【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第38話 1111へ

「千里。風呂上りのお前と二人きりになってドキドキしている俺を許してほしい」

「僕は絶対に君を許しはしない」

 

 最近度々俺たちの友情に亀裂が入る気がするんだが、気のせいだろうか。

 

 風呂に入って部屋に戻り、就寝時間が近づいている頃。いよいよ今日のメインイベントが目の前まで来ているというときに、このメスは俺を誘惑してきやがった。俺だからよかったが、他の男なら耐えきれずに千里を襲い、返り討ちにされていたことだろう。俺なら返り討ちにされないとかそういう話じゃないぞ?

 自分の体を隠すように枕を抱いている千里の写真を撮り薫に送りつけて、ため息を吐く。千里が薫のことが好きだと聞いてからちょくちょく薫に千里の写真を送っているのは、千里のメスさ加減を見せて千里はメスだと薫に植え付けるためだ。千里と付き合うなら、千里のメスも受け入れるような人じゃないといけない。千里がメスだとわかりつつも一生一緒にいると言える人じゃないといけない。嫌がらせに見えるが、これは千里のためである。

 

 そんなのは言い訳。メスすぎてフラれちまえ。

 

「ねぇ恭弥。いい加減僕の写真を薫ちゃんに送るのやめてくれない?」

「なんでだよ。『ねぇ、本当に男の子なの?』って好評だぞ」

「薫ちゃんには僕が男だって認識してもらわないと困るんだよ」

「俺は薫に千里が男だって認識されたら困るんだよ!」

「いいじゃないか別に。君も薫ちゃんを任せるなら僕って言ってたじゃん」

「は? 言ってないけど? 自分の都合のいいように記憶改竄してんじゃねぇよゴミ」

「ちなみにボイスメモ録ってる」

「お前さては結構前から薫のこと好きだったな?」

「うん」

 

 俺から目を逸らし、頬を赤く染めて頷くメス。お前完全に恋する乙女の表情じゃねぇか。そんなんで夫になろうとしてんのか? 薫の方がよっぽど男らしいしカッコいいぞ。なんせ俺の妹だからな。

 

 しっかしまぁ、流石にこれ以上千里の写真を送り続けると薫が勘付きかねない。薫は賢い子だから、「もしかして千里ちゃんが私のこと好きとか?」ってとんでもない察しのよさを見せる。そうなる前に止めないと流石に千里がかわいそうだ。

 

「ったく、それを隠して俺と親友やってたなんて信じらんねぇな。もしかして薫目的で近づいたのか?」

「それは違う。恭弥が恭弥だから親友になったんだ」

「薫に千里はやらん。俺がもらう」

「今日から君との縁を切ることにした」

 

 そんな簡単に縁が切れる親友ってあるかよ。

 

 千里と話しながら薫へカモフラージュのために『だいちゅきだよ~』とメッセージを送り、『キモ。死ねば?』と送られてきてうんうん頷く。正しい反応ができていて俺は満足だ。っていうか薫ずっと俺が送るメッセージに一瞬で返事してくれるけど、勉強してんのか?

 

「おい千里。薫が勉強してないかもしれない」

「大丈夫でしょ。薫ちゃんは君から悪いところをとって性別変えたような子なんだから、何も心配ない」

「神の子かよ」

 

 それならなんの心配もないな。今思えば薫が勉強について悩んでるところ見たことがないし、信じられないくらい要領がいいから、どうせ『この時間帯に兄貴から連絡きそう』って察して待っててくれてたんだろう。察しがよすぎて化け物かと疑ってしまう。ふふ、かわいらしい化け物だぜ。

 

「それにしても、朝日さんたち遅いね。お風呂あがったらすぐ来るって言ってたのに」

「女の子は色々準備大変なんだよ。気長に待とうぜ」

 

 俺はジェントルマン。女の子に優しい紳士である。朝日は別。

 

 

 

 

 

