【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第48話 ひみつ

 修学旅行が終わって、なんやかんやあって帰宅。次の登校は土日を挟んでのため、修学旅行での疲れをとることができるってわけだ。そんなに疲れてないけど。

 

 そんなこんなで今日は土曜日。いつものように規則正しい時間に起き、規則正しい時間に飯を食って、規則正しい生活を送りながら何をしようかなと悩んでいると、インターホンの鳴る音とともに、俺の部屋の前を慌ただしく走り抜けていく音が聞こえた。

 

 薫の友だちか。と深く考えずベッドに寝転んでから、あれ? にしては慌てすぎじゃね? と首を傾げる。確かに薫は友だちが大好きで、結構頻繁に友だちの話をしてくれるくらい友だちの事が好きだが、こんなに慌てることはなかった。ってことは友だちじゃない?

 

 そっと耳を澄ませてみる。すると、いつもより控えめな声量で「おじゃまします」というメスの声が聞こえた。

 

 スマホを見る。今日は特に約束していない。じゃあ薫と個人的に約束してうちにきたってことか? じゃあつまり男女のあれこれってことか?

 

「……えーんえん!」

 

 悲しくて泣いた俺は財布をひっつかんで部屋を飛び出し、目を丸くした二人の間を抜けて家を飛び出した。

 

 

 

 

 

「ってわけなんだ」

「えらく真剣な声で『話があるんだ』って電話してきたから何事かと思ったら、私の貴重な休日を返しなさい」

「何事かと思って心配してきてくれたのか。いいやつだな朝日」

「友だちだもの。当然でしょ?」

 

 家を飛び出した俺はこのことを誰かに吐き出したいと思い、日葵に連絡しようと思ったがデートって思われたら恥ずかしくて、岸に連絡しようと思ったら岸が俺の事好きだってのを思い出して恥ずかしくなり、結局朝日に電話した。

 朝日に『話があるんだ』というと、『わかった。前のファミレスでいい?』と何も事情を聴くことなく、しかもすぐに飛んできてくれた。本当にいいやつなんだなこいつ。いつものクズが信じられないくらいだ。

 

「私もノリで薫ちゃんは渡さないって言ってたけど、別にいいんじゃない? 織部くん性欲に正直なだけで悪いやつじゃないし、それはあんたが一番わかってるでしょ?」

「それとこれとは話が別なんだよ……薫が俺に確認もせず、千里が俺に何も言わず二人で約束して会ったっていう事実が心にきてるんだよ……」

「意外と繊細なのね」

 

 よしよし、と対面に座っているため腕を伸ばしても届かないからなのか、足で俺のすねを撫でてくる朝日。エッロ。

 

「だってさぁ。俺もノリで千里を殺すだとかなんとか言ってるけど、ふっつーに応援するぜ? 節度のあるお付き合いなら全然いいんだ。何も隠さなくてもよくね?」

「まぁ、気を遣ってるのよ。あんた薫ちゃん大好きじゃない? 万が一にでも止められる可能性があったり、乱入される可能性があったりしたらそりゃ教えるわけないでしょ」

「うぅ……俺の妹と親友が俺を除け者にした……」

「もう、別に薫ちゃんだって織部くんだって、あんたを除け者にしようと思ってしたわけじゃないわよ。ただあんたが邪魔だったの」

「テメェ慰める気あんのか」

「だって事実じゃない」

 

 ちゅー、とアイスコーヒーを飲む朝日にムカついた俺は、仕返しに足で朝日のすねを撫でてやると、朝日はびくっと肩を震わせて俺を睨みつけた。ふふ、この距離じゃお前も暴力振るえないだろ。はーっはっは!

 足を踏み砕かれた。俺はもう歩けないかもしれない。

 

「変態。へんたーい」

「えっちな催眠音声みたいな罵倒はやめろ。ここをどこだと思ってるんだ」

「ファミレスやろ?」

「あんまりこういうとこでそんなこと言うのよくないよね」

「ほら、日葵と岸もそう言ってる。これで三対一だ」

「くっ、日葵と春乃が言うなら認めるしかないわね。ところで氷室。なぜか私に殺気が二つ向けられてるんだけど心当たりはない?」

「さぁ? 俺もなんかマズいなと思ってるけど、日葵と岸が偶然俺たちを見つけただけだしなぁ」

「そうね。観念したわ」

 

 朝日は遠くを見つめながらそっと息を吐いた。いつもなら興奮してやまない、隣に日葵が座ってくれるという事実から逃れるように。なんか日葵にこにこしてるけど目が笑ってないし、そんな目で見られていたら目を逸らしてしまうのもわからなくはない。おまけに岸も似たような目で朝日を見てるし。なんだこれは?

 

「薫ちゃんからね。『兄貴に構ってあげてください』って連絡きたから、織部くんに連絡したら『あのファミレスに行けば会えると思うよ』って自分は行かない前提で話してるから、あーそういうことかーって思って。来てみたら。楽しそうだね光莉?」

「まったく、傷心なら私らも呼んでくれたらええのに。水臭いなぁ氷室くん」

「氷室、なんとかしなさい」

「無理だ」

「潔いわね。気に入ったわ」

「えへへ」

 

 日葵と岸が怖い目を向けてきたので、朝日と一緒に目を逸らす。なんで俺がこんな目に遭ってるの? あれか。俺が朝日だけを誘ったからか? そりゃ日葵は薫のことで自分が呼ばれなかったら怒るのも無理ないし、岸は俺のことが好きだから朝日と俺が二人きりっていうのが面白くないんだろう。そういうことか。やっちまったな俺。

 でも二人と会うとは思わないじゃん。実際薫が気を遣ってくれなかったら二人はここにきてないし、こんなことにはならなかった。クソ、薫め。でも可愛いし優しいからオッケー!

