「え、告白!?」
「かもしれないってだけよ」
「よく考えたら朝日に告白なんて自殺行為だもんな」
「私に喧嘩を売るのも自殺行為だと知りなさい」
昼、屋上、ベンチ、昼食、相談。それは俺が朝日に制裁されたところから始まった。
朝日に「朝呼び出しの手紙が入っていた」と聞かされた日葵はとてもかわいらしくびっくりして、俺も日葵の可愛らしさにびっくりした。なんでこんなに可愛いんだろう。あとなんでこんなに頬が痛いんだろう。これは朝日にビンタされたからだ。
「それで、どう断ったらいいかと思って。こいつらは役立たずだったから日葵に聞こうかなって」
「誰が役立たずだよ。お前が俺たちを活かしきれてないんじゃないのか?」
「あんたたちが私に合わせなさい。この愚図ども」
「はは。愚図だってよ千里」
「どもって言ってるのが聞こえなかったの? そこから君を省くとなると、夏野さんが愚図ってことになるけど」
「は? 俺が愚図に決まってんだろ愚図。調子乗んな」
「そもそも愚図じゃないとかは言わないの?」
流石日葵、その発想はなかった。罵倒され慣れ過ぎてて愚図っていうのを普通に受け入れてしまった。そういえば俺愚図じゃないし。決断するまで早いし。その決断が正解かどうかは別として。
ていうか日葵ってお弁当作ってきてるんだな。……俺に作ってきてくれたりしないかな? いくら積めば作ってきてくれるんだろう。すぐにお金は用意できないから俺の体の一部とかでもいいのかどうか。
「千里、俺の価値ってどれくらいだ?」
「ゴミ」
「ありがとう。お金にするわ」
千里の有難い助言により日葵へお金を献上することが決定した。あとは日葵との交渉……の前に日葵過激派の朝日を通す必要がある。朝日に黙ってお弁当を作ってきてもらってそれがバレたら、朝日が修羅になって俺を八つ裂きにし、日葵が作ってきてくれたお弁当を横取りして平らげる可能性がある。
とんでもねぇやつだぜ。
「うーん、相手がどんな人かもわからないのに断るの?」
「どんな人かもわからないから断るのよ。知らない人と付き合える?」
「ほら、織部くんかもしれないじゃん」
「僕が朝日さんに? ははは、ハーッハッハッハ!」
「殺すわ」
「待て朝日! 千里はただ面白くて笑ってるだけなんだ!」
「恭弥、火に油注いでるよ?」
こら、と千里と二人して日葵からおしかりを受け、「日葵が言うなら仕方ないな」「夏野さんが言うなら仕方ないね」と二人で朝日に謝った。朝日は俺たちを羨ましそうに見ていた。お前日葵から怒られたいの? ふふ、日葵からの「こら」を受けられるのは俺の特権……。
そういえばさっき千里も「こら」って言われてたな。あとで殺しておこう。
「仮に織部くんだったとしても多分断るわよ。普段がこれじゃあね」
「光莉って二人とこうやって遊んでるのに、付き合うってなったらちょっと乙女な感じになりそうだもんねー」
「わかる。男に名前呼びされたら照れるタイプと見た。いけ千里!」
「……」
「死んでる……」
千里に朝日の名前を呼ばせて朝日を照れさせようとして千里を見ると、既に千里は朝日の手によって沈められていた。お前、名前呼ばれたくないからってそこまでする? っていうかやっぱり恥ずかしいんじゃん。ったく、乙女なんだから。
「氷室はともかく、織部くんは表情作るのうまいから照れそうでいやなのよ」
「確かに演技派だもんな。つまり俺なら名前呼びしてもいいってこと?」
「気持ち悪いけどあんたなら別に何も思わないわね」
「気持ち悪いって思ってんじゃねぇか」
気持ち悪いって言われて名前呼びする勇気なんて俺にはない。日葵も「やめときなよ」みたいな目で俺を見てるし、これで朝日の名前を呼んだら日葵を裏切ることになる。それは万死に値する行為であり、俺は自分で自分を許せなくなって自害する。そして英雄として後世まで語り継がれる。
「つか、馬鹿正直に行かなきゃいいんじゃね? 手紙無視すりゃあ相手も察してくれんだろ」
「せっかく勇気出して手紙くれたんだから、誠実に答えたいでしょ? そんなんだからあんたはクズなのよ」
「ほんとに、人の気持ち考えろよ千里」
「僕も同じこと思ってたから甘んじて受け入れるけど、人に押し付けた時点で君の方がクズってことが証明された」
負けた。
にしても、朝日に告白しようとしてるとんでもなく勇気のあるやつっていったい誰なんだろうか。俺と千里がいるせいでクラスメイトには段々化けの皮が剥がれてきてるから、多分クラスメイトじゃない。他のクラスか、もしくは他学年。
いや、もしかしたら化けの皮が剥がれているからこそクラスメイトからか? 本当の朝日って素敵。好き! みたいな。はは。バカじゃね?
