【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:酉柄レイム

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第41話 犠牲者

「俺らはDゲートだって。行こうぜ」

「……」

「……」

「喋らんくなってもうた」

「表情も固まっちゃってるね。ははは」

 

 何が面白いんだお前。日葵が怖がってるんだぞ? それにしても朝日が怖がってる姿は面白いな。ははは。

 

 ホラー病院の受付までたどり着いた俺たちは、「Dゲートへ向かってください」以外何も言われず、言われるがままDゲートへ向かった。本当に何も説明しないんだなぁと思いながら少し歩くとDゲートにたどり着く。

 

 回すタイプのドアノブがついた両開きのさび付いたドア。血文字に見える『D』の字がドアに刻まれており、上の方には非常口のマークがあった。

 

「もうだめ。今日ここで私は死ぬんだわ」

「まだ何も起きてねぇだろ。しっかりしろ」

「うぅ、怖い……」

「無理はするなよ日葵。俺がついてるからな」

「ちょっと、私にも優しくしなさいよ」

「おーよちよち。こわいでちゅねー?」

 

 ぶっ飛ばされた。お前その腕っぷしがあったら何も怖いものなんてないだろふざけんな。いや、お化けとか幽霊とかって触れないんだっけ? じゃあ怖いものはある。ふっ、俺は平等な人間なんだ。

 

「なぁ千里。あの血文字って俺の血で書かれたやつか?」

「安心して。血は出てないから」

「血『は』って、他に何か問題があるように聞こえるんだけど」

「千里。それ以上はあかん」

「え? うそ。俺に何が起きてるの?」

 

 ねぇ、教えてくれない? と千里と岸の周りをうろちょろする俺を二人は完全に無視して、怖がる日葵と朝日を元気づけている。なんだお前ら。もう守ってやんないもんね! きらいだ、きらい!

 

『えー、当院にご来院のみなさま、全参加者のゲート到着を確認いたしました。この放送後、開いたゲートからご入場くださいませ』

 

 日葵と朝日の肩がびくっと震え、「なんだ、人か……」と同時に安堵の息を吐く。言ってしまえば病院の中に入っても出てくるのは仮装した人か趣味の悪い機械だぞ。流石にこれを言うと雰囲気壊れるから言わないけど。

 

 放送が終わり、しばらくするとゲートがゆっくりと開いた。重い金属音とともに開いたゲートの向こうには、薄暗く不気味な病院の廊下が見える。明かりはぼんやりとした電灯のみ。足場はかろうじて見えるくらいだった。

 

「ほな行こか」

「まって! 心の準備させて!」

「いやー! 引っ張らないで春乃!」

「岸めっちゃ楽しそうだな」

「人をいじめるの好きなんじゃない?」

 

 そういえば朝日と千里をよくいじるし、めちゃくちゃいいやつだけどいたずら好きなのかもしれない。それでいて周りのことをよく見てよく考えてるんだからずるいやつだ。あんなの向かうところ敵なしじゃねぇか。もちろん周りが全員味方になってくれるっていう意味で。

 

 俺たち全員が病院に入ると、ゲートがものすごい勢いで閉まった。ホラー映画でよく見るあれである。かなり大きな音を立てて閉まったゲートに、「きゃっ!」「うおっ!」と二人が悲鳴をあげた。どっちが日葵でどっちが朝日かは語るまでもない。

 

「ちょ、こわっ。今にも血まみれの患者の霊が出てきそうな雰囲気じゃない!」

「そんな具体的な例出さないでよ光莉!」

「誰がネクロマンサーよ!」

「霊じゃなくて例だぞ朝日」

 

 雰囲気を壊すまいと口を手で押さえて笑いをこらえている岸の姿が見える。岸は平気そうだな。千里もきょろきょろ周りを見て余裕そうだし、怖いの苦手っていうのを隠してましたってやつはいなさそうだ。

 

「こんなところになんていられないわ! 入ってきたゲートから」

「鍵がかかってる。どんな力を加えても、押しても引いてもスライドしようとしても開かない。おあつらえ向きに鍵穴があるから、鍵を探さないと出られないんじゃないかな?」

「冷静すぎてムカつく!!」

「おい朝日。そんな大声出すと幽霊が寄ってくるかもしんねぇぞ?」

「や、やめてよ恭弥。でも念のために、静かにしてくれない? 光莉」

「それが姫の命とあらば……」

「おかしくなってんのか普通なのかどっちなんだこれ」

「元からおかしいんやろ」

 

 間違いない。俺は納得して頷いた。まぁでも日葵は美しすぎて姫みたいなものなんだし、さっきの朝日の発言は何もおかしくないだろ。ってことはまだ冷静ってことだ。

 

「ん-、でも探すったってどこ行きゃいいんだ? 地図もなにもねぇし、とりあえず歩き回ってみるか」

「無理」

「恭弥。朝日さんは無理らしい」

「なら捨てていけ」

「無慈悲よ! 怖がる女の子を捨てていくなんて男とは思えないわ!」

「朝日さん。僕の手を握って」

「お、メスが張り切っとるわ」

「君たちとはここまでだ」

 

 キレた千里が一人ですたすたと歩いて行ってしまった。朝日が名残惜しそうに千里に取られていた手を見つめている。何? もしかして手を握っててもらいたいの? 可愛いじゃねぇか。

 

