【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第33話 メス温泉

「どうしてもなんだな?」

「どうしてもだ」

 

 男子脱衣所、大きめのタオルで千里を覆い隠す俺。タオルから顔を出して俺を睨みつける千里。何を言い争っているのかといえば、決まっている。

 

「僕は、下半身しか隠さない!」

「考え直せ!!!!!」

 

 そう、千里が下半身しか隠さないと言うのだ。

 

 ここで千里について振り返ってみよう。頭が回る、性欲が強い、生活できないほどではないが目が悪い、可愛い、女の子みたいに可愛い、というか女の子、千里はメス。

 そんなメスが上半身裸で温泉に入るなんて、ありゃりゃこりゃりゃである。

 

「俺はお前のためを思って言ってるんだよ!」

「逆に考えてみてよ。ここで上半身を隠して温泉に入ったら、僕は完全にメスだと勘違いされる」

「お前はメスなんだよ!」

「僕は男なんだよ!」

 

 だめだ。今は修学旅行中で人が少ないが、子どもだっている。子どもからしたら千里はお姉ちゃんに見えて、でもお姉ちゃんじゃなくて、え? つまりどういうこと? って混乱して性癖が歪みに歪むに決まっている。千里のためだけじゃない。千里の上半身を隠すことは、未来を守る子どもたちのためでもある。千里が下半身しか隠さず温泉に入ってしまったら少子高齢化に貢献してしまう。

 

「っていうかなんでお前体毛そんなに薄いの? そんなんで男だって誰が信じるんだよ」

「うるさいよ! ちくしょう、なんで僕性欲ばっかあって男性ホルモン少ないんだ。僕の性欲は仮初だっていうのか?」

「あぁ。お前は完全なるメスだ。わかったら上半身を隠せ」

「じゃあ、恭弥が見てみてよ! 流石に顔がどれだけ女でも、体まではそうじゃないはずだから!」

「誰が見るか! 俺が千里の体見てたっちゃったらどうすんだ!」

「恭弥がそういう目で見なければいいだけの話だろ!」

「無理だ!!!」

「断言しないでよ!!!」

 

 いや、その顔と体で反応するなってのは無理でしょ。

 

 千里がメスたる所以。それは顔だけではない。フェロモンがごとき甘い香り、女性らしい曲線を帯びた体、流石に胸は膨らんでいないが、そんなことは関係ないくらいにメス。こんなメスが男なんて誰が信じるんだ? きっと、千里が温泉に入れば他の客の不躾な目にさらされ、幾人もの男たちの性癖を歪ませることだろう。

 

「なぁ、確認するけどお前本当に女の子じゃないんだよな?」

「ついてるから確かめてみてよ」

「やめろ。俺は性癖歪みたくないんだ」

 

 ただでさえ今上半身と下半身をぎりぎり隠せる程度のサイズのタオルだから、白い太ももがえっちだっていうのに。その奥にあるものを見たら性癖が歪む自信がある。俺に日葵がいなければ絶対に歪んでいる。

 

「なぁ頼む。女の子なら女の子だって言ってくれ。漫画や小説の世界ならお前絶対女の子なんだよ。俺という主人公に近づくために男を演じている美少女なんだよ。お前もそうだって言ってくれ!」

「──もういい!」

 

 千里は俺を突き飛ばし、自分を覆っていたタオルを取っ払った。

 

 千里はメスだが男だから当然と言えば当然だが、やはり胸はない。それでも俺の予想通り、胸のない女の子で通ってしまう上半身。

 自然と、下半身に目が行っていた。もしかしてついてないんじゃないかと淡い期待を込めて移した視線の先にあったのは。

 

「……いや、普通にえっちだぞ?」

「もう君とは口を利かない!!」

 

 ぷりぷり起こった千里は下半身にタオルを巻き、驚く男どもの視線に晒されながら温泉へ向かった。

 下半身までさらしてもメスにしか見えないってどんだけポテンシャルあるんだあいつ。

 

 

 

 

 

「周りの人の視線がこわい」

「だから言ったろ?」

 

