【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第181話 夜の学校

 劇ってめんどくさくね? という誰かが放った鶴の一声で、映画よろしくカメラを回し高校生らしい日常を台本に合わせ撮影することになり、その最終日。

 元々、主演が俺たちハイパー天才だったため滞りなく(光莉の暴走は除く)撮影が終了し、外を見ると日が落ちるどころか沈みきっており、真っ暗になっていた。

 

「お疲れ」

「おう」

 

 撤収を始めるクラスメイトを横目に窓の外を眺めていた俺の隣に、いつも通り千里がやってくる。クズの担任が珍しく持ってきてくれた差し入れのジュースを俺に手渡して、ため息とともに疲れを吐き出した。

 

「なんか、演じてて思ったけど僕らってかなりおかしいんだね」

「改めて今までに何があったか考えてみたら、かなりな」

 

 だって言い間違えで親友にえっちさせてくれって懇願して、それを好きな子に聞かれて、翌日には親友と付き合ってるって学校中で噂になってて、好きな子の親友が協力を申し出てくれて、俺のことが好きな女の子が現れて……なんだ、俺は主人公だったのか。まぁ才能が溢れすぎてとどまるところを知らない俺なら当然、どころか主人公ごときで収まる器じゃないだろう。もう『氷室恭弥』という一つのコンテンツとしてやっていける自信すらある。

 

「僕、高校に入るまでは普通だったのに恭弥におかしくされちゃった」

「おい、まるで俺がお前をぶち犯してメスの悦びを教え込んだみたいな言い方はやめろよ」

「僕は今君と絶交したっていいんだぞ」

「俺から離れられないくせに、よく言うぜ」

 

 千里に向ってウィンクを決めると、千里は底冷えする視線を俺に向けて無言で去っていった。どうやら千里は俺から離れられるらしい。まさか、俺が千里のことで間違えるなんてな。

 

 ……もしかして今の一言が原因で絶交ってことないよな? 今までもよくあったし、さっきみたいなやりとり。よくあったこと自体がクソほどおかしいんだけど、俺たちにとっては普通だからなんてことないはずだ。でもなんとなく不安になってしまう。クソ、俺から千里が離れていく経験がなさすぎて死ぬほど動揺してるぞ俺!

 

 まぁどうせ俺のところに帰ってくるに決まってるし、いいか。千里は犬みたいなもんだし。

 

「おにーさん、今一人?」

「ちょうど二人になったところだ。お疲れ春乃」

「なんか今日キザやな。似合わへんで」

「正直は美徳だけど、俺に対してはやめてくれ」

「情けな」

 

 にひひと笑う春乃に傷つけられながらジュースを一口。あ、ぶどうジュースだ! おいしい!

 

「なんでこんなとこおるん?」

「……教室をぐるって見てみろ」

 

 素直に従って春乃は教室をぐるっと見渡して、少し考えてから「あー」と納得の声を漏らす。それから気遣わし気に、いや気遣ってねぇなこれめっちゃにやついてるわ。気遣う風を装って笑いこらえてやがる。とんだ悪女だな、可愛いぜ。

 

「井原くんと恭華がおらんな」

「大方、文化祭一緒に回ろうって誘ってんじゃねぇの。はーやだやだ! 俺のもとからどんどん妹が離れていく!! 俺がお兄ちゃんなのに!! 寂しいよぉ!!」

「アハハ! きしょ!」

「兄が妹を想う心の何がおかしいんだ! 笑うなァ!!」

「ガチギレやん。まーまー、井原くんも、それに千里もええ人やしそこは安心ちゃう?」

「違うんだよ……それはわかってんだけど、なんかさぁ。一番頼りにする相手が段々俺から別の男になるんだなぁって考えるとさぁ。うっ、ひぐぅっ」

「あーもうガチ泣きせんでもええやん。ほら、おいで」

 

 むせび泣き始めた俺を見かねてか、春乃が腕を広げて俺を迎え入れようとする。優しく笑う春乃に引き寄せられかけた俺は寸でのところで我に返り、無駄にその場でバク宙して華麗に着地し、キメ顔を春乃に向けた。