「なにしてるん?」

「日葵が今になって恥ずかしくなったみたいで、恥ずかしがる姿が可愛らしいからしゃぶりつくそうとしてるの」

「なるほど。警察か病院どっちがええ?」

 

 私は犯罪もしてないし頭もおかしくないのに、春乃は何を言ってるんだろう。

 

 お風呂から上がって部屋に戻って、さぁクズのところに行こうとしたその時。日葵が今になって恥ずかしくなったらしく、ベッドの隅で布団にくるまり、抗議の視線を送ってきていた。ベッドの上であんなに可愛らしいことをするっていうことはつまりもうそういうことであり、春乃には出て行ってもらわないといけない。でもそうすると春乃はクズのところに行って、なんだかんだあってクズと春乃の距離が縮まって、なんだかんだで日葵が傷ついたらだめだから、私は何もできないということになる。クソめ。

 

「なー日葵。そんなに恥ずかしいん?」

「だって、男の子の部屋ってだけで緊張するのに、お風呂上りで、しかも恭弥がいるんだよ?」

「初心やなぁ。こういう時は好きな人にアピールする絶好のチャンスやで? お風呂上がりの女の子なんか好きな子やなくても興奮するに決まってるやん」

「ふふ。私が氷室と織部くんを悩殺しちゃうかもしれないわね」

「はは。それはないやろ」

「は?」

 

 私の美貌と色気をもってしてそれはないやろ? それはないでしょ。だってあいつら私のこといつもいやらしい目で見てきてるし、お風呂上がりの私に耐えられるわけ……うん、耐えてたわ。氷室の家に泊まった日、明らかに私に対してだけ反応が普通だったし。なんで織部くんの方に反応すんのよあのクズ。私にも反応しなさいよ。

 

「ん-、日葵が行かんなら私だけで行ってこよかなー」

「そ、それはダメ!」

「なんでー?」

「だって春乃、恭弥のこと好きなんでしょ? 春乃すっごく可愛いし綺麗だし、恭弥が春乃のこと好きになったら困るし……」

「絶対抱くわ」

「かわええのはわかるけど、犯罪はあかんで」

 

 とびかかろうとした私の首根っこを摑まえて、春乃が私を宙ぶらりんにする。そのままお姫様抱っこされて、春乃の綺麗な顔を下から眺めさせられた。結婚してほしい。

 

「日葵。これはチャンスやで? まぁそれは私にとってもなんやけど、ここで氷室くんにアピールできたらグンって距離縮まるやん? 大丈夫。氷室くんってあぁ見えてめっちゃ優しいから、変な反応なんかせえへんよ」

「……ほんと? 私、変じゃないかな」

「うん、ちゃんと可愛いで。氷室くん、直視できひんちゃうかな?」

 

 なるほど。日葵はただ恥ずかしかったんじゃなくて、お風呂上がりの自分を見られるのが不安だったのね。そういえば氷室の家に泊まった時も逃げ回っていい香りまき散らしてたし、そんな日葵が一緒の部屋にいるなんて耐えられないだろう。うーん、好きな人に可愛くみられるかどうかが不安なんて乙女心、私にはない。好きな人がいないから。

 

 どこかにいないかしら。氷室から悪い部分取り去ったような男の人。……女の子ならいるけど、残念ながら私は男の子が好きな女の子。チッ。

 

「それに、私も日葵が来てくれへんかったら寂しいな」

「……行く」

「ん! ありがとうな!」

「私こそありがとう」

「春乃。二人で友情育んでるところ悪いんだけど、お姫様抱っこされてる状況恥ずかしいから下ろしてくれない?」

「いやや」

 

 いやや。可愛いから許してあげよう。私は寛大な人間なのだ。

 

