【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい 作:とりがら016
「ゲーセンで勝負よ!」
「勝負っつったって何で?」
そういえば卓球やってなくない? という朝日の言葉で仕方なく俺が相手をしてボコボコにしてやり、その後。
俺に大敗を喫した朝日は、俺に指を突き付けて勝負をしかけてきた。俺の手持ちにポケットなモンスターがいないというのに物騒なやつである。
「何でって、いっぱいあるでしょ? レースとか、ガンシューティングとかパズルゲームとか」
「あ、恭弥と岸さんのガンシューティング? 見てみたい! 絶対カッコいいもん」
「お? ほならやる? 氷室くん」
「日葵が見たいって言うなら仕方ねぇな」
「私との勝負を無視してんじゃないわよ!」
「朝日さん、なんでそんなに勝負にこだわるの?」
「こんなクズに負けてるっていうのがむかつく」
「仕方ないでしょ。恭弥は根っこからどうしようもないくらいクズな代わりに、なんでもできる脳と体をもらったんだから」
「お前はもっと遠慮した言い方をしろ」
なんだどうしようもないくらいクズって。どうしようもはあるだろ。ほら、こうやって友だちと遊べるくらいにはクズじゃない。クズだなっていう自覚はあるけど、まだギリギリ社会に出られるレベルだとは思ってる。ただ上司ガチャに失敗したら立場が悪くなってすぐにクビにされるような気もしてる。
やっぱり起業して、千里を迎え入れるしかないな。クズだけ集めると会社が崩壊するから、日葵と岸にも来てもらおう。朝日はいらない。
「でも光莉、氷室くんに勝つのって無理ちゃう? 素人同士の戦いやったら絶対負けへんやん氷室くん。最初っからある程度はできてまうんやから」
「ま、才能ってやつかな?」
「なまじ才能があるから余計クズが際立つんだよね。だから『才能あってすごい!』っていうより『なんでもできるからムカつく』って思っちゃうんだって。これ周りの人8割の意見」
「え、俺8割にそんなこと思われてるの?」
「そりゃそうよ。あんた嫌われてるもの」
「そ、そんなことないよ! みんな恭弥のことたまーに優しいよねって言ってるし……」
「なるほど、ヤンキーがたまーにええことしたらよく見えるあれやな」
「人を詐欺師みたいに言うな」
意識して優しくしようとしてるならそれは詐欺師だが、俺はいつも普通に、自分らしく過ごしているだけだ。つまりそれは俺の元来からある優しさであり、断じて詐欺などではない。俺はめちゃくちゃ優しい人間であり、でもちょっとクズな部分が表に出すぎてしまうだけだ。
しかし、なんでもできるからムカつくって、できねぇやつの僻みは見苦しいなぁ。
「あ、クレーンゲームとかならいいんじゃね? 日葵もなんか欲しいやつあるって言ってたろ」
「! うん、あのぽやぽやした犬!」
なんかめちゃくちゃ嬉しそうだ。そんなにあの犬欲しいの?
日葵が欲しいと言っている『ぽやぽやした犬』は、ぽやぽやしていた。いや、なんて言えばいいんだろうか。間抜け可愛い? 半開きの目に灰色の体に垂れた耳。「こいつ、俺がいないとダメだな」と思わせてくるような見た目をしている。足を開いてちょこんと座っている形のぬいぐるみだ。サイズはちょうど肩に乗るくらいの大きさだろうか。
「なるほどね。日葵を喜ばせた方が勝ちってことね。日葵、一万円あげる」
「喜ばせるって結果だけもぎ取ってどうするんだよ。クレーンゲームであのぽやぽやした犬取った方が勝ちってことでどうだ?」
「織部くん。氷室はクレーンゲーム得意なの?」
「物が増えるからやらないって言ってたから多分得意ではないんじゃないかなぁ」
「こういうのって確率って言うし、ええ勝負にはなるんちゃう?」
「とれちゃった」
「何無言でトライして一発成功してんのよ!」
ぽやぽやした犬の両脇に手を挟み込んで抱き上げて朝日の前に掲げると、朝日が俺の脛にローキックを放った。なんで。なんか話してるし今のうちにやっとこうかな? ってやってみたら取れちゃっただけじゃん。確率が向こうから寄ってきたんだよ。俺はなにもしていない。