 

「その手には乗らないぜ」

「残念。弱みに付け込んだらワンチャンあると思ったのに」

「今のこの俺の寂しさを埋められるのは妹しかいないんだ!! あっちいけ!!」

「あ、うん、ごめんね?」

 

 腕を勢いよく振って叫んだ瞬間聞こえてきたのは、マイラブリースウィートエンジェル日葵の声。声の方向に目を向けると、日葵が申し訳なさそうに、悲しさを誤魔化すように笑っていた。そのまま日葵はとぼとぼと俺から離れていき、クラスの輪へと戻っていく。

 

「あーあ」

「ちっ、違う日葵!! 今のは春乃とじゃれて出たジョークなんだよ!!」

「黒板に書く時使うやつ?」

「チョークなんだよ!! おいぶっ殺すぞ光莉」

「日葵を悲しませたあんたをぶっ殺す準備が、私にはある」

「ヒェ……」

 

 春乃の後ろからひょっこり顔を出した光莉が放つクソ下らない発言にブチギレた俺は、光莉がひょっこり出した握り拳を目にした瞬間降伏した。この数か月で暴力を刻みつけられた俺は、光莉の覇気を前にすると無力になる。一般女子高生が持っていい戦力じゃねぇんだよこいつ。見た目背が低くておっぱいが大きい可愛い女の子なのに、戦闘力が一騎当千って頭おかしいんじゃねぇの?

 

 光莉は春乃の背後から出てくると、誰の席かもわからない机に腰かけた。そこがもし男子の席だったらいやらしい妄想のはけ口になってしまうと注意しようとしたが、「ここ女の子の席よ」と先に言われて言うことがなくなり、「ぶぶぴぴぷぅ」と訳の分からない効果音を発して誤魔化すことにした。何を誤魔化したんだ?

 

「珍しいな、お前が日葵とくっついてないって」

「今みんな文化祭一緒にまわろーって誘いあってるとこやから、日葵も声かけられるんちゃう? ええの?」

「もう私が約束してるからいいのよ。日葵が私を捨てるなんてありえないし」

「でもいつもやったら声かけさせることすら許さんやん」

「日葵が誘いを断ってるところを外から眺めて優越感に浸ってるのよ。まったく、恥ずかしいこと言わせないで」

「本当に恥ずかしいな」

 

 人として大事なもん全部捨ててきたのか? こいつ。日葵に依存しすぎだ……依存しすぎだろって思ったけど俺と千里も相当だってことを思い出した。ふっ、俺は自分を棚に上げない男。男らしすぎて逆に嫌になってきたな。俺の男らしさを少しでも千里に分けてやりたいぜ。

 

「つか俺誘われてないんだけど」

「当り前よ。私と日葵が二人で文化祭デートするんだから」

「えー、みんなで回らへんの?」

「えぇー? どうしよっかなぁ? どぉしてもって言うならぁ、考えてあげなくもないけどぉ?」

「日葵ー!! 文化祭一緒に回ろー!!」

「いいよー!!」

「そんなあぁあああああ!!?? 私と二人でイチャラブデートするんじゃないのぉぉぉおおおおおおんんんんん!!!!?!???」

「うわ、きたな」

 

 春乃からの誘いに日葵がすぐにオッケーを出したのを聞いて、光莉がものすごい勢いで涙とよだれと鼻水を垂らし、見ていられないくらいの顔面で叫び散らし始めた。女の子に優しい俺にしては珍しく咄嗟に汚いって言っちまったじゃねぇか。

 でも仕方ないと言い訳をさせてほしい。だって一瞬で顔から汁という汁を流し始めて汚い声で叫んで、しかも戦闘力高いんだぜ? 村人が頭抱える妖怪じゃん。

 

「うぅ、えぐっ」

「いい加減泣き止めよ……」

「あ、そういえば二人ともミスターコン出るのよね」

「急に泣き止むな」

「うおおおおおおんん!!!!!」

「よし」

「なにがしたいん……?」

 

 きゃっきゃっ。このおもちゃ、楽しい!

