【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第40話 テーマパーク

 大阪にある、超巨大テーマパーク。恐らく今回の修学旅行で大半の生徒が目的にしているであろうそこに、俺たち5人はやってきた。

 

 テーマパーク全体に走るカラフルなレールは、どう見ても日葵が苦手な絶叫マシン、ジェットコースターのもの。渦を巻いたり何回転もしたりと忙しいレールを見て、早くも日葵の頬が引きつった。

 

 せっかく大阪にきたんだからとここへ行くことは満場一致で決定、するかと思いきや、日葵だけ嫌がったのは、『朝日に絶叫マシンに乗せられるから』らしい。今も目を光らせてすべての絶叫マシンの位置を把握しようとしている朝日を見ればそれが真実かどうかなんて一目瞭然だ。

 

「さて、何から乗る?」

「絶叫マシンに乗って私が日葵に抱き着いてもらって日葵の泣き顔を見る以外の選択肢なんてこの世に存在するの?」

「光莉きらい」

「この世の終わりみたいな表情で光莉が死んでもうた」

「悪は去った」

 

 早くも4人になってしまった俺たちは巨大な園内マップの前に立ち、どこに行こうかと相談しあう。日葵は絶叫マシンがダメで、他4人、いや3人は特に苦手なものはない、はず。隠してるっていうのもあるかもしれないが、少なくとも俺と千里は何も苦手なものはない。

 

「ゆったりしたものに乗ろうよ。ゆっくり動く乗り物に乗りながら物語を見てくやつ」

「乗りたくないもん乗ってもしゃあないもんな」

「私は絶叫マシンに乗りたい! のーりーたーいー!」

「こら! わがまま言わないの! でっかいおっぱいぶら下げてるのに、ほんと子どもなんだから!」

「ばぶばぶ言ったら吸わせてあげるわよ」

「ばぶばぶ」

「ちくしょう! 千里を弄びやがって、許さねぇ!」

「日葵。ストーリー見るよりこっちのがおもろいんちゃう?」

「恭弥たちが気になって集中できなさそうだしね……」

 

 確かに。流石に他のお客さんがいたら俺たちもおとなしくなるとは思うが、思うだけ。もしかしたら耐えきれなくなって騒いでしまうかもしれない。黙ったり動かなかったりしちゃうと死んじゃうんだ、俺たちは。

 ばぶばぶ言いながら朝日の方へよちよち歩き出した千里の首根っこを掴み、本気の抵抗を受けながらどこへ行こうかと考える。せっかく5人できたんだから5人で一緒のものに乗りたいし、ってなるとゆったりしたアトラクションしかなくなるんだが……。

 

「あ、お化け屋敷はどう? あの向こうに見えるアホみたいに怖そうな病院」

「いやっ!」

「日葵が嫌がるなら朝日の思うつぼだろ。もっとこう、朝日が喜ばずに日葵が喜びそうなところに……」

「……」

「おやおや? 静かだね、朝日さん」

「幽霊とかお化けとか全然怖くないわ」

「それ、怖がる人しか言わんセリフやで」

 

 意外だ。朝日のことだから幽霊とかお化けとか相手でも「私の方が強いわ」と言って平気な顔して蹴散らすと思ったのに。まさか朝日がお化け怖いなんて、可愛いところあるじゃねぇか。

 朝日が怖がっているところを見てみたい気もするが、日葵も嫌がってるからド級に怖そうなお化け屋敷、もといお化け病院はなしだろう。残念だ。朝日が怖がってるところを写真に収めていじりまわしてやろうと思ってたのに。

 

「……光莉、お化けこわいの?」

「怖くないわ! えぇ、断じて。ふふん。なんなら私が日葵を守ってあげましょうか?」

「うん、お願いね」

「え?」

 

 ……これまた意外。いや、意外でもないのか。今まで朝日に絶叫マシンに乗せられていたんだから、仕返しのチャンスがきたらそりゃ無視しないだろう。

 つまり、日葵は朝日がお化けを怖がっていると知って、何が何でもお化け病院に入ろうとしているんだ。

 

「私、怖いからちゃんと守ってね?」

「日葵。こっちから行かなきゃ守る必要もないわ。私は日葵が危ないところに行くのが我慢ならないの」

「これが日葵を絶叫マシンに乗せて、その泣き顔を楽しんでいた女のセリフです」

「外道」

「生きる価値あらへんな」

「織部くん。あとでおっぱい触らせてあげるから私の味方しなさい」

「恭弥、岸さん。朝日さんのなにが悪いって言うんだ?」

 

 あっさりと寝返った千里を見て、俺はすかさずスマホを取り出して薫にメッセージを送る準備を終えた。内容は、『千里が朝日のおっぱいに夢中』。

 

「薫に言いつける」

「はぁ、最低だね朝日さん。生きてて恥ずかしいと思わないの? かわいそうな人だね」

「ちなみにもう薫に言いつけてある」

「このドぐされ野郎め!! ぶち殺してやる!!」

「『私のってどうなのかな?』って返ってきたぞ。つまり俺がお前をぶち殺すってことだ」

「え、脈ありじゃん。やったー!」

「感情がジェットコースターみたいになっとるな」

 

 薫に『薫が世界一だよ♡』と送って『キモ。二度と帰ってこないで』と返ってきたのを確認してから、スマホをそっとしまう。どうしよう。家がなくなってしまった。これは日葵のおうちに行くしかないかな?