 温泉は広く、様々な種類の温泉がある。ジャグジーはもちろん、岩盤風呂や水風呂、打たせ湯や周りに魚が泳ぐ水槽のあるものまで。

 そんな色々ある温泉の中で、俺と千里は檜風呂に入っていた。それは千里が他の人の視界から守りやすいよう四角形の風呂だからであり、俺は千里を隅に置いて千里を他の男の視線から庇うように湯へつかっている。

 

「口きかないって言ってごめん。恭弥の背中があるだけでこんなに安心するんだね」

「お前自分がどんだけメスか自覚しろよ? 必死に目を逸らそうとしてた男たちばっかだっただろ」

 

 千里の後を追って温泉へ行くと、男性客にちらちら見られている千里が上半身と下半身をタオルで隠し、涙目になっていた。お前そんなことするからメスだって言ってんのに。下半身だけ隠すって決めたなら堂々としてりゃいいんだ。堂々としててもメスなんだけども。

 

 千里は俺の姿を見つけると、速足で俺のところまでやってきて、俺の背中に隠れた。男なのに女の子みたいな顔と体してて行動がほぼ小動物。あーあ。もう何人か性癖歪められちゃっただろこれ。とんでもねぇやつだな千里。

 

「なんで僕こんなにメスなんだ……」

「あの、恨み晴らすように俺の背中小突くの可愛いんでやめてもらえます?」

「……僕って時々無意識にこういうことするけど、もしかして潜在的にメス?」

「間違いなく」

「そんな……」

 

 やっと自分が完璧に近いメスだってことに気づいたか。まったく、俺が親友じゃなかったら今頃ひどい目に遭ってたぞこいつ。極悪人に騙されたら特殊性癖のお方のもとへ一直線だ。だめだ、俺が絶対に守らねぇと。

 

「ねぇ恭弥。どうやったら男らしくなれると思う?」

「男の視線を怖がらない。堂々とする」

「君は自分に容赦なく降りかかる性的なものを見る目を知らないからそんなことが言えるんだ」

「その点朝日ってすげぇよな。絶対めちゃくちゃ見られてるだろうに」

「ほんとにね。むしろ誇りに思ってるところあるし」

 

 朝日は俺たちによく自慢の胸を使って冗談を言ってくる。女の子は男のそういう目に敏感だって言うし、朝日もあぁ見えて乙女だから敏感なんだろう。でも、朝日は基本的に「見たいなら見ろ」っていうスタンスだ。あいつになんでって聞いたら、「見られて恥ずかしいものじゃないもの」と答えるに決まってる。

 

「あ、お前女の子と付き合えばいいんじゃね? そうすりゃ自然と男らしくなるだろ」

「付き合うって、誰と?」

「素敵な女の子めっちゃくちゃいるだろ。朝日につづちゃんに……す、すみ、れ」

「渡したくないなら無理に言わなくていいよ」

 

 それと、結構デリカシーあるんだね。と俺の背中で千里がくすくす笑う。

 

 俺が岸の名前を出さなかったのは、自分を好きになってくれた子を他の男に薦めるのはなぁ。って思ったから。それをあっさり千里に見破られたらしく、なんとなく気恥ずかしい。

 

「でも、確かにそうだね。絶対に僕男として見られてないけど」

「当たり前だろ」

 

 後頭部を殴られた。ごめん、つい口が滑っちゃった。

 

「大体、朝日さんは僕のこと友だちとしか思ってないし、つづちゃんはネタだとしか思ってないし、薫ちゃんは恭弥の友だちとしか思ってない」

「うーん、一理ある」

「恭弥。今君の後ろをとってるっていうことを忘れてない?」

「全員千里にべた惚れ。みんな千里が世界一男らしいって言ってた」

「ははは」

 

 千里は笑いながら俺の首を絞めてきた。おい、メスが薄い格好であんまり密着してくるな。頼むから。窒息とかそういうのが気にならないくらいメスなんだよお前。

 

 優しく千里の腕をたたいていると、拘束を解いてくれた。危なかった。俺が日葵大好きで本当によかった。こいつ俺を信頼しすぎなんだよ。男はオオカミなんだぞ? 性欲の前では「あぁ、もういいか」ってなっちゃう可能性を秘めたただの獣なんだぞ? そこらへんをわかっていない。だから千里はメス。証明完了。

