【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい 作:とりがら016
「卓球やろ、卓球!」
という岸の一言で、俺たちは卓球場に来ていた。プールもあって温泉もあってゲーセンもあって卓球場もあって、至れり尽くせりである。俺が大阪にくるって知ってこんなところ作ってくれたのかな?
「今思ったけど、卓球って最大2対2よね? 私は日葵と組むから、あんたたちはそこで見てなさい」
「『無』と対戦する気かお前は。仕方ないから俺と岸が相手してやるよ」
「運動能力お化けが組むんじゃないわよ。ハンデとしてあんたは死になさい」
「ほな千里一緒に組もか!」
「つまりお前らは俺をハブりたいってことでいいんだな?」
「きょ、恭弥。私と組む?」
「うえーん! 日葵に捨てられたー!」
「この女号泣してやがる……」
お前そんな簡単に号泣するならあの嘘泣きの時にしとけよ。そうやって泣いてたら日葵もあの時絶対慰めてくれただろ。
……日葵によしよしされてやがる。「ご、ごめんね! 光莉と組むから!」と慌てて子どもをあやすように。俺も号泣したらよしよししてくれるんだろうか。なぜか千里に慰めてもらう未来が見えたが、多分気のせいだろう。
「仕方ない。俺は審判に回るか」
「ただ勝負やるだけだと味気ないからご褒美とか用意しときなさいよ。使えないクズね」
「勝ったチームは薫とお話できます」
全員のやる気がぐーんと上がった。薫大人気じゃん。俺より人気じゃね? っていうか俺そもそも人気なくね? なんかムカついたので、『許さねぇ』と薫に送っておいた。『ごめんなさい……』と返ってきた。かわいい。わけのわからない兄のメッセージに対応するなんて、いい妹の鑑だな。もう誰にも渡さない。ごめんな千里。
「これ何点先取?」
「遊びだからルール守る必要ないし、5くらいでいいんじゃない?」
「じゃあ日葵のチーム5点からでスタート。はい勝ち。朝日は俺の独断で負け。岸は俺の独断で勝ち」
「やった!」
「横暴よ! 私に薫ちゃんの声を聴いて興奮させなさい! 間違えた! 薫ちゃんとお話させなさい!」
「俺がお前と薫を会話させたくない理由が自分でわかっただろ?」
「僕は?」
「お前に薫はやらん」
薫を任せるなら千里しかいないと思っているが、それとこれとは話が別だ。薫は可愛い妹、親友だからといってほいほい渡すわけにはいかない。というか本音を言うと誰にも渡したくない。俺は日葵と結婚してそこに薫を迎え入れ、仲良く暮らしていくんだ。俺めちゃくちゃ気持ち悪い。ゴミが。
「なーなー。なんで私は勝ちにしてくれたん?」
「薫が懐きそうだから。薫の影響にいい人とは積極的に触れ合わせるようにしてるんだ」
「確かに。薫ちゃん絶対春乃のこと好きだよね」
「なんや照れるなぁ」
「ちょっと氷室。薫ちゃんは私のことも好きよね?」
「目が怖いって言ってたぞ」
朝日が膝から崩れ落ちた。お前かわいいものに対する欲を隠さないからそうなるんだぞ? 薫は警戒心が強いから、そういう視線に敏感なんだ。薫に何度男子についての相談をされたかわかったもんじゃない。薫に寄りつく男子には俺の存在をちらつかせればいいという神アドバイスで薫は安全になったが。
「ちなみに恭弥。僕のことは普段なんて言ってるの?」
「クズカスゴミ。二度と近寄ってほしくないって言ってた」
「恭弥きらい」
「うそうそ。千里のこと世界一愛してるって言ってた」
「薫ちゃんはもらっていくね」
「ふざけんなゴミ。死にてぇのか?」
「氷室くんの情緒どうなってるん?」
薫を渡したくないという気持ちと、千里に嫌われたくないという気持ちと、やはり薫を渡したくないという気持ちの戦争が俺の中で起きていた。だって千里メスじゃん。ってことは子ども生まれないじゃん。女の子とメスの結婚って子ども生まれるんだろうか? そうなるとどっちが妊娠するんだろう。生物学的には薫だが、千里なら妊娠してもおかしくない。
「ってわけで岸、薫と話していいぞ。許可は取ってある」
「卓球してへんのに? やっていいんやったらするけど、薫ちゃんすごいな……」
ほんとにすごいと思う。『俺の友だちと話してくれない? 女の子』って送ったら『いーよ』と返ってきた。普通知らない人、しかも年上で家族の友だちなんて気まずいだろうに。やはり薫はいい子。千里みたいなクズメスにはあげられない。
「じゃあほい。朝日にだけは絶対渡すなよ」
「千里にはええの?」
「いいよ。薫も千里と話したいだろうしな。許さないけど」
「どっち?」
スマホを岸に渡しながら千里を睨みつける。親友を応援したい気持ちが妹を大事にしたい気持ちを邪魔してきやがる。いや、逆か? 俺にとって薫と千里のどっちが優先なんだ?