「この、やる気ない顔してんじゃないわよこいつ。そんな顔してるからこんなクズに取られるのよ。絶対あんた野生忘れてるでしょ。ご飯与えられて食べて寝るだけの生活してたらぶくぶく太って早死にするわよ。もっと健康的な生活しなさい」
「お前もしかしてぬいぐるみと話してる? いや、バカにはしねぇけど話すにしては尺長くね?」
「勝負する前に勝負が決まっちゃったからイライラしてるんじゃない?」
「なるほどな。まぁこれで俺が朝日より上だってことが証明されちまったんだが。ほい日葵。勝者である俺からのプレゼントだ」
「わ、ありがとー!」
「私にもありがとー! って言って!!!」
「はいはいおちつこなー」
泣きわめき始めた朝日が岸に取り押さえられる。犯罪者ってあぁいう風に無力化されるんだろうな。もっとも、俺が朝日の立場なら同じようなことになっていたかもしれないが。
だって、目の前で他のやつが日葵にプレゼントして、日葵が「ありがとー!」って言ってるところなんて見たくない。絶対に「俺に言ってくれ!」って言うし、泣きわめきはしないが静かになって無言でいじけるかもしれない。哀れ朝日。俺が優秀すぎてごめんな。
日葵は俺から犬を受け取ると、子どものような笑顔を浮かべながら犬を抱きしめる。あ、ムカついてきた。なんで犬が抱きしめられてて、俺は抱きしめられてないの? 俺もよしよしされたいんだけど。
「千里、ぬいぐるみになれる力とか持ってない?」
「織部くん。悪いことは言わないからさっさとその力を私に行使しなさい」
「残念だけどそんな力はないよ」
「役立たずが」
「あんたなんのために生きてるの?」
「性格終わっとるなぁ」
終わってるって言い方するな。それ一番ダメな表現方法じゃね? 取返しつかないってことじゃね? いや、そういえばさっき千里が取返しつかないって言ってたな。じゃあ合ってる。
まさか、俺が自分で与えたものに嫉妬することになるとは思わなかった。でも、日葵が笑ってるならそれでいいかもな、なんて思えてくる。
そんなわけない。あのぬいぐるみ、日葵が心の底から気に入る前に八つ裂きにしてやろう。クソ野郎が。ズタズタにして苗の養分にしてやる。
いくら自由行動とはいえ、飯はホテルで食べる。修学旅行ではいつも豪華なバイキングがあるところを選んでいるらしく、それは校長の「飯も自由な方が楽しくない? バイキングって飯の頂点じゃない?」という考え。俺もそう思う。
バイキングのいいところは、自分の好きなものだけ食べられるところ。ホテルの食事では出されるものが決まっており、食べられるか食べられないかわからないものまでついてくる。あのなんか、肉とかに乗ってる葉っぱとか。前「ホテルが出してんだから食べられるだろ」と思って食べたら飾りだったらしく、その経験を活かして別のところで葉っぱをよけて食べたら一緒に食べて楽しむものだったとかなんとか。ややこしいんだよクソが。食べてくださいとか食べないでくださいとか書いとけ。
会場は白いテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルの五人席が複数。各所に肉や魚、スープや飯、更には俺には何がおいしいかわからない高級食材まで。多分なんか優美な感じの音楽が流れており、エレガンスでビューティフルだ。俺には何もわからない。
「恭弥っておしゃれとは程遠い人間だよね」
「男らしさが一番なんだよ」
「まったく、品がないわね」
「光莉も人のこと言えないと思うけど……」
「皿の上見たら一発やもんな」
会場についた瞬間、俺と朝日は肉の方に飛んでいき、そのまま好き放題皿にうまそうなものを盛っていった。おかげで俺と朝日の皿の上はうまそうなものでぐちゃぐちゃである。でも人間ってこれが一番うまく感じると思うんだよ。マナーなんてクソくらえだ。ちゃんとした場じゃなければこれくらいがちょうどいい。
対して、千里と日葵、そして岸。皿の上は上品な盛られ方で、種類ごとに隙間が空いている。俺と朝日のようなぐちゃぐちゃにはなっておらず、前菜、副菜とちゃんと分けられてもいた。ところで前菜と副菜ってなんだ?
