「そういやあんた、文化祭で告白するって言ってたけど本当にするの?」
「俺そんなこと言ってたっけ?」
「貴様、日葵に対する気持ちで嘘をついたというのか?」
「確かに私は文化祭で日葵に告白すると申し上げました。誠に申し訳ございません」
文化祭一週間前。外部からも人がくるということで学校全体を掃除しようというカスみたいな取り組みが行われ、俺たちのクラスは体育館を担当することになった。ちなみに俺と光莉以外誰もいないのは、掃除が終わった後「これだけ人数いたら決着つかないだろうけど、もしじゃんけんして負けたやついたらそいつに後片付け押し付けようぜ!」とクラスの誰かが言い出して、それに見事俺と光莉が敗北してしまったからだ。
さらにちなみに言うと、日葵は手伝ってくれようとしたけど俺たちの不幸を笑う悪魔二人に連れていかれ、恭華は少し用事を済ませてから戻ってくる! と顔を赤くしながら俺に宣言しぴゃーっと去っていった。はは。
そんなこんなで、『俺が日葵に告白する』という誰かに聞かれたらマズいことを言っても平気なのである。俺個人的には全然平気じゃねぇけど。
「でもさぁ、あんときとは状況が違うだろ? お前も状況を変えたうちの一人だけど」
「私とのそれは解決したでしょ? それに、春乃とだって、春乃はずっとあんたに好き好きって言ってるのにドロダボがヘタレて答え出さないままずるずるしてるのが悪いのよ」
「この件に関しては俺のことをドロダボって呼んだのは許すとして、こういう風に言い寄られた経験ねぇからんなこと言えんだよクソチビ」
「めちゃくちゃムカついてるってことはわかったわ」
光莉は当然のように手に持っていたモップで俺をしばき、片手で俺を掴んで床に引き倒して俺の上に座った。こいつちょこちょこ俺の上に座るけど、もしかして俺のこと座布団とか椅子とかと勘違いしてる? だとしたらもうちょっと優しくしてやった方がいいかもしれない。まさかそんなとんでもない勘違いをしてしまうほど追い詰められてたなんて思いもしなかった。
というわけで光莉を褒めてやることにした。俺が光莉を褒めるなんてめったにしないから、きっと嬉しいに違いない。
「光莉。お前の尻はいい感触だぞ」
「効率的に喉を潰された経験、ある?」
「今からするんだろうなっていう想像はつく」
「……ま、流石に声を奪ったら日葵が泣いちゃうからやめておいてあげるわ」
「その線引きができてどうしてお前は日常的に俺を殺してくるんだよ」
「胸に手を当てて考えてみなさい」
「え!? おっぱい揉んでいいってこと!!?」
パンパンパンパン! という音が体育館に鳴り響く。男女のまぐわい的な音ではなく、俺の頬を光莉がビンタした音である。なぜ俺はビンタされたんだ? 「胸に手を当てて(はぁと)」って言ってなかったか? 俺の気のせいだろうか。
「気のせいよ」
「そうか」
どうやら俺の気のせいだったらしい。俺としては光莉の言い方が悪かったと思うんだけど、この場にいるのは俺と光莉だけだから第三者の意見は聞けないし、ここはおとなしく引き下がってやることにしよう。俺は大人だからな。ビンタするときに揺れたおっぱいも見れたことだし。
「で、話戻すけど告白するの? しないの? しないなら私と付き合う?」
「おい、流れるように可愛いのやめろ。俺が意識しちゃってこの場でセックス初めても文句言えねぇぞ」
「やめなさい。体育館に最中の音が響き渡って興奮しちゃうじゃない」
「じゃあよくね?」
「確かに」
ヒュウ! と二人同時に口笛を吹いて、話を戻す。軌道修正してくれる人がいないっていうのはやりにくいな。脱線が心地よくてずっと脱線してしまう。
日葵に告白するかどうか。確かに俺は文化祭で日葵に告白するって言ったし、有志ステージで言うつもりだったけどミスターコンっていうおあつらえ向きな舞台も用意されている。ただ、それでも気になるのが春乃のこと。俺がもじもじしていても変わらず好きって言ってくれている女の子のこと。流石に答えを出さないまま日葵に告白っていうのは違うってくらいドヘタレな俺でもわかる。
「……でもどうしよう」
「あんた恋愛関係になるとほんとポンコツよね。かわいい」
「なぁ。ちょくちょく俺に惚れてるアピールするのやめてくんない? キュンキュンするだろうが」
「今思ったのよね。二人きりってチャンスなんじゃない? って」
「待て待て。お前諦めるとかなんとか言ってなかったか?」
「だからこうやって軽率にすきすきアピールしてるんでしょ?」
「好きっていう気持ちに軽率もクソもあるかよ」
「おいおい。イケメンかよ」
「恐縮です」
えへへ、と笑い合ってから再び話を戻す。一生話進まねぇんじゃねぇのかこれ。いや、進んではいるけど、進んではいるけどなんだよなぁ。昔の大人気アニメくらい話が進んでいない。
「はぁ、あんたがはっきりしないから後片付けが全然進まないわね」
「あ! もしかして後片付け終わったら俺との時間が終わっちゃうからやらないんだろ!」
「それはないわよ。日葵が待ってくれてるはずだから」
「急に突き放すんじゃねぇよ。ノれよ」
「乗ってるけど……」
「なぁなぁ」
あ、と俺と光莉以外の声に二人そろって間抜けな声を出し、聞き覚えのある声がした方を見る。
そこには呆れた表情の春乃が腰に手を当てて俺たちを見下ろしていた。あ、ぞくぞくしちゃう……! いや、春乃の視線に性的興奮を覚えてる場合じゃない。どこから聞いてた? 体育館ってやつァ声が響くから、もしかしたらずっと筒抜けだったか?
