【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第37話 千里のタオル

「お前ら! 絶対に千里のことを見るんじゃないぞ! 性癖歪んでも知らねぇぞ!」

「やめろ氷室! 俺たちを誘惑するようなことを言うんじゃねぇ!」

「俺たちは普通に風呂を楽しみたいんだ! 『クソ、覗きできるようなところじゃねぇのか。あれ? そういえば女みたいなやついるから覗きする必要なくね?』と思ってしまった俺たちの心を呼び起こすな!」

「クソ、千里どうする! ここは獣ばかりだ!」

「そこまで言うならもう性癖を歪ませてあげよう」

「ウワー! 千里が脱ぎ始めた!」

「退散、退散ーッ!」

 

 お風呂の時間、脱衣所。

 

 千里を背中に庇い、男どもの視線から遮って口論していると、千里が脱ぎ始めたことにより性癖の歪みを恐れた男どもが蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。千里は俺の背後でぐすんぐすん言いながら脱いでいる。ごめんて千里。

 

「もういいんだ。僕は男から見ても女の子から見てもえっちなんだ……。ねぇ恭弥。今僕たち付き合ってることになってるから、ひっついても文句言われないよね?」

「俺が死ぬ」

「僕がみんなの視線に晒されるよりはマシだよ」

 

 いやお前、付き合ってるって勘違いされてるのにそんなことしたら確信に変わっちゃうじゃん。「あいつ、自分のメスの裸見せたくないから庇ってやがる」って思われるじゃん。普通に見られると千里が嫌な思いするから見せたくないっちゃ見せたくないんだけど、そういうことじゃないんだよ。

 

 幸い、今の時間は俺たちの学校のバカどもしかいない。だから未来ある子どもの性癖を歪ませることはないが、しっかり性欲を持った猿どもの性癖が歪む可能性がある。これの何がヤバいかというと、千里に恋してしまうやつが現れるかもしれないということだ。

 それに、千里を誘ったというやつがいるかもしれない。そいつにだけは千里の裸を見せるわけにはいかない。

 

「仕方ねぇ。ちゃんと隠れとけよ?」

「ん、ありがと」

 

 このメスが。かわいいこと言ってんじゃねぇよ興奮するだろ。しおらしくなったらお前100%メスなんだから。作られたメスなんじゃなくて天然もののメスなんだから。希少価値なんだから。天然記念物人間国宝なんだから。

 

 前回の反省を生かした千里は胸までタオルを巻き、俺の背中にぴったり張り付く。親友である俺たちはぴったり息が合うからか、千里が俺の背中から離れることなく風呂へと歩いて行ける。二人三脚しても普通に走る速度と変わらないんじゃねぇの俺たち。息合いすぎだろ。

 

 スライド式のドアを開け、大浴場へ入る。流石に今日行ったところよりは狭いが、十分広い。スタンダードな風呂がいくつもあり、左手の方にはサウナ、その近くに水風呂、右手奥には洗い場があり、大浴場入ってすぐにかけ湯がある。大きな壺が二つ置かれており、恐らくお湯と水が入っているんだろう。そこにいた男どもが水をかけ合って遊んでいたが、俺を見ると、正確には俺の背中に隠れている千里を見るとどきまぎしながらすたこら去っていった。

 

「千里、かけ湯だ」

「周りに人は?」

「今散っていった」

「そう……」

 

 悲しそうに呟きながら、千里は俺の背中から恐る恐る顔を出す。その瞬間正面の風呂に入っていた男どもが顔を背け、「明日の明日って明日だっけ?」と支離滅裂な会話を始めた。明日の明日は明後日だぞ。

 

「……恭弥。僕が前に出てかけ湯しちゃうと、みんなに僕が見えちゃうよね?」

「そうなるな。でも仕方ねぇだろ」

「恭弥、かけてくれない?」

「おっ」

 

 正面の風呂に入っている男どもが湯の中へ潜り、ばしゃばしゃと両腕を動かして暴れてからまた水面へ浮上してきた。多分俺と同じことを考えてしまったんだろう。何を考えたとかそんなことは生々しくて言えないけど、発言には気を付けて欲しい。

