【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第20話 試着室トラブル

「お、これいいんじゃね? ぜひ試着してみてくれ」

「紐水着持って店内うろつけるあんたの気がしれないわ」

 

 せっかく水着コーナーから持ってきたのに、極悪非道な朝日にひったくられ殴られてしまった。似合うと思ったのに。

 

 ブティック。女性ものが置いてあるところに男が入るのは難易度が高いと思春期男子は思うだろうが、俺はそうでもない。薫の買い物に付き合ったり、そもそも俺に羞恥心なんてものは日葵に対して以外存在しないので、下着売り場でも水着売り場でも堂々と練り歩くことができる。お客さんがいい気しないからほとんどしないけど。

 しかし、似合うと思ったんだけどなぁ。

 

「オレンジって朝日似合うと思うんだよな。やっぱり着てみねぇ?」

「オレンジ好きだけど、紐の時点で色なんて関係ないでしょ」

「あ、好きなんだ。やっぱり俺の見る目は間違ってなかったな」

「調子乗んなクズ。大体あんたの意見なんて聞いてないのよ。私は日葵に可愛いって言ってもらうために買いに来たんだから。ね、どっちがいいと思う?」

「秒で意見聞いてんじゃねぇか」

 

 黄色いロゴの入ったTシャツとそれと色違いのオレンジのTシャツ。正直さっきの流れならオレンジに決まってんだろと口汚く罵りたかったが、朝日の中では微妙に違うものがあるのかもしれない。

 

「いや、どっちにしろオレンジだわ。黄色も似合うけど、どっちかしか買わないってんならオレンジ」

「そ。まぁ買わないけど」

「俺の貴重な時間使わせてる自覚あんのか?」

「美少女とデートできてるっていう自覚あるの?」

「あぁ。正直緊張してる」

「無表情で言っても説得力ないわよ」

「まぁ思ってもないこと言ってるしなぁ」

 

 朝日が選んだあとで試着するための服めちゃくちゃ持たされてるし、ついていくって言わなきゃよかったって後悔してるところだ。確かに朝日は美少女だが、日葵と比べるとどうも……つーか俺的には千里の方がかわいい。愛嬌的な問題で。流石にこれを言うとかわいそうなので心の内に秘めておこう。

 

「ちなみに私と織部くん、どっちの方がかわいいって思ってる?」

「千里千里。あ」

 

 最初に刺激されたのは、聴覚。俺の頬から鳴ったパァン! という音。それから一瞬後、ビンタされたということに気づいた。なに、達人なのこいつ? 腕の振りとか見えなかったんだけど。

 

「正直すぎるのよあんた。ここは普通『朝日に決まってるだろ?』って言うとこでしょ?」

「でもお前俺の嘘見破るじゃん」

「思ってもないこと言う時思ってもないこと言ってますみたいな顔してるからでしょ。もっとポーカーフェイス学びなさい」

「朝日も嘘で朝日のがかわいいって言われるの嫌だろ?」

「別に? かわいいって言われるの気分いいじゃない」

 

 ブレねぇなこいつ。

 

 でも褒め言葉をまっすぐ受け止められるっていうのはいいことだ。俺もイケメンって言われるとまっすぐ受け止めるし、褒められたら謙遜なんて一切しない。だって俺イケメンだし。事実を言われてるのに否定するってバカのすることじゃないか?

