「ミスターコンにミスコン?」
「そうです! 先輩たちが出れば盛り上がるかなと思いまして、もう申し込んでおきました!」
「ちょっと待って。展開が早すぎる」
つづちゃんが教室に突撃してきて俺と千里を引っ張り出し、何を言うのかと思えば何を言うのかと思っている間に呼び出された全容がわかってしまった。
数週間後に控えた文化祭。うちの学校はイベントごととなると変な方向に力を入れることで有名で、今年は何をやるのかと思えばミスターコンにミスコン。うちの学校にしてはおとなしい方だなと肩透かしをくらったが、だからといって出たいかと言われるとそうじゃない。
「ミスターコンに出たら日葵と過ごす時間少なくなるじゃねぇか。何余計なことしてんだ?」
「優勝したら『かっこいいー!!』 って言ってくれますよ!!」
「おい。つづちゃんが気を利かせてくれたのに何文句言ってんだ千里。ぶっ飛ばすぞ」
「君ほど浅ましい人間、他に見たことないよ」
「えっ、俺しか目に映ってないってこと……?」
冗談半分できゅん! ってしたらつづちゃんに写真を撮られる。そういやこいつ俺たちが付き合ってるっていう嘘を新聞のコーナーにしてる悪魔だったわ。迂闊だった。周りがぎゃーぎゃー勝手に言ってるのは気にしなきゃいいだけだけど、このままじゃ俺も千里と付き合ってるって勘違いして本当に付き合っちゃうかもしれないから気を付けておこう。一回そういう勘違いした気がするし。
まぁ千里はふざけるところはふざけるけど、案外しっかりしてるところあるから安心しておいていいだろう。
「まぁ、君しか目に映ってないのは事実かもだけど」
と、俺の隣にいるメスは少し頬を赤くして目を逸らしながら恥ずかしそうに答えた。お前があまりにもメスだから周りが大盛り上がりするんだろうがふざけんな。高校で俺がモテないのはほとんどお前のせいだからな? わかってんのか?
相も変わらず俺たちを激写したつづちゃんは満足そうにむふーと一息。きっとミスターコンに出た俺たちを好き勝手記事にして、新聞で学校を盛り上げようと考えているに違いない。つづちゃん可愛いし好きなことに全力だからいいけど、相手が相手ならめちゃくちゃ嫌われることしてるよな、つづちゃん。
「あ、そういや一つ確認だけど日葵たちは勝手にミスコンに参加させてないよな?」
「もちろん! そのあたりの分別はついてますよ!」
「そのあたりの分別がついてるのに僕たちはミスターコンにぶちこまれたの……?」
「?」
「?」
千里の言葉に首を傾げるつづちゃん。俺たちは好きにしていいって言ったのを拡大解釈してる香りだな、これは。俺たち相手なら何をしたって許されると思ってやがる。そろそろ俺たちの力が上だってことをわからせてやらないといけないみたいだな。
「つづちゃん。僕らは大抵のことなら面白おかしく処理するけど、だからといってなんでもやっていいわけじゃないからね?」
「……だめでした?」
「恭弥。女の子になんてひどいことを言うんだ」
「すぐ人のせいにするところ似てるよな、
カメラをぎゅっと握っての上目遣いにぶん殴られた千里の責任転嫁が俺を襲い、俺たちは同じ穴の狢だと示す一言でカウンター。しかし千里には通用せず、むしろ親友の実感を得られてご満悦の様子。今更だけど俺のこと好きすぎねぇか? こいつ。
「ま、つづちゃんのターゲットが俺たちだけでよかった。あいつらが変な男たちの視線に晒されるってなるとムカつくからな」
「そうだねぇ。何があっても守るつもりだけど、懸念がないに越したことはないから」
「今思ったんですけど、女性側も氷室先輩に対してそう思ってるんじゃないですか?」
「……そういえば外部からも人がくるから、恭弥がクズだってこと知らない女の子が恭弥のこと見たら、すごいことになりそう」
「ただご安心を! そこは私が氷室先輩と織部先輩が付き合ってるっていう新聞をばらまくから大丈夫ですよ!」
「おい、それでもし俺と千里が一部から人気出て、あれよあれよと国のトップになったらどうするんだよ」
「ポジティブが行き過ぎてない?」
まぁ、外部の人に俺と千里が付き合ってるって思われても別にいいし、なんなら千里とは一般誌デビューしてるから今更感もある。むしろあれはウェディングドレスとタキシードで載ってたから新聞の方がインパクト薄いだろうしな。
どうせ、ただの高校生が付き合ってるどうこうの話なんてすぐに風化するだろ。俺ほどのイケメンってなると時間がかかるかもしれないけど、人の噂なんてそんなもんだ。
「つーか、俺たちミスターコンの話知らなかったけどなんでだ? そういうのって先生から聞くもんだと思ってたけど」
「おおっぴらに言って有象無象がきたら困るので、こちらからスカウトしてるんですよ! 私これでも実行委員なので!」
「あー、じゃあネタとかじゃなくてガチな感じなのか?」
「?」
