【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第23話 氷室クイズ

「おはよう!」

「お、おはよう」

 

 岸が俺を好きだと聞いた次の日。朝のホームルームを終えた俺の席に岸がやってきた。太陽のような笑顔を浮かべる岸に、クズの俺は眩しくて直視できず目を逸らしてしまう。別に俺のことが好きな女の子と話すのが恥ずかしいから目を逸らすわけじゃない。決してそんなことはない。

 

「えーっと、私の名前覚えてる?」

 

 ここで覚えてないと突き放しても、岸が悲しい思いをするだけだ。いくら興味ないっていうことを示してもこの子は諦めないだろう。昨日の会話を聞いただけだがそれくらいのことはわかる。っていうか興味ないなんてことないし。俺、岸にめちゃくちゃ興味津々だし。

 

「岸だろ。岸春乃」

「わ、覚えててくれたんや!」

「当たり前だろ? クラスメイトの顔と名前くらい覚えてるって」

 

 これは嘘。話したこともないやつの名前は全然覚えてない。薄情とかそんなんじゃなく、ただ話すこともないのに名前覚えても無駄だろうって思うからだ。薄情じゃねぇか。

 でも、岸はまだ覚えてる方だった。金の髪は目立つし、背が高いし美人だし、指定よりスカートを短くしてるから目に毒だ。性欲を隠すことを知らない男どもは岸の脚をちらちらと盗み見ている。そういう視線、女の子は敏感だから気を付けるんだぞ?

 

「どうしたん? 私の脚見て」

 

 ほらな。

 

「あぁ、綺麗だなって思ってな。よっぽど自信あるんだな」

「肌見せられるんは若いうちだけやしな。自分で言うのもなんやけど見苦しいもんやないし!」

 

 見苦しいどころか美しい。脚が長いってそれだけで綺麗に見えるのに、シミ一つなく程よく筋肉がついていて、それでいて触ったら気持ちいいんだろうな、と見た目でわかる柔らかさがある。

 

 俺キショくね?

 

「春乃、気をつけなさいよ。そいつ女の子をいやらしい目で見るから」

「むしろ俺にいやらしい目で見られることをありがたく思え」

「私は女として自信持てるし、別に悪い気せんけどなぁ」

「朝日。どうやら岸は今からパンツを見せてくれるらしい」

「よかったわね。入るお墓は決まってるの?」

「俺を殺した後のことを心配してんじゃねぇよ」

「別に見せてもええで?」

 

 え゜、と間抜けな声を出して岸を見ると、スカートの端をつまんでひらひらさせ、にやにやしながら俺を見ていた。

 見せてもええで? それはつまりパンツを? 岸みたいな美人な女の子が?

 待て待て、これは罠だ。俺が飛びついた瞬間笑いものにするに違いない。その時はなぜかドキドキしている朝日も笑いものになる。つまり俺と朝日が『岸のパンツに夢中になったド変態』としてこの先の学生生活を過ごさなければならない。

 

「ふ、冗談だよ。お前のパンツになんか興味ねぇっての」

「……そっか!」

 

 明るく笑う岸に、そういやこいつ俺のこと好きなんだよな、ということを思い出す。ってことは今のは自分をそういう目で見てくれてるかどうか確かめるやつだったんじゃないのか? それを今興味ないって言っちゃったのはかわいそうなことなんじゃないのか? いやでも男なら誰でもこう答えるだろ。ここで飛びつくやつは性犯罪者だけだ。俺は正しい行動をした。

 それに、今まであまり会話したことがない俺に対して、「見せてもええで?」って言ってきた岸の方がおかしい。俺はおかしくない。俺は悪くない。

 

「これでも見た目には自信あるんやけどなぁ。興味ないかー」

 

 口の先を尖らせて、「私不満です」とアピールする岸。

 

 ずるい。岸が俺に好意を持ってるって知ってるから変な罪悪感がある。それを知ってなきゃ「は? 日葵以下のゴミがほざいてんじゃねぇぞ」って吐き捨てるところなんだけど、俺は正直な人間だから自分のことが好きな人を雑に扱えない。そんなお目が高い人間の価値なんてオメガ高いに決まってるから。これは面白くない。