「春乃、手伝いにきてくれたの?」
「そのつもりやったんやけど……あ、ちなみに恭華は日葵と千里に恋愛相談中やで」
「光莉、そのまま俺の上に乗っておいてくれ。枷が外れたら俺は何をするかわからん」
「いいけど、私のこと枷って言うのやめてくれない?」
恭華が、恋愛相談……? あ、あれだよな。蓮から好きって言われてるから恋愛って言ってるだけで、恭華が蓮のこと好きになったとかそういうことじゃないよな。ははは。ま、まぁそうだとしても蓮はいいやつだから俺は応援するけど? ちなみに泣いてやめてくれるならいくらでも泣くけど?
……やめておこう。こういうこと繰り返してたら本当に妹から嫌われそうだ。
「で、お二人さん。私がおらんとこで私に関する作戦会議?」
「やっぱり聞こえてたのか……」
「そうよ。このバカがはっきりしないからどうすんのって言ってたの」
「いっそ体ではっきりさせてまうか」
「日葵呼んでくるから私たちも混ざっていい?」
「なんでお前らえっちに積極的なんだよ。俺を喜ばせてどうする気だ」
「好きな人やから言うてるんやけどー?」
「え!!!?? セックスがってこと!!?」
なぜか大喜びで反応した光莉が春乃にチョップされ、「ごみぇえん……」とおとなしくなる。光莉がチョップされようがどうでもいいけど、俺の上で暴れないでほしい。いくら光莉が軽いとはいえ、内臓が圧迫されることに変わりはないんだからな? 知らねぇぞ。薫の弁当吐いちゃうぞ俺。
というか、また。春乃はずっと正面から好きって言ってくれる。今みたいに俺がどうしていいかわからず黙ってても、にこにこ笑っているだけだ。これがからかってるとかならまだ話はわかるんだが本心っぽいし。だからこそ甘えてしまってる、みたいなところもあるかもしれない。
「なーなー光莉。どう思う? 私こんだけ好き好きって言うてるのになんも言うてくれへんねん」
「まったく、とんでもないヘタレね。これだけ好きって言ってくれてる女の子がいるんだから、ちょっとくらい触ったってバチ当たんないわよ?」
「思うてたんと違う援護やった」
「俺が好きっていう気持ちに付け込んでそういうことするようなやつに見えるか?」
「さっき私のおっぱい触ろうとしてなかった?」
「信じてくれ春乃。俺はそんなことしようとしてない」
「さっきからスカートの中覗こうとしてるのわかってんで」
「寝転がってる男の近くに立つ方がワリィんだろうが!!」
「逆ギレやん」
失礼しちゃうぜ!! 校則より短いスカート履いて俺の近くに立って、まぶしい太ももちらちらさせやがって!! 寝転がってるのが俺じゃなかったら襲われても文句言えねぇぞ!! 光莉と春乃の二人なら返り討ちにするだろうけど!!
いやさ、それとこれとは話が違うじゃん? あれだよ、試食みたいなもん。別にその食べ物自体に興味はないけど、もらえるならもらうみたいな。嘘だわ俺春乃に興味あるからまったくの嘘だったわ。
でもほら、わかるだろ! 男ならそうなるんだよ! だからといって許されるってわけじゃないんだけどな!! 俺が悪い!!
「まぁ下に短パン履いてるから別にええんやけど。ほら」
「ちょっと春乃!!! それはあまりにもエッチオブザセックスよ!! 私と濃厚なキスを交わしながらベッドインしてぐちゃぐちゃになりたいって言ってるのと同じことよ!!?」
「悪い春乃。俺より先にとんでもない化け物が釣れた」
「こんなんが上に座ってて大丈夫なん? ストレスえげつないやろ」
春乃がスカートをめくり短パンを見せた瞬間、俺に座っている光莉が興奮し始めた。こういうところ見るたびなんで俺こいつと友だちやってんだろうなって思うけど、こういうやつだから俺の友だちなんだろうな。親友だし。俺とほぼ一緒だし。
まぁ、エッチオブザセックスっていうのには同意する。春乃もそうだってわかっててやったんだろうし、ほんとに悪い女だぜ。でも嫌いじゃないわよ?
「て、こんなことしにきたんちゃうねん。はよ片づけな日葵帰ってまうで?」
「あれ、はっきりしない恭弥を問い詰めにきたんじゃないの?」
「ん-、それはなぁ」
春乃は少し悩んだ後、「まぁええか」と言ってから俺に笑顔を向ける。
それは挑戦的な笑みで、もはや「いたずらをします」と宣言しているかのようにも見えた。
「文化祭、覚悟しといてな。ちゃーんと答えてもらうで」
言って、春乃は俺たちがまったく進めていなかった片づけに向かった。
「あんた、文化祭の日死ぬかもしれないわね」
「他殺?」
「うん」