「んー、でも光莉が織部くん以外の男の子隣にいるのって想像できないなぁ」
「最近ずっと一緒にいるからってだけでしょ。っていうか付き合わないって言ってるのに」
「千里。なんで俺は選考から漏れたんだと思う?」
「男としての完成度」
「じゃあお前バチボコに低いじゃねぇか」
背中を優しく撫でられた。俺にはわかる。「次はないよ?」ってやつだ、これ。ただの暴力よりよっぽど怖い。俺は今精神を千里に支配された。千里に逆らえない体にされてしまった。
なんかエロくね?
「正面からごめんなさいっていうのが一番いいんじゃない? 大丈夫、光莉に何かあったら私が守ってあげるから!」
「何か起きないかな……」
「守ってもらいたいからって変な断りすんじゃねぇぞ」
「そうなったら僕ら守らないからね」
「あら、守ってくれるつもりだったの?」
「当たり前だろ。友だちなんだから」
「流石に僕らもそこまでクズじゃないよ」
「……」
「あ、光莉照れてる」
「うるさい」
なるほど確かに。こりゃ惚れても仕方ない。
さて。
放課後、校舎裏。案の定見に来ようとした男二人を締め上げて帰らせて、「日葵、一人だと心細いから、隠れて見ててくれない?」と上目遣いで頼むと、「光莉。相手の人は勇気を出して光莉に想いを伝えようとしてるんだから、それを見られるのって嫌がるんじゃないかな」と正義の言葉で殴られ、私は一人で校舎裏にきていた。クズには日葵の言葉がよく効く。
正直、心細いっていうのは本当だ。なんなら恥を忍んであいつらに隠れて見ていてもらうっていうのも考えたくらいだ。だって、男ってのは基本的に信用しちゃいけない生き物で、逆上して何をされるかわかったものじゃない。だから、男であるあの二人に見ていてもらって、万が一の時に助けてもらう。
でも結局、私の方があいつらより強いから恥を優先して帰ってもらった。まったく、情けないわねあいつら。
「ん?」
私を呼んでおいて待たせるなんていい度胸ね。ぶん殴ってやろうかしら? と思っていたその時、相手が校舎裏にやってきた。
綺麗な人だな、と思った。肩まで伸ばした髪に、儚げな瞳に薄い唇に綺麗に通った鼻筋。スカートから伸びた足は長く、身長も日葵より高いくらい。多分167くらいはあるだろう。スレンダーな美人だ。
スカート?
「……」
「きてくれたんやね、朝日さん」
スカート。
「えっと、一応クラスメイトなんやけど、私のことわかる?」
「スカート」
「私のこと衣類って認識してたん?」
スカート。
「……いや、ごめん。そういう世界もあるわよね。気が動転してたわ。えっと、岸さんよね?