「恭弥。これは僕たちがネタ枠だって思われてるって解釈で間違いない?」
「ふっ、そう怒るなよ千里。俺がイケメンすぎてネタをやってもネタにならないってことを当日思い知らせてやればいいんだ」
「あはは!」
「何笑ってんだクソガキ!!」
「ブチギレてるじゃん」
ごめんなさーい! と笑うつづちゃんが可愛いので許してやることにした。ふん、俺が年下と可愛いのに弱いことに感謝するんだな。
にしても、完全スカウト制か。こういう学校のイベントって陽気なやつが参加して盛り上げるってイメージだったけど、スカウト制っていうならマジのミスターコンなのかもしれない。運営側がネタ枠としてスカウトするってこともありえるだろうけど……あ、それが俺たちなのか。なるほどね? ムカつくぜ……。
ただ、自分で言うのもなんだがちゃんとやろうとしても普通の人からしたらネタになるんだろうなってことはわかってるから、俺たちはいつも通りにしてればいいだろう。あれだよ、自分にとっての普通は他人にとって異常なんだ。俺たちは少し度が過ぎてるだけで。
「あ、ついでと言ってはなんですが、氷室先輩の妹さん、恭華先輩をミスコンに誘ってもよろしいでしょうか!」
「は? 恭華に悪い虫がついたらどうすんだ? お前責任取れんのかよ」
「恭華先輩がみんなに可愛いって言われてどうしたらいいのかわからず、でも褒められること自体は嬉しくて、恥ずかしさと嬉しさがごちゃまぜになった赤面を拝めますよ!」
「俺の妹の解像度高くねぇか? 誘っていいよ」
「兄としてそれでいいの?」
「いいの。よく考えたら変な虫が寄ってきたら潰せばいいだけだしな」
「いつもよく考える前にそうしてると思うけど……」
心当たりがあるのか、千里は文句の色を込めて睨みつけてくる。いや、千里に関しては変な虫じゃないけど潰しただけだからな? 勘違いするなよ。
しかし、恭華がミスコンか……。あいつは絶対断るだろうけど、つづちゃんにうまいこと乗せられて最終的にオッケーしそうだ。光莉くらい、いや光莉以上にちょろいし。恭華の将来が心配でならない。
「……ちなみになんだけど、恭華だけか? 日葵と光莉と春乃は誘わねぇの?」
「岸先輩は誘いますよ! 夏野先輩も誘おうかと思ったんですが、そうなると優勝させようと暴走するモンスターが出そうですし、そのモンスターは出場すると色んな意味で暴れまわりそうなのでやめました!」
つづちゃんって記事を書いてるからなのか、人物像とらえるのめちゃくちゃうまいよな。今つづちゃんが言ったこと容易に想像できるし。春乃ならうまく立ち回って盛り上げてくれそうだけど、光莉は好き勝手暴れまわってすっきりしたらミスコンほっぽりだしてどこかへ行きそうだ。あいつ、何よりも日葵を優先するし。
「それでは、お二人とも快諾いただいてありがとうございました! ミスターコンとミスコン頑張ってくださいね!」
「おう。快諾する前に申し込まれてたけどな」
「……?」
「あはは! でも先輩たちなら快諾してくださると思っていたので!」
それでは! と腕をぶんぶん振って去っていくつづちゃんを見送り、千里を見る。千里は首を傾げ、しばらく悩んだ後ぽつりと言葉を漏らした。
「ミスターコンと、ミスコン……?」
「……なるほどね?」
さっきつづちゃんは俺たちに向けて『ミスターコンとミスコン頑張ってくださいね!』と言っていた。俺たちに向けて。
千里を見る。うん、清々しいくらいにメスだな。
「ねぇ恭弥。僕男だよね」
「生物学上はな」
「まるで別の観点だと男じゃないみたいな言い方やめろ」
「いやぁ……」
「いやぁ……じゃねぇんだよ。僕の勘違いじゃなきゃつづちゃん僕をミスコンにエントリーしてるっぽいよね。怒っていいよねこれ」
「女の子のいたずらを許すのって男らしいよな」
「もう、仕方ないなぁつづちゃんは」
「ちょろすぎだろ。おもしろ」
ブチギレた千里が俺を殺そうと追いかけてきたので、全速力で逃げ出した。すぐ人を殺そうとするよな、こいつ。
『ミスコン!!!!????』
「文字でもうるさいな……」
恭弥が仲良くしているという後輩、つづちゃんが突撃してきたかと思えば、「恭華先輩、ミスコンに興味ありませんか!」と言われ、気づけばエントリーすることになっていた。私は詐欺に遭いやすいのかもしれない。実際誘拐されたしな。祖父母に。
恭弥は私を誘っていいかどうかとつづちゃんから事前に聞かれていたらしく、私が出ることになったと報告すると「何かあっても俺が守ってやるから、そのあたりは安心しろ」と肩を叩かれ、薫からは「優勝祝い何がいい?」と可愛らしく聞かれた。愛しすぎないか? 私の兄妹。
そして、もう一人報告しておかないといけないなと思ったのが井原。私のことをす、す、すす、好きって言ってくれたし、あんまりいい気しないかもと思ったから、一応。一応な?
