【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第5話 男子高校生の悪いところ

「おい、朝きて早々俺をボコボコにした理由を教えてもらおうじゃねぇか」

「ねぇ織部くん。昨日気づいたんだけど、私段々このクソと行動が似てきてるの」

「恭弥、君が悪い」

「俺が知らない間に法律が変わったのか?」

 

 朝。いつものように文芸部を訪れた俺は、朝日に胸倉を掴まれて往復ビンタをかまされた。一緒に部室へ入った千里はその光景を止めもせずいつも自分が座っている席にゆっくり座って、暴力の嵐に晒されている俺を楽しそうな顔で見つめていた。

 俺が何をしたって言うんだ? 俺と行動が似てきてビンタされるなら、俺は将来自分の子どもにビンタされるのか? なんだその家族。愛の証明が歪すぎる。

 

「それより朝日さん。昨日メッセージありがとね。五月三日の十三時からでいいんだよね?」

「えぇ。朝から遊んでお昼食べに行って、そこでって感じ。あんたたちが入った店に行くから、当日連絡お願いね」

「俺に共有されてないんだけど?」

「僕が把握しておけばいいんだよ。君は僕についてくるだけでいい」

「朝日。俺は千里と結婚しようと思う」

「そう。日葵には私から伝えておくわ」

「腎臓でいいか?」

「口止めするならせめてお金にしなさい」

 

 口止め料として腎臓を提供しようとしたのだが、朝日に「気持ち悪いからやめて」と断られてしまった。まぁ口止めも何も千里と結婚するってのは冗談だから俺が腎臓を提供する必要はないんだが。

 なんだかんだ言ってこの二人が俺に予定を伝えないのは、俺が変に緊張しないためだろう。俺は予定を伝えられると、何か自分がふざけられそうなところを探してふざけてしまうクセがある。だからこそ二人はそれを警戒して予定を伝えない。緊張してねぇじゃねぇか。

 

「氷室、あんた当日緊張して話せないなんてヘマしないでよ?」

「バカ言うな。俺が日葵の前で緊張しないとでも思ってるのか?」

「そこは強がろうよ」

 

 ただ俺は普通に緊張する。だってそうだろう。好きな女の子と話せと言われて緊張しない男がどこにいる? どれだけイケてる男でも、心のどこかで小さな緊張と不安を抱えて好きな女の子と話すんだ。じゃあ俺は? 無理に決まってる。無理無理。だって日葵可愛いし。好きだし。えっちしたいし。

 

「つってもさ、緊張するに決まってんだろ? 本気で好きなんだよ。うまく話せるわけがねぇ」

「……あんたって時々、こっちが恥ずかしいくらい純情よね」

「こっちが照れちゃうよね。それを本人に言えればいいのに」

「あ? 俺が気持ち悪いって言われて人生が終わるに決まってんだろうが。なめんな」

「君が一番君のことを舐めてるとおもうよ」

 

 それは俺のことを評価してくれてるってことでいいのかな? いやぁ千里はほんとに俺のことが好きだなぁ。まぁ親友だしな? そりゃ俺のことが好きに決まっている。ただ千里がどれだけ俺に本気でも、俺には日葵がいる。ごめんな千里。俺が色男なばっかりに。

 

「じゃあ朝日さんがよければだけど、朝日さんを夏野さんだと思って練習してみたら?」

「それは朝日に悪いだろ」

「大丈夫よ。あんたに何言われても虫が飛んでるくらいにしか思わないから」

「言ったな?」

 

 吐いた唾は吞めねぇぞ。俺の純情っぷりをぶつけて、めちゃくちゃ恥ずかしい思いさせてやる。見よ、俺の日葵に対する純度100%の想いを!

 

「日葵、俺とえっちしてくれ」

 

 思い切りビンタされた。部室に入った時の往復ビンタは戯れ程度の威力だったが、今回は全力だった。肉が肉を激しく打つ音。俺の頬には季節外れの紅葉が咲いていることだろう。それくらいの威力で振りぬかれた朝日の手は、俺の頬を正確に撃ち抜いた。

 

「虫が飛んでたら叩くわよね」

「そうだね。仕方ないよ」

「おい千里、俺の歯見てくれ。あるか? ちゃんとあるか?」

「うん、多いよ」

「多いの?」

 

 スマホを取り出して内カメにし、自分の歯を確認する。うん、白い。じゃない、ちゃんとある。多いってなんだ多いって。叩かれたら増えるってなんだ。ビスケットか俺の歯は。

 

 にしても朝日の野郎、本気でぶっ叩きやがって。俺の純情を踏みにじりやがった。絶対に許せねぇ。ただ俺は「えっちしてくれ」って言っただけなのに。

 叩かれて当然だわ。むしろこの程度ですんでありがとうと言うべきだろう。

 