 湯ね。湯をかけてほしいのね。もちろんわかっていますとも。俺は清廉潔白、身も心も綺麗な男。何もいやらしいことは考えていない。

 

「よし、かけるぞ」

「ちょっとまって。こっち見るの?」

「見ないとかけれねぇだろ」

「えーっと、変な気持ちにならない?」

「バカ。敏感になりすぎだっての。俺に対してだけは安心しろ」

「それもそうだね。ありがと」

 

 湯をすくい、振り向く。穏やかに微笑んでいるタオル一枚の千里がいた。

 

「ごめん」

「恭弥。なんで僕に背を向けたかを説明してもらおうか」

「千里。かけ湯の壺はデカいから周りからは見えない。俺がかけなくても大丈夫だ」

「正直に言ったら怒らないから」

「興奮しました」

「このクソ野郎め!」

「いぎゃあ!」

 

 背中に張り手をくらい、痛みに悶える俺を放置して千里が艶めかしく、じゃない。普通にかけ湯をした。俺はその光景から必死に目を逸らしながら、かけ湯をする。なんかめちゃくちゃ冷たいけど今そんなことは気にしていられない。

 

「恭弥、そっち水だよ? 平気なの?」

「あぁ。俺と結婚してくれ」

「気が動転してるんだね。まったく」

 

 水をかけたことでブルブル震えている俺に、千里がゆっくりと湯を浴びせてくれる。「仕方ないなぁ」と言わんばかりの表情は、手のかかる弟、いや彼氏、いや親友を見る目をしていた。マズい、考えるな。いやらしいことは考えるな。こういう時は身近な男のことを考えるといいって聞く。千里じゃねぇかクソが。

 

「ほら、背中貸して?」

「おう。洗い場でいいか?」

「うん。マナーだからね」

「お前って結構マナー気にするよなぁ」

「ん-、他人の視線を気にするからかな。ほら、マナー守ってないと嫌な目で見てくる人いたりするでしょ?」

「それお前がメスすぎるから見てるんだよ」

「それはないでしょ」

 

 それがあるんだよ。

 

 洗い場へ向かうと何人か男どもがいたので、「俺の後ろには千里がいる」と言うと、全員が頭の後ろでタオルを結んで目を隠した。その中には井原の姿もあり、見当違いの方向に親指を立てている。

 

「俺らのことは気にするな! 彼女の裸は見ないぜ!」

「お前基本いいやつなのにバカだよな。もしかして全員目逸らしてるのもお前の指示?」

「おう! だって自分の彼女の裸見られるの嫌だろ?」

「それはそうだけど、そもそも俺たち付き合ってないんだよ」

「いや、それならそんなくっつかねぇだろ! いいから気にすんな! 俺ら、絶対見ねぇから!」

「サンキュー」

 

 お前いいやつだけど、お前が俺と千里が付き合ってるって言いふらしたこと忘れてないからな。俺は執念深い人間なんだ。もっといいことして返してもらわないと許さない。

 

 できるだけ千里が周りから見えないように隅っこへ移動し、完全な角にある洗い場へ千里を座らせて、俺がその隣に座る。隣に裸の千里がいるって考えるとすごくいけない気持ちになってしまうが、「千里は男、俺には日葵がいる」と自分に言い聞かせて平気な風を装って髪を洗い始めた。

 

「なにかやけに大げさに目を逸らすと思ったら、井原くんが指示してたんだね」

「あいつ結構気が利くやつなんだよ。だからバカでも信頼は厚い。あぁいうやつが社会に出て成功するんだろうな」

「井原くんを嫌いな人なんていないんじゃない? 彼女がいるって聞いたことはないけど」

「バカだから好意に気づかねぇんだよ。その代わり、あいつが本気で誰かを好きになったら十割付き合えるだろ」

「夏野さんが相手でも?」

「その時は俺が井原を殺す」

「じゃあ十割じゃないじゃん」

「そもそもあり得ないから確率の計算にカウントしないんだよ」

 