「ほな見つからへんように行こか」

「光莉をお姫様抱っこしてたら目立つと思うけど……」

「確かに。お姫様抱っこされてる私可愛すぎて目立つかもしれないわね」

「そういうことじゃなくて」

「私は可愛くないんだ……」

「ん-ん。可愛いで、光莉」

「あ、よろしくお願いします」

「光莉。今のプロポーズじゃないよ」

 

 びっくりした。あまりにもカッコいい笑顔で可愛いって言ってくれるものだからプロポーズされたのかと思った。何この子。カッコよくて可愛くて性格いいって無敵じゃない。まぁ私も同じなんだけど。違うところと言えば、胸の大きさと身長くらいかしら。

 

「……光莉。ちょっと相談なんやけど、おっぱい揉んでもええ?」

「いやらしい揉み方じゃなかったらいいわよ。別に減るものでもないし」

「じゃあやめとこ」

「いやらしい揉み方しようと思ってたってことね。それは日葵にしかさせないわよ」

「私は一生やらないよ?」

「一生やってくれないの!?」

「もう出るから静かにしてなー」

 

 まさか私の魅力的なおっぱいをいやらしく揉まないなんて思いもしなかった。日葵と乳繰り合ってきゃっきゃするという私の夢は潰えた。えーんえん。

 部屋を出て、ドアを閉じる前に鍵を持っているかどうかを確認してからドアを閉める。オートロックだから、鍵を忘れたらクズのところで寝ないといけないものね。私は別にいいけど、日葵と春乃が可哀そうだ。別にいいっていうのは襲ってきても返り討ちにできるからであり、それ以外に理由はない。

 

 あいつらの部屋はそこまで遠くなく、階が違うだけ。私たちが9階で、クズどもが11階。エレベーター前は先生が見張っているというのを事前に知らされているが、今の時間帯は私たちのクラスの担任。どうせ見つかっても見逃してくれるに違いないので、普通にエレベーターの方へ向かう。

 

「あ、先生こんばんはー」

「おう。氷室たちの部屋は11階だぞ」

「知ってる! あ、他の先生に私たちのこと言わんといてな」

「何が? お前らは長めのトイレに行くだけだろ」

「そういうことにしてくれるってことね。相変わらずクズなんだか優しいんだか」

「俺はクズで、お前らがいい子なんだよ。何も問題起こさないって信じてるから、こうして送り出してるんだ。問題起こしそうなやつらはちゃんと止めるさ」

 

 壁に寄りかかって、エレベーターに乗り込む私たちに手をひらひらと振る先生。日葵がぽやーっと先生を見ているのに気づいてねこだましすると、肩をビクッと震わせて我に返った。

 

「どうしたの日葵?」

「わっ、えっと、なんか先生ってなんとなく恭弥に似てるなーって」

「確かに。氷室くんに落ち着きと大人っぽさ足したらあんな感じかもなぁ」

「クズか優しいかわからないってところも似てるわね。顔もカッコいいし」

「恭弥も先生も優しいよ」

 

 日葵は天使よ。

 

 11階で下りて、氷室たちの部屋へ向かう。部屋番号は1111。部屋を選ぶときゾロ目だったから選んでしまったらしい。バカじゃないの?

 

 部屋にはすぐについた。1111のドアの前に立って日葵がお上品に三回ノック。ドアの向こうから「あぁ、日葵か」「なんでわかるの? 気持ち悪いよ」といういつも通りのバカな会話が聞こえてきたかと思うと、ほどなくしてドアが開いた。

 

「よう。遅かったな」

「ん、ごめんね?」

「きたで。愛の巣におじゃましてごめんな?」

「織部くんは無事なんでしょうね」

「無事だ。ちゃんとベッドの上でビクついてる」

「恭弥。話がある」

「どうやら千里が俺に話があるらしい」

「会話せずにぶち殺されそうやな」

 

 殺気をまき散らす織部くんの方を振り向かず、あははと乾いた笑いの氷室は、私を見て一言。

 

「ところで、なんで朝日はお姫様抱っこされてるんだ?」

 

 忘れてた。


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