【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第50話 六月二十二日

「恭弥今日は僕先に帰るねそれじゃあ」

「あ、え、え……?」

 

 月曜日。いつものように日常を過ごし、千里と帰ろうとするとめちゃくちゃ早口でまくし立てて千里は去っていってしまった。何か嫌な予感がして薫に電話すると、着信拒否。昨日から思ってたけど、出ないならまだしも着信拒否ってなんだよ。

 

「まーたなんかあるわね、あれ。まぁ男なんてそんなもんよ」

 

 その様子を見ていた朝日が座っている俺の隣に立ち、頭をぐしゃぐしゃと撫でてくる。やめろ。朝日なんかに母性を感じた日には俺は自分が信じられなくて自殺しなきゃならない。あれ? 朝日が死んだら俺死ぬ必要なくね?

 

「光莉。なんで恭弥の頭撫でてるの?」

「あ、はい。すみませんでした」

「まーまー。氷室くんがこんな顔しとったらしゃあないやろって、ほんまにひどい顔しとるやん」

 

 自分がどんな表情かはわからないが、俺の顔を覗き込んだ岸が本気で心配そうな顔をしているから相当なんだろう。日葵も朝日の手首を掴みながら「大丈夫?」と俺に聞いてくれている。え、俺の心配してくれるんですか? やばい。朝日が心配してくれるより嬉しい。朝日、優しいかと思いきや俺が今日ハンカチを忘れたと知ると「は? 借りたものも返せないの? 死んだ方がいいんじゃない?」って言ってきたから嫌いだ。

 

「でも、そろそろ許せないわね。氷室がこんなに寂しがってるのに薫ちゃんを優先するなんて」

「うーん、今日は薫ちゃんじゃないかもしれないよ?」

「氷室くんより優先順位高いって相当ちゃう? それこそ薫ちゃんくらいしかおらんやろ」

「なんで……なんで俺に内緒なんだ……俺は薫の兄貴で千里の親友なのに……」

「そういや新聞にも『二人の仲に亀裂か!?』って書かれとったしな」

 

 つづちゃん容赦なさすぎだろっていうか敏感すぎだろ。つづちゃんには何も話してないのに、ゴシップレーダーで感じ取ったってのか? だって今日の新聞にそれが書かれてたってことは、少なくとも土日のどっちかに俺たちのすれ違いを確認したってことだろ? シンプルに怖い。

 

「……いや、まぁ、このままじゃダメかもなぁ。よく考えたら俺より薫を優先してくれるなら、むしろ安心だし。薫のことを一番に考えてくれてるってことじゃね?」

「私はもし日葵に彼氏ができたとして、私を放置して彼氏ばっかに構ったら嫌よ」

「ほら、薫は俺の妹だろ? 俺だって千里がどこの誰かもわかんねぇ女の子におアツなら朝日と同じだけど、そうじゃないからなぁ」

「一緒よ。だって親友だもの」

 

 行儀悪く俺の机に座り、気に入らないと言わんばかりに鼻を鳴らす。おい、そこに座ったら日葵が見えねぇだろ。どけ。

 

「恋人ができたから、できるからってないがしろにしていい親友なんていないの。親友を名乗るなら、恋人と同じくらい大事にしなきゃダメじゃない」

「気ぃつけなあかんな、日葵」

「私は光莉をないがしろになんてしないもん」

「そもそも彼氏作らないで!!!!!!!」

「おい、静かにしろよ。窓にヒビ入ったじゃねぇか」

「うそ」

「うそだけど」

 

 俺の骨にヒビを入れられてしまった。

 

 でも、そうだよなぁ。俺も日葵と付き合ったとしても千里をないがしろになんて絶対しないし、したくないし。千里もそうだと思ってたけど、そうじゃなかったのか。なんかそれは、うーん。寂しいというかなんというか。

 

「おにーさんおにーさん。寂しいなら今日一緒に遊ぼか!」

「そうだよ! 恭弥も、私たちと一緒なら寂しくないでしょ?」

「仕方ないわね。どうしてもって言うなら一緒にいてあげないこともないわよ?」

 

 昨日と言っていることが違うので昨日こっそり録っていた朝日の熱いセリフを流そうとすると、朝日に全力で止められた。お前やっぱ恥ずかしかったのかアレ。ちなみにつづちゃんに渡したらすごい喜んでたぞ。喜んでたっていうか悦んでたくらい。うん。マジマジ。

 

 

 

 

 

「あれ、俺なんで岸に背負われてんの?」

「光莉にボコボコにされて気ぃ失ったからやで」

 

 はっと目を覚まして周りを見てみると、俺の家がある住宅街。どうやら岸が背負って連れてきてくれたらしい。隣には日葵もいて、その隣に犯人がいる。感動的セリフをみんなに聞かせてあげようとしただけなのに俺を気絶させるなんて。

 

「あ、おはよう恭弥。さっきからね、光莉に『恭弥の何を止めてたの?』って聞いてるのに教えてくれないの。あれなんだったの?」

「あぁ、あれな。あれは……」

 

 そこで、日葵の奥にいる朝日の目を見た。その瞬間脳が高速でフル回転する。そうだ、土曜日俺と朝日が日葵と岸に内緒であっててあんなことになったんだから、今これを説明するとつまりまた二人で会ってたことの証明になってしまう。つまりそれはなんか気まずい雰囲気になって日葵と岸が笑顔で「ふーん」ってなる時間が訪れてしまう。まるで浮気がバレた時のように。俺浮気したことないし絶対しないけど。

 

 ってなると、どうする。正直に言うのは論外。でもどう嘘つくんだ? 朝日が嫌がるような、みんなに見せてほしくないもの。それを俺が持っているっていうところまでは日葵と岸は理解しているはずだ。そこから外れることだけはしちゃいけない。