 

「じゃ、試着するから見張っておいて」

「なにを?」

「かわいい私の着替えを覗こうとするやつがいるかもしれないでしょ」

「あぁなるほど。わかった、料金設定は?」

「金払えばいいってわけじゃないのよドクズ」

 

 朝日は勢いよくカーテンを閉めて俺を視界から消した。

 あれ? 『着替えを無料で覗かせたくないから、お金を受け取っておいて』ってことじゃなかったのか? 女の子って難しいな。朝日くらい可愛くておっぱい大きい女の子なら、着替え覗ける権利なんてめちゃくちゃ高く売れそうなのに。

 

 まぁ朝日はそんな軽い女の子じゃないし、軽く扱っていい女の子でもない。ちなみに俺は朝日の友だちなので安く設定してくれるだろうと信じている。

 

 財布を取り出して中身を確認していると、試着室から朝日が顔だけ出してきた。

 

「あんたなんで一万円私に差し出してるの?」

「え、これで見せてくれるんじゃねぇの?」

「百万円持ってきなさい。そしたら見せてあげてその後殺すわ」

「俺が金払う意味がまったくねぇじゃねぇか」

 

 催促かな? と思って一万円を差し出すとそうではなかったらしい。仕方なく一万円を財布にしまって、「で、どうしたんだ?」と兄貴っぽく優しく微笑む。

 

「あんたそうしてたらモテそうなのにね」

「マジ? ちなみに朝日は惚れる?」

「中身を知ったら速攻でさよなら」

「福袋って買うまでが楽しいもんな」

「あんた自分のこと福袋って言って悲しくならないの?」

「誰が福袋だコラ!」

「情緒どうなってんのよ。それで、ちょっとお願いしたいことが……!」

 

 言葉の途中で朝日が目を見開き、どうしたのかと頭の中に疑問符を浮かべていると、突然朝日に腕を引っ張られて試着室に引きずり込まれた。え、うそ。俺今からおいしくいただかれちゃうわけ?

 

「い、いくらですか」

「静かにしなさい! あといくら積まれても売らないわよ!」

 

 俺は紳士なので朝日を見ないようにじっと朝日の体を見つめながら間違えた。上を見上げ、一瞬で目に焼き付けた朝日の下着姿を、いや見ちゃいない。朝日が一番似合う色の下着をつけていたなんてこと俺は知らない。

 

「一体どうしたんだ? オレンジ色の下着なんて着て」

「引きずり込んだ理由を聞きたいのね。あんた気が動転するとポンコツになるクセ治した方がいいわよ」

「朝日はすぐに手を出すクセを治した方がいい」

 

 自白してしまった俺はわき腹をつねられて悲鳴をあげそうになるが、静かにしなさいと言われた手前鋼の精神でもって悲鳴を抑える。てか静かにしろって言うなら俺に暴力働くなや。大声出すぞ?

 大声出したら俺が捕まるということに気づいた。俺大ピンチじゃん。

 

「で、あんたを引きずり込んだ理由だけど。いたのよ」

「誰が」

「日葵と織部くんが」

「なるほどな。俺は千里を殺せばいいってことか?」

「私もそうしたいところだけど、ちょっと待って」

 

 そうしたいところなのかよ。

 

「……日葵に私とあんたが一緒にいる状況見られたら、どう思われると思う?」

「休みの日、一緒に服を見に来た男女二人。なるほどね?」

 

 つまり、朝日はそう思われることを回避するために俺を引きずり込んだってことか? なんていいやつなんだ。

 ……待てよ。

 

「引きずり込んだらダメじゃん。まだ試着室の前にいたんだったらナンパから助けてボディーガードにって説明できるけど、一緒の試着室に入ってたら終わりじゃん。言い訳しても無駄じゃん」

「…………」

「返す言葉がねぇじゃねぇか」

 

 こいつも俺と同じく気が動転したらポンコツになるのかよ。前から知ってたけど、自分が関わってくるとこうも悪い方向に事を運ぶようになるとは。いつも俺を助けてくれる朝日はどこに行ったんだ?

 っていうか、ちょっとほんとにヤバイ。せめて服着てほしい。ずっと上見てるのきついし、なんなら朝日が引きずり込んだ態勢のまま動かないから柔らかいの当たってるし。こいつほんとにポンコツだな。もしかしたら俺よりポンコツなんじゃねぇの?

