野さんですらいやらしいことって認識させるくらい朝日さんが邪悪ってことでしょ」
「日葵がいやらしいことって認識するっていう言葉、えっちポイント五万点!!」
「なるほど、邪悪やな」
ここに一人の邪悪が存在している同じ空間に、心から恭華が蓮と仲良くなっただけと疑わず、にこにこしている天使がいる。笑顔を向けられている恭華も顔真っ赤にしてて大変可愛らしいし、なんかあの二人と俺たちで住んでる世界が違うみたいな気がしてとても気に食わない。なんで俺たちは邪悪な化け物の相手してるのにあっちでは素敵な空間が広がってるんだ? おかしいだろ俺も混ぜろ。
「そっか! 恭弥も恭華が井原くんと仲良くなったから下の名前で呼ぶようになったんだね」
「なぁ恭華。もう言っていいか?」
「……恥ずかしいけど、このまま隠したままっていうのも嫌だから」
「おっけ。日葵、恭華は蓮に好きって言われて連絡先を交換したんだ」
「……えー!!」
「ぢゅひゅひゅ! 日葵可愛いねぇ!!」
「春乃、頼んだ」
「よしきた」
驚く日葵が可愛すぎて暴走寸前になった光莉の処理を春乃に任せる。あいつつい最近セクハラのし過ぎで日葵を怒らせたのにまだやんのか? 自分にとって悪い記憶全部忘れるタイプなのかあいつ。俺と一緒じゃん。
大声を出して驚いた日葵は頬を赤くして、目をきらきらさせながら『恭華に根掘り葉掘り聞きたい!』と態度で訴えかける。ただ、日葵も恭華は恋愛関係が苦手だって知っているから遠慮して言葉には出さない。つまり、この状態の可愛い日葵を永遠に見続けられるということ!
「ぢゅひゅひゅ」
「岸さん。処理する化け物が増えたよ」
「笑い声が邪悪すぎてわかりやすいから助かるわ」
とんとんと肩を叩かれ、春乃がスマホを見せてくる。なになにと画面を覗き込むと、バニースーツを着てM字開脚を披露しているロメリアさんの写真がそこにあった。
「……楽しい思い出が78個くらい消えた気がする」
「そんくらい楽しい思い出あったんやったらこれからも増え続けるやろうし大した事ちゃうやろ」
「人の思い出をなんだと思ってんだ?」
「なんなら、今から私と楽しい思い出作る?」
「ハイッ!!」
顔を覗き込みながら舌をぺろっと出した春乃に元気よく返事すると、冷たい視線を感じた。これは、日葵と恭華の視線!? どうする、性欲に正直なことはもう仕方がないこととして、何かしら弁解をしないといけない。このままだと俺は日葵と恭華にいやらしすぎる超絶イケメンだって嫌われる可能性がある!!
しかし、俺は幾度も困難を乗り越えてきた。この程度の障害なんてへっちゃらさ。
「勘違いするなよ。俺は別に春乃と楽しく遊んで思い出を作ろうとなんてしてない。ただこれからベッドに行ってハッスルしようとしてただけだ。ところで千里、俺は今致命的に間違えた気がするんだけどそこのところどう?」
「君が間違いに気付ける人間で安心したよ」
「気づけても改めなかったら意味ないのよ」
どうやら光莉の言う通りらしい。日葵はむっとして俺から顔を背け、恭華は冷たい視線をさらに鋭くし、「い、いやらしすぎるのは感心しないぞ」と一言言って俺から顔を背けた。ふっ、俺が間違っていたっていうのは正しかったみたいだな。流石俺。
「どうしようか……」
「いつも思うんやけど、なんでひどい目に遭うってわかってて積極的に遭いに行くん?」
「それは俺が"愛"に生きてるからさ」
「気分が悪いわね」
「人の愛をバカにすんじゃねぇよ」
「君をバカにしたんだよ」
「あぁ、ならいいか」
俺がバカにされるのはいつものことだからな。全然知らないやつにバカにされたらそりゃ気分はよくないが、仲のいい人からバカにされたらそれはそれで"愛"だ。
