【本編完結】ただ、幼馴染とえっちがしたい   作:とりがら016

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第51話 びっくりした?

「誕生日おめでとう!」

 

 ドアを開けるとメスが両腕を広げ、満面の笑みで俺たちを出迎えた。あまりの可愛さに朝日と一緒に「は?」と言って、お互い顔を見合わせる。

 

 六月二十二日。千里が薫とあれこれしてるんじゃないかとやきもきしてたから忘れてしまっていたが、今日は俺の誕生日だった。

 

「あ、そういえば今日俺の誕生日だったな」

「あ、そういえば今日私の誕生日だったわね」

「え?」

「え?」

「はいはーい! 今日の主役二名様ごあんなーい!」

「ほら、靴脱いで。行くで!」

 

 わけがわからないまま靴を脱ぎ、日葵と岸にリビングへ連れて行かれる。千里はにやにやしたまま俺たちの後ろを歩き、何の説明もないままリビングに入った。

 リビングにはテーブルを囲んで、薫、カメラを構えたつづちゃん、ひらひらと手を振る聖さん、そしてなぜかクソバカの井原。お前とそこまで仲良くなった覚えはないけどまぁ許してやるとして。

 

「どういうこと?」

「僕も驚いたよ。修学旅行の時、薫ちゃんから恭弥の誕生日を祝いたいって言われてさ。せっかくだから盛大にやろうと思って夏野さんに相談したら、朝日さんも誕生日が同じだって言うから。ここまで言ったら、君なら理解できるでしょ?」

「……つまり、俺と朝日に自分の誕生日を忘れさせる出来事をぶつけて、その間にサプライズの準備を着々と進めてたってか?」

「大正解! 君のことだから、親友である僕と愛する妹の薫ちゃんが君に内緒で会ってたら、気が気じゃないだろうと思ってね。朝日さんの方は夏野さんになんとかしてもらおうと思ってたんだけど、朝日さんは思ったよりも恭弥のことが? 大切? 大事? 親友? みたい? だったから?」

「殺そう」

「えぇ」

 

 ムカついた俺は更にムカついているであろう朝日と一緒に千里をボコボコにした。それを誰も止めないのは、これが俺たちらしいとわかっているからだろう。クソ、お前がいなかったせいでお前の分俺が朝日にボコボコにされてたんだぞ? わかってんのかこのメス! この、この!

 

「……段々読めてきたぞ。新聞で俺と千里の仲に亀裂がって記事があったってことは、つづちゃんは俺たちのすれ違いを知ってたってことだ」

「つまり、監視役ってとこですね!」

「ってことは聖さんも知ってたんですか?」

「ふふ、ごめんね?」

「あと井原はなんでいるんだ?」

「ひどくね!? 俺ら友だちじゃん!」

「病院でお世話になったから、僕が呼んだんだ」

 

 それはそれでちょっと思うところあるんだけど、まぁいいや。

 

 納得いかない、と俺と朝日は腕を組んで口の先を尖らせる。同じ仕草をしてしまったことが気に食わなくて腕を解くと、朝日も同じタイミングで腕を解いた。そして同時に口を開いて「マネするな」。

 

 喧嘩売ってんのかこいつ?

 

「……今思ったんだけど、私はこのサプライズに踊らされて、氷室にあんな恥ずかしいこと言っちゃったってこと?」

「あ、姉さんから聞いたよ。聞いたよ? 聞いたんだ。聞いちゃった! ふふふ。いやぁ、僕がいなくても恭弥の親友はいなくならなさそうで安心したよ。なんだっけ。えーっと、『今氷室の側にいてあげられるのは私しかいないかなって』だっけ? ヒュー! これからも恭弥の側にいてあげてくださいね! ぷぷぷ」

「落ち着いて光莉! わ、私はすっごく優しくて素敵だと思うよ!」

「今日はおめでたい日なんやから! あと千里もクズやらかさんくて鬱憤たまってるからって言いすぎや!」

「やけにテンション高いと思ったら……」

 

 ぎゃーぎゃー騒ぐ千里と朝日を無視して、薫の隣に座る。俺が隣に座った瞬間ビクッとした薫を見て笑いながら、薫の背中を優しく叩いた。

 

