【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第29話 水着姿を褒めるのは難しい

 女性陣より一足早くプールに到着した。競技用プールなんてものはなく、ただ浮いているだけで緩やかに流れていくことができる流れるプール、各所に設けられている水を用いたアトラクション。ここから見える限りでは浮き輪のボートに乗った水上のジェットコースターみたいなのが見える。

 

「あれに俺と千里が乗ったら、確実にとんでもないことが起きるな」

「絶対にやめとこうね。君のものを咥えるなんてハメになったら僕は死ぬ」

「ハメ?」

「まずは君を殺す」

 

 踏み込んで殴ってこようとした千里は、下が濡れているからか足を滑らせて俺の方に倒れこんできた。千里が地面に倒れないように腕を取って、空いた手を腰に回しこけた勢いを殺しながらしっかり受け止める。

 

「うわー。殺されてしまうー」

「クソムカつく。朝日さんに言いつけてやる」

「朝日は濡れた地面なんて関係なく俺を殺せるだろうからやめてくれ」

「実践してあげましょうか?」

 

 化け物の声が聞こえたので振り返ってみると、そこにはオフショルダーのオレンジ色の水着を着た朝日がいた。

 腕の中にいる千里を見る。

 朝日を見る。

 

「ふっ」

「私が織部くんに負けてるって言いたいのね? オフショルダーよ? おっぱい大きいのよ?」

「どんだけ見た目よくても性格のクズさが透けて見えるんだよ」

「私の方が勝ってるって認めたら、好きなだけ見ていいわよ」

「朝日の優勝!」

「隙あり」

 

 千里から離れて朝日の方を振り向いてサムズアップすると、目から色を消した朝日のビンタによって制裁されてしまった。漁船の主かよこいつ。釣りうますぎねぇか?

 

「朝日さん、綺麗だね。ちょっと目のやり場に困るけど」

「見なさい氷室。これが模範解答よ」

「こいつ、さっきの好きなだけ見ていいって発言聞いて、最初から褒めりゃ好きなだけ見ていいんでしょ? って解釈してるだけだぞ」

「言っとくけど3秒以上見たら殺すわよ」

「は? 話が違うじゃないかクソアマ」

 

 千里も俺と同じくビンタによって制裁された。お前ほんとそういうとこだぞ。なんでそんないらないところだけ男らしいんだよ。お前の男らしさ性欲だけかよ。

 

 まぁ、ふざけてはいるが朝日は文句なしに綺麗で可愛いと思う。身内びいきもあると思うが、そこら辺で泳いでいる女の子より断然朝日が勝ってる。改めて思うが、俺の周りの女の子ってレベル高くね? それはつまり俺の男としてのレベルが高いことの証明じゃね?

 

「そういえば、なんで朝日さんだけ先に来てるの?」

「そうだ。お前のことだから日葵の着替え見たいと思ってたのに」

「バカね。日葵の水着見るなら、一番最初はプールでがいいに決まってるでしょ。楽しみにしたいじゃない」

「お前着替える日葵と一緒にいたら衝動が抑えきれないだけだろ」

「ふふ、図星よ」

「恭弥。早く朝日さんを病院に連れて行った方がいい」

「これ以上は日葵が危ないかもな」

 

 かくいう俺も千里と一緒にいたら危ない感じはあるのだが、自分のことは棚にあげさせてもらおう。第一、千里が悪いんだよ。なんでこんなメスなんだこいつ。千里のことだから気づいてるだろうけど、周りにいる男がお前のことめちゃくちゃ見てるぞ。朝日はさっきのビンタのせいで怖がられてるぞ。

 

「っていうか、あんたも人のこと言えないでしょ? 日葵の水着姿なんて耐えられるわけないじゃない」

「上等だコラ。俺の鋼の精神見せてやるよ。もし耐えられないと思ったらあの怖そうな水のジェットコースターお前と一緒に乗ってやる」

「なんであんたがご褒美で私が罰ゲームなのよ」

「千里、ご褒美の意味って地獄と同じ意味だっけ?」

「難しいところだね」

「黄泉の国へのジェットコースターに乗せてあげるわ」

 

 どうやら俺は日葵の水着姿に耐えられなかったら朝日に殺されるらしい。浮き輪ボートの上で死ぬ俺。恐らくカッコいいに違いない。遺影はそれにしてもらおう。ははっ、浮き輪ボートの上で死ぬ写真が遺影なんて、イエーイって感じだな。おもしろいおもしろい。

 

 それにしても、中々出てこない。女の子の着替えは時間がかかると言ったり言わなかったりするが、かかりすぎじゃないかと思う。まぁ日葵だし、俺のことを好きになってくれた岸だし、何があっても許すつもりではあるが。幼馴染と俺を好きになる確かな目。大事にしなければ男じゃない。

 

「朝日。二人とも遅くね?」

「どうせ恥ずかしがってるんでしょ。男の子に水着姿見せるのって結構勇気いるものよ」

「それはつまり、朝日さんは僕たちを男だと意識してないってことだね?」

「女の子とゴミ」

「おいおい。俺のどこが女の子なんだよ」

「黙れ」

「黙れ?」

 

 お前から喧嘩売ってきといて黙れってなんだよ。俺そんなにおかしなこと言ったか? あと女の子って言われてむっとしてる千里。かわいいからやめなさい。お前そんなんだから女の子って言われるんだよ。

 

「んなこと言って、実は恥ずかしいんじゃねぇの? 朝日も女の子だからな。しかもそんな肌見せる水着、恥ずかしくないはずがない」

「私の肌に恥ずかしいところなんてあるはずないでしょ?」

「アハハハハハハ!!」

「おい朝日。あんまりおもしろいこと言うなよ。千里が爆笑してるだろ?」

「あんたたちこそ私のこと女の子だと思ってないでしょ?」

 

