【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第186話 がんばれ

『例えばの話。自分に好きな人がおって、その人は小さい頃からずっと好きな子がおって。でも自分はその人への好きって気持ちが止まらん、みたいな』

 

 一瞬で、覚悟っていうのはそういうことかと納得がいった。意外にも焦りは一切なくて、春乃ならそういうことだろうなって思ってた部分があったからかもしれない。

 

『そういう時って大体当たって砕けるか、気持ちに蓋するかのどっちかやと思うねん。だってその人は違う子が好きやってわかってるんやから。しかも十数年ずっと想い続けてるっていうマンガみたいな』

 

 客席にいる人で、春乃がそうだって勘づいた人は何人くらいいるだろうか。大体こういう例え話をするときは本人のことだって結びつけるのが自然だと思うから、よっぽど鈍くなければ春乃のことだって気づくはずだ。今更春乃が他人にどう思われようと気にすることはないと思うけど、それでも少し心配になってしまう。

 

 いや、俺が心配なんて偉そうなことは言えないかもしれない。春乃にこれを言わせてるのは他でもない俺だから。

 

『でも、私は当たり続けてもええと思うねん。だって止まらん気持ちならしゃあないやろ? もしかしたら振り向いてくれるかもせえへんし、不可能か可能かなんて自分がどう思うかで決まることやと思うから』

 

 それは、春乃の生き様を語っているようにも聞こえた。あれだ、『私を見ろ』って感じがする。言葉に熱がこもってるから、いきなり何言い出すんだっていう気持ちが一切わいてこない。俺が春乃と仲がいいからそう思うだけかもしれないが、きっとそうだからじゃないはずだ。

 だって俺は、春乃のことが嫌いだっていうやつを見たことがない。

 

『言いたいことは、もし自分の好きな人が別の子のこと好きって知ってる人がおったら。恋し続けることは、好きでいることはなんも悪いことやないってこと。好きって思い続けるのは辛いことやないってこと。むしろ、それだけ人のことを好きになれるっていう自分を誇りに思ってほしいってこと。誰かを想う気持ちが悪いなんてありえへん。そら相手からしたら迷惑とかそういうこと考えるかもしれへんけど、知ったことかと笑い飛ばしてこう言うたれ!!』

 

 一瞬、春乃がこっちを見てにやりと笑った。

 

『好きなんやからしゃあないやろって!! みんな、図々しく恋しよう!!』

 

 体育館が歓声に包まれる。拍手すら起きていた。この場所からは見えないが、立ち上がっている人もいるんじゃないかってくらいの音が体育館を揺らす。春乃の言葉が人の心を動かした証拠だろう。証拠に、「図々しく言うぞー!! 結婚してくれー!!」「踏んでくれー!!」なんて声も聞こえてくる。声は覚えたからあとでぶっ殺しに行こう。

 

 流石春乃だなと笑ってしまい、次は俺の番かと気合いを入れる。ここまで盛り上げてくれたんだから、この空気を壊すわけにはいかない。オチ担当なんて言わせない。

 

『で、もう一つ!! 言いたいことあんねん!!』

 

 そうして俺が気合いを入れていると、春乃が言葉を続けた。まさかこれ以上盛り上げるつもりかとあまりにもエンターテイナーな春乃に驚かされる。このままじゃマジで俺がオチ担当になっちまうじゃねぇか。

 

 そうやって余裕を保ってられたのは、この時までだった。

 

『実は私もそういう恋してるんやけど。もう相手の男がめっちゃめちゃヘタレで!! 私やなかったら愛想つかしてボコボコにして捨てるくらいの!!』

 

『まぁ、そんでも好きになってもうたんやからしゃあないんやけど。そういうとこまで可愛いって思ってまうのって恋の悪いとこやと思わへん? わかる?』

 

『でも! こんな可愛い私に好きになってもらっといて、しかもちゃんと好きって言うてるのにかわし続けて!! ええ加減クソやと思うから、ちゃんと答え出せや!!』

 

『好きって気持ちから逃げんな!! クソヘタレ!! 以上!! 岸春乃でした!!』

 

 言葉を吐き捨てて、春乃がこっちに歩いてくる。そして俺の正面に立つと、手に持っていたマイクをそのまま手渡してきた。

 

「こんぐらいせな、()()()()()はっきり言わんやろ?」

「……なんか、なんだろうなぁ。なんて言えばいいんだ、俺」

「情けなっ。泣きそうなってるやん」

「いや、だってよ」

 

 泣きそうなのは春乃だろ、と喉から出かかった言葉は、春乃の声に遮られた。

 

「ええから、がんばれ。恭弥くん」

 

 言って、笑って春乃が俺の背中を押す。振り返ろうとしたが、ここで振り返ったら春乃に顔向けができないような気がしてそのまま歩き出した。

 

 覚悟しとけってそういうことか。俺は春乃のこと全然わかっちゃいなかった。春乃にめちゃくちゃ甘えてたってことを思い知らされた。つか俺何回同じこと繰り返すんだ? 光莉のときもこうだっただろ。死ねよ俺。

 

 ステージの中央に立って。前を見る。

 

 その人のことは、すぐに見つけられた。

 

 

 

 

 

「ちょっと行ってくるわね」

「うん。いってらっしゃい」

「え、あ、えっと、光莉?」

「ごめんね日葵」

 