「別に気にしてねぇよ。俺のこと考えてやってくれたんなら、むしろ嬉しいくらいだ」

「……ん。でも、ごめん」

「いいって。兄貴は妹に振り回されるくらいがちょうどいいんだよ」

「じゃあもう一つごめん。さっき井原さんと連絡先交換しちゃった」

「井原テメェ!! テメェを男として再起不能にしてやる!!!!!!!」

「ちなみに私も薫ちゃんと井原さんと交換しましたよ!」

「つづちゃんにまで手ェ出そうとしてんのかテメェ!!」

「えー!? だって仲良くなりたいじゃん! ちょ、誰か助けて!」

 

 俺が薫のことになったら止まらないと全員知っているからか、助けを求める井原から全員目を逸らす。最後の希望とばかりに井原が薫に目を向けるが、薫はつづちゃんに写真を撮られて照れていた。あとでちょうだいつづちゃん。もちろんです? 優しい子だね君は。あとで五万くらいあげるからね。

 

 なんだかんだで、俺が井原をぶち殺して朝日が千里をぶち殺して、死体が二枚重なったところで仕切り直し。俺と朝日のことを考えてくれて千里も根回ししてくれたんだろうが、薫と遊んでいた事実は覆らないので死んで当然。

 

「つか、岸がここに来る途中に言ってた『私らも悪い』ってこういうことか」

「そーそー。いやー、光莉がここまでとは思わんかったから。ちょっと私も焦ったわ」

「だって、だって!」

「光莉はいい子だよー。何も恥ずかしいことないからね」

 

 朝日が子どもみたいに後ろから日葵に抱かれ、頭をなでなでされている。俺もあれしてほしい! 朝日ずるい! 俺もいい子だぞ! ぷんぷん。

 自分の気持ち悪さに吐き気を催して、それを察した薫に背中を擦られていると、死体になっていた千里が起き上がった。お前ほんとタフだよな。

 

「さて、恭弥、朝日さん。誕生日と言えばなんだと思う?」

「は? 殺されたいの?」

「だめだ恭弥。朝日さんの僕への殺意が未だに高すぎて会話ができない」

「千里、ちょっと待ってくれ。薫、千里と何してたんだ? 内容によっては俺も千里への殺意を高めないといけない」

「え、えっと、ん-。内緒?」

「千里を殺す」

「だめだ夏野さん。恭弥と朝日さんがこうなった以上、恭弥の幼馴染で朝日さんの親友である君がこの場を仕切るしかない」

 

 頬を赤く染めて俺から目を逸らし、「内緒?」。これ絶対何かあっただろ。千里テメェ俺たちのためっていうのを装ってちゃっかり距離縮めてんじゃねぇぞ。もう知らない。今日から俺の親友は千里じゃなくて朝日だ。朝日こそ俺の辛いとき側にいてくれる大親友だ。俺が日葵と結婚したとしても、俺と日葵の愛の巣に住むことを許してやろう。

 

「え、私? ん-、恭弥、光莉。誕生日といえばなんでしょーか」

「プレゼント―!」

「はい! プレゼントだと思います!」

「わ、正解! えらいねー二人とも」

「「えへへ」」

「姉さん。僕は二人のために頑張ったのに、友情を失ったかもしれない」

「よしよし。ところで薫ちゃん。これから私のことはおねーちゃんって呼んでいいからね?」

「ごめんなぁ井原くん。東京の電車の路線みたいにぐちゃぐちゃなとこ連れてきてもうて」

「岸さん! 井原さんが進行してる会話が多すぎて頭ショートしてます!」

 

 バカすぎだろ井原。聖徳太子みたいに10人の話聞けってわけじゃないんだから、これしきのことで頭ショートさせるなよ。まったく、これだから子どもは困るぜ。

 

 なんだかんだ、嬉しいとは思ってる。俺は今まで友だちはいたとしても、わざわざ家にきてまで祝ってくれる友だちってのはいなかった。それこそ千里くらいで、後は古い記憶では日葵。あれ、そういえば日葵も俺の誕生日祝ってくれんの久々じゃん。え、うそ。幸せすぎて死にそうなんだけど。

 

「それでねー。なんと、みんな誕生日プレゼントを用意してます!」

「えー!? みんなが!?」

「おいおいマジかよ! いやー、照れるぜ!」

「日葵が仕切りやからって、全力やな二人とも」

「あの二人はあぁいう浅ましい生き物なんだよ。ふぅ、低能を晒して恥ずかしくないのかな?」

「朝日さんのおっぱいに夢中なくせに」

「それは誤解なんだ薫ちゃん! 薫ちゃんと比べたら朝日さんのおっぱいなんてないに等しい!」

「え? 朝日さんのおっぱいはめちゃくちゃあるくね?」

 

 バカは黙っとけバカ。

 

 それよりも今千里さりげなく薫を口説いてなかったか? 口説き文句としては最低だったが、それでも薫は嬉しそうにしてるし。やっぱなんかあっただろこの二人。つづちゃんこの二人は追ってないの? え、追ってた? あとでどんなことしてたか教えてくれ。教えられない? それは教えられないようなことしてたってこと?

