【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第32話 温泉バイオレンス

 日葵に慰めて貰えなかった俺は、その悲しみを引きずりながらプールのエリア内にある温泉に向かっていた。しかし温泉に近づくにつれその悲しみは喜びへと変わり、むしろ悦びとも言っていいくらいだった。

 よく考えてみたら、俺はどこからどう見ても勝ち組じゃないかと思ったからだ。女の子みたいな親友、激烈はちゃめちゃドチャクソ可愛い幼馴染、胸がでかいクズ、めっちゃくちゃ気持ちいい性格の美人。この四人に囲まれているイケメンで非の打ち所がない俺。勝ち組だ。これから会う人全員見下すことにしよう。

 

 それに比べたら日葵に慰めて貰えなかったことなんてやっぱりいやだ。何が勝ち組だクソが。死ね朝日。

 

「わ、結構広い! 200人くらい入れそう!」

「198人は私が蹴散らすから2人で入りましょう」

「温泉を血の海にする気か。俺は生かしてくれ」

「ところで朝日さん。お金って好き?」

「何命乞いしてんねん。止めろや」

「僕らにそんな力はない」

 

 日葵といたいがために何かしようとする朝日を止めるなんて、この世から争いの種をなくすくらい難しいことだ。つまり絶対に無理だけどいけると信じたいレベルの話。ただ俺たちは正直者なので、無理なものはすぐに無理と判断する。

 

「ほら。擦りつぶされて赤い液体になりたくなかったら私と日葵を残して散りなさい」

「光莉。私みんなで入りたいな」

「さぁあんたたち。私と温泉の中で仲良くしましょう」

 

 いくわよー! と元気に右腕を高くつきあげて、先頭に立ってそのまま温泉へ入っていく朝日。そんな朝日を指して、日葵にちょっと聞いてみる。

 

「扱いやすいと思ってる?」

「えへへ、うん。ちょっとね」

 

 舌をちろっと出して、ウインクをかましてくる日葵。は? 可愛い。

 

「日葵が人を雑に扱うってあんまイメージないなぁ。そんだけ仲ええってこと?」

「雑に扱ってるつもりはないよ。ただ言うこと聞いてくれるだけで」

「バカな男みたいなやつだな」

「恭弥、そこに水面があるんだ。ぜひそこで自分の顔を見るといい」

「何が言いたいんだ?」

「それがわからないから君はバカなんだよ」

 

 千里の口がうますぎて俺はクールにその場を去り、朝日の隣に体を沈めた。朝日が一人で寂しそうだったから一緒に入ってやろうと思っただけであり、劣勢になったから逃げたわけじゃない。クソ、あの女顔め、バーカバーカ。

 

「ちょっと、近くに寄らないでくれる? 妊娠するじゃない」

「あぁ悪い。離れるわ」

「え? ほんとに妊娠するの?」

 

 朝日を妊娠させるといけないので、言われた通り距離をとる。自然と千里の隣になったのはもう俺たちはそういう運命にあるんだろうと割り切って、体の芯から温めてくれる温泉で一息ついた。

 

「ねぇ、ほんとに妊娠するの?」

「おい、お前が離れろって言ったのに近づいてくるなよ」

「だってみんなこっちにいるじゃない。それで妊娠するの?」

「恭弥、何の話?」

「俺が近くにいると妊娠するって言ったから、危ないと思って離れてきたんだ」

「僕に近寄るな」

「織部くんは女の子だったの……?」

「間違えた。僕に近寄れ」

「それもそれでちゃうと思うけど」

 

 千里がメスすぎて妊娠の危機を感じ取ってしまった。でもこいつのことだから妊娠しても不思議じゃない。そうなったら相手の男をぶち殺してやろう。俺の千里を妊娠させるなんて許せるわけがない。相手の男をぶち殺して俺がパパになる。じゃあ千里はママ? まぁメスだしいいだろ。

 

「なぁなぁ、ここだけの話、光莉って女の子のこと好きなん?」

「はぁ? 確かに日葵のことは愛してるけど、恋愛対象は男の子よ」

「自分で説得力失ってんじゃねぇよ。第一男の子が好きならこのウルトラ美男子を前にして平静を保てるわけがない」

「……?」

「本当に不思議そうな顔をするな。傷つくから」

 

 お前も何回か顔はいいって褒めてくれてたじゃん。ほとんど顔しか褒められたことないけど。もしかして俺は顔だけの男? いや、時々千里が俺の事を優しいって言ってくれるから顔だけの男じゃないはずだ。ちなみに千里は性欲以外は女。

 

「でも光莉が男の子のこと好きって聞いたことないかも」

「別に、恋愛対象が男の子だからってほいほい好きになるわけじゃないでしょ」

 

 視界の端で岸の肩がびくっと震えた。そういや岸って俺のこと好きなんじゃん。あれ、岸ってめっちゃ綺麗じゃね?

 危ない。俺のこと好きになってくれたからって岸がめちゃくちゃ魅力的な女の子に見えてしまった。あれか。好きって言われてから意識するみたいなやつ。俺を惑わせやがって。ただ千里に惑わされまくった俺にはまだまだ足りない。残念だったな?

 

「えー、光莉可愛いのに。好きな男の子できたらすぐに付き合えるんじゃない?」

「日葵、もう一回言って」

「え? 光莉可愛いのに」

「もう一回」

「ひ、光莉可愛いのに」

「見た? これが結婚よ」

「光莉可愛い」

「光莉可愛い。よかったね朝日さん。これで僕ら四人は夫婦だ」

 

 俺と千里はいつの間にか沈められていた。チャンスだと思って目を開けて三人の体を見ようとすると、目の前に朝日。目が合っている。隣を見た。千里も目を開けていた。ははは。なぁ千里?

