【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第28話 スから始まってワールドで終わるワールド

「俺は右のベッドで千里は右のベッドな」

「同じベッドに聞こえたんだけど気のせい?」

「あぁ、悪い。ホテルで同じ部屋に入ったからセックスするのかと思った」

「二度と僕に話しかけるな」

 

 大阪につき、宿泊するホテルに入った途端俺たちの友情は終わりを告げた。

 

 大阪。普通に生活しているだけで笑いが身に付き、喋りも自然とうまくなる笑いの聖地。岸も確か大阪出身だったから、修学旅行というよりは里帰りに近いだろう。

 雰囲気はガチャガチャしてるというか、元気というか、岸みたいな喋り方の人がめちゃくちゃいる。方言なんだからそりゃそうだとは思うが、違う国の言葉みたいでちょっと慣れない。テレビでよく聞く関西弁でこれなんだから、沖縄とか九州とかにいったらもう違う国の言葉みたいじゃなくて違う国の言葉なんだろうな。

 

「……千里。関西弁で喋ってみてくんね?」

「なんで?」

「ほら、よく言うだろ? 方言使う子は可愛いって」

「方言のイントネーションなんかすぐにマスターできるわけないやろ? 大体のことはなんでもできるけど、すぐにできるわけちゃうんやから」

「人はお前を天才と呼ぶ」

「恐縮です」

 

 まぁほとんどイントネーション真似るだけだからね。と千里は完璧に関西弁を披露した。なんだろう、この、関西弁の破壊力。一気に親しみが出るというか、距離が近くなったというか、日葵も喋ってくんねぇかな。多分エセになって関西人が怒ってそれでもなお日葵は可愛いんだろうけど。

 

「そういや千里、プール行くっつってたけどちゃんと上持ってきたか?」

「僕この顔と体で十数年生きてるんだよ? 流石に持ってきてる」

 

 大阪にはアミューズメントプールとめちゃ広温泉が一つになったとんでもない施設がある。なんつったっけ。スウィートラブワールド? とにかくスから始まってワールドで終わる名前だった気がする。

 で、プールに入るってなったら問題は千里だ。千里はこんな顔と体をしてるからまず間違いなく女の子と間違われる。男風呂なら下も見えるし問題ないと言えば問題ないのだが、プールは隠すこと前提。下だけ隠していると、上を隠していない女の子と思われてしまい、変態に襲われてしまうかもしれない。そうじゃなくても、気持ちの悪い目で見られてしまう。

 

 というわけで、千里はラッシュガードを着用しなければならないってわけだ。

 

「脱衣所とか憂鬱なんだよね……僕が脱ぐまで、というか脱いでからもじろじろ見られるし」

「ここは俺が近くでガン見することでもはや気にしなくなるっていう作戦はどうだ?」

「それはちょっと恥ずかしいかな。気持ち悪いし」

「ん-、無理しなくてもいいんだぞ? 他に行くところなんていくらでもあるし」

「いや、絶対に行く」

 

 着替えと水着の入ったバッグを手に、千里は綺麗な笑顔を俺に向けた。

 

「女の子の水着姿が見られるなら、僕は変態に魂だって売るさ」

「それでこそ俺の親友だ」

 

 でも日葵の水着姿見たらぶっ殺すぞ、と釘を刺すと、「それは無理でしょ」と返ってきた。俺も無理だと思う。

 

 

 

 

 

「女の子の分は男が出すものだから、ここは俺に任せろ」

「君が五人分のお金を払おうとしてる理由を説明してもらおうか」

「お前男か女か怪しいから、現時点では女だと判断した」

「異議なしよ」

「ほな着替えは私たちと一緒やな」

「ホテルも私たちの部屋にくる?」

「千里、お前は男だ」

 

 日葵が千里を部屋に誘い始めたので、千里の分を除いて券売機に金を突っ込む。そのまま四人分の券を買って、一枚ずつ女子三人に手渡した。

 

「え、ほんとに買っちゃったの? ちょっと待って、払うね」

「いいのよ日葵。男が甲斐性見せようとしてるんだから、黙って受け取るのが女のマナーよ」

「これ適当言うてるだけで、お金浮くから喜んでるだけやで」

「そんなわけないじゃない。ちなみに私は人にものを奢るやつのことを心底バカだと思ってるわ」

「ひ、光莉! 買ってもらったんだからそんなこと言わないの! ごめんね、ありがと。恭弥」

「恭弥が死んだ」

 

 日葵からの「ありがと」を受けて俺は一瞬意識を失った。危ない。三途の川で潜水してたぞ今。ところで三途の川を渡らずに潜水して溺死したらどうなるんだろう?