「でも本心なんだよ。わかってくれ」

「踏まれたいの?」

「いいんですか!?」

 

 冷たい声で「踏まれたいの?」と言った朝日じゃなく、千里に腕を踏まれた。ブレザーを汚さないように上履きを脱いでくれているところに優しさを感じ、やはり千里は親友だと実感する。体重かけきてるからすごく痛いけど。利き腕である右腕を踏むなんて、俺が甲子園を目指すエースピッチャーならめちゃくちゃ怒ってたぞ。俺がエースピッチャーじゃないことに感謝しろ。

 

 もし俺がエースピッチャーだったら、日葵はマネージャーになってくれただろうか。いや、なってくれないに違いない。俺がエースピッチャーであろうと疎遠であることには変わりない。いやでもエースピッチャーだぞ? 俺野球のこと詳しくないけど、エースピッチャーって絶対モテるだろ。つまり日葵も俺に惚れてマネージャーになってくれて、うふふのふである。

 

「俺、エースピッチャーになります」

「うち甲子園常連校でめちゃくちゃ野球部強いけど、頑張って」

「マネージャーくらいはしてあげるわ。頑張って」

「止めろ。友だちが無謀な挑戦しようとしてるんだぞ。止めろよ」

「背中を押してあげるのが友だちでしょ?」

「間違ってることは間違ってるって言うのが友だちなんだよ!」

「あんた生き方間違えてるわよ」

「心に来ることは言わないのが友だちなんだよ!」

 

 千里の足をどけて、憤りながら自分の椅子に座る。こいつらほんとにわかってるのか? 俺がもし万が一、ものすごい才能を発揮してエースピッチャーになったらもう一緒に遊べないかもしれないんだぞ? エースピッチャーって忙しいんだぞ? 多分。

 

「でもあんた運動神経いいわよね。バカみたい」

「朝日は俺を純粋に褒めるってことができないのか?」

「ごめん。口が勝手にあんたの悪口言っちゃうの」

「まぁまぁ。バカなのは事実だし」

「勉強はできるんだよ!」

 

 せっかく褒めてくれたと思ったのに! 朝日はやっぱり俺のことが嫌いなんだ。でも嫌いってアピールするやつほど相手のことが好きだと俺が勝手にとった統計で証明されている。つまり朝日は俺のことが好き。

 ふっ、モテる男は辛いぜ。

 

「つかなんで俺が運動神経いいってこと知ってんの?」

「うち野球部が強いから、それ関係で秋に運動系のイベント多いでしょ? 球技大会に体育祭にマラソン。それ全部であんたが活躍してるんだから、流石に知ってるわよ」

「ほんと、恭弥って性格で損してるよね」

「そこそこいい頭にいい容姿、更に運動神経抜群。こいつらを打ち消すほどの性格って、俺どんだけクソなんだよ」

 

 俺、自分の性格クソだと思うけどそんな振り切ってクソじゃないと思うんだけどなぁ。だって勉強はできるのよ? カッコいいのよ? 運動神経いいのよ? なんでこれでモテないんだよ。俺の性格悪すぎだろ。クソ性格め。俺の邪魔しやがって。

 

「あぁそうそう。だから秋は恭弥が少しモテるんだよね。『あれ? もしかして氷室くんっていい男?』ってなるんだけど、現実を知って去っていくんだ」

「容易に想像できるわね」

「俺性格矯正しようかな……」

「そうなると僕は君の親友をやめる」

「なんで?」

「面白くないから」

 

 ……性格を矯正するとモテるが、千里に親友をやめられてしまう。悩みどころだ。女をとるか、千里をとるか。究極の選択。男は一生で女は一瞬というが、その一瞬を積み重ねれば一生となる。

 

「……なら俺はこのままでいるか。千里と親友やめたくねぇし」

「僕は信じてたよ、恭弥」

「今認めるなら怒らないわ。あんたたち付き合ってるでしょ?」

 

 ふぅ。男同士の友情を見てすぐ付き合ってるって言うなんて、発情期かこいつ? 少子高齢化の原因を、男同士のカップルが大量に生まれてるからだと思ってんのか? 少子高齢化の原因はシンプルに貧困だからに決まってんだろ、バカが。

 

「ん、待てよ? 体育祭は九月だが、マラソンと球技大会は十一月。つまり告白に成功すれば、俺は日葵に応援してもらえる……?」

「私も応援してあげるわよ」

「よかったな千里。朝日が応援してくれるってよ」

「いらないかなぁ」

「ほんと失礼よね、あんたたち」

 

 朝日は確かに可愛くていいやつなんだが、なんか違うんだよなぁ。いや、朝日も俺のことなんか違うどころかまったく違うって思ってるだろうけど。ほら、気が合うというか、めちゃくちゃ友だち感が強い。これは俺の意見で千里が朝日をどう思っているかわからないが、さっきの反応を見る限り俺と似たような印象を朝日に抱いているに違いない。

 

 恋愛漫画によくあるが、男同士の親友、女同士の親友、そこから一組男女カップルが生まれると、あまりものでカップルが出来上がるという法則。あれは俺たちの場合だと当てはまりそうにない。

 俺が日葵と付き合えないからっていうわけじゃないよ?