 

「冗談はさておいて、僕あんまり恋愛ってわかんないんだよね」

「お、愛の伝道師に相談ってか?」

「は?」

 

 は? だけ言ってくるのはやめてくれ。怖いから。

 

「まぁいいや。僕は恭弥の隣にさえいられればいいから」

「俺のこと好きすぎだろ。俺とゴールインしようとしてんの? ごめん、俺には日葵がいるんだ」

「君と夏野さんが結婚したら僕もおじゃましよう」

「俺が二股してるって思われるだろ。ふざけんな」

「多分朝日さんもくるから三股だね」

「その場合は日葵が二股になる」

 

 あいつ、日葵が結婚したら絶望に打ちひしがれてどうにか日葵の子どもと仲良くしようとするんだろうな。完璧な犯罪者だ、怖すぎる。ちなみに俺も俺以外の男と日葵が結婚したらそうする。

 でも確かに悪くないかもしれない。俺と日葵が結婚して、千里と朝日が遊びに来て。岸は、どうだろう。遊びにきてくれるならきてほしい。俺たちクズ三人相手は日葵だけだと手が回らないから。

 

 ……まて、もし息子がうまれたら、千里に性癖歪まされるんじゃね? 大人の色香を獲得した千里に純粋な心を蹂躙されるんじゃね?

 

「千里。俺はお前を許しはしない」

「またバカなこと言ってる。心配しなくても君の息子を惑わすようなことはしないよ」

「なんでわかるの? 普通に怖いんだけど」

「恭弥はわかりやすいんだよ。朝日さんもそう思ってる」

 

 こいつ俺のこと本当に好きなんじゃねぇの? どうしよう。岸と千里、二人の美少女から好意を寄せられるなんて。でもごめん二人とも。俺には日葵がいるんだ。きっと俺は来世でも日葵を好きになるから、永遠にごめん。くっそー、モテるってつらいぜ。

 

「……ねぇ、恭弥」

「お? えらく改まって、どうした? ウンコか?」

「どうか死んでくれ」

 

 少し真剣な色を帯びた声だったからウンコだと思ったが、違ったみたいだ。ウンコ以外で真剣になることなんてあるのか?

 

「僕、薫ちゃんのこと好きだから将来兄弟になったらよろしくね」

「おー。あいつ今受験期だからアタックしすぎないでくれよ」

「うん。そのあたりはちゃんと気を遣うよ」

「ならいい」

 

 そうかー。千里は薫のことが好きなのか。まぁ結構他の女の子に対する態度と違ったもんなぁ。そうだそうだとは思っていたが、まさかそうだとは。

 

「よし、そろそろ違うとこ行くか。俺の背中に隠れとけ今薫のこと好きって言った?」

「あ、ようやく気付いたんだね」

 

 うそ。千里が、薫のことを? ほんとに? いや、ほんとなんだろうけど。慌てて振り返って千里の目を見ても、嘘を言っているようには見えない。親友だからわかる。本気だこいつ。

 

「なら殺すしかないかぁ」

「女の子と付き合ってみたらって言ったのは君だよ?」

「だって薫のこと好きだとは思わないじゃん! やだやだ! 薫は俺の妹なんだー!」

「きも。薫ちゃんが僕と付き合うって決まったわけじゃないでしょ?」

「きもってお前。いや、お前めちゃくちゃいいやつだし、メスだメスだって言ってるけどいい男だよ。お前になら薫を任せられるし、文句ないっちゃないんだけどなぁ」

「……なにそれ」

 

 俺の言葉に、千里は歯を見せてうれしそうに笑う。

 

「やっぱお前メスだわ」

「君の妹だからって遠慮しようと思ってた心は今失った」

「うそでしょ」

「ふん。なんならこれからは恭弥のこと義兄さんって呼ぼうか?」

「仕方ない。薫はお前にやろう」

「クズの王」

 

 だって、千里の「義兄さん」が可愛かったんだもん!!!!!!




あーあ、みんながあまりにもメスメス言うからオス出してきちゃった。

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