 

「朝日、離れて服を着てくれ。このままじゃ俺がマズい」

「あ、ご、ごめん。すぐ着るわね?」

「その間俺が外の様子ちらって見て、隙を見て抜け出す」

「ちょっと、大丈夫なの? このままここで待っておいた方が」

「女の子と試着室にずっといるって、好きな子相手じゃなくても緊張するだろ。大丈夫、俺に任せろ」

 

 意を決してカーテンを少し開け、外を見る。

 

 ちょうど試着室の前を通りがかった千里と目が合った。

 

「え? 恭」

 

 千里の腕を掴んで引きずり込む。大声を出さないように口を塞いで、着替えている朝日が見えないように壁に押さえつけた。

 

「ふぅ、危なかったぜ」

「……!!」

「なにやってんのよあんた!」

「だって! 完全に目が合ったし! テンパるし!」

「織部くん日葵と一緒にきてるのよ? 織部くんがいなくなったら日葵が不思議がるに決まってるじゃない!」

「あ、そうだテメェ! 何日葵と一緒にデートしてやがんだ! おい、何か喋れよ!」

「あんたが口塞いでんのよ!」

 

 あ、そうだった。うっかりしていた俺は潤いのある千里の唇から手を離し、千里の弁明を待つ。

 

「……恭弥だって」

「ん?」

「恭弥だって夏野さん誘うって言って、朝日さんとデートしてるじゃないか」

「……いや、違うんだよ。千里、これはな?」

「朝日さんと遊ぶから僕と一緒に行かなかった。これがどういうことかわからないほど僕はバカじゃない。……まさか、恭弥が僕に嘘つくなんて思ってなかったけど」

「違うんだ、話を聞いてくれ!」

「ねぇ、男二人の修羅場を見せつけられてる下着姿の私に何か言うことない?」

「ごめん! 早く服着てくれ!」

 

 クソ、いつもの千里らしくない。千里ならちゃんと話を聞いてくれるはず。どんなことがあってもまず話を聞いて、それから自分で判断するやつだった。千里から逃げて文芸部室に逃げ込んだあの日でさえ、俺の話をちゃんと聞いてから怒ってた。

 なのに今は話すら聞いてくれない。虫の居所が悪いのか?

 

「千里、落ち着いて話を聞いてくれ。まず、朝日と今日会ったのは偶然なんだ」

「試着室に一緒に入ってたのに?」

「それは全部このアホが悪い」

「それはほんとよ織部くん。私が氷室を引きずり込んだの」

「朝日さんからのアプローチってこと?」

「おい大事なところ端折るな。千里、丁寧に説明するからちゃんと聞いてくれよ」

「……うん」

 

 千里を落ち着かせるように背中を撫でて、順を追って説明していく。

 

「まず、俺は朝日がナンパされていたから仕方なく助けた」

「……ナンパ」

「おう。で、朝日を一人にしておくとまたナンパされてもって思ったから、朝日についていくことにした」

「ついていく」

「それで、朝日が試着するから見張っとけって言われてる時に、朝日が千里と日葵を見つけて俺を試着室に引きずり込んだ。朝日が気を遣って、俺と朝日が一緒にいるところを日葵に見られたら付き合ってるって思われるんじゃないかってな」

「……」

 

 千里がじとっと着替え終わった朝日を見る。朝日は珍しく狼狽えて、「ごめん……」と素直に頭を下げた。うんうん。全部お前が悪いんだからな?

