「ねぇ恭弥。薫ちゃんがお土産ほしいみたいなんだけど、何が欲しいか教えてくれないんだ。どういうことだと思う?」
「知らねー!!!!!!!!」
「普通に考えたら、千里が選んでくれる気持ちが欲しいとかちゃうかなぁ」
「もう薫ちゃん絶対織部くんのこと好きじゃん……もうやだ。私の妹が遠くに行っちゃう」
「私がいるわよ日葵。さぁ私の胸に飛び込んできなさい」
「朝日さんの胸に飛び込めると聞いて」
「動画保存、送信」
「ちょっと待て。誰に動画送ったの?」
そりゃ薫にだろ。
三日目。自由行動なためもちろん行く先々での資金は自分のお金から。よって、三日目くらいになると高校生である俺たちはどこでも遊べなくなるくらい金が尽きてしまう。そのため、修学旅行は二泊三日、つまり今日はお土産を買って、そのまま帰る日だ。
俺のスマホにはつづちゃんから『お土産と写真期待してますね!』というメッセージ、両親から『あのメスと同じ部屋だって言ってたけど、セックスは何回した?』というメッセージ、薫から『やっぱ大きい方がいいんじゃん』というメッセージが届いていた。やったぜ。聖さんにも千里の写真めちゃくちゃ送ったから、次会った時お金貰えるし。最高である。
「ん-、お土産迷うわね。ねぇ、どれで殺されたい?」
「木刀の前で悩んでると思ったら冥途の土産考えてたのかよ」
「光莉絶対木刀似合うやろなぁ」
「春乃も似合うと思うよ」
「僕は僕は?」
「え、織部くんは……うん。かわいいと思うよ?」
「血涙流しながら俺を見るな」
木刀持てば僕だってカッコいいよ! ほら! と 木刀を引き抜いて掲げる千里が可愛かったので、岸が木刀を取り上げて俺が千里の背中をぽんぽんと叩いて慰めてやった。こいつ、日葵にもいじられるようになったとか相当だな。許さねぇ。
日葵にいじられるってことはつまり、いじってもいい相手、仲のいい相手だって認識されてるってことだ。許せない。これが許せるわけない。薫だけじゃなく日葵まで俺から奪おうってのか?
「朝日。いい木刀を選んでくれ」
「あんたにも、殺したい相手ができたのね」
「あぁ。近すぎて見えてなかったみたいだ」
「あれって朝日さんのことか僕のことか、どっちだと思う?」
「千里」
「恭弥、君には聞いてない。だから僕に突き付けている木刀を下ろすんだ」
怯える千里がかわいそうだったので木刀を下ろし、元あった場所に戻す。木刀買うやつバカにしてたけど、手に取ってみると結構カッコよくてほしくなる。絶対使う場面ないけどほしくなる気持ちがわかってしまった。
そんな俺以上に馴染んでいるやつが朝日。木刀を数回振って、「ここにいたのね……」と木刀を見ながら呟いている。このままツッコまずに放置しておこう。どうせ恥ずかしくなってやめるだろ。
「恭弥恭弥。木刀振るうたびに揺れてるんだけど」
「お前そういう発言するたびに薫に報告されるってわかってんのか?」
「薫ちゃんには僕のありのままを受け入れてもらおうと思って」
「ちなみに『千里はやっぱり大きい方がいいみたいだぞ』って送ったら、『そう』って返ってきたぞ」
「電話してくる」
千里が走って俺たちから距離を取り、電話を始めた。「違うんだ。違うんだよ。ほら、魚だって餌があったらとびつくでしょ? 何? 魚は考える脳がないけど、僕には考える脳があるからタチが悪いって? やるね」とバカみたいなことを口走っている。流石俺の妹。バカには簡単に言いくるめられない。
「なーなー。帰ったら薫ちゃんに会いにいってもええ?」
「ん、いいぞ。岸なら悪影響まったくないだろうし」
「ちょっと、日葵が悪影響与えるみたいな言い方やめなさいよ」
「テメェが悪影響だって言ってんだよ」
「私のどこが?」
「その手に持ってるお尻の形をしたプリンはなんだ?」
「おしりプリンよ」
「商品名は聞いてねぇんだよ」
なんだよおしりプリンって。ケツ出したときの効果音みたいになってるじゃねぇか。ところでそれどこに置いてたの? あそこ? サンキュー。
「買うとるやん」
「うちの両親こういうの好きなんだよ。バカだから」
「あ、恭弥のご両親にもお土産買った方がいいかな?」
「朝日。これが結婚の挨拶だ」
「じゃあ私も氷室のご両親にお土産買うわね」
「は? 何が結婚の挨拶だよバカじゃねぇの?」
「ねぇ春乃。私ってここまで嫌がれるほど?」
「せやで」
うそでしょ、と朝日がおしりプリンを持ちながら呆然と立ち尽くした。日葵が必死にそんなことないよ! とフォローを入れているが、おしりプリン持って立ち尽くすやつはそんなことあると思う。いや、むしろこういうやつほど一緒にいて気楽だからモテるのか?