 

「気にすんな。女の子はおしゃれにお金かかってるんだから、その分を男がデート代払うのは当然だろ」

「ちなみにこのセリフ、さっきホテルで『これ言ったらカッコよくね?』って何度も練り直したセリフだよ」

「ちょっとカッコいいって思っちゃったじゃない。あんた時々そういうこと言うから嘘かほんとかわかんないのよ」

「練り直したってだけでほんまに思ってるかもせんで?」

「恭弥優しいから。うん、ちゃんとカッコいいよ」

「恭弥が再び死んだ」

 

 日葵から「カッコいい」と言って貰えた俺は確実に一度死んだ。俺の命はどうやら知らない間にバーゲンセールされているらしい。死人どもがこぞって俺の命を買いに来ている。俺の命は日葵に奉げると決めているため、死人どもに買われないよう俺の命に『SOLD OUT』の値札を貼り付けて、現世へ舞い戻った。

 

「でも、お金大丈夫なの? あんた、その理論で行くとこの先ずっと奢りよ?」

「朝日からその心配されるとは思ってなかったな。まぁ大丈夫だよ。俺怪しい稼ぎがあるんだ」

「それもしほんまにあっても言うたらあかんやつやで」

「本当のこと言うと、親の金使って株やらされてるんだよ。当たればその分け前の何割かもらえるんだ。俺の両親はバカだから天才である俺に頼るしかない」

「一回めちゃくちゃ負けて僕に泣きついてこなかったっけ?」

「あ、一年の秋くらい? あの時恭弥すごく痩せてたもんね」

「へぇ。めちゃくちゃ面白いわね」

「俺の不幸がそんなに面白いのか?」

 

 あの時はすごかった。俺と両親で家族会議を行い、薫には内緒にすることを決めて、負けた分を取り返そうと株を必死に勉強し、結局父さんが運で取り返した。俺必要ねぇじゃねぇか。

 なぜ高校生の俺が株をやらされるか、それを両親に聞いたところ、「恭弥が普通に社会で生きていける姿が想像できないから」らしい。つまり、働かずに生きていける方法を教えてくれているというわけだ。立派な両親だぜ。腸が煮えくり返る思いだ。

 

 受付を通り、靴を脱いで入ろうとすると朝日が俺を連れて他の三人から距離をとった。何事と耳を傾けると、朝日が顔を近づけて俺の耳元でぽそりと囁く。

 

「靴脱ぐ姿っていいわよね」

「とてもいい」

 

 俺と朝日は握手をした後、二人で靴を脱いで館内に入った。どうやら俺と朝日は性癖も似通っているらしい。

 

「なんか俺めっちゃ見られてね?」

「美少女四人連れ歩いてるからちゃう? この色男」

「僕、周りの人殺してくるね」

「あんたメスにしか見えないのよ。諦めなさい」

「お、織部くんはちゃんと男の子だよ! 男の子!」

「どこらへんが?」

「……生物学、的には」

「それ以外は女の子にしか見えないってことだね。ありがとう。この中じゃ夏野さんの言葉が一番信用できるよ」

「つまり殺人を決意したってわけか。止めるぞお前ら」

「もう春乃が抱き上げてるわよ」

「哀れ」

 

 殺人衝動に駆られた千里が岸に抱え上げられ、羞恥に顔を赤く染めてその顔を両手で隠している。女の子と間違えられている男が女の子に抱え上げられ、それを周りから見られるなんて恥ずかしいなんてもんじゃないだろう。男としてのプライドがぐちゃぐちゃにされてしまっている。