 

「それで、薫ちゃんと織部くんが恭弥に内緒で二人だけの約束してたの?」

「すげぇな日葵。まだ何も言ってないのに」

「恭弥のことだもん。恭弥が家を飛び出しちゃうなら、除け者にされて悲しいからかなーって思ったから」

「おー。氷室くんのことよくわかってんねんなぁ」

「おい朝日。羨ましいからって俺を蹴るのやめろ」

「うるさい」

 

 ちゃんとした会話してくれ。うるさいって言われると黙るしかねぇじゃねぇか。

 

 うーん、どうしよう。日葵が俺のことわかってくれてて嬉しい。話してなかった期間大分あったはずなのに、それでも俺のことわかっててくれるなんて。つまりそれは俺が成長しないクソガキだってことになるが、日葵が理解してくれてるならなんでもいい。……流石に成長してないなんてことないよね?

 

「ん-、それは悲しいなぁ。それって、氷室くんと光莉が私らに内緒で二人で会う約束したってことやろ?」

「例えるならそうだね。うん、それは寂しいかな」

「おい、謝った方がいいらしいぞ」

「は? 私が土下座してるのが見えないの?」

「俺も土下座してるから見えねぇんだよ」

 

 これはどう考えても俺が悪いので謝っておく。朝日が謝る必要はないと思ったが、朝日は岸が俺のことを好きだって知ってるから、それに対する罪悪感だろう。そんなこと気にしてらんないわよ、って言いそうだが、朝日はこう見えて愛だの恋だのには律儀な性格をしてるんだ。乙女だし。

 

 っていうか考え方変えれば俺今めちゃくちゃ幸せじゃね? 美少女に囲まれながら美少女に土下座できるなんて、そうそうないぞ。俺は世の中の男どもの頂点に立っているのかもしれない。まったく、俺の才能ってやつが怖いぜ。

 

「でも織部くんも織部くんだよね。やましいことないなら恭弥と私に一言あってもいいのに」

「……え? それってもしかしてやましいことがあるかもしれないってこと?」

「やらしいことかもしれないわね」

「ひ、氷室くん落ち着いて! 顔が鬼みたいなっとるから!」

「離せ! あのサル畜生が! 俺の妹に手ェ出すとはどういうことだ!!!!」

 

 岸に押し倒されながらもがくが、全然拘束が解けない。あれ、力強すぎね? 女の子相手だから本気で抵抗してないってのもあるが、それにしたって力が強い。まって、抑えつけられる。ドキッてしちゃう。ちょっと無理やり感ある方が好きなの、私。

 あまりにも動揺していい女みたいなことを言ってしまった。俺がおとなしくなったからか、岸はそっと俺から体を離して「もう暴れんといてな?」と優しく微笑む。俺が女だったら惚れてたぞ。あれ? 岸は女の子じゃね? なんで俺が女だったらっていう仮定が出てくるんだ。

 

「まぁ流石に織部くんも中学生に手は出さないでしょ。ほら、恋愛的に好きな相手ってすっごく大事にしたいじゃない? 薫ちゃんもすぐにそういうことしたいとは思わないはずよ」

「……」

「……」

「朝日。二人が黙った」

「ふぅ、バカね。本気で好きな相手になら触ってほしいって思う子もいるのよ」

 

 意見変えやがったこいつ。『私わかってますよ』みたいな顔してるけど、二人の反応見て即座に意見変えやがった。冷や汗流してんの見えてんぞコラ。

 

「いや、でも、流石に勉強じゃないかな。薫ちゃん受験生だし」

「今日うち両親いないんだよな……」

「まだ付き合ってへんやし、大丈夫ちゃう?」

「薫はしっかりしてるけど、一定以上の好意を持ってる相手からの押しに弱い。千里は性欲の化け物」

「……あんた、心配しすぎよ。薫ちゃんが可愛くて仕方ないのはわかるけど、織部くんのことも信頼してあげないと。織部くんの親友はあんたでしょ?」

 

 え、なにこいつ。めちゃくちゃいいこと言うじゃん。それ言われたら俺千里を信じるしかないじゃん。ていうかこいつ本当に朝日か? なんか今日優しくね? もしかして俺のこと好きになっちゃったり……それはないか。朝日が人を好きになったら、俺くらいわかりやすいだろうし。

 

「大丈夫よ。織部くん性欲お化けだけど、ちゃんと人を思い遣る心があるんだから。それは薫ちゃんに対してだけじゃなくて、親友であるあんたに対してもね。あんたに顔向けできないような真似、織部くんは絶対しない。ね?」

「……いい女だなぁお前」

「当たり前よ。おっぱい大きいもの」

「ワレコラボケカス。喧嘩売っとんのか?」

「いやーんこわーい。助けて日葵―」

「知らない」

「あ、待って日葵。そこ移動しないで。春乃がきちゃう」

 

 あぁぁぁぁ……とこちらに手を伸ばし、女子トイレへ連れていかれる朝日。何が起こるんだろうとドキドキしていると、日葵が隣に座ってきたことでさらにドキドキした。お隣いいですかってやつですか?

 

「……」

「……あの、なんか近くないですか?」

「知らない」

「えぇ」

 

 なんで怒ってるんだろうと思いつつも、可愛いのでケーキを奢ってあげた。すぐに機嫌が直って笑顔で「ありがとー!」と言ってくれた。かわゆ。絶対結婚しよう。

 

 ちなみに朝日は泣きながら帰ってきた。何されたの?


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