やっぱねぇわ。気楽すぎて恋愛感情がわかない。無理無理。キショキショ。
「ふぅ。薫ちゃんの声って可愛いね。思わず声に出して言っちゃったら、照れて黙っちゃったよ。ふふ」
「言っとくけどお前の声の方が可愛いぞ」
「あ、どこ行くの織部くん!」
「ほっといたれ日葵。男の子には人に見せたくないもんもあるんや」
腕を組み、目を閉じて彼方に顔を向ける岸。こいつもしかして女の子にモテるタイプの女の子か? カッコよすぎるしイケメンすぎる。しかも可愛い。無敵。きっと岸と結婚する男はどちゃくそ幸せになるに違いない。あ、興奮してきたな。
「ねぇみてみて日葵。おしりプリン買っちゃった」
「おかえり光莉。ねぇ、男の子が人に見せたくないものって何?」
「え? 小さいちん」
「しーっ、やで」
岸が朝日の口に人差し指を当てることで、女子高生が往来で男性器の名前を発することは阻止された。その代わり岸の「しーっ、やで」にやられた男女がちらほらいる。かくいう俺もその一人だ。かっこかわいい。日葵もにへらとして「春乃かわいい……」と呟いている。日葵も可愛いぜ。ふっ。
「てか、あのメスほっといたらナンパされてまうからはよ追わんと」
「私たちの中で一番弱そうだものね」
「なんか捕食してくださいオーラがすげぇんだよな」
「あはは……」
日葵が否定しないのは、一度千里をナンパから助けたことがあるからだろう。日葵に助けてもらうなんて、あいつ羨ましすぎないか?
涙目になりながら走り去っていってしまった千里の後を追う。あいつ、本当においしそうに歩くからマジでナンパされるんだよな。男なのに。まぁあんなにメスだったら仕方ない。むしろあいつがメス過ぎるから悪い。
結構遠くまで行ってしまっていたようで、しばらく歩いたところでやっと見つけた。
三人のお姉さんたちに囲まれてデレデレしている千里の姿を。
「あれを撮って薫に送ろうと思います」
「名案だね」
「電話で釈明した直後やから、どんな反応くるんかなぁ」
「もしかしたら『光莉ねーさん……』って言って私に慰めて貰おうとするかも。ぐへへ」
よく考えると、薫が千里に好意を持っていたらあれを見せられたら傷つくかもしれないので、スマホをポケットにしまって千里を助けるためにお姉さんたちのところへ行く。やれやれ、仕方ねぇな。ここは外も中もイケメンな俺が、華麗に助けてやるか。
「私の時はすぐにきてくれなかったくせに……」
後ろの不満そうな朝日の言葉は無視して、お姉さんたちに声をかける。
「ちょっとすみません。その子俺の連れなんで、勘弁してもらえませんか?」
「わ、女の子みたいに可愛い子で遊んでたらイケメンが釣れてもうた!」
「ほえー、モデルみたいにカッコいい……」
「修学旅行中なんやろ? お姉さんたちといい思い出作らへん?」
「よろしくお願いします! あ、間違えた。いや間に合ってます。失礼を承知で言いますが、お姉さんたちより素敵な女の子待たせてるんで」
行くぞ、と千里の手を取って日葵たちのところへ戻ると、なぜか日葵と岸が恥ずかしそうに俺から目を逸らし、朝日が俺を不満そうに見てため息を吐いた。なんだやんのかコラ。
「あんた、私の時はぜんっぜんスマートじゃなかったのに、何今の」
「朝日さん。恭弥が一度欲望に脳を支配されたことを忘れちゃいけない」
「欲望まみれだったメスガキが、ほざいてんじゃねぇよ」
「恭弥、朝日さんがこわい」
「俺のイケメンがよっぽど気にいらなかったみたいだな」
あと前朝日をナンパから助けた、助けた? 時との差も気に入らないんだろう。でもそりゃ差はあるに決まってるくね? だってナンパされてたのは千里だし、日葵がいるし、日葵の前でお姉さんに従順になるなんて醜態、俺には晒せない。
「ん? ははーん。お前もちゃんと女の子扱いされたかったんだな? 安心しろ。素敵な女の子の中にお前も一応入れておいてやったぞ。感謝してくれ」
「ばっかじゃないのバカ。そんなことより、照れてる日葵と岸が可愛いからどうしてくれるのって言ってるの」
「朝日さんも照れてるじゃん」
事実を抹消するために千里は消された。朝日のそういうのに触れたらそうなるに決まってるのに、バカなやつだ。
にしても、素敵な女の子って言っただけで照れるなんてやはり日葵は可愛い。岸も可愛い。というか岸何度も言うけどずるすぎる。こういう時「あはは、ありがと!」って言ってくれるといいのに、ちゃんと照れるって女の子すぎて可愛い。とんでもねぇ女の子だ。
「あー、びっくりした。氷室くん、顔はええからふっつーに照れてもうた」
そして岸は俺のことが好きであり、多分顔がいいから照れたんじゃなくて、好きな人に素敵な女の子って言われたから照れたんだと思う。岸が俺のこと好きだなんて知らなきゃよかった。可愛く見えて仕方がない。
「うん。恭弥って時々すっごくカッコいいから、照れちゃうね」
しかし日葵が世界一。ナンバーワン。この世の生物の頂点。今日も日葵が可愛すぎて世界が美しい。
「恭弥がちやほやされてる。気に入らない」
「あら、メスが嫉妬してるわ」
「は? 黙れボールみたいな胸してるくせに。二つもボール持って、ドッジボールでもするつもりなの?」
せっかく復活した千里はまたもや八つ裂きにされた。いや、お土産買おうぜ?