 

「……僕のことは助けてくれなかったのに」

「助けてくれなかった?」

「んーん。ごめん。ちょっと気に入らないことがあったから、気が動転してた。そういうことだったんだね」

 

 流石千里。ちゃんと話を聞いてくれたらわかってくれた。気に入らないことっていうのが気になるが、何かあったんだろうか。親友である千里が嫌な思いをすると俺も嫌な思いになるかと言われればそうでもないが、心配ではある。多分千里もナンパされたとかそんなところだろうから、あえて突っついて思い出させるようなことはしないが。

 

「……ちょっと待てよ。おい千里。お前が日葵と一緒にいる理由はなんなんだ?」

「あ、そうじゃない。返答次第では殺すか沈めるわよ」

「どっちも死ぬと思うんだけど……恭弥たちと一緒だよ」

「一緒て、もしかして日葵がナンパされてたの……? 許せねぇ」

「お前もっと自分が女の子ってこと自覚しろ」

「う、うん。そうそう。夏野さんがね。あはは」

 

 朝日と目を合わせる。織部くんがナンパされたのね。あぁ、間違いない。目で言葉を交わし、頷き合って突っつかないようにしようと決めた。

 

「あ、そうだ、夏野さん。流石にこれ見られるとマズいから、僕が出て行ってそれとなく誘導するね」

「おい気をつけろよ? 俺さっき外見て隙見て出るわっつってお前と目が合ったんだから」

「はは、恭弥じゃあるまいし。そんなことあるわけないじゃないか」

「ここにいるよー」

「外から日葵の声が聞こえてきたんだけど、聞き間違いだと思うか?」

「聞き間違いだと思いたいわね」

「聞こえなかったってことにしたら幸せになれるよ」

「聞き間違いじゃないよー!」

 

 完全にいるじゃん。カーテン挟んですぐそこにいるじゃん。あーあ。俺たちの冒険はここで終わりだ。俺は千里か朝日と結婚して、クズ家族として世界的に有名になってハリウッドデビューするんだ。始まりじゃねぇか。

 

「ねぇ、ここはあんたたちをボコボコにして誰かわからないようにするっていうのはどう?」

「誰かわからないようになるより先に僕らが死ぬに一億ドル。つまりその案は却下だ」

「ここは千里が俺たちの声を出せるっていう特技があるってことにしよう」

「僕出せないからすぐにばれるよ?」

「出せるようになりなさい。声帯引きちぎってあげるから」

「引きちぎってあげるってなんで仕方なくみたいに言ってるんだよ。嫌に決まってるだろ」

「頼む、千里が出て行くしかないんだ。俺と朝日はまだ日葵と会ってないから、どうしても不自然になる」

「ここに光莉の靴あるよー」

「お前何靴なんて履いてきてんだよ」

「文明人らしい生活くらいさせなさいよ」

 

 お前みたいなクズは裸足で歩いとけやボケ。

 

 しっかしマズい。悉く俺たちの作戦が日葵に否定されていく。っていうか日葵遊んでないか? もっと怒っててもよさそうなもんだけど、くすくす笑ってる声聞こえてるし。焦ってる俺たちを笑ってるんじゃないか?

 

「……日葵、笑ってる?」

「……っ、ごめんごめん。全部聞いてたよ。でも私を仲間外れにしたから、ちょっといじめちゃおって思って」

「そ、そういうことだったのね。いくらでもいじめてくれていいのに。あ、危ない。ちょっと、趣味悪いわよ?」

「欲望を言い切ってたぞ」

「危ないどころの騒ぎじゃなかったね」

 

 朝日がカーテンを開けながら欲望を口にし、「私なにも言ってないけど?」みたいな顔で俺たちを見てくる。これ以上何か言うと殺されるので、千里と頷き合って朝日の失言をなかったことにした。

 

「もう、いっつも三人で楽しそうにしてるんだから」

「違うわよ。私はこいつらに巻き込まれてるの」

「でも光莉、二人と一緒にいるとすっごく楽しそうだよ?」

「……否定しないけど、日葵が一番よ」

「ほんと? 嬉しい!」

「見ろ千里。あれがこの世の『美』だ」

「あれが『美』か……」

 

 二人で『美』を鑑賞していると、日葵と朝日の意識がこっちに向いていない時に千里がこっそり話しかけてくる。

 色? オレンジ。そうそう。あれはすごかったね。

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