「女の子のお風呂は長いって聞いたんだけど?」
「あんなものびゃって入ってびゃって洗ってびゃって出るだけでしょ」
「夏野さんの裸」
「耐えられなかったのですぐ出てきました。ごめんなさい」
「正直でよろしい」
温泉からあがった後の集合場所である、座敷、ソファーやテーブルなどが並べられている休憩所で女性陣を待っていると、ピンクの館内着を着た朝日がやってきた。いくら朝日といえども風呂上りの女の子はやはり素晴らしく、おっぱいも大きい。
しかしやはり耐えられなかったみたいだ。日葵のことが恋愛的な意味で好きじゃないっていうのが信じられないくらい日葵のことが好きな朝日が日葵の裸に耐えられるとは思っていなかったが、こうも予想通りだとは思わなかった。
「綺麗すぎて死ぬかと思ったわ。ところで、ソファーに座ってるのはいいんだけどなんで隣に座ってるの? 普通向かい合わない?」
「朝日さんだけがくると予想して、朝日さんが座りやすいようにしてたんだ」
「別に、あんたたちの隣に座るのなんて気にしないわよ。氷室はクズでドブだし、織部くんはほら、ね?」
「ドブの隣は気にするだろ」
「朝日さんの言いたいことはわかった。つまり僕は君の裸を見てもいいってことだね?」
「それは嫌。絶対触ってくるじゃない」
「は? 当たり前だろ」
「死になさい」
呆れながらため息を吐いて、俺たちの正面に座る。朝日が座るときに朝日の胸をめちゃくちゃ見ていた千里は流石というべきか、こういうところが性に必死すぎて逆にかわいい。千里もそういう目で見ていい相手と見ちゃいけない相手がわかってるからな。にしてももうちょっと隠せとは思うけど。
「千里、そんな朝日の胸ばっか見るなよ。いくら胸しか取り柄がないカスだとはいえ、女の子だぞ? 失礼だろ」
「あんたは今私に失礼をやらかしたことを自覚しなさい」
「ごめん朝日さん。あまりにも君の胸だけが魅力的で」
「あんたたちがついに熱い夜を過ごしたって噂流すわね」
「ところで朝日、俺はお前に忠誠を誓いたいんだがどう思う?」
「ずるいよ恭弥。朝日さんは今から僕の女王様になるんだ」
「あんたたちにプライドはないの?」
プライドなんてものがあったらクズなんてやってられねぇんだよ。
しっかし、こいつももったいないことしたなぁ。日葵が好きなら、死んでもその姿を目に焼き付けるべきだった。我慢できないからすぐに出てくるなんて二流も二流。きっとこれから先『あのときもっと日葵を見ていればよかった』と後悔するだろう。バカめ。チャンスをものにできないやつに日葵は手に入れられない。
「あ、氷室。織部くんついてた?」
「あぁ。えっちだったぞ」
「なるほどね」
「朝日さん。あんまり公の場でついてるついてないって言わない方がいいし、僕は恭弥の評価に納得いかない」
「え、ついてたんでしょ? えっちじゃない」
「ついてたらえっちに決まってるだろ。バカだなお前」
「僕がおかしいのか……?」
やれやれと朝日と同時に肩を竦める。俺やけに朝日と動き被ること多いな気色悪い。
やはり、ついていたらえっちというのは間違いではなかったらしい。同意してくれるのが朝日だというのが少し不安だが、この場ではえっち派2にえっちじゃない派1でつまり千里はえっち。また俺の賢さが証明されてしまった。
ついてなかったらついてなかったでそれはそれでえっちなんだけどな。