 さて、千里が薫という最大の武器によって俺たちの陣営につき、4対1だ。賛成派4人と反対派1人。岸は行くとも行かないとも言っていないが、俺たち側に立ってるから賛成派ってことだろう。

 

「くっ、怖いわよ、怖いわよ! バカにすればいいじゃない! 普段は怖いものなしみたいな顔してるのにお化けなんていう幼稚なものが怖いなんて、ぷーくすくすって!」

「怖いものなんて誰にでもあるだろ。バカになんてしないさ」

「あれ、氷室くんのことやから絶対バカにすると思ったのに」

「夏野さん」

「あぁなるほど」

「? 私がどうかしたの?」

 

 気にするな、と日葵に向けて手を振ってクールにキメる。俺が朝日をバカにしなかったのは、「お化けが怖いなんてダサい」ってバカにするとそれは日葵もバカにしていることになるからだ。間接的に日葵を傷つけてしまうなんて俺には耐えられない。ちなみに朝日のことは心底バカにしている。朝日のくせにお化けが怖いなんてクソダサくね? 信じらんねぇ。

 

「光莉、私が嫌がってるのに絶叫マシン乗せたよね」

「それは私も悪かったわ」

「悪いのはお前だけだよ」

 

 なんでちょっと助かろうとしてんだよこいつ。もう無理だぞ。どんだけごねても『まぁ朝日だし』って理由で逃げられない。日葵と千里と岸が本気で嫌がったら全員『仕方ないか』って思うが、朝日と俺に関してはどれだけ嫌がっても無駄だ。普段の行動がクズ過ぎて優しさが向けられることはない。え? 俺もなの?

 

「行ってくれなきゃもう光莉と口きかないもん」

「さぁ行くわよあんたたち。何もたもたしてるの?」

「朝日さんにとって、夏野さんと話せないのは死ぬのと一緒だからね」

「俺たちに泣きついてくる姿が目に浮かぶ」

「氷室くんらに泣きついたら相当やな」

 

 相当だ。朝日は何があっても俺たちに助けは求めない、はず。基本的に一人で解決できるし、何より俺たちに借りを作りたくない、というより俺たちに期待していないからだ。俺と千里は自分で言うのもなんだがハイスペック。しかし致命的な場面でポンコツをやらかす。相談に乗るだけはできるが、解決なんて多分しない。役立たずなんだ俺たちは。

 

 少し震えているように見える朝日を先頭に、ヤバげな雰囲気を醸し出す病院に向かって歩き出す。テーマパーク内に病院を建てるってどんな発想したらそうなるんだよ。廃病院は怖いっていうイメージはあるが、「じゃあお化け屋敷を病院にしちゃおう」なんてことにはならないだろ。

 それをしてくれたおかげで、俺は朝日の怖がる姿を見ることができるのだが。

 

 そして、俺は密かに期待していることがある。それは、漫画とかでよく見る「きゃっ!」と女の子が男の腕にしがみつくアレ。日葵はお化けが怖い。ということは「きゃっ!」ってなる。そして俺は男、千里はメス。つまり俺の腕に日葵がしがみつくっていうことだ。天才過ぎて自分が怖い。

 ただ、怖いのは岸の存在。岸は俺よりカッコいいから、日葵が岸を頼る可能性がある。岸もお化けを怖がってくれたならよかったが、めっちゃくちゃ平気そうな顔してるから絶対怖くないだろこいつ。人を守るために生まれてきたのか?

 

「な、氷室くん」

「ん? どうした岸」

 

 そんな人を守るために生まれてきた岸が、並んで歩く俺と千里のところにきた。前では日葵と朝日がお互いびくびくしながら近づくホラー病院に歩みが少しずつ遅くなっている。

 

「あれな、結構有名なやつなんやけどどんなんか知ってる?」

「いや、知らねぇ」

「あ、そうなんだ。結構面白そうだよ」

「千里は知ってんの?」

「なんとなくね。クラスのみんなが話してたから、それをちょこっと聞いてて」

 

 俺日葵と千里と岸と朝日と、時々井原の声以外遮断してるから全然知らなかった。ってことは俺たちの学校のやつらもきてるかもしれないってことか。

 

「一回の定員は40名。イメージとしては探索型ホラー脱出ゲームみたいなやつであってる?」

「合うてる合うてる。本気で怖いもんが追いかけてきて、それから逃げながら病院内を探索して脱出するのが目的やねん。おもろそうやろ?」

「あの二人泣くだろ」

「しかも捕まったらリタイア。一度入った人はもう二度と入らないって泣くほど怖いらしい」

「あの二人死ぬだろ」

「ちなみにこの説明は受付とかで一切されへんねん。事前情報仕入れんかったらわけのわからんまま追いかけられて、何回かはわざと逃がされるっていう鬼畜ぶり」

「あの二人死んだな」

「で、岸さんが僕たちのところにきたってことはあの二人に教えるつもりはないんだね?」

「もちろん!」

 

 人を守るために生まれてきたかと思っていた岸は、人を殺すために生まれてきたの間違いだったらしい。怖がりの二人にこれを教えないなんて、顔ぐちゃぐちゃになるくらい泣いちゃうぞあの二人。日葵はそれでも可愛いに決まっているが、朝日は見るに堪えない。いや、見た目はいいんだろうが素を知っている俺はそんな朝日を直視できない。流石に申し訳なさが勝つ。

 

「これを二人に話たんは、ちょっと協力してもらかなーって思って」

「協力?」

「そ。せっかく入るんやから、怖かっただけやなくて楽しかったってなったらええなって思って。せやから、何があってもあの二人を守り切ってほしいねん。もちろん全員で脱出したいけど、何があるかわからんしな」

「あぁ、確かに。僕たちがそれを知らないままだと、みんなパニックになっちゃうもんね」

「それならあの二人に教えてもよくね?」

「それはほら。こういうのって、男らしさ見せるチャンスやん? 頼りにしてるで、二人とも!」

 

 俺と千里は一瞬岸に惚れて、俺は日葵がいることを思い出し、千里は薫がいることを思い出して我に返った。恐ろしいぜこの女。


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