 

「ここカラオケとか卓球とかもあるんだね」

「ゲームセンターもあるみたいね。あとで氷室抜きでやりましょうか」

「壮絶ないじめだ。千里、なんとかしてくれ」

「岸さんに抱え上げられてるこの現状をなんとかしてくれ」

「千里は渡さんで」

「日葵、あそこにクレーンゲームあるぞ。なんか欲しいものあるか?」

「ほんとだ。えーっと、なんかあの、ぽやぽやした犬!」

「朝日さん。君は僕を見捨てないよね?」

「ぽやぽやしたって可愛すぎでしょ。仕方ないから右腕を捧げるわ」

「じゃあ朝日の右腕でクレーンゲームするか」

「だめだ岸さん。こいつらサイコすぎる」

「もうほぼ犯罪者やん」

 

 俺と朝日が協力してなんとか朝日の右腕を取ろうとしていると、日葵が慌てて止めに入った。朝日が日葵に右腕を捧げたいって言ってるから協力してただけなのに、日葵は慌てんぼうだな。俺と朝日は揃って肩を竦め、やれやれと首を横に振った。

 朝日の右腕でクレーンゲームができなくなった俺たちは、男と女に分かれ脱衣所へ向かう。

 

「先にプールで待ってるからな」

「私たちが先に待つわ。勝負よ!」

「ナンパされたらめんどくせぇだろ。いいから俺らを待たせるくらいのつもりでゆっくりこい」

「……」

「光莉が時折みせる氷室くんの優しさにやられた!」

「恭弥のあほ」

 

 日葵からの「あほ」という言葉に撃ち抜かれ、倒れた俺を千里が引きずる形で脱衣所に入る。

 

 脱衣所から男性風呂に直接行けるようになっており、脱衣所の中にエレベーターがあってそこからプールにも行ける。すべてはここで完結すると言っても過言じゃない。

 

 さて。

 

「やっぱ見られてるな」

「恭弥、背中に隠れていい?」

「お前そんなことするから間違えられるんだぞ」

「怖いものは怖いだろ」

 

 まぁめちゃくちゃいやらしい目で見てきてるしな。『あれ、女の子が男の脱衣所に? いや、そんなはずない。でもあんなに可愛いのに男のはずもない。っていうことはそういう趣味か? お近づきになってもいいのかな?』って思ってるにおいがプンプンするぜ。

 

「逆に堂々としても、それはそれで結局見られるしなぁ」

「なんで僕が男だってわかっても見てくるんだろう」

「合法的だからだろ」

「後ろ暗い言い方はやめてくれない?」

 

 できるだけ人がいない方に移動して、端っこの方のロッカーを使う。千里に気を遣って千里に背を向けながら服を脱ぎ、水着に早着替えした。俺の無駄な特技、早着替え。特に脱ぐのが早い。男らしくて困るぜ。

 

「こっち向かないでね?」

「いちいち確認してくるな。興奮するだろ?」

「興奮するなよ」

「じゃあ衣擦れの音聞かすのやめてくれ。艶めかしいんだよお前」

「出るんだから仕方ないでしょ?」

「興奮するんだから仕方ないでしょ?」

「仕方なくないよ。大罪人め」

 

 ……今振り向いたらどんな格好してるんだろ。別に男同士だしいいよな? ちゃんとついてるかどうかも怪しいし、その確認だけ。もし女の子だったらここに入ってきちゃいけないし、うん。ちょっと見るだけ。せーので、せーので見よう。

 

「せーの!」

 

 振り向いた俺の視界を、一枚の布が塞いだ。匂いでわかる。これは、今日千里が来ていた服。脳を犯すこの甘い香り、間違いない。

 

「ばか。こっち向かないでって言ったでしょ?」

「俺と結婚してくれ」

「悪くないかもね。ぜひ死んでくれ」

「めちゃくちゃ嫌がってるじゃねぇか」

 

 千里の服を顔からどけると、既に水着へ着替えていた。性的だった。


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