【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第184話 氷室恭華の告白

「なぁ。井原は、なんで私のこと、す、すきとか、言ってくれるんだ?」

「おん?」

 

 なぜかあったトルコアイスを片手にベンチに座り、周りに人があまりいないのを確認してから絞り出した言葉に、井原はいつも通り間抜け面で首を傾げた。

 文化祭当日。一週間前に井原から誘われて、なぜか頷いてしまったことを後悔している。何を話せばいいのかわからない。緊張してアイスの味もわからない。なのに、私がこんな状態だっていうのに井原はにこにこと楽しそうにしていて、なんなら波のように押し寄せてくる人から守ってくれたり、いつの間にか支払いを済ませていたりと余裕すら見せている。私ができることと言えば、誰にでもこうなんだろうなと心を落ち着かせることくらいだ。

 

 それなのになんでまた心を乱すようなことを言ったのかというと、私が井原の気持ちにどう応えればいいのかを知りたいから。こんなに好きって全力でアピールしてくれてるのに答えを出さないなんて甘えたことしたくない。

 

「んー、えっと、本人にそれ言うの恥ずくね?」

「そもそも、真正面から好きって言うのも恥ずかしいと思うけどな」

「それな! でも伝えてぇって思ったからしゃーねーんよ、それは!」

 

 ぐ、またこいつは恥ずかしいことを……コーンに舌差し込んで上下させるようなアホなのに、段々それが可愛く思えてしまうから困る。

 ただ流石に行儀が悪い。ストレートにそう伝えると、井原はコーンに舌を差し込んだまま引っ込ませて豪快に口の中へ放り込み、数度咀嚼してから喉を鳴らして「申し訳!」と明るく笑った。行儀を怒られたやつのやることじゃないだろ。

 

「うーん、なんだろうな。なんか好きってなったんだよなぁ。恭華ちゃん可愛いし綺麗だしいい子だし、つかむしろ好きになる要素しかなくね?」

「……」

「あ、ほらあれだ! 隣にいたいなって思ったんだよ! もうそれ好きってことじゃね?」

「も、もういい」

「照れてるところもかわWIN!!」

 

 ピースを二つくっつけて『W』を作る井原から目を逸らす。くだらなかったから無視したとかじゃなくて、恥ずかしすぎて耐えられなかった。なんでこう、なんでこうストレートに言えるんだこいつは!! うちの兄はあんなのなのに!!

 でも、これでころりと落ちたらちょろいにもほどがある。恭弥たちには恋愛方面でポンコツだとか箱入り過ぎてもはや箱だとか好き勝手言われてるけど、そうじゃないってことを証明してやらないといけない。

 

「……」

「ん? 口パクパクさせてどしたん?」

 

 なんて思ってても、恥ずかしすぎて言葉が出てこない。こういう時に限って井原はいつもの明るい笑顔じゃなくて優しい笑顔で私の言葉を待ってくれる。なんだかんださっき「照れてる」ってはっきり言ったくらいだから、今も私が照れて何も喋れないってことがわかってるんだろう。こいつ、なんで今までモテてなかったんだ? おかしくないか?

 

 顔に上がってきた熱を冷ますのと、会話の空白を誤魔化すためにアイスを口に運ぶ。その動作すら「なんか恭華ちゃんって食べ方めちゃくちゃ綺麗だよな。可愛い!」なんて褒めてきやがるし。こいつ実は私のこと殺しにきたんじゃないか?

 

「でもそうだよなぁ。恭華ちゃんからしたら信用なんなくね? 会ってそんな経ってないのに好きですって言われてもって感じだよな!」

「あ、いや、そんなことは思ってないぞ。す、すきっていうのは衝動的なものだって理解してるし」

 

 主に身内がそういう恋だとか愛だとかの渦中にいるから。

 

「お、マジ? なら付き合っちゃう?」

「わ、私が井原を好きになるとかそういうのは別の話だろ!」

「えー。衝動的に好きになってほしいのになぁ」

「ならない」

「キビシー!!」

 

 流石恭弥の妹だぜ! と余計な一言を付け足して、井原が立ち上がる。伸ばされた手を見なかったことにして私も立ち上がると、井原は気にした様子もなく「そろそろミスコンの時間じゃんね?」なんてまた余計な一言をぶつけてきた。

 

「あ」

「ハハハ! だーいじょうぶだって! 恭華ちゃんならまんま出てきて一言も喋んなくても成立するくらい可愛いんだから!」

「それは井原が私のことす、すきだからだろ!」

「そりゃ確かに好きだけど、それ抜きにしてもそう思うんだけどなぁ」

 

 薫ならともかく、私はだめだ。だって恭弥の双子だし、性別が違うから全く一緒の容姿ってわけじゃないけど『女版の恭弥』って言われるのが一番しっくりくる。つまり、悪名が広まりに広まってる恭弥を思わせる私は断然不利……勝つつもりもないけど!