考えてみよう。薫と千里が溺れていて、どちらか一人しか助けられない。そんな時、俺はどっちを助ける? 答えは両方。俺に不可能はない。ふっ、決まったぜ。
「春乃いいなー。ねぇ恭弥、私も薫ちゃんと話していい?」
「日葵ならいくらでも。薫も喜ぶ」
「じゃあ僕は?」
「埃でも食ってろ」
「だめだ朝日さん。恭弥が妹ガチ勢すぎる」
「こうなったら色仕掛けしかないわね。いきなさい織部くん」
「色仕掛けなら朝日さんじゃないの?」
「織部くんの方がメスだからに決まってるじゃない」
千里と朝日が取っ組み合いを始めた。岸はこの隙にと通話ボタンを押し、コールが二回鳴った後薫の「もしもし、兄貴?」という薫の激烈プリティーな声が聞こえてきた。哀れな愚民の千里と朝日のためにスピーカーモードにしておくという俺の優しさである。
「あはは、ごめんな? 私お兄ちゃんやなくて、岸春乃っていいます」
『あ、ごめんなさい。恭弥の妹の薫です』
「いきなりやったのにありがとうなー。受験で忙しいやろうに」
『別にいーですよ。こちらこそ、兄貴のいきなりに付き合っていただいてありがとうございます』
「氷室くん氷室くん」
「どうした?」
「結婚しよ」
薫の声に聞き惚れていた千里と朝日は顎が外れるくらい口を開き、日葵は腕をばたばた振りながら焦り散らかし、俺は「お願いします!」と言いかける口を必死で制しながら、唇を震わせて「え?」とだけ聞いた。無理無理。こんなこと言われてまともな言葉喋れるはずがない。
「や、ごめん。薫ちゃんが可愛すぎてぜひ妹にしようと」
「バカね春乃。薫ちゃんの戸籍を変えればいいだけじゃない」
「バカはお前だ。どうしても薫を妹にしたいなら俺と結婚するがいい」
「薫ちゃん。薫ちゃんもこんなクズじゃなくて私がおねーちゃんの方がいいわよねー?」
『兄貴がいなくなるのは困ります』
「ハーッハッハッハ! 残念だったなぁ朝日!」
「男除けに便利だもんね」
『そうですね』
「道具じゃねぇか」
え、薫俺のこと兄じゃなくて男除けの道具だと思ってたの? ショックなんだけど。愛情込めて育ててきたのに……。その愛情が行き過ぎだっていう自覚はある。
『岸さん、今兄貴たちと一緒にいるんですよね?』
「うん。私と氷室くんと千里と、日葵と光莉」
『うーんと、日葵ねーさん、岸さん。兄貴が暴走すると思うけど、よろしくお願いします』
「朝日さん。僕たちが除外された理由を一緒に考えよう」
「難しいわね。あまりにも美しすぎるからかしら?」
「クズだからだろクズども」
『兄貴とほぼ同類だし』
「ってことはお前らが美しすぎるからだな。俺と同類だ」
まぁ千里は言わずもがな、朝日も可愛いし綺麗だし、一理ある。美しすぎるから問題ってか? 薫のやつも口がうまくなったもんだ。でもこの中で一番美しいのは日葵だから、薫の目は曇っている。兄として情けないぜ。
「任されてもうた。これは氷室くんと結婚してもええってこと?」
「だ、だめ! 恭弥はその、どうしようもないから!」
「朝日、一緒に泣いてくれ。お前ならわかるだろ? 今の俺の気持ち」
「日葵にどうしようもないって言われるなんて、気持ちいいじゃない」
「日葵。友だち選びは考えた方がいい」
「そうだね」
「なんで千里が答えんの? 俺の親友であることを後悔してんの?」
俺の親友なんて誰にでもなれるものじゃない。俺についていけるやつって時点で大分限られてくる。あと面白いやつ。あれ、結構簡単じゃね?