 ごめ、ごめん、なさい……と言っている千里を締め上げながら、じとっと俺を見る朝日。親友の死を悟りながら、俺は朝日のおっぱいを見ながら言った。

 

「立派な女の子だ」

「うんうんって頷いて納得してるところ悪いけど、しっかり殺すわね」

「見ていいって言ってたじゃん!」

 

 拳を握り振りかぶる朝日から必死に逃げようと背を向ける。あいつシャレになんねぇ。グーって絶対痛いだろ。グーはダメだろ。俺なんでプールに来てグーで殴られなきゃいけないの? 心当たりは死ぬほどあるが、納得いかない。

 

「プールサイドで走っちゃいけませんって習わなかったの?」

「プールサイドで殺人しちゃいけません!」

「それは習わなかったわ」

「じゃあお前は人として失格だ! 習わなくてもわかるんだよ!」

 

 まさか身近に殺人鬼がいるとは思わなかった。こいつはただの日葵が好きな変態でクズだと思ってたのに。大体おっぱい見たからってなんなんだよ。出してるくせに見るなってめちゃくちゃじゃね? 俺やっぱり悪くないだろ。クソ、揉んでやろうか。

 

 揉んだら本気で殺されそうなのでやめておこう。しっかりそれを胸に刻んで頷いていると、朝日に捕まった。

 

「あら、あんた意外といい筋肉してるのね」

「ここは俺のいい筋肉に免じて許してくれ」

「織部くんに分けてあげなさい」

「分けられるなら分けてやりてぇよ」

「恭弥、朝日さん」

「ち、千里? お前、朝日に殺されたはずじゃ」

「あっち見て」

 

 絞め殺されたはずの千里が側に立って指さす方向を朝日と一緒に見る。

 

 日葵と岸がいた。ヤバかった。

 

「さ、地獄行きのジェットコースターに行こう」

「仕方ないわね。織部くん、説明頼んだわよ」

「恭弥。日葵さんと岸さんと僕を残していくと、ナンパされるかもしれないよ?」

 

 日葵の水着姿に耐えきれそうにもなかった俺は、朝日と一緒に逃げようとした自分をぐっとこらえ、振り向いた。

 

 水着自体はシンプルな黄色のビキニ。そう、シンプルなんだ。シンプルイズベスト。いや日葵がベスト。ナンバーワン。チャンピオン。向かうところ敵なし。俺は一生日葵の味方。つまり俺もチャンピオン?

 混乱してしまうくらいものすごく綺麗で、可愛かった。恥ずかしいのか頬をピンク色に染めているのもグッド。ここが黄泉の国だと言われても違和感がないくらい幸福だ。

 

 そして日葵の隣に並んでいるためかなり霞んでいるが、岸もすごい。ワンピースに見えるが、あれはいわゆるモノキニというやつだろう。ウエスト部分、横腹の布がなく、前から見るとワンピース、後ろから見たらビキニに見えるえっちなやつだ。しかも黒色。セクシービームじゃねぇか。

 

 セクシービームってなんだ?

 

 振り向いた俺の視線に気づいたのか、日葵が岸の後ろに隠れた。可愛い。結婚してほしい。

 

「やー、ごめんなぁ。夏野さんが恥ずかしい恥ずかしい言うて。こんなに可愛いのに」

「だ、だって、変じゃないかなって」

「んなわけないやろ。なぁ氷室くん?」

 

 なんで俺に振るの? 今うっかり「はい! えっちしたいです!」って言いそうになったじゃねぇか。あの野郎、俺をはめようとしやがって。俺は日葵とハメたいってのに。

 

 間違えた。

 

 しかしここで言い淀んでいると日葵が自信をなくしてしまう。なんで自信がないのかわからないくらい可愛いんだ。隠れられるともったいない。もっと見たい。

 

 視界の端で日葵の水着姿に耐えきれず、千里に支えられる朝日を捉えながら精一杯の笑顔を向けた。

 

「変どころか、女神なのかと思ったぜ。ヴィーナス誕生。100点満点。めちゃくちゃ可愛い」

 

 千里を見る。俺変なこと言わなかった? 言ってた? でも大丈夫? 何を根拠に? さぁ?

 

 前を見ると、岸が口に手を押さえて笑いをこらえている。どうやら俺は変なことを言ってしまったらしい。俺が何を言ったのか記憶がない。ただ思い浮かんだ言葉を並べただけだ。もしかしたら「えっちしたい」って言っちゃった? はは。もしそうだったら死ぬか。

 

 どこで死のうかな、と死に場所を探していると、日葵が岸の後ろからゆっくり出てきた。顔を俯かせているのを見て、俺マジで何言ったんだと不安になる。もしかして日葵に「きらい」って言われちゃう? 言われたら間違えて千里を抱くかもしれない。傷をいやしてもらわないといけない。その場合千里は深く傷つく。誰だ千里を傷つけようとしてるやつは?

 

 そんな俺の心配も杞憂に終わった。日葵が顔をあげるとそこにあったのは、笑顔。

 

「ありがとっ、恭弥もカッコいいよ!」

「恭弥!?」

 

 破壊力満点ラブリープリティーバズーカが直撃した俺は、その場に倒れこんだ。隣を見ると朝日も倒れている。直撃しなかったのにその様とは情けねぇ。

 

 日葵と岸が近づいてくる音が聞こえる。どうやら俺の死に場所はここだったらしい。

 

「恭弥っ、起きないと僕がキスするぞ!」

「え、いいんですか?」

 

 言葉につられて起きた俺は、千里の手によってまた眠らされた。なにも殴らなくていいじゃん。


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