【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

21 / 192
第21話 下駄箱告白相談

 下駄箱を開けると、一つの手紙。開くと、『今日の放課後、校舎裏で待っています』という文。

 これは、あれだろうか。告白、みたいな。

 

「こういうのって、女の子から男の子にするものなんじゃないの……?」

 

 思わず独り言をぽつりと呟いて、ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

「え? 記事にしていいってことですか?」

「あんたは人の色恋を記事のネタとしか捉えてないの?」

「失礼ながら、朝日先輩に告白なんて面白い方だなと思って」

「ほんとに失礼ねあんた。年下じゃなきゃぶん殴ってたわよ」

「だからってストレス発散に俺を殴るのはやめてもらおうか」

 

 朝、文芸部部室。気が重そうに入ってきた朝日に何があったのかと聞いてみると、『告白っぽい手紙が入っていた』と相談された。つづちゃんの言う通り、朝日に告白しようなんて面白いやつだ。確かに見た目はいいし性格もクズだが根はいいやつで頭もいいから惚れてもおかしくないが、こいつと付き合ったら命がいくつあっても足りやしない。常に受刑者のような気分で過ごさなければいけないだろう。

 

「でも告白って嬉しいものなんじゃないの?」

「嫌よ。忘れたの? 私仲いい相手以外には外面マックスなんだから」

「つまり、本当の自分を知らないくせに告白しようとしてんじゃないわよってことか? テメェが見せてねぇくせに勝手言ってんじゃねぇよボケが」

「違うわよ。断るのに体力いるからに決まってるじゃない」

「結構気遣いますよねー。仮にも自分を好きになってくれた相手ですから、適当には扱えませんし」

「え、つづちゃん告白されたことあんの?」

 

 いや、つづちゃんは可愛いからそりゃあるだろうが、ちょっと性格というより行動がおかしいから一切ないと思ってた。それにどっちかって言うと恋愛相手って言うより庇護対象みたいな感じだし。まぁそこから発展して恋愛感情を持ってもおかしくはないと思うけど。

 

「断るのは確定なんだね」

「当たり前じゃない。日葵との時間を削ってまで男と一緒にいようとなんて思わないわ」

「俺たちと一緒にいる時点でその理論は通じないぞ」

「あんたたちは友だちじゃない。それとこれとは話が違うわ」

「千里。朝日の素直なところ俺すごい好きなんだけど、めちゃくちゃ照れる」

「クズはストレートな好意に弱いからね。おめでとうクズ」

「織部先輩も顔赤くなってますよー」

 

 にやにやと俺たちを見ている朝日から顔を逸らす。クソ、こいつ普通に俺たちのこと友だちとか言ってくるし特別扱いするから照れるんだよ。俺も友だちだと思ってるし特別だとは思ってるけど、口に出されると調子狂う。いつもクズって罵って暴力振るってくるクセに、ストレートに好意伝えてくるとかずるいだろ。

 

 ……もしかして俺もストレートに好意伝えたら朝日照れるんじゃね?

 

「朝日、好きだ」

「隙? あんたに晒す隙なんてないと思うけど」

「失敗したね恭弥。普段の行いが行いだから、君が朝日さんの命を狙ってると思われてる」

「てか隙晒さないって友だちじゃなくね? 安心くらいしろよ」

「男の子と女の子ですからねー。特に先輩たちみたいな男の子相手なら警戒しますよ」

「つづちゃんって実はしっかりしてるな?」

 

 というかこの中で一番しっかりしてるんじゃないか? 変な記事書いても学生生活を問題なく過ごしている……いや、つづちゃんの学生生活を一から百まで全部見たわけじゃないが、毎日ここにきているから問題なく過ごしているんだろう。それができているのなら立ち回りがうまいってことだ。もしくは何を言われても気にしない激つよメンタル。千里にはないものだ。

 

「じゃなくて、あれよ。どう断ったらいいと思う?」

「え? 殴らねぇの?」

「殴るのはあんたと織部くんだけよ」

「恭弥。僕はまかり間違っても朝日さんを好きにならないと誓ったよ」

「告白すると殴られるらしいからな。まぁ俺には日葵がいるから大丈夫だ」

「別に求めてないけど、正面切って好きにならないって言われたらムカつくわね」

 

 朝日が拳を握ったのを見て二人揃って頭を下げる。違うんですよ姉御。へへ、俺らちょっとおふざけが好きでしてね。決して姉御に魅力がないってわけじゃないんでさぁ。

 それにしても、告白される方って確かに困るよな。前日葵が告白された時もめちゃくちゃ困ってたし。される方っていうか断る方か。もし断ったとしてそれがバレて、その相手を好きな女の子がいたら「何アイツ、調子乗ってんじゃないの?」って変な恨みを持たれるかもしれないし。

 

「要するに、波風立てないような断り方したいってことだよな?」

「そうねぇ。相手が誰かもわからないし、先輩とかなら楽に断れるんだけど、同じ学年ならそうもいかないじゃない?」

「それが噂になったりしたらめんどくさいですもんねー」

「逆恨みされたりとかね。そうなったらあんたたちを肉壁にするから問題ないといえば問題ないんだけど」

「『私を守って』とか可愛らしい頼み方できねぇのか」

「僕は薄いから肉壁に向いてないよ」

「お前はさりげなく逃れようとしてんじゃねぇよ。一緒に死ぬぞ」

「いただきました!」

 

 写真を撮られ、記事にされることが決定してしまった。見出しは『美男子カップル、心中宣言!』ってところだろうか。俺近いうちに死ななきゃいけないの?