 

「ほ、ほんとに大したものじゃないのよ。ね? 日葵、もういいじゃない」

「大したものじゃないのに光莉が恭弥を気絶させるわけないもん」

「そうでもないんちゃうかな……」

 

 それはそうでもないと思う。

 

「あっ、あれよ! こいつ、あの病院で私を背負ってた時、私のおっぱいの感触レポート書いてたらしくて、それを朗読しようとしたの!」

「おい待てコラテメェ! 俺をとんでもねぇ変態に仕立て上げようとしてんじゃねぇ!」

「いーや書いてるわね! 私が嫌がるいやらしいことをするのめちゃくちゃ好きでしょ!」

「大好きです! おい日葵、岸、朝日の言うこと信じるなよ!」

「氷室くん、今自分自身で自分の信用落としとったで」

「恭弥って結構脊髄で喋っちゃうから……」

 

 人を脳無しみたいに言うのはやめてもらおうか。

 

 クソ、朝日め。俺が本当のことを話せないのをいいことに好き勝手言いやがって……。いや、でもよく考えたら本当のこと言ってよくね? 土曜だって表立った被害受けたの朝日だけだったし、って思ったが岸のことを考えると言わない方がいいか。ナルシストみたいになるけど、俺が朝日と会ってたってことで岸に傷ついてほしくない。

 いやでもでも、本当のことを言った方が誠実じゃないか? 後で嘘がバレたらやましいことがあったみたいじゃないか。あの時は全然そんなやましいことなかったし、俺が聖さんの脱ぎたて靴下を欲しがったことくらいだ。めちゃくちゃやましいじゃねぇか。

 

「……話したくないならいいよ。恭弥と光莉の、二人だけの秘密なんでしょ?」

「実は昨日氷室と会っててあんまりにも寂しそうな顔してたから優しい言葉かけたら泣き出しちゃったの。それでハンカチを貸してあげたんだけど、私の優しい言葉が氷室に録音されてて、それが恥ずかしくて聞かれてほしくなかったっていうことよ」

「お前日葵が悲しそうな顔したからって全部喋りやがったな! 日葵に弱すぎだろお前!」

「そうなんだ恭弥」

「あ、そうです」

「氷室くんも弱っ」

 

 岸。俺と朝日が日葵に逆らえると思うのか? 逆らえるわけないだろ。だって俺たちは日葵が大好きなんだから。日葵に逆らうくらいなら死ぬ。そういう人間なんだ。

 

「別に、二人で会ってたからって怒らないのに」

「ひ、聖さんもいたわよ。昨日、薫ちゃんと織部くんがどこかに出かたから、氷室が聖さんに慰めてもらおうと」

「光莉はなんでそれがわかったの? 聖さんから連絡がきたの? それとも恭弥から?」

「……よ、予測です」

「へぇ、愛やなぁ」

「岸。おろしてくれていいぞ」

「もうちょっとこのままでええやん」

 

 へ、へへへ。なにやらマズい空気ですね。日葵めちゃくちゃ笑顔で素敵じゃないか。それなのに怖いのはなんでだろう。俺何も悪いことして……ないこともないのか? 悪いことしてるな。そもそも、俺が昨日聖さんのところへ直行せずに、この三人全員に連絡すればよかったんだ。

 

「恭弥、私たちに連絡してくれなかったんだ」

「ごめん。そうだよな。土曜のことがあったんだから、最初っから三人に連絡したらよかった。これは俺が完全に悪い。なんで朝日が怒られてるかわからないけど、朝日は俺を心配してきてくれただけなんだ。だから何も悪くない」

「え、あ、うぅ……」

「あーあ。怒るつもりで話振ったのに謝られたから言葉失ってもうた」

「こいつこういうとこズルいのよね。さ、わかった? 私が何も悪くないってこと」

「光莉はそういうとこクズやんな」

 

 え……!? と本気でびっくりしている朝日。いや、朝日は本当に悪くない。どうせなら気を利かせて朝日が二人に連絡してくれていればと思わないこともなかったが、朝日は俺を心配してくれただけなんだ。朝日が二人に連絡してくれていればこんなことにはならなかったことも確かだが、朝日は悪くない。

 

「……もう。そんなすぐに謝られたら何も言えないじゃん。でも、次からは私と春乃にも連絡すること! わかった!?」

「承知いたしました!」

「あはは。まぁ今回は私らも悪いしなぁ」

「は、春乃!」

「? 日葵と岸は何も悪くないだろ」

「私も悪くないわよ」

 

 お前は罪から逃れようと必死になってんじゃねぇよクズ。

 

 そろそろおりよか、と岸が俺を下ろし、そういえばもうそろそろ俺の家かとぼんやり考える。え、今から日葵が俺の家にお邪魔してくれるの? 嘘でしょ。部屋掃除したっけ。あ、毎日掃除してるわ。俺偉すぎね? こういうとこで差が出るんだよな。男ってやつは。

 ……でもどうしよう。流石にないと思うけど、家で千里と薫がすごいことしてたら俺立ち直れないぞ。いや、ない。流石にない。千里は中学生にいやらしい真似するようなやつじゃないし、薫もそんな軽くない。第一俺が帰ってくるってのがわかってるのにそんなことするってどんだけクズなんだよ。千里はそこまでクズじゃない。

 

 家に到着し、日葵と岸の歩く速度がゆっくりになる。自然と朝日が隣にきて、「お前何隣に来てんだよ」と睨みつけると「あんた、油断すると日葵の隣に行こうとするでしょ」と睨み返してくる。正解。

 

 仕方ないので、隣にいるのが日葵じゃないことにため息を吐きながら鍵を開け、ゆっくりとドアを開いた。


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