「そういえばあんた、日葵の裸がどんなのだったかって聞いてこないのね」
「俺も流石にそこまで終わってねぇよ。この目で見るまでのお楽しみって決めてるんだ」
「終わってるじゃん。夏野さんに不誠実だからとかじゃないの?」
「見直したわ、氷室」
「君たち、もしかして病名のある精神状態?」
もしかしたらそうかもしれない。この病の名前は『恋』。ふっ、決まったな。俺がカッコよすぎて困っちまうぜ。
でも俺おかしなこと言ってないと思うんだ。日葵の裸どんなのだったって聞きたいのは本当。だって好きな子なんだし、そりゃ気になる。ただ今ここで聞いてしまったら、いざ見るってなったときに感動が薄れてしまう。だから聞かない。ほら、何もおかしいことないじゃないか。
まぁ朝日が俺を見直したってことはおかしいことなんだろう。朝日のクソめ。なに見直してんだゴミが。
「ねぇ氷室。いいこと教えてあげよっか?」
「千里。どうやら俺は一足早く大人の階段をのぼるらしい」
「朝日さん。3人でなんて素敵だと思わない?」
「今の会話を録音したわ」
「おいおい千里。俺の声真似うますぎないか?」
「いや、今のは朝日さんの一人芝居だよ。たいしたもんだ」
「え、うそ? 朝日すごくね?」
「あんたたち、いいことって聞いたらすぐにえっちなことだって思うのやめなさい」
男の子だから仕方ないじゃん。人生で一番元気な時なんだから許してほしい。朝日は見た目いいから、日葵がいるのに釣られちゃったじゃねぇか。おのれ悪女め。いくら俺が魅力的だからって性欲で釣ろうとは下品なやつだ。
「あのね氷室。日葵と春乃があんたの体がカッコよかったって言ってたわ。羨ましいから殺すわね」
「いいことか悪いことかわからないけど嬉しすぎる。俺殺されるみたいだけど」
「確かに、恭弥の背中って安心するよね」
「無自覚にメス晒してるわよ」
千里は絶望に打ちひしがれてテーブルに突っ伏した。こいつ、薫の前じゃ全然メスにならないのになぁ。っていうことはつまりそういうことか。薄々気づいてたけど、なんで俺確信しなかったんだろう。露骨じゃん。
日葵と岸が俺の体がカッコいいって言っていたなんて、信じられない。信じられないくらい嬉しい。確かに俺はいい体をしているが、まさか褒めてくれるなんて。朝日に褒められてもなんとも思わないが、あの二人からなら素直に受け取れる。
「ちなみに織部くん。二人とも『織部くんには負けた』って口をそろえて言ってたわ。よかったわね」
「それで僕が喜ぶと思った?」
「え、チャンピオンだぞ? 嬉しくねぇの?」
「メスのチャンピオンだよね? ぶっ殺すぞ」
「キレるメス」
「あはは、手術が捗りそうね」
「ひとつも面白くねぇんだよ!! 君たちが脳の手術をしろ!!」
俺の脳に悪いところなんてない。悪いところがないから怖いんだ。なんで俺はこんなにクズなんだろう?
千里に負けたって二人は言ったらしいが、日葵は負けてない。岸も多分負けてない。朝日は負けている。同じ『クズ』というスタートラインからメスっぽさで勝負したら負けるに決まっている。圧倒的メスの千里が相手なんだ。勝てる理由が一つも見つからない。ちなみに俺は男らしさで岸に負けている。というか岸が可愛くて綺麗でカッコいいから完璧すぎて何でも勝てない。なんだあの完璧人間。関西弁使ったら俺もあんな風になれるのかな?