「おい千里。こんなところで離ればなれになったら死ぬぞー」

「ふん。そうやって余裕ぶっこいていればいいさ。いずれ僕がいなくなって後悔する時がくるんだ」

「お前こそ俺らがいなくなって後悔するぞ」

「そんなことあるはずない」

 

 千里がきっぱり言い切ったタイミングで、突然俺たちと千里を隔てるようにシャッターが下りてきた。ガシャン! と無慈悲な音を立てて、俺たちと千里は見事に分断される。

 

「後悔したか?」

『後悔したよ。助けてくれ』

 

 千里といえど、本気で一人になったら心細いらしい。まぁ雰囲気すごいしなここ。幽霊が怖くなくても不気味で怖い。そんなところに一人で放り出されるなんてたまったもんじゃないだろう。仕方ない。バカなメスを助けに行ってやるか。

 

「おい、そこから動くなよ。どこにいるかわかんなくなったら合流できねぇから」

『ねぇ恭弥。後ろ見てみたんだけど、とてもこの世のものとは思えない生き物がいるんだ。僕はどうするべき?』

「おい、冗談言って怖がらせようってか? ならこっちには朝日がいる。どうだ怖いだろう」

「どういう意味か聞かせてもらおうかしら」

『確かに怖い。いやそうじゃなくて、冗談じゃないんだ! 確実に僕を仕留めようと近づいてきてるんだって! あ、こんにちは。へへへ。僕は織部千里。決して悪いやつじゃない。名前を聞かせてくれる?』

 

 べごん! とシャッターが突き破れるほどの勢いで何かに殴りつけられ、シャッターはその形を容易く変えた。いや、変えられた。見えなくても想像できる。恐らく千里の言っていたことは本当で、千里の近くにはこの世のものとは思えない何かがいる。

 

『恭弥。今までありがとう』

「おい千里! そっちで何が起きてるんだ!」

『ちゃんとみんなを守って、みんなで脱出してね』

「おい千里! 千里!」

 

 暴れまわる音が聞こえる。あぁ、きっとこのシャッターの向こうでは千里があられもない姿になってその魅惑的な体をねぶりつくされているんだ。なんてこった。俺の千里が汚されちまった!

 

「氷室くん! はよ助けに行かな!」

「くそっ、日葵、朝日! 怖いと思うけど、ついてきてくれ!」

「織部くんが大変なんだもん、怖いなんて言ってられないよ!」

「いってらっしゃい」

「このクズが! 八つ裂きにしてやる!」

 

 恐怖に体を震わせて目を泳がせている朝日を横抱きにして、走り出す。ぶるぶる震える柔らかい感触を楽しむ暇もないまま、必死に。

 

「氷室くん、どこ行く!?」

「外観見た限り、こっちに行けばエントランスがある! ここの病院の構造がどうなってるか知らねぇけど、そこに行けば地図があるはずだ! そうじゃなくても、エントランスからアクセスできないところなんてそうそうない!」

「なるほど、確かに! 頼りになるね、恭弥」

「私は? 私は頼りになる?」

「テメェ自分の状態よく考えて発言しろ! とにかく、千里を助けるのが最優先だ! 鍵だなんだってのはその後──」

 

『ご来院の皆様にお知らせいたします。一人死にました。残り三十九名、残り三十九名』

 

「千里が死んだァァァアアアアア!!?」

「うそやろ、千里……」

 

 千里が、死んだ。嘘だ。そんなことはありえない。あいつのことだから、あとで平気な顔してひょっこり出てくると思ってた。っていうか『死にました』ってそんなはっきり言うか普通? もっとこう脱落とかリタイアとかそういう言い方しろよ。ジョークにしては悪質すぎるぞ。

 

「クソ、よくも千里を……! 根絶やしにしてやる!」

「ぶへっ」

 

 怒りのあまり横抱きにしていた朝日を落としてしまったが、気にしていられない。千里が殺されたと知った俺に、他を気遣う余裕なんてない。

 

 まずは、千里がいた場所だ。そこに千里を殺したやつがいるはず。どんな手を使ってでも俺がぶち殺し、千里の仇をうつ。立ち止まっていた俺は怒りに任せて走り出そうとした。

 

 その時、後ろからそっと優しく抱きしめられた。

 

「日、葵?」

「落ち着いて、恭弥」

 

 怒りという熱に支配されていた体が、別の熱に移り変わっていく。なんで日葵が、俺に? この世の春か?

 

「織部くんなら、大丈夫。絶対生きてる。あんな簡単にやられちゃうような人じゃない。それは、恭弥が一番わかってるでしょ?」

「──」

 

 そう、だ。千里は、あんな簡単に死ぬようなやつじゃない。きっとどうにかして生き延びて、俺たちの前に現れるはずだ。

 

「千里は、生きてる」

「うん」

「まだ、全員で帰れる」

「うん」

「──ありがとう、日葵」

「うん。これでも幼馴染ですから!」

 

 俺から離れた日葵を見ると、にっこり笑って可愛らしく力こぶを作っていた。本当は怖くて仕方ないだろうに、俺を止めてくれた。こんなにいい女の子、生涯、世界中どこを探したって見つからないだろう。

 

「私を落として日葵といちゃつく気持ちよさっていうのを教えてもらいましょうか」

「最高」

「貴様だけは許さん」

 

 鬼と化した朝日が襲い掛かってきた。お前が一番怖いよ。

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