 

「男の子って美人さんのそーいうやつ見たいって思わへんの?」

「俺はそこらの猿とは違うんだよ。紳士の中の紳士。ジェントルマンオブジェントルマン。愛した人のものしか興味ないのさ」

「おっぱい触らせてあげましょうか?」

「はい!!」

「こういうやつよ、こいつは」

「あはは! ええやん可愛くて!」

 

 見事に釣られてしまった。このクソ野郎、「おっぱい触らせてあげましょうか?」って言ったからクラスの男子のほとんどが朝日の方見たことに気づいてねぇのか。もっと自分の体大事にしろよ。千里でさえも口パクで「もしかして僕に対して言ってた?」って聞いてきてるし。んなわけねぇだろ女顔。

 

「おい、可愛いっていうのは千里相手だけにしろ。俺はイケメンすぎてもはや芸術の域に突入してるほどのイケメンだ」

「確かに。氷室くんカッコいいもんなぁ」

「……」

「照れてんじゃないわよ」

「だって。俺普段罵倒されてばっかだから……」

「はぁ? ひどいやつがいたものね。私がなんとかしましょうか?この生きる価値のない塵芥」

「筆頭がお前だよ同じ穴の狢」

「……二人とも仲ええんやなぁ」

 

 羨むような岸の言葉に、二人顔を見合わせて同時に鼻で笑う。そして二人同時に肩を竦めて「やれやれ」と首を横に振ると、二人同時にお互いを指した。

 

「「こいつとはありえない」」

「双子でもそんなピッタリ行動合わんわ。仲の良さぶつけて疎外感与える攻撃でもしてんのか?」

「恭弥が浮気したと聞いて」

「あ、本妻や」

「やれやれ、行動と言動がぴったり合ったくらいで恭弥と仲良しなんて。僕は恭弥とアイコンタクトできるし、恭弥の考えてることなんて手に取るようにわかる」

「私もなんとなくわかるわよ」

「僕は完璧にわかるって言ってんだよ!!」

「なぁ岸。こいつら何で喧嘩してんの?」

「氷室くんのことで喧嘩してるんやで。今のところ織部くんが一方的に喧嘩売ってるだけやけど」

 

 千里俺のこと好きすぎないか? わざわざそんなことで張り合わなくてもいいのに。っていうか張り合ってほしくない。教室でそんな張り合いされたらますます俺と千里が付き合ってる疑惑が深まっていってしまう。

 

「そこまで言うなら恭弥の歩く時のクセを答えてもらおうか!」

「そこまで言ってないわよ。氷室は歩く時、時々すり足するクセがあるのよね。右足の方が比率高くて、大体地面を蹴るように擦るわ」

「恭弥の性格!」

「クズ。でも根っこまでクズじゃなくて、自分の知ってる人が危ない目に遭ってたらめんどくさいと思っててもなんだかんだ助けにきちゃう。あと純情、初心」

「ふむふむ」

「おい岸、何勉強してんの?」

「や、氷室くんと仲良くなるなら聞いといた方がええかなーって」

 

 まぁ確かに、千里は俺以上に俺のこと知ってるし、なぜか朝日も俺のこと理解してるみたいだし、この言い合いを聞いていれば俺のことは理解できるだろう。つかシンプルに恥ずかしいんだけど。クズだけでいいじゃん。根っこまでクズじゃないとか、純情とか初心とか言わなくていいじゃん。俺いい風に言われるの慣れてないんだよ。

 

「恭弥が性欲を向ける割合!」

「織部くん7割私に2割、あと1割はその他」

「氷室くん?」

「岸、想像してみてほしい。お前が男で、同性のめっちゃくちゃ可愛い親友がいて、女の子じゃないからお触りオッケー。変なこと考えるなって方が無理じゃないか?」

「氷室くんは悪くないな」

「そうだろ?」

 