岸春乃。クラスメイトで、幼い頃に関西から東京へ引っ越してきたらしく、未だに関西弁が抜けていない明るい子。頭の方がよろしくなく、運動神経は抜群。その程度のことしか知らないが、日葵と織部くん以外に関心がほとんどない氷室よりはマシだろう。
でも、そうか。スカートか。違う、女の子か。うん、まぁ氷室と織部くんがあんな感じだし、同性愛っていうの? そういうのがあるって知ってたけど、まさか自分がその立場になるなんて。
「それで、今日呼んだ理由なんやけど」
「やっぱり胸がいいの?」
「当てつけかコラ。デカいモン持っとる優越感かコラ」
違うらしい。男は私の胸を見てくるから女の子もそうかと思っていたが、となるとどこを好きになってくれたんだろうか。
「うーん、やっぱり顔?」
「……なんか勘違いしてへん?」
「え? どうにかして私を犯そうとしてるんじゃないの?」
「思考回路不思議選手権チャンピオン? そんなわけないやろ」
どうやら私はチャンピオンらしい。明日あいつらに自慢してやろう。
「なんだ。あんな手紙だったから告白と勘違いしちゃった」
「確かにややこしかったかもせんけど、普通犯すって発想なるか?」
「好きになったら犯したいって思うものなんじゃないの?」
「うーん、否定はせんけど……あと、口調素の方でええで」
「あ、知ってるんだ」
「まぁ、それが今日呼びだした理由とも重なるところはあって……」
私の外向けの口調が素じゃないってことを知ってるってことが、呼び出した理由に重なる? どういうことだろうか。私の素の口調に関係すること。えっと、素を出すのは親しい人相手で、つまり私の親しい人に関することってことだろうか。
「氷室くん、なんやけど」
「あぁ、氷室のこと好きなの? やめときなさい」
「やめときなさいって、なんで?」
「……冗談のつもりで言ったんだけど、ほんとなのね」
「こんなん取り繕ってもしゃあないやろ?」
どうやら気持ちのいい性格らしい。氷室ってそういう性格好きそうだからちょっと厄介だ。これを日葵が知るととんでもないことになる。よかった。日葵が帰っててほんとによかった。あの子大人しそうに見えて氷室過激派だから、岸さんが血祭りにあげられるところだった。
「へー、氷室をねぇ。それで、なんで私を? 氷室に直接告白すればいいじゃない」
「言うても氷室くん私のこと知らんやろうしな。ほら、いっつも織部くんと一緒におるやろ? あと時々朝日さんと、そのまた時々夏野さん。知らんやつから告白されても困るやん」
「だから私に氷室との懸け橋になってほしいって? 自分でアプローチしなさいよ」
「するで。でも、氷室くんって織部くんと付き合ってるって噂やろ? 流石に人の男奪おうなんて思われへんし、そこらへんの事実確認しようかなって」
するで。がカッコよすぎる。この子本当に氷室が好きそうだ。きっと日葵が一番なのは変わらないんだろうけど、それでもこの子に対する好感度は大分高くなるに違いない。だって私がこの子のこと好きになってるんだもん。氷室も同じに違いない。認めたくはないが、私とあいつは似てるから。
……私は、なんて答えるべきだろうか。日葵のことを考えるならここで氷室と織部くんが付き合ってるって答えて、岸さんに諦めさせるのが一番いい。もし付き合ってないってことがバレたとしても、私が岸さんに恨まれるだけ。
「ねぇ、なんで氷室が好きなのか聞いてもいい?」
「氷室くんってまったく自分を飾らんやろ? そういう人めっちゃ好きやねん」
なるほどね。確かに自分を飾らないっていう点においてはあいつは頂点だ。飾らないっていうのが好みのタイプっていうならこれ以上ない相手だろう。
「それに、おもろいし。……漫画ドラマ映画みたいに特別な出会いでもなんでもないけど、それでも氷室くんのこと好きになってもうたから。頑張れるなら頑張りたい」
「付き合ってないわよ、あいつら」
こんな真っすぐに氷室のことが好きだって言っている子に嘘をつけなんてできるわけがない。
大丈夫。日葵が氷室を取られることはない。私は、日葵が好きな氷室を信じる。
「言っとくけど、サポートはしないわよ」
「もしかして、朝日さんって氷室くんのこと好きなん?」
「友だちとしてはね。あと、光莉って呼んでいいわよ」
「……じゃあ私のことも春乃って呼んで、光莉!」
はい、かわいい。
氷室がこの子に惚れたら、氷室をボコボコにしてやろう。それから私が日葵を慰めて、うふふのふである。
「さぁ千里。岸が俺のこと好きだって盗み聞きしてしまった哀れな俺に何か助言をくれ」
「刺されて死んじまえ」
「ふっ、モテる男は辛いぜ」
校舎裏、朝日と岸からは見えない場所。そこで俺と千里は二人の会話を盗み聞きしていた。俺の名前が出た時点で「お?」と思ったが、ここで下手に動くとバレる可能性があったためじっとしていると、まさかの俺が好きだという言葉。
「ほんとに辛いよね。好きなタイプだからって落ちちゃだめだよ」
「ほんとにな。岸めっちゃ好きな性格だわ俺。日葵のが好きだけど」
あぁいう気持ちのいい性格は大好きだ。それは日葵もそうだし、千里もそうだし朝日もそうだしつづちゃんもそう。俺の周りは気持ちのいい性格の人で溢れている。
そんな子が俺に好意を持ってるって知ったら、日葵一筋だと決めていても動揺するのは仕方ない。仕方ないって思ってほしい。だって俺男の子だし。
「ま、誠実に向き合いなよ。僕は馬に蹴られて死にたくないから傍観するよ」
「頼む千里。俺には(俺を助けてくれそうな人が)お前しかないんだ」
「仕方ないなぁ。親友だからね。何かあったら助けるよ」
チョロいぜ。