 日葵を好きになったら俺か朝日が確実に殺す。だからこれを確率計算にカウントしちゃダメだ。絶対に無理だってわかってるからな。あくまで可能性がある相手となら十割付き合えるって話だ。

 

 あっちの方で「井原が多分こけた! でも見えねぇから助けらんねぇ!」「風呂入ってるやつきてくれ! 井原が多分こけた!」「でもそっち織部がいるんだろ!? 行ったら見えちまうじゃねぇか!」「バカ、タオルで目を隠せ!」「それだ!」とバカな会話が聞こえてくる。タオルで目を隠したらお前も見えないだろ。

 

「しゃーねー。ちょっと行ってくるわ。俺のタオルやるから体隠しとけよ」

「うん。待ってるね」

「ほいほい」

 

 男らしくどこも隠さず井原の事故現場へ行くと、井原がV字開脚をして倒れていた。なんでこんな面白い倒れ方をしているのかわからないが、隣に座って意識の確認をする。

 

「おい、生きてるか?」

「ヤバイ。俺頭打った。バカになってるかもしんねぇ」

「なら正常だな。立てるか?」

「おう。立てるぜ」

「なら最初っから立っとけお騒がせ野郎が」

「俺注目浴びるの好きだからさ。ワリィ!」

 

 言って、井原がのろのろと起き上がる。ただ目をタオルで隠してるため、手探りで恐る恐るといった感じだった。仕方ないから手を貸して、近場にあった椅子に座らせると、歯を見せてニカっと笑って「さんきゅー!」と一言。もう許そうこいつ。こんな純粋でいいやつに怒れねぇよ俺。だってこいつが俺と千里のこと広めたのだって、本気で付き合ってるって信じてたから先に言いまわって「応援しよう!」ってことだったんだろ? お前みたいないいやつは絶対幸せになってくれ。

 

「もう俺は大丈夫だからさ、織部んとこに戻ってやれよ」

「もうこけんなよ?」

「大丈夫! あ、それとさ」

「なんだよ」

 

 井原は目が見えないはずなのに、正確に俺に近寄ってきて耳打ちしてきた。怖い。

 

「なーんか、織部んことやらしい目で見てるやついるかもしんねぇ」

「それは全員だろ」

「バカ。俺らは万が一のために目を隠してるだけで、人の彼女見るわけにはいかねぇって意識のが強いんだよ」

「そうじゃねぇやつがいるって?」

「多分な」

「じゃあ今千里に話しかけてるやつがそうってことか?」

「ば、バカ! 早く助けに行けよ!」

「大丈夫だろ」

 

 こいつ俺のこと二回もバカっていいやがって。お前がバカなんだよバカ。やっぱり許さねぇ。

 

 千里を助けに行かないのは、理由がある。今この状況で俺が入るとややこしくなるかもしれないし、第一もし『そういうこと』だったとしても、それは当人同士で解決できるならそうするべきだ。俺の出番は、千里が本当に危なくなった時。

 

「大丈夫って、織部に何かあったらどうすんだよ。俺たち目見えてないんだぞ?」

「井原。千里もちゃんと男なんだよ」

 

 え? とバカを晒している井原には見えていないだろうが、千里は言い寄ってくる男の腕に俺が渡したタオルを巻き付け、それを引っ張りバランスを崩させて仰向けに倒れる男の後頭部を手で支え、そのままゆっくりと寝かせる。それから「しつこい」と言い放つと、機嫌悪そうに俺の方へ歩いてきた。

 

「俺のタオル」

「ごめん。でもあぁいうことでしょ?」

「ん-、まぁ、千里が無事ならそれでいいけどな」

「え? なに? なにがあったんだ?」

「なんにも。ありがとね井原くん」

「ん? ありがとうってならどういたしまして!」

 

 千里の井原に対する好感度が上がった気がした。なんでだろうと首を傾げると、アイコンタクトで「あとで教えるね」とのこと。まぁどうせ井原がいいことしたんだろうと勝手に納得し、あまり気にしないようにして風呂を楽しんだ。何人かの性癖が歪んだ。

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