 

 千里を引きちぎることが決定した。もう俺に千里に対する慈悲はない。

 

「じゃあ私から。恭弥くんには七月後半にある花火大会のペアチケット。展望台で綺麗な花火見れるから、一緒に見たい人とぜひ行ってきてね」

「よし、一緒に行くか。薫」

「え、私?」

「薫を誘っておかないと、千里が薫を連れて行くだろうから早めに俺が守る」

 

 ペアチケットを薫に渡すと、「もうちょっとちゃんと考えて」と突き返されてしまった。めっちゃくちゃちゃんと考えたのに。論理的思考のもとの最適解なのに。

 

「ちなみに朝日ちゃんにも同じものをあげちゃいます。これで喧嘩することはないわよね?」

「ありがとうございます! 日葵と一緒に行きます!」

 

 頭を下げながら、朝日が大事そうにチケットを受け取る。聖さんが日葵と岸を見ながら言ったのは、もし俺が千里、日葵、朝日、岸のうちの誰かを誘ったときに喧嘩になってしまうからってことだろう。土曜日俺が朝日にだけ連絡しただけであぁなったんだ。俺がその中の誰か一人を誘ってしまえば、あの時よりすごいことになるに違いない。

 

「んじゃ、俺からは俺の連絡先ってことで! 嬉しいっしょ!?」

「いらねぇ」

「いらないわ」

「ひどくね!?」

「まぁまぁ二人とも。井原くんは急遽きてもらって用意ができなかったから、勘弁してあげて」

「は? 何喋りかけてきてんだカス」

「あんた口乳クサいわよ。ママのおっぱいでも飲んできたの?」

「おい。泣いてやろうか」

 

 しばらくは許さねぇからな。俺は男らしくねちねちするタイプなんだ。

 

「私からのプレゼントは、また後日! 写真をアルバムにして差し上げちゃいます!」

「おいおい。何万円渡せばいいんだ?」

「ちなみにいやらしい写真はありませんよ」

「え!? 日葵のマル秘お着換えシーンないの!?」

「はぁ、欲望丸出しでみっともねぇな朝日」

「自分の子どもが二人みたいになったらと思うと恐ろしいな……」

 

 おい岸、聞こえてるぞ。いいじゃねぇかこんな子どもになっても。強く生きることだけはできるぞ。社会に適応できるかどうかはともかく。

 まぁ天才と変態は紙一重っていうし、つまり天才=変態の数式が成り立つ。つまり俺は天才っていうことで、朝日も天才ってことだ。今日は天才二人が生まれた日。どんな記念日よりも尊い素晴らしい日だ。もちろん日葵の誕生日は殿堂入り。

 

 聖さん、井原、つづちゃん。ってくると次は誰だろうと思った瞬間、千里が真打ち登場と言わんばかりに立ち上がる。

 

「君たちのためだったとはいえ、結果的に傷つくことがあったのは否定できない。だから、その贖罪ってわけじゃないけど、絶対君たちに喜んでもらえるようなプレゼントを用意したんだ。受け取ってくれる?」

「はぁ、うるせぇよ。二度と話しかけてくんな」

「本当に気分悪いわね。あんたとは友だちだと思ってたのに」

「恭弥には現金五万円、朝日さんには夏野さん全面協力の夏野さん写真集」

「やっぱり俺たちは親友だ!」

「愛してるわ織部くん!」

 

 満面の笑みになった俺と朝日が千里に抱きつき、千里が満足気に頷きながら俺たちを抱き返す。やっぱり千里は俺たちのことをわかってくれている。こんな親友、世界のどこを探したっていやしない。

 

 なぜかリビング中から「何か違う」っていう声が聞こえてきたが、気のせいだろう。こんな美しい友情が何か違うなんてありえない。

 


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