「だって仕方ないだろ!! あの場で付き合おうなんて言えないだろ!!」
「や、でもあの流れやったら言うと思うやん?」
「実際、『あれ、これなら押せば行けるんじゃね?』なんて考えたやつもいたからな。全員俺と父さんと母さんがぶっ殺したけど」
ちなみにそのあと両親はまた独房へと戻っていった。なんでも『懐かしい』らしい。学生時代なにやってたんだあの人たち。
ミスコンが終わって、昼食の時間。適当に店で食べ物を買っていつも通り屋上へ集まり、ミスコンに出ていた千里と恭華をねぎらってやっている。結果はミスターコンが終わって、その集計が終わってから同時に発表されるらしい。まぁ多分千里の優勝だろう。恭華も話題性は抜群だが、どっちが沸かせたかって言えば千里だしな。
「それにしても織部くんほんとに可愛かった! いつから練習してたの?」
「これが忌々しいことに、『可愛いこと』に関しては練習しなくてもいいんだ」
「アイドルの才能あるわよ、あんた」
「千里ちゃんがアイドルになったら多分いっぱい嫉妬しちゃうから、だめ」
「さてと。保健室にでも行こうか薫ちゃん」
「お前だけでいいぞ」
「それは怪我するからって意味で合ってる?」
どうやら千里は賢いらしい。俺の言葉の意味を正しく理解し、自分がボコボコにされるであろうことを察するとすぐに土下座を披露した。好きな女の子の前でする土下座ほど屈辱的なものはないだろう。その屈辱に免じて、今日は許してやることにする。
……よく考えたら俺も日葵の前で土下座したことある気がするな。土下座する心当たりが多すぎるから多分間違いない。
にしても、本当に俺の妹とは思えない。恋愛関係はほんとにポンコツだと思ってたのに、ちゃんと自分でどうするべきか考えて、いろんな人が見てる前であれを言えるのは素直に尊敬する。まぁ蓮に顔を合わせるのが恥ずかしすぎてこっちに逃げてきたのは流石というべきか、『多分恭華ちゃん恥ずかしくて俺の顔見れねぇと思うから、しばらく友だちと回っとくわ!』と先に連絡を送ってきた蓮も流石と言うべきか。はぁ、もうゴールインじゃんこんなもん。
「そういえば、ミスターコンとミスコンの優勝者は同時発表で、同時にステージに立って一言ーとかあるらしいね」
「お前は一体何人の性癖を歪めるつもりなんだ?」
「仕方ないでしょ。僕は求められたことをやってるだけなんだから」
「付き合いたいのに待たされてるんだけど。求めてることやってもらってないんだけど」
「ふぅ……」
「光莉。鎖持ってる?」
「ちょうど拷問用のやつあるわよ」
日葵とともに千里をしばきあげ、悪を滅したところで飯に戻る。ったく、千里もまだまだだな。よく知りもしない有象無象を盛り上げるために普段は嫌な女の子の恰好やって、しかも全力で可愛いアピールしたら嫉妬するに決まってるだろ。そっちには応えるのに私には……って。ちょっと考えりゃそういうわけじゃないんだけど、それで割り切れないのが恋ってやつなんだよ。ふっ、決まったぜ。
「まぁあれだな。ミスターコンの時は俺が守ってやれねぇから、蓮連れてくるか」
「えっ、あ、や、その、きょ、今日はちょっと……」
「確かに、女の子だけやと不安やもんなぁ」
「僕を女の子とカウントするのはやめろ」
「数時間前の自分を思い出してもう一回同じこと言ってみなさい」
「僕を女の子としてカウントしろ」
「してるぞ」
光莉はかなり武闘派だがそれでも女の子。俺がいない間にまとめてナンパされる可能性もある。それなら蓮が一緒にいてくれた方がいい。多分薫と恭華が危ない目に遭ったらどこからともなく父さんと母さんが現れるだろうけど、それでもそもそもそういうことが怒らない方がいいからな。
ちなみに当然のごとく千里はあてにならない。なんなら一番ナンパされるだろうし、一番どこかへ連れていかれそうだ。こいつやっぱり根っこは男だからか、変なところ警戒心緩いんだよなぁ。そこがエロくて、イイ!!
「さて、ほなそろそろ行こか恭弥くん」
「お、もうそんな時間か」
「ミスコンの話題が残ってるうちにミスターコンって話やったからなぁ。みんなもはよこな座られへんで?」
「うん! 楽しみにしてるね!」
「あんたたちならなんの心配もいらないわね」
「緊張するなよ」
「恭華ねーさんに言われたくないと思う」
もうちょっとゆっくりしたかったな、なんて思いながら立ち上がって、春乃と一緒に体育館へ向かう。横目で春乃を見ても緊張した様子はなく、むしろ綺麗な口笛を吹いて余裕をかまし、俺の視線に気づいた瞬間小さく投げキッスをするお茶目も搭載していた。悔しいから俺も小さく投げキッスを返すと、「うわ、似合わんわぁ」と暴言を吐きつつ目を逸らし、少し頬を赤く染める。
なんだ。ただの完璧か。
……清々しいくらいにいつも通りだな。覚悟しとけって言ってきたからちょっとはいつもと違うところあるかもって思ってたのに。こういうところが春乃らしさっていうか、いつも堂々としていて本当に気持ちがいいやつだなと思う。人として春乃以上に頼もしい人間なんていねぇんじゃねぇか?