「あとね、私がまだ日葵の裸に耐えてた時に話してたことなんだけど、あんたたちが誰のこと好きなのかって話」
「日葵」
「あんたは知ってるから別に興味なかったんだけど、織部くんの好きな子興味あるのよね。私って言われたらどうしようって思っちゃったわ」
「ごめんなさい」
「氷室、もしかしてこれ私フラれた?」
「お前にしては賢いな」
本当に不思議そうな顔で「私がフラれた……?」と首を傾げる朝日。朝日くらいの女の子相手なら、「私のこと好きなんじゃない?」って感じのこと聞かれたら普通動揺くらいするもんな。それが正面切って迷わず「ごめんなさい」だ。相手が悪かったな。これで朝日が千里のことが好きで、探りを入れるつもりでさっきみたいなこと言ったんだったらかわいそうだが、本当に自分がフラれたことが不思議なだけみたいだ。自信家すぎる。
「私じゃないなら一体誰なの? 私以外の人間を好きになるなんてありえ……あぁそういうことね。応援するわ」
「なんで俺を見ながら言ったんだ?」
「もうそういうことじゃない。そうね、確かに付き合ってるっていうのは嘘だったみたいね。『まだ』付き合ってないのね」
「朝日さん。言っとくけど僕の好きな相手は恭弥じゃない」
「あら、じゃあ私がもらっちゃおうかしら」
「は? 冗談きついって。罰ゲームもいい加減にしろよ」
頭を掴まれてテーブルに叩きつけられる。手の動きが見えなかった。これが、達人。
「私だってあんたみたいなクズじゃなくて、カッコよくて運動できて勉強できるスーパーエリートがいいわよ」
「そのカッコよくて運動できて勉強できるスーパーエリートがこちらの恭弥です」
「どうも、スーパーエリートです」
「クズ以外のって枕詞がつくわ」
「そのクズがこちらの恭弥です」
「どうも、クズです」
どうやら俺もフラれてしまったらしい。悲しい。女の子にフラれるのってこんなに悲しいんだな、えーんえん。
まぁこんなドぐされ胸おばけにフラれてもなんのダメージもない。俺をフるなんて思い上がりも甚だしいな。恥を知れ。
「ていうか、『恭弥じゃない』って言い方するってことは好きな子いるってこと?」
「薫ちゃん」
「へー。薫ちゃんね。確かにめちゃくちゃ可愛いしいい子だし、好きになるのも無理ないわ。流石私の妹」
「隙あらば俺の妹の戸籍を変更するな」
「だってあんたと同じ血が流れてるとは思えないもの。にしても、そう。薫ちゃんね。頑張りなさいよ」
「うん、ありがとう」
「……朝日、取り乱さないんだな。俺が聞いたときは一瞬現実を受け止められなかったのに」
朝日は涼しげな顔をして千里にエールを送った。まぁこいつにとって薫は可愛い女の子ってだけだし、家族である俺よりは驚きが少なくてもおかしくない。うっかり朝日を俺と重ねて考えてしまっていた。
「なんで取り乱すの? 織部くんが薫ちゃんのこと好きってだけでしょ」
「えーーーーーー!? 織部くん、薫ちゃんのこと好きなの!!!??」
「取り乱してる子つれてきたで」
「ね、ほんと織部くん! 薫ちゃんのこと好きなの!?」
「待って夏野さん! 君が僕に近づくことで僕の死も近づくんだ! 主に二人の手によって僕の死が実行される!」
日葵が慌ただしく走り寄ってきて千里に詰め寄る。お風呂上がりの日葵に詰め寄ってもらえるなんていう羨ましい現場を見ることしかできない俺は、千里に殺気を放っていた。それに気づいたらしい千里は小声で俺と、俺と同じく千里に殺気を放つ朝日に「違うんだ!」と言っている。
お前の意思なんて聞いてねぇよ。
「す、好きだよ。うん」
「へー! そっかー、織部くんが、そっか!」
「日葵、なんか嬉しそうね?」
「うん! 織部くんなら安心だなって思って!」
「らしいわよ氷室。どう思う?」
「俺は右腕と右足な」
「じゃあ私は左腕と左足ね」
「まだ僕の命を諦めてなかったのか!!???」
日葵に詰め寄られ、日葵に認められ、そんなやつを俺と朝日が許すはずがない。
千里をめちゃめちゃにした後、『千里をめちゃめちゃにした』と薫にメッセージを送った。
『まだお昼なのに?』と返ってきた。やっぱ兄妹だわ。