「でも男って大体こうだろ? 周り見てもこんなのしかいな……あ、千里はメスだから別だぞ」
「僕もぐちゃぐちゃにしてくる」
「あんたがそれやってもかわいいだけよ。やめなさい」
「何しても可愛くなるんやからずるいよなぁ」
「お、織部くん。泣かないで?」
「うぅ……こういうところで綺麗に盛り付けた方がカッコいいと思ったのに」
カッコいいのはカッコいい。千里のイメージにも合ってるし間違ってない。ただ千里がどうあがいてもメスなだけだ。
「どうせ、恭弥と朝日さんはバイキングのマナーとかも知らないんでしょ」
「おいしそうに食べるんでしょ? 任せなさい」
「残さず食べるんだろ? 俺に任せろ」
「合うてるといえば合うてるな」
「それが一番だよね」
それ以外のマナーなんて存在しない。うまそうに食べて完食する。これが飯においての唯一のマナーであり、最上級のマナー。これを守れないやつに飯を食う資格はない。
「まぁ然るべき場所だったら俺も朝日もいただきますちゃんとするって」
「今待ちきれなくなっていただきますって言ったよね」
「もぐもぐ。ちょっと氷室、いくらおいしそうだとはいえ、みんなでいただきますしないとダメじゃない。気持ちよく食べられないでしょ?」
「あれ、光莉の皿の上がもう半分なってるんやけど……」
「光莉ってご飯食べるのすごく早いんだよ。おいしければおいしいほど」
「獲物取られへんようにする動物みたいやな」
「えへへ」
「野生を褒められて照れてんじゃねぇよ」
しかしこう見ると化け物だな。ハムスターみたいに頬をパンパンにしたかと思えば、すぐに口から物がなくなって幸せそうな笑顔。めっちゃくちゃ汚いのに可愛く見えてしまう俺がいる。
でも実際、おいしそうに食べる女の子は可愛い。遠慮してちまちま食べるより、俺はそっちの方が好みだ。もっとも遠慮してちまちま食べるってことは一緒に食べてる俺の目を気にしてるってことだから、それはそれで可愛いんだけど。俺の自意識過剰の可能性もあり、その子は普段からそんな食べ方をしているのかもしれないが。
千里はお上品に綺麗に食べ、日葵も岸もそこまで変わらない。ただ、岸は盛り付けは綺麗だが、食べ方はそれはもううまそうに豪快に食う。マナーを気にするけど、我慢ができないタイプと見た。
「あれ? あんた私のご飯食べた? もうないんだけど」
「人のせいにすんじゃねぇよブラックホール。お前がものすごい速さで完食したんだろうが」
「乙女がそんなことするわけないじゃない。氷室、一人ですぐに立つのは恥ずかしいから早く食べて私についてきなさい」
「もう食べた」
「流石」
「褒めるなよ」
流石にこいつも一瞬で食べてすぐに取りに行くのは恥ずかしいという気持ちはあったのか。まぁなんだかんだ言って女の子だし、何もおかしくはない。
「あ、これおいしかったのよね。名前もわからないお肉」
「わかる。全部取って行っちまおう」
「流石にそれはダメよ。他の人も食べたいかもしれないじゃない。二切れくらい残しておきましょ」
「お前優しいんだな」
「ふっ、できる女は違うのよ」
肉を二切れだけ残し、残りは仲良く朝日と半分こして皿の上に乗せる。さっき使った皿の上に乗せてしまったが、乗せてしまったものは仕方ないだろう。一度使った皿を持ってうろつくのはマナー違反っぽいが、許してほしい。そうしてしまうくらいご飯がおいしいんだ。
「こういう時に野菜食べるのって意味がわからないのよね。日葵は別だけど」
「あぁ。結局野菜って草だもんな。マジで意味わからん。日葵は別だけど」
「日葵野菜ばかり食べてて心配だわ。もっとお肉食べて力つけなきゃ」
「お前肉ばっか食ってるからパワーあるのか。胸もデカいし」
「おっぱいとお肉って関係あるのかしら? そうなると春乃はどうなるの?」
「栄養を常に放出してるんだろ。お前はため込んでるからパワーがあるし胸もデカい」
「パワーとおっぱいに変換されるくらいなら身長が欲しいわ」
「お前さっきからおっぱいって言うのやめてくれない? 飯中だぞ」
さっきから周りの視線が痛いんだよ。主に男子。朝日がおっぱいおっぱい言うから飯に集中できず興奮しちゃってるだろ。あと俺もついでに見られて嫉妬の目線突き刺さってるだろ。まったく、朝日は地味に男子に人気なんだからあまり不用意な発言はしないでほしい。
「さて、粗方荒らしつくしたし戻るか」
「そうね。またお皿の上が山になっちゃったわ」
「どうせすぐに削れるんだから気にするな」
それぞれ山を作ってテーブルに戻り、ふと思いついて千里をスマホで撮り、薫に送ってみた。『なに? 兄貴と千里ちゃんやっぱり付き合ってますって報告?』と返ってきたので、『付き合ってないけど可愛いだろ?』と送ると、『かわいい』と返ってきた。千里に見せると絶望していた。