「なーに? じろじろ見て」
「いや、春乃は春乃だなぁって思ってよ」
「そらここでいきなり私が岸春乃やないって言うたらビビるやろ」
「でもいきなり双子が生えてきたしなぁ」
「それは氷室家やから」
「確かに」
氷室に関しておかしいことが起きても『氷室家だから』で通るの、改めて考えたらやばくねぇか? そんくらいとんでもない一族で恭華と薫が生まれたの奇跡じゃねぇか?
そう考えたら俺が普通で恭華と薫が異常な気がしてきた。そうだよ、俺氷室家にとっての普通で育っただけじゃん。世間から見て異常なの俺のせいじゃねぇよ。ったく、氷室家め。氷室家のせいで面白おかしく育って、最高の友だちに巡り合えたじゃねぇか。ありがとう。
体育館に入ると、すでにいい席を取っている人たちがいた。芸能人が出るとかならわかるけど、ただの高校のミスコンとかミスターコンとかでここまでやる気な人って相当ミーハーなんだろうな。いや、もしかしたら俺が出るからとか? まいったな、モテる男はつらいぜ。
……最近の俺の事情を考えたら冗談じゃないからやめておこう。
「恭弥くんは着替えるん?」
「俺はそのままでめちゃくちゃカッコいいから。それに映画のこともあるしな」
「そういえばミスターコン終わって発表終わってからやっけ。ほな私もこのままにしよかな」
俺たちが着ているのは制服で、映画でも制服を着ている。ということは、映画を見た人は「あ! ミスターコンに出てた人だ!」とお得な気分を味わえるというわけだ。二流はミスターコンという箱だけで考えるが、俺はその先のことも考えている。あーあ。天才過ぎてにくいぜ。
「いや、なんか他に着ようと思ってたもんがあるなら合わせなくていいぞ?」
「別になんも予定なかったからええよ。色々衣装用意してくれてるって聞いたから、適当に選ぼかなーって思ってたくらいやし」
「度胸ありすぎだろ」
「誰が言うとんねん」
俺に度胸なんてあったら色々丸く収まってたと思うんですが……。これを口に出したら流石に怒られるだろうから黙っておく。それくらいの理性は持っていることに自分で安心した。どうやら俺もデリカシーってやつを身に着けてきたらしい。
「つか順番俺が最後って、何を期待されてると思う?」
「その前が私やから、私が大本命で恭弥くんはオチ担当?」
「はぁ、わかってねぇなぁ運営は」
「めちゃめちゃわかってると思うけど……」
「そもそもさ、学生ってのは社会に出る前の好き勝手主張できる最後の場だぜ? だってのにこういう順番とかで役割与えちゃダメだと思うんだよな」
「そういうのを学ぶ場でもあるやろ」
「さて、負けたか」
口で負けた俺は「別に気にしてないですよ」風を装い、拳を握りしめた。ぐっ、ふぅうううぅ……なんでもいいから文句言いたくなったから適当に言ったのに、真正面から説き伏せられたよぉ……。
まぁ俺が負けるなんていつものことだ。気にすることじゃない。ただ人間は負けになれたらそこで成長が止まってしまう。よし、次は勝つぞ!! ふんふん!
「何思ってるか知らんけど、なんかきもいで」
「感覚で罵倒するな」
「恭弥くんわかりやすいからなぁ」
そうやってくだらない会話をしていると、時間なんていうものはあっという間に過ぎていく。俺が春乃とずっと会話していたからか、周りの他の参加者に嫉妬を込めた目で見られているのはきっと気のせいじゃない。なんとなくだけど俺、この学校敵だらけな気がしてるんだよな。大体はあのメスのせいだけど。
ミスターコンはしょっぱな千里みたいに全部をぶち壊すようなとんでもないやつが現れなかったことから、普通に盛り上がりながら進んでいた。春乃以外の参加者を知らない俺からしたら「なんか俺以下のやつらが頑張ってるなぁ」くらいの感想しか出てこないが、それでもスカウトされただけはあるのかちゃんと黄色い声を浴びながら帰ってくる。
「ん、もう私?」
「らしいな。俺のためにしっかりあっためといてくれよ」
「言うたやん。覚悟しといてなって」
春乃は俺の顔を見ずに、一度も足を止めずステージへと歩き出す。そして春乃がステージへと足を踏み入れた瞬間、女子の歓声が聞こえてきた。あぁそういや、春乃って意識的にも無意識的にもイケメン振りまくからファン多いのか。俺もきゃーって言った方がいいか?
『どうも! 岸春乃って言います! 見ての通り女の子なんですが、どうも私ってかっこいいみたいで。可愛い後輩からミスターコン出てくださいって言われたんでのこのこ出てきました!』
春乃らしい明るい声が体育館に響き渡る。袖から見ても春乃の周りが光って見えるから、もしかしたら光に関する能力でも持ってるのかもしれない。身体能力化け物だし。
『で、ミスターコンやから私のイケメン見せつけてもええんやけど、せっかくこういう場所立たせてもらえるんやから言いたいことぶちまけようって思ってます』
春乃は、袖にいる俺を一瞥した。
『絶対に叶わん恋って、したことありますか?』