 

「なんにせよ応援するぜ! あ、でも恭華ちゃんが目立ったら恭華ちゃんのこと好きになるやつが増えんのか? やべ! 焦る!」

「……少なくとも、井原以上にいいやつはいないだろうけどな」

「恭華ちゃんのデレ入りました!! ありがとうございマァス!!」

「うるさい!! 行くぞ!!」

「怒りながらも一緒に行ってくれるのマジ天使って感じ!!」

 

 当然のように隣に並んでくる井原を睨みつけると、やはり楽しそうに笑った。

 

 

 

 

 

「で、散々ラブコメしてきた挙句、『みっともないところ見せて井原に軽蔑されたくない……』みたいなこと考え始めてド緊張してるってこと? 君ほんとに恭弥の妹?」

「う、うるさい! 第一千里がおかしいんだろ! いつもメス扱いされたらブチギレるくせに!」

「まぁお祭りだからね。その場に合ったことをしただけだよ」

 

 ミスコン、その待機所。ステージの袖にある更衣室で、私は緊張を解すために出番が終わった千里を捕まえて、いろんなことでぐちゃぐちゃになった感情をぶつけていた。

 

「なんか、盛り上げすぎちゃったみたいだけど……」

「他の子たちも可愛いのに、千里がとんでもないことするからハードル上がったんだろうが!」

「だって恭弥はあぁした方が好きだろうし」

「うわ、出た」

「人の友情を出たとはなんだ」

 

 そりゃ日葵も不安になる。千里は恭弥が好きすぎるんだよ。こんなに可愛くて恭弥の喜ぶことを率先してやって、何食わぬ顔で毎回恭弥の隣にいたら誰だって警戒するだろ。私もいつ恭弥が千里と付き合い始めて薫が泣き出すのかとハラハラしている。恭弥と千里が薫の悲しむことはしないって信じてるけど、それでも疑ってしまうくらいには恭弥のこと好きなんだよな、こいつ。

 

「というか、そうか、恭弥もいるのか……薫もいるんだよな……」

「あー、確かに身内に見られるのはきついかもね。僕もさっき姉さんから僕の動画と写真大量に送られてきたし」

「……」

「今恭弥ならやりそうって考えてた?」

「うん」

「ちなみに正解」

 

 あと薫も。薫っていつもは止める側なのに、私をいじるときだけ生き生きするんだよな。同性の姉だからか? そういえば日葵にもかわいいかわいいって言ってるし、もしかしたら恭弥に対する甘えたと別方面の甘えたなのかもしれない。私の妹可愛すぎないか?

 

「ところで、恭華さんは何するつもりなの? 別に何かしなきゃいけないってわけじゃないけど」

「ルールも何もないもんな」

 

 このミスコン、なんとルールがない。全員の出番が終わったら退場時に誰がよかったか票を入れて帰るっていういくらいで、あとは自由。出場者は何をしてもいいし、時間制限も一切ない。だからもう出て行って「こんにちはー、さようならー」でもいいんじゃないかって思ってる。

 

「出て行って挨拶だけっていうのは流石にダメだよ。恭華さんトリなんだから」

「うっ、で、でも」

「あーあ、いいのかなぁ。恭華さんがしょーもないことしたら、せっかく盛り上がってるお客さんたちが落胆して帰っちゃうだろうなぁ」

「……いじわる」

「バカ野郎! あんまり可愛いことするなよ! 恭弥が見てたらどうすんだ!!」

 

 千里が慌てて周りを見て、恭弥がいないのを確認するとほっと胸を撫でおろす。これを本気でやってるんだからそりゃあんなパフォーマンスするわな。

 

 でも、千里の言う通りだと思う。他人のことなんて知ったことかって言いたいけど、せっかく千里が盛り上げてくれたし、井原が応援するって言ってくれたし……なんだかんだ、恭弥も薫も井原も、何をしても全部肯定してくれそうな気はするけど。

 

「ま! 可愛いで勝負しても無理だろうね。もう僕が最大限可愛いをやっちゃったから。ははは。はぁ」

「自分でやったことなんだから胸を張れよ」

「いや、やったことに対して後悔はしてないんだけど……なんか、やってる最中楽しかったのが問題なんだよ。自分で違和感なかったのが嫌なんだよ」

「まぁ……」

 

 千里の後に出ていく女の子がみんな振るわない結果に終わってるのを見れば、そりゃ違和感なんてあるわけない。千里が自分で自分のことを可愛いって思ってたからこそ、あんなに可愛くて全員が千里に夢中になったんだ。