 俺は常日頃から日葵とえっちしたいって言ってるが、それは性欲どうこうじゃなくもっと尊いものであり、薄汚れた性欲を向けているのは千里と朝日に対してが多い。千里に関しては不可抗力で、朝日に関してはがっつり性欲を向けている。バレてるとは思ってなかったけど。

 ていうかこれ日葵にも聞かれてるんだよな? マズくね? すぐ止めないといけないんじゃね? でも俺のこと理解してくれてるってのが気分いいから、止めることを躊躇してしまう。恥ずかしいが、気分がいい。

 

「──小さい時の恭弥の夢は?」

 

 さてどうしようかな、と考えていると、言い合っている二人に割り込んできた声があった。

 

 穏やかな、女神のような笑顔を浮かべている日葵、参戦。

 

「……それは、聞いたことがないな。どうせ恭弥のことだからサッカーボールの黒い部分とかじゃないの?」

「お前は俺のことをなんだと思ってるんだ?」

「フケ」

「朝日は俺のことをこき下ろしたいだけだろ。フケってお前」

「ん-、ここは意外に大黒柱とかちゃう?」

「岸さん正解。恭弥は家族のことが大好きだから、自分でも家庭を持って、なおかつ相手の家族と自分の家族を一度に養えるような、立派な柱になりたいって言ってたんだよ」

「子どもの頃のこいつは可愛かったんでしょうね」

「立派な子どもじゃないか」

「やった、あたった!」

 

 俺そんなこと言ってたの? 親感動して泣くだろそんなの。そんで俺がこんな風に成長しちゃったから親悲しくて泣くだろ。俺が本当にそんな夢を持っていたとしたら、今の両親の俺に対する雑な扱いも受け入れるしかない。

 

「恭弥が小さい時に言ってた、五十音の中で一番好きな一文字は?」

「え? おっぱいじゃないの?」

「パンツに決まってるじゃない」

「一文字つってんだろバカども。あとなんで自信満々なんだよ」

「ん、とか?」

「正解は『ひ』。……私の名前の最初の文字で、『ひ』って言うと口が笑顔の形になるからって」

 

 俺は机に頭を打ち付けた。俺そんな恥ずかしいこと言ってたの? 純粋激クサボーイじゃねぇか。よかった。そのまま成長してたらクサいセリフばっか吐くキザマシーンになってた。黒歴史、完全な黒歴史。日葵は俺を辱め殺したいんだ。きっとそうだ。

 一番好きな一文字を『ひ』って日葵に言ったのは、その頃の俺の精一杯の愛情表現だったんだろう。遠回しだしキザだしクサいし恥ずかしいし最悪だ。俺は死ぬ。誰の目にも触れないところでひっそりと死んでやる。

 

「じゃあ最後。恭弥が今までで一番名前を呼んだことがある人は?」

「僕」

「織部くん」

「織部くん」

「よく考えろよ。高校だぞ。出会いは高校だぞ?」

「私は私だと思うな。恭弥、正解は?」

「俺に聞くのかよ」

 

 えぇ、俺が今まで一番名前を呼んだことがある人? 日葵は話さないようになってからの期間が長いし、千里は高校からだし、日葵の名前は他の人相手でも出している時はあるが、それでも一番と言っていいかどうか。

 

「あ。薫だ」

「……」

「うん、単純に薫が一番多い。家で死ぬほど呼んでるしな。ウザがれるけど」

「なーなー、薫ちゃんって誰?」

「恭弥の妹」

「なるほど、氷室くんはシスコン」

「ここまで妹と仲のいい兄貴って見たことないわよね」

「うー、薫ちゃんに負けた!」

 

 え、日葵負けて悔しいの? それってどういうこと? 俺のこと好きなの?

 

 いや、そんなはずはない。日葵は俺みたいなやつを好きにならないし、俺のことを好きになるなら朝日のことを好きになるはずだ。期待するな。

 

 ……でも、俺の話題に積極的に割り込んできたし、ちょっとは期待してもいいのかな?


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