そしてメッセージを飛ばしてすぐの反応がこれだ。文字だけで明るさとうるささを表現できるのはもはや才能と言っていい。少し安心感すらある。
と、安心する私の心臓をぶち破るかごとくスマホから着信音が鳴る。見れば井原からだった。慌てて恭弥に助けを求めようにも、井原と連絡しているところを見られるのが恥ずかしいからと部屋から追い出したことを思い出す。どうしようと迷いながらも、ここで無視するのは申し訳ないと混乱したまま通話に応答した瞬間、
『優勝おめでとう!!!!!』
「してないっ!!」
大音量でお祝いの言葉。思わず大声で返すと、井原は『恭華ちゃん元気いっぱいじゃん! 嬉しいなぁ!』と何もわかっていなさそうな声が返ってきた。……まぁ、いいけどな。
『てかそうか。恭華ちゃんがミスコンでるならもう優勝じゃんって思ったけど、まだ開催されてなかったか! てかミスコンって文化祭でやんの? 今週の初耳学じゃん!』
「井原なら大体のことは初耳学だろうな」
『言えてるマエ・ロマエ!!』
ちょっと笑ってしまいそうになったのをぐっと抑え、咳を一つ。不意打ちでくだらないことを言われると弱い。
「そ、それよりいきなり電話って、びっくりするだろ」
『あ、ワリィ! なんか祝わなきゃって思って! 嫌だったらすぐに切るわ!』
「……いやじゃ、ないけど」
『……』
私が言葉を絞り出すと、スマホの向こうにいる井原が急に黙った。あれ、え? 私何かおかしなこと言ったか!? ど、どうしよう。同年代と喋ったこと全然ないし、最近は増えてきたけど周りがあれだから普通の人と喋るの慣れてないし、もしかしたら無意識のうちに変なこと言っちゃってたか!?
「い、井原、ごめん。なにか変なこと言っちゃってたか?」
『ん、あぁ、ワリィ! ちょっと!』
井原にしては珍しく歯切れが悪いなと思い、また慌てる。付き合いは短いけど、井原はなんでもはっきり言うやつだ。そんなやつが言葉を濁すなんてよっぽどのことに決まってる。
「ごめ──」
『可愛すぎてビビってた!!』
よくわからず謝罪の言葉を言おうとした私を遮って聞こえてきたのは、更に私を動揺させる言葉だった。な、なに? か、可愛すぎて? なにが? 私のどこが? ま、まったく、井原は変なやつだな。さっきの会話で私に可愛いところなんてなかっただろうに。ふん。私のことが好きだからって……す、好きだからってあんまり可愛いとか言いすぎると軽く聞こえるぞ!
『あと今更だけど、好きな女の子の声が近ぇからドキッとしちまって! あれ、俺キモイこと言ってね!? キモキモの実の能力者じゃね? カナヅチじゃね?』
「……もう、バカだなぁ井原は」
『あじゃじゃー!! ちなみにありがとうって意味な!』
私が緊張しないようにしてくれてるのか、もしくは素なのか。アホなことを言う井原に緊張を解されて思わず笑ってしまう。恭弥が「そこそこ失言はあるけど人には絶対嫌われないいいやつ」って言ってたのはこういうことか。
……でも電話をするのはちょっと意識しちゃうから、それから一言二言交わして電話を切った。こういうのは余裕があるうちに切り上げるのがいいって薫が言ってたからな。私は学ぶ女なんだ。
「恭弥ー。もう入ってきていいぞー」
井原との通話を終え、部屋のドアを開ける。そして伝わってきたのはドアと何かがぶつかる音。下に目を向けるとそこには恭弥が倒れており、そのそばに薫が座り込んで恭弥をつんつん突いていた。
「あ、恭華ねーさん」
「どういう状況だこれ」
「恭華ねーさんと井原さんの声が筒抜けで、兄貴が死んじゃった」
「……声でかいんだよ、あいつ」
「恭華ねーさんかわいい」
「うるさいぞ!!」
ちなみに恭弥は「お、お兄ちゃんと呼んでくれ……」とうるさかったので願いを叶えてやると一瞬で復活したが、薫から「うわ、キモ」と言われあまりの衝撃に階段から転げ落ちた。あれが私の兄か……。