『ん-、なるほど。岸さん、今度うちにきてくださいね。直接会いたくなっちゃいました』
「私薫ちゃんと結婚するわ」
「え!!!?? 私もしたい!!!!!」
「日葵。朝日を黙らせてくれ」
「こら光莉。おとなしくしなさい」
「クゥーン」
「なんで夏野さんの前じゃこんなアホになるんだろう……」
絶対こいつ俺よりやばいって。俺のことよく注意してくるけど自分のこと棚にあげすぎだろ。なんだよ「クゥーン」って。ちょっとかわいいじゃねぇか。今度千里にもやってもらおう。きっと朝日よりもかわいくて性的に違いない。朝日もそれは認めるだろう。
『ふふ。なんか嬉しいです。兄貴のこと理解してくれる人がこんなにいるなんて』
「あぁー。薫ちゃん好きです付き合ってください」
『ごめんなさい。私好きな人がいるんです』
「好きな人がいるの!!!?? お兄ちゃん聞いてないよ!!!??」
『言ってないもん』
「ひ、日葵。どうしよう。俺たちの薫が。俺たちの薫が!」
「よしよし。私もちょっと寂しいけど、妹離れしないとね」
「なんで付き合える前提で話してるん?」
「薫の好意を跳ねのけられる男なんてこの世に存在しない」
あれ? 今日葵がよしよししてくれなかった? とぼんやり考えながら薫はすごいだろうと胸を張る。ってかおい、薫に好きな人がいるって聞いてドキドキしてんじゃねぇよ千里ぶっ殺すぞ。
あーあ。これで同じ中学の男子とかだったら面白いのになぁ。千里フラれねぇかな。応援したいけど応援したくない。全然文句はないはずなのに、薫が俺より千里を選んで、千里が俺より薫を選んだってのがなんかムカつく。
「薫。帰ったらみっちょり聞かせてもらうからな」
『なんかいやだ。日葵ねーさんと岸さんに聞いてもらうからいい』
「お、なんでも言うて! おねーさんが相談に乗ったろ!」
「薫ちゃんからのお願いなら断れないなぁ。うん、じゃあお姉ちゃんと恋バナしちゃおっか!」
「氷室さん。ここでも私の名前を出さないなんて、おたくの妹さんにはどういう教育をされてるんですか?」
「可愛く美しくいい子になるよう教育してます」
「よくやった」
朝日と握手して頷きあう。こんなことしても薫の相談には乗れないというのに、哀れなやつだ。
「恭弥。僕の名前が出なかったのはつまりそういうことだと思う?」
「思い上がんなクズボケカスゴミ。二度とその口開くんじゃねぇぞノミ以下の価値しかねぇただの肉が。ぐちゃぐちゃにしてやろうか?」
「こわ」