 

「ま、無駄話はこれくらいにして。ほんっとーに当日ミスるんじゃないわよ?」

「フォローにだって限度があるからね。最後は結局自分の力でどうにかするしかないんだから、頑張って」

「俺は日葵の私服姿を見て倒れない自信がない」

「わかるわぁ」

「え?」

「あ」

 

 しまった、と慌てて口を抑える朝日。今「わかるわぁ」って激烈にだらしない顔で言ってなかった? 俺の気のせい? いや、千里も俺に「今の見た?」と目で語り掛けてくる。聞き間違いじゃないし見間違いでもない。

 

「はは、随分仲がいいんだな。朝日がそんな顔するなんてよっぽど日葵のことが好きなのか?」

「べ、別に好きとかそういうんじゃ、いや好きなんだけど、私は氷室みたいに濁ってないし純粋に好きだし、あれよ、友だちとしてよ?」

 

 怪しいか? 怪しいね。アイコンタクトで千里と意見を一致させ、尋問を開始した。

 

「朝日。俺は人の趣味に口出すようなタイプじゃないし、誰だってどんな意思を持っていていいと思う。だから教えてくれ。お前は日葵のことが恋愛的な意味で好きなんだな?」

「だから違うって言ってんでしょ! あれよ、そうやって聞かれたら照れちゃうくらい日葵のことが好きっていうのは事実だけど、私は男の子が好きなの!」

「おいおい告白されちまったよ千里。どうしよう」

「君、自分が男の子代表だと思ってたの? 思い上がるなよカス」

「もっと優しい言葉使え」

 

 俺のメンタルだって無敵じゃないんだぞ。ちゃんと傷つくんだぞ。というか今傷ついてるんだぞ? お前ら俺になら何言っても平気だろみたいな顔してズバズバ言葉の刃で斬りつけてくるけど、俺しっかりダメージ貰ってるし、毎晩自分の部屋で泣いてるんだからな?

 日葵とえっちできないから。

 

「ほんとか? にしては気持ち悪い……悪い。気持ち悪い顔で『わかるわぁ』って言ってたけどな」

「今言い直そうとしてやっぱり適切な表現だったから押し通したわね? でもほんとよ。もし私がそういう意味で日葵のことが好きなら、あんたに協力するわけないじゃない」

「んー、それもそうか」

「そうよ。もし万が一私が日葵と付き合ったらおっぱい見せてあげるわよ」

「千里。日葵と朝日が付き合う作戦考えてくれ」

「君は清々しいほど性欲に忠実だね。了解」

「了解してんじゃないわよ!」

 

 僕も男の子なんだよ? と本来ならきゅんとくるセリフを最低な場面で言ってのけ、朝日の冷たい視線を二人そろって浴びて、なぜか俺だけビンタされてから教室に向かった。

 お前から言ったのに。お前から言ったのに!

 

 

 

 

 

 次の日。掲示板前。

 

 新聞には、『また二年A組! 今度は美女カップル! 放課後の教室で、「私は日葵が好きなの!」と大胆告白!』とあり、夕日をバックに真剣な顔をした朝日と、世界一可愛い日葵の写真が載せられていた。

 

「……」

「……」

「あれ、あんたたちそこで何してんの? 何か面白いことでも書いてる?」

 

 掲示板の前で立ち尽くしていると、朝日が罪人であるという自覚を持っていない、『私清廉潔白ですよ』と白々しく笑って俺たちに手を振りながら近づいてきた。

 掲示板を指す。朝日が新聞を見た。そして俺を見た。

 

「……おっぱい見せろやっ!!」

「待って! 勘違いなの! これ全部嘘なの!」

「朝日さん。君は僕たちの信頼を裏切った。つまり、取り戻すにはおっぱいを見せてもらうしかない」

「織部くんってそんなキャラだったっけ!? と、とりあえず部室行きましょ、部室! そこで詳しい話を」

「まぁ廊下でおっぱい出すわけにはいかないもんな」

「ここは素直に従ってあげようよ」

「これが勘違いだってわかったら、あんたたち本気でぶん殴るからね?」

「バカなこと言うな。俺は初めから勘違いだってわかってたさ」

「まったくだね。あまり僕たちを舐めないで欲しい」

 

 俺と千里は思いっきり殴られた。千里が殴られるってことは本気で怒っているらしい。でもお前がおっぱい見せるとか言うから、見せるとか言うから!

 

 男子高校生は、おっぱいの前では知能がゼロになってしまうのである。そういう悲しい生き物なんだ。


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