 

 文句は言ったが、朝日が逆恨みやらなんやらされたら流石に守ろうとは思う。日葵の親友だし、俺の友だちだしいいやつだし。人間一度は経験あるとは思うが、『こいつとは長い付き合いになるな』『こいつめちゃくちゃ波長合うな』って思う人が一人はいるだろう。俺にとってのそれが千里と朝日。そして日葵は一生をかけて愛し抜くと誓った人。キャッ、恥ずかしい!

 

「何頬抑えていやんいやんってしてるのよ。殺すわよ?」

「この程度で殺されたら、俺お前の前で迂闊に動けねぇよ」

「大丈夫。恭弥が殺されそうになったら僕は逃げるから」

「『僕は大丈夫だから安心して』ってことですね。これぞ愛!」

「うるせぇよお前も一緒に死ね」

「いただきました!」

 

 また頂かれてしまった。俺は何度差し上げれば気が済むんだ?

 

「っつーか、ここにきての告白ってやっぱ修学旅行が関係してんのかね?」

「修学旅行終わってから、一緒に回りたかったってなるのが嫌とかあるのかもね」

「私日葵以外と回る気はないわよ。あんたたちはおまけの中のおまけ」

「頂点じゃん! やったな千里!」

「そこで満足するなんて、小さい人間なんですね!」

「つづちゃん。君は先輩をもっと敬った方がいい」

「恭弥を敬うところなんてないでしょ」

 

 あるだろ。イケメンで頭よくて運動神経よくてスタイルよくて性格はいいところを全部打ち消すくらいのクズ。

 つまり敬うところは一つもない。

 

 あーあ、俺も敬ってもらえるような人間になりてぇな。どうすればいいんだろう。後輩に優しく接したら「あの先輩、年下に手を出そうとしてる?」って噂になるだろうし、先輩として貫禄見せようとしたら「あの先輩、偉そうじゃない?」って噂になるだろうし、俺の性格が治らない限り無理な気がしてきた。ってことは一生無理だ。はは、クソだクソ。

 

「はぁ、あんたたちが告白してきたんだったらすぐに断れるのに。織部くんならちょっと怪しいけど」

「恭弥。薫ちゃんには謝っておいてくれ」

「チャンスだと思ってすぐ飛びつくんじゃねぇよ。お前が魚だったらすぐに死ぬぞ」

「織部先輩おいしそうですもんね」

「つづちゃん。二度と僕に近寄らないでほしい」

 

 椅子を引いてつづちゃんから距離をとる千里。立ち上がって千里に近づくつづちゃん。千里は立ち上がってつづちゃんから逃げ出すが、つづちゃんはカメラを構えて千里を追いまわし始めた。

 

「で、どうしたらいいと思う?」

「部室で追いかけっこが始まったのは放置するんだな。まぁ多分千里が酷い目に遭うだけだから俺も構いやしねぇけど」

「構えよ! 僕が後輩においしく頂かれようとしてるんだぞ!」

「魚だけにおいしいネタをってことですね!」

「面白くねぇよ!」

「どうでもいいけど、織部くんって余裕なくなると氷室みたいな口調になるわよね。元からその口調なら男らしくなるのに」

「聖さんに止められてるんだってよ。女の子が強がってるように見えて可愛いからって」

「なるほどね」

 

 いわゆるギャップというやつだ。千里が男らしい口調で喋っていると、今みたいな喋り方をしている時よりも断然目を引く。簡単に言うと可愛さが増す。『僕は男なんだ!』と騒いでいるみたいで可愛くて仕方ないというのは聖さん談。

 

「あ。あんたが私の彼氏ってことにしてやっぱなし。気持ち悪いこと言わないでよ」

「俺何も言ってないのにフラれてひどく傷ついたんだけど?」

「何言ってんのよ。私の誘いを断るっていうとんでもなく苦しいことをさせないであげたのに」

「は? お前の誘いを断んのに何の労力も必要ねぇよ」

 

 俺の足の感覚がなくなった。朝日に踏まれたんだろうってことしかわからない。ちゃんと足がついているか確認するのが怖いので、努めて冷静に振舞おうと思う。

 

「はぁ、はぁ……つ、疲れた。つづちゃん思ったより体力あって必死になってた」

「撮影は体力勝負ですからね!」

「千里。顔赤くしてはぁはぁ言ってるとエロいからすぐに落ち着いてくれ」

「あんたは取り繕うことを覚えなさい。織部くん、気にしないでね。ものすごくえっちよ」

「お前も抑えきれてねぇじゃねぇか」

「朝日さんがえっちって言うとえっちだよね」

 

 こいつも相当じゃねぇか。ものすごくわかるけども。

 

 アホなことを言った千里と深く頷いていた俺が朝日のビンタによって制裁され、一息。そろそろ朝日の相談に乗ろうとしたところで、予鈴が鳴った。

 

「さ、解決したところで教室に行くか」

「そうだね。人の悩みを解決するっていうのは気分がいいなぁ」

「お昼日葵に相談するわね」

「おいおい俺たちは親友だろ? もちろん俺も一緒に相談に乗るさ」

「氷室先輩も魚ならすぐに死にますね」

「夏野さんにいただかれるなら本望じゃない?」

 

 今俺は日葵を利用した朝日につられたんだけどな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。