 

 ただ流石にうるさいから「泣き止め」と言っておもちゃを停止させ、会話に戻る。ミスターコンだったよな、確か。

 俺がつづちゃんに誘われた後、春乃にも声がかかったらしい。しかもミスターコンの方に。春乃は綺麗で可愛いからミスコンじゃねぇのかって思ったけど、よく考えるとミスターコンの方が票を集めやすいような気もする。可愛いからって男が票を入れて、可愛いからって女の子が票を入れる。もしかしたら最大のライバルになるのかもしれない。

 

「で、千里はミスコンね。春乃、あんたそのイケメンちょっと分けてあげたら?」

「分けても千里のメスに負けるから意味ないやろ」

「確かに。今もクラスの女の子誘って撃沈した男どもに声かけられてるしな」

 

 見ると、千里がクラスの男連中に囲まれて必死な誘いを受けている。表面上は笑っているように見えるが、あいつは悲しいことにそういう視線とか欲とかに敏感だから内心は怒り狂ってるに違いない。時々俺に視線よこして「こいつら、殺していい?」って目で訴えかけてきてるし。

 迷わず頷くと、千里は「そんなんだからいつまで経っても彼女一人できないんだよ。泥に腰でも振ってろよゴミども」と吐き捨てて俺たちの方へと帰ってきた。ちなみに男どもは「ありがとうございます!!!」と言ってブレイクダンスし始めた。

 

「おい、ちゃんと殺してこいよ」

「僕の言葉であんなに喜んでるところ見られたら、もうあの人たち高校生活で彼女できないでしょ? だからちゃんと殺してるよ」

「千里は敵に回さないようにしよう……」

「恭弥の敵になるなんてことないに決まってるじゃん。おかしなこと言うなぁ」

「信じられる? この二人、これを素でやってるのよ」

「信じられへんけど、日葵に対する光莉も大概信じられへんで?」

 

 俺と千里、光莉三人揃って首を傾げる。ふっ、勝ったな。俺たち三人がおかしくないと思ってて、春乃一人がおかしいと思っている。多数決で俺たちの勝ちだ! 俺たちがグローバルスタンダードなんだ!

 

「やっと抜けれた……」

「お疲れ日葵。人気者は大変やなぁ」

「お疲れ日葵。私の舌をタオルと勘違いしてくれていいから、汗拭いなさい」

「こいつが地獄に落ちたら真っ先に舌を抜いてほしいな」

「こんな化け物、地獄にすら行けないでしょ」

「じゃああんたたちが確かめてきなさい」

 

 瞬間、地を蹴り人の間を抜け、千里を光莉の方へ放り投げ犠牲にし、教室を飛び出した。濃い付き合いをしてきたからもう光莉が俺たちの命を散らそうとしてくるタイミングはお見通しだぜ!

 ……なんとなく、ほんとになんとなくだけど、日葵がきた瞬間に教室抜けちゃったから「やっぱり私と一緒にいたくないんだ……」って日葵が勘違いしてそうだな。流石の俺でも段々日葵の思考が読めてきたぞ。きっと今頃光莉が千里を殺している横で春乃が日葵を慰めているに違いない。やっぱ春乃なんだよなぁ。

 

 さて、今戻ったら確実に光莉に殺されるから夜の学校を楽しむことにしよあれぇええええええ???

 

 廊下を歩く俺の目の前からやってきたのは、肩を並べる恭華と蓮。恭華の顔は赤くなっていて、蓮は俺を見つけるといつものように「お、恭弥! 一人じゃん! もしかして俺を探しにきた感じ? 友情深めにきた感じ? やべ、嬉しさダイマックスしちまった!」と騒ぎ始めた。

 

「……あ、そうだ! 恭華! 俺たちいつものメンツで文化祭回るんだけど、恭華も一緒に回るよな!」

「あっ、えっと、その……」

「ワリィ恭弥! 俺が予約しちまったんだわ!」

 

 一瞬後、俺のむせび泣く声が夜の校舎にこだました。

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