 

 俺と千里は朝日に抱え上げられ、処刑の準備が整ってしまった。お前体のどこにそんなパワー隠してるんだよ。その乳全部筋肉なの? そこからパワー抽出してるの?

 

「さぁ、お湯の中で目を開けて私の体を見ようとした罰を受けなさい」

「はっきり言おう。お前はこの中で一番魅力がない」

「恭弥―!」

 

 正直に告白すると思い切り放り投げられ、水面にたたきつけられた。お前、他の客がいないからってハジケすぎだろ。普通だったら出禁レベルだぞ。まぁ誰もいないから出禁はできんってな! うふふ。

 

「織部くんは私の体を見ようとしてたのよね?」

「朝日さん、いや光莉。僕は君を一目見た時から君に夢中で仕方なかったんだ。僕をこんな風にしてしまう君にも責任があると思わない? だから、ここは許してほしいんだ。僕たちの将来のために」

「は? 責任なんてないし許さないけど」

 

 千里が投げられ、俺の隣にお湯の柱が出来上がる。千里、それはだめだ。朝日がキレてないときに言わないと、朝日は恥ずかしがらない。状況が違えばめちゃくちゃ照れて「本当に朝日か?」ってなるくらい可愛かったと思うけど。

 

 数秒立って、お湯の中から千里がひょっこりと顔を出す。そして俺と目を合わせて頷いた。

 

「どこで間違えたんだろう?」

「本心じゃなかったからだろ」

「結構本心なんだけどなぁ」

「うぇっ、な、なに言ってんのよ!」

「恭弥、朝日さんはこうやって照れさせるんだ」

「師匠……」

「殺すわね」

「今のは織部くんが悪い」

 

 千里が再び宙を舞う。よかった。俺も「師匠……」って言ってたから殺されないか不安だったが、セーフだったらしい。俺がセーフになるくらい千里が酷かったってのもあると思うが。まったく、乙女の純情を弄ぶなんてひどいやつだぜ。

 

 千里に追撃をしかける朝日に見つからないようゆっくり日葵たちのところへ向かう。悪いな千里。お前には生贄になってもらう。しくしく。親友の死を悟って俺は泣いた。

 

「恭弥恭弥。どうやったら光莉とそんなに仲良くなれるの?」

「あれが仲良く見えるなら目玉を取り換えた方がいい。あれは狩る側と狩られる側だ」

「そう見えんこともないけど、傍から見たらめっちゃ仲良しやで」

「まぁ気は合うからな。千里が俺と同じくらい仲良くしてるのって朝日くらいじゃね?」

 

 日葵の隣にいた岸がそっと離れたのを見て、どぎまぎしながら二人の間に入る。数か月前の俺が今の状況にいたら死んでいただろう。幸せすぎて。これを耐えれるようになったんだから大したものだ。

 

 朝日とじゃれあってる千里を見て、傍から見たら俺と千里ってあんな感じなのかなって思う。千里が俺以外と仲良くしてるところなんて見たことなかったし、改めて見ると新鮮だ。っていうか水に濡れた千里がメスすぎてメス。おっぱいがあるのに朝日が負けている。哀れ朝日。

 

「光莉って恭弥と似てるし、案外あの二人付き合っちゃうのかも」

「ないだろ。っていうか薫が千里のことを好きな可能性があるから、万が一にでも薫を悲しませないために俺が認めない」

「薫ちゃんって氷室くんの妹ちゃんやっけ? 会ってみたいなぁ」

「すっごく可愛いよ! もうね、すっごく可愛いの!」

「氷室くんがカッコええからそうやろなって思うわ。性格は?」

「これがクズじゃない。驚け」

「嘘やろ……」

「呆然とするくらい驚いてんじゃねぇよ」

 

 こいつほんとに俺の事好きなのか? クズなのに? いや、クズだからこそか。聞いたことがある、クズの男が好みの女の子がいるって。日葵もクズ男が好きだったらいいのに。

 しかし、なんで薫の話をするとみんな会いたがるんだろうか。ただ薫が大事だって言って可愛いとかいい子とか言ってるだけなのに。だからじゃねぇか。

 

「ほんで、薫ちゃんが千里のこと好きなん?」

「かも。一番身近な家族以外の異性だからってかもしんねぇけど、ちょっと態度がなぁ」

「確かに、織部くんの前だと女の子って感じかも。私の前だと妹! って感じなのに」

「あ、なんかムカついてきた。千里ぶち殺すか」

「岸さん。この状況を説明してほしい」

「千里が殺されるらしいで」

「なるほど。逃げよう」

「私もいるわよ」

「夏野さん! そういえば外にも温泉があったんだ! みんなで行くのなんて素敵だと思わない!?」

「ふふ。そうだね、行こっか」

「ちゃかちゃか動きなさい。日葵が外に行きたいって言ってるのよ?」

 

 千里が日葵を使って朝日を操縦する術を身に着けてしまった。朝日、人間として一番簡単なんじゃね? 日葵がやれって言ったらなんでもやるだろ。今のは日葵は優しいから、千里が何も言わなくても助け船出してくれたとは思うけどな。日葵は優しいから。日葵が優しいから! つまり日葵はこの世の頂点。ふっ、またこの世の理を説いてしまった。

 

 俺がこの世の理を説いていると、ふと気づけば周りに誰もいなかった。どうやら俺を放置してみんな行ってしまったらしい。日葵と岸以外許さねぇ。


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