 春乃が袖に引っ込んでいったのを見て、席から立ち上がる。困惑している日葵のフォローは残ったやつらに任せることにした。

 

 体育館から出て、裏手に回る。体育館の舞台袖は外とつながっていて、外に出てるかなと思って見に来てみたら案の定春乃はそこにいた。

 

「あれ、光莉? どしたん?」

「どしたん? ってあんた」

 

 にかっと春乃が私に笑いかける。まるで何事もなかったかのように笑う春乃に呆れてデコピンをかますと、「あいたっ」と言っておでこを抑えながら睨みつけてきた。

 

「あんたねぇ、やりすぎ」

「やりすぎくらいがちょうどええやろ。あのヘタレは」

「それには同意だけど、よかったの?」

「ええんよ」

 

 春乃がぐっと伸びをして、空を見上げた。つられて見上げると鬱陶しいくらいの快晴で、10月だっていうのに日差しのせいで少し暑さすら感じる。

 

「損な性格ね。背中押すようなことばっか」

「アホか。このまま停滞してたら勝たれへんから進展させたんやろが」

「はいはい。偉い偉い」

 

 むんっ、とない胸を張る春乃の頭をぽんぽん撫でる。春乃は身長が高いから背伸びしてやっとなのがかなり恨めしい。なんか私がお姉さんになりたい姪っ子みたいになってるじゃない。我慢ならないんだけど。

 いや、これは春乃の背が高いのが悪いと八つ当たりしてやろうと春乃を見ると、

 

「あ、あれ」

「ちょ、なっ……もう!」

 

 春乃が泣いていた。自分でも泣くと思っていなかったのか、目を丸くして珍しく慌てている。

 

「や、はは。ごめ、ちょ、なんかとまらへん」

「いいから! あんたほんとバカね! アホ! まぬけ!」

「アハハ!! ほんまにな!!」

「笑ってんじゃないわよ!! ったく、」

 

 文句を続けながら涙を拭くためにハンカチを取り出した私に、春乃が抱き着いてくる。涙をそのままにして、肩を震わせる春乃に涙を拭くことを諦めてそっと背中に腕を回した。

 

「このまま」

「はいはい、泣き止むまでね。光莉ちゃんの温もりは安くないわよ」

「あんがと」

「いいわよ。ほんとに頑張ったわね。あのバカ、ここでヘタレたらぶっ飛ばしましょ」

「ふふ、うん」

 

 まぁどっちにしろ、女の子を泣かしたんだからあのバカは殴り飛ばそうと思う。ほんとどうしようもないゴミね、あいつ。

 

 

 

 

 

 春乃の言葉を聞いて、誰のことなんだろうって思えるほど私は鈍くなかったみたいだ。

 そして、同時にとてつもない罪悪感に襲われる。もし、春乃が言ってたことが本当で、最初からそうなんだったとしたら。私は、立場に甘えて色んな人を苦しめてた最低なやつだ。

 

「日葵ねーさん」

「薫、ちゃん」

「冷たく聞こえるかもしれないけど、恋して傷つくのは自己責任だから。日葵ねーさんが悪いなんてことない」

「でも、私」

「あはは。確かに夏野さんが自分のこと悪いって思う気持ちもわかるよ」

 

 ステージの中央に立つ恭弥を見ながら、織部くんは笑って言った。多分、織部くんも最初から全部知っていたんだと思う。

 

「好きになってもらってるくせに、何うじうじしてんだとか」

「う」

「好きなくせに、何うじうじしてんだとか」

「ぐ」

「なんで私には振り向いてくれないのとか、色々思うだろうね」

「……やっぱり」

「でもさ」

 

 織部くんは、恭弥から視線を外して私を見ていた。いつも織部くんは恭弥たちとふざけてたり、外からへらへら眺めたり、そういうところばかり見てたけど、今の織部くんはちゃんと男の子の目をしていた。

 

「やっぱり好きになっちゃったものは仕方ないんだよ。恭弥のことも、夏野さんのこともね。だから自分で色々納得して、ちゃんと道を選んだ。それを夏野さんが否定しちゃだめだよ。間違っても『自分は幸せになっちゃいけない』なんて思っちゃいけない」

 

 ドキッとした。それは、まさに私が考えていたことだから。自分だけ恋のライバルのつもりでいて、本当は最初から全部決まっていたなんて、そんなの。そんな人、幸せになっちゃいけないって。

 

「冷たい言い方になるけどさ、結局勝てなかったってだけなんだよ。だから夏野さんが胸を張ってあげないと、それこそふざけんなってなると思う」

「……うん」

「まぁそれはそれとして」

 

 織部くんはにやっと笑ってから、また恭弥の方を見た。

 

「一発くらい殴られた方がいいと思うよ。恭弥も夏野さんもさ」

「……そうだね! わかった! 殴ってもらう!」

「日葵、そろそろだ」

 

 隣に座っている恭華が、私の手を握った。

 

「流石に恭弥も今回は外さないだろ。ちゃんと聞けよ」

「うん」

「よし」

「恭華さんも隣にいる井原くんの声ちゃんと聞いてあげてよ」

「あ、もう俺喋っていい感じ?」

「だめ!」

「えー!」

 

 織部くんが恭華をからかって、井原くんがそれに乗っかって。きっと、自惚れじゃなかったら空気を柔らかくしてくれたんだと思う。私はそれに甘えて、くすりと笑った。

 

 そして、恭弥が口を開く。

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