「俺をバカにしてるならそれも"愛"だからな。むしろ積極的にバカにしてくれ」
「あんたって大事なところはっきりしないからクソダサいわよね。バカみたい」
「やっぱり傷つくからやめてくれ」
千里が傍に寄ってきてそっと俺の目元にハンカチをあてる。あぁそうか、俺、泣いてたのか。あまりにも自然に涙が出すぎて気づかなかった。クソ、光莉からそれを言われると信じられないほど心にくるぜ。春乃が優しく微笑んで「そういうところもかわええやん」って言ってくれてるのが何よりの救いだ。こういうところで甘えるから俺はだめなんだよわかってんのか? 死ね俺。
「……」
「はぁ。あんたが泣き出すから日葵が心配そうにちらちら見てるじゃない。羨ましいわね。私も心配してもらいたいから腕の四本でも折ろうかしら」
「どんだけ腕あるんだお前。アシュラマンかよ」
「アシュラマンはこんなにおっぱいおっきくないでしょ」
「なんでおっぱいでアシュラマンって判断したと思ってんだ?」
「脳にいく栄養全部吸い取られたんやろ。哀れやな」
「おっぱいに栄養がいかない方が哀れだと思うわよ」
「千里、避難しよう」
「合点」
胸がある方とない方でバトルが始まりそうな空気を感じ取り、日葵と恭華の方へ避難すると、日葵が「きょ、恭弥。大丈夫? なにか嫌なことあった?」とすかさず心配してくらたため、楽しい思い出が一つ増えた。確かに、このペースで増えてくなら忘れてもなんら問題ないな。本当に大事な思い出は忘れないだろうし。
週刊少年ジャンプばりの戦闘を始めた光莉と春乃を眺めつつ、ちらと恭華を見る。俺たちがバカやっている間に日葵と色々話していたらしく、顔を真っ赤にして俯いていた。薫は年下だから守ってあげないといけないっていう気持ちが強かったから千里に対してあんなことになってたけど、恭華は同い年だから普通に恋バナがしたくなったんだろう。恭華とは違い日葵は恋バナでしか摂取できない栄養を補給できて満足そうだ。
「ふふ。恋っていいねー。最近恭華が可愛くなったなぁって思ったらそういうことだったんだ」
「こ、恋はしてない!! 私は井原のことす、好きじゃないわけじゃないけど、その、恋愛的な意味では好きとは言えないし、私は恋してるわけじゃない!」
「好きじゃないって言ったら自分のこと好きって言ってくれてる蓮に失礼だから言い切らなかった恭華は俺の妹なんだ。よろしくな」
「僕はもう一人の妹の薫ちゃんとよろしくしてるけど」
「さて、ここは屋上だったか……」
「僕を持ち上げた理由って聞いても大丈夫なやつ?」
「これから死ぬ奴に理由が必要か?」
「許して!!」
「ははは、冗談だよ」
そういって笑ってから千里をぶち殺し、復活したのを見届けてから会話の輪に戻る。いつの間にか戦闘も終わったらしく光莉と春乃も楽しくおしゃべりしていて、もう日葵が聞いちゃったから詳しく聞いちゃえと恭華の恋愛模様で大盛り上がりを見せていた。
「あーあ。恭弥が僕を殺してる間に女の子の空間ができちゃった」
「なら俺たちは男の空間を作るか。じゃあ蓮のとこ行ってくるわ」
「ちなみに聞くけど、まさか僕を置いていこうとしてないよね?」
「俺は男の空間って言ったんだぞ」
「そうだよね。じゃあ行こうか」
「俺は男の空間って言ったんだぞ」
「上等じゃねぇか」
ブチギレた千里から逃げるようにして屋上を飛び出した。結局途中で捕まってしまい、それと同時に予鈴が鳴って教室に戻ったところ、走りすぎて息が荒くなった千里を見て俺たちがセックスしてきたと勘違いされたのは言うまでもないだろう。やっぱだめだわこのクラス。