 

「……どうせ千里以降まったく結果が振るってないなら、別にいいんじゃないか? 全員を盛り上げなくても」

「僕は気分いいけど、催しとしては僕を最後に持っていくべきだったよね」

「そういうのが自信満々なあたりほんとに恭弥の親友って感じするな」

「でしょ」

 

 今のセリフでにこにこと大喜びなのはもうガチだろ。

 

「それよりもうそろそろだけど大丈夫? なんならもう一回僕が出て盛り上げてうやむやにしようか?」

「いや、大丈夫だ。春乃にわざわざ借りたんだし、無駄にはできない。それに、千里と話してたらある程度緊張ほぐれたしな」

 

 それに、実は何をやるかっていうのは決まってる。私みたいなやつが千里みたいなパフォーマンスをするのは無理だ。それに優勝なんてしなくてもいい。ただ、せっかくの祭りだから盛り上げたいのは盛り上げたい。

 

 それなら、勝手に盛り上がるようなものを提供してやればそれでいいと思うんだ。

 

「……それ、井原くんが見惚れてたやつでしょ? 恭弥にも恭華さんくらい度胸あったらなぁ」

「おい、それを言うな。緊張するだろ」

「いいじゃん。十割堂々としてるよりある程度緊張してる方が可愛くてさ」

「お前の方が可愛いぞ」

「テメェ」

 

 表情を怒りの色に染めた千里から逃げるように、ステージへ立つ。その瞬間、「あっ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」と呻く恭弥の声が聞こえてきた。私がこの格好でこの場に出ただけで、恭弥なら何をするつもりか察するだろうな。

 

 春乃に罰ゲームで着せられたメイド服。それを身に纏ってゆっくりとステージの中央へ向かい。正面を向いた。すぐに恭弥たちの姿を見つけることができたのは、きっとあいつらがめちゃくちゃ目立つからだろう。今にも暴れようとしている恭弥を、日葵と薫が必死に抑えていて、光莉は恭弥を抑える日葵にどうにかセクハラしようとしていて、春乃は光莉を抑えている。正直、恭弥がああなることに罪悪感を持たなくもないが、愛しの日葵と薫と密着できたから大目に見てほしい。

 

 そして、もう一人。特に大声を出してるってわけでも暴れてるってわけでもないのに、そいつの姿もすぐに見つけることができた。いつもとは種類の違う間抜け面で私をぼーっと見つめているのを見て、なんだかおかしくなって笑ってしまう。

 

 意図してはいなかったが、身内のおかげで緊張はほとんどなくなった。手に持っていたマイクをそっと口元に持って行って、声を乗せる。

 

『私には最近、気になる人がいます』

 

 「どうしよう! 恭弥が止まらない!」「ちょ、兄貴落ち着いて!」「よっしゃ、いけ光莉!」「御意」なんて声が聞こえてしまい、緩みそうになった頬をぐっと抑える。笑っちゃうからやめてほしい。

 

『き、気になるといってもす、すきとかじゃなくて、むしろ、向こうが好きって言ってくれるから、なんでだろうとか、その、私はあんまりそういうのよくわからないから、どうしたらいいのかわからなくて』

 

 「ぐっ……がんばれ、頑張れ恭華ー!!」「恭弥……偉いね」「井原さん相手だと兄貴ちゃんと応援してるのに、なんで千里ちゃんはまだ殺されるんだろ」「性格やろ」「性格でしょ」とまたあいつらの声が聞こえてくる。別に大声で話してるわけじゃないのに聞こえてしまうのは、やっぱりあいつらの声を聞きなれているからだろうか。

 多分、あいつらの声を聞いたら安心するからかもしれない。

 

『好きって言ってくれるお前にすぐ答えは出せない。でも、一緒にいて悪い気持ちにはならない。むしろ、何かよくわからない感情が浮かんできて……この感情がなんなのか、そもそも名前があるのかなんてわからないけど』

 

 すぅ、と息を吸い込む。私を見ている井原は、まだ間抜け面だった。

 

『──お、お友だちからお願いします!!』

「このクソ遺伝子!! やっぱり兄貴の妹じゃん!」

「待て! 俺のせいじゃないだろこれは!! 恭華がヘタレなだけだろ!!」

「お、おちついて薫ちゃん! 薫ちゃんも恭弥の妹だよ!!」

「でも恭弥にはあんなことする度胸すらないと思わない?」

「ほんまにな」

 

 今度ははっきりと聞こえてきたやり取りの後に、「お友だちじゃなかったの!!? ショッキングパーリーピーポー!!?」というアホな声も聞こえてきた。

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