頂いた五万円を財布に突っ込み、どうやって日葵に貢ごうかなと考えている俺、日葵の写真集を眺めながらよだれを垂らし、だらしない顔でげへげへ言っている朝日。俺たちの欲を丸出しにするなんて、流石千里。俺の親友はお前しかいない。
「さてさて。次誰が渡すー? ……なんや。日葵と薫ちゃん恥ずかしそうやな」
「うっ、は、恥ずかしくないもん。ちょっと緊張しちゃってるだけで……」
「私も、別に、してません」
「氷室。あそこにいるのが私の嫁と妹よ。仲良くしてね」
「薫は俺の妹だから、俺は日葵と朝日と結婚したってことか?」
「氷室。あそこにいるのが私の嫁と私の嫁よ。仲良くしてね」
「薫と結婚したってことは俺とお前は兄妹か」
「逃げ場がない……」
「そんなに俺と近しい存在になるのが嫌か?」
あんたもいやでしょ、という朝日の言葉に「違いない」と頷き、念のために朝日の視線から遮るように薫の前に出る。朝日は隙あらば薫を連れ去ろうとするから油断ならない。ちくしょう、俺は千里からだけじゃなく朝日からも薫を守らなきゃいけないのか。兄貴冥利に尽きるぜ。
「ほな、恥ずかしがり屋さんの二人は後々のお楽しみってことで、野郎どもー! 春乃ちゃんのプレゼントが欲しいかー!」
『うおおおおおおお!!!』
「騒いでくれたとこ悪いけど、千里と井原くんにはプレゼント用意してないで」
え? と絶望した表情で両腕を掲げた状態で固まる千里と井原。アイドルみたいに聞いてきてくれたからみんなにプレゼントを用意してると勘違いしたんだろう。厚かましいやつらだぜ。今日は俺たちの誕生日だぞ? お前らにプレゼントなんか用意してるわけねぇだろゴミどもが身の程を知れ。
「ん-、でもなぁ。氷室くんには五万円、光莉には日葵の写真集。これ以上にほしいもんなんかないんちゃう?」
「確かに……」
「一理あるな」
「そこは嘘でも『そんなことない』って言えや」
睨みつけてくる岸に「そんなことないです!」と朝日とデュエット。ちなみに俺がハモリ。それが面白かったのか岸は小さく笑って、「あかん。笑うてもうた方の負けや」と俺たちを寛大な心で許してくれた。流石、普段から「笑かしゃ勝ちや」って言ってるだけのことはある。
「でも実際、千里にプレゼントのクオリティで勝てるとは思ってへんかってんな。なんだかんだ言うて二人のこと理解してるんは……まぁ、日葵もそやろうけど、いろんな制限無視して二人の好きなもん用意できるんは千里やろうし」
「普通プレゼントに現金は選ばないものね。千里」
「あれ、姉さんもしかして怒ってる?」
「私も写真撮るの協力しましたけど、夏野さんすっごくご立腹でしたもんね!」
「あれ、夏野さんもしかして怒ってた?」
「だって、恥ずかしかったもん」
千里が俺の方に逃げてきた。日葵からは何もされないだろうが、聖さんは弟である千里に容赦がない。頭を掴んで床に叩きつけることなんて普通にするし、どこぞの戦闘民族みたいな暴力なんて軽々しく振るう。『躾』に一番いいそうだ。聖さんの将来の旦那さんは尻に敷かれることだろう。
何? 聖さんの尻に敷かれるだと? 羨ましいじゃねぇか……。
「まぁつまり、物で勝たれへんやったら気持ちしかあらへんなって思って」
「あぁ。千里のプレゼントなんて打算と『これで喜ぶんでしょ? 浅ましい人間だね』って心が透けて見えるからな」
「プレゼントとしては、『理解度』っていう点でしか評価できないものね」
「そこまで言うなら返してもらおうじゃないか」
「好きだぜ千里」
「愛してるわ織部くん」
「まったく、君たちは本当に僕が好きだね。ふふふ」
「きょ、恭弥? 好きっていうのは恋愛的な意味で……?」
「安心しろ日葵。俺は女の子が好きな男の子だ。確かに千里は丸々メスだけど、生物学的には男だから恋愛対象にはならない」
「えー? でも俺織部となら付き合えそうだけどなぁ」
「あかんこれはよ結論言わな収拾つかんわ」
まったくその通りだ。薫なんて場がごちゃごちゃしすぎて静観することに決めたのか、暇を持て余して俺の手を膝に乗せてぐにぐにといじっている。それ可愛いからやめなさい。千里も隙を見て俺の手と自分の手を交換しようとするのやめろ。お前の手メス過ぎてすぐにバレるんだから。「あれ? このメスの手、千里ちゃん?」って薫に言われてお前が傷つくだけだから。
「ってわけで、私が用意したプレゼントはこちら!」
言って、岸は俺と朝日に向かって何かを投げてきた。
俺はそれを危なげなくキャッチし、朝日はキャッチしようとして失敗して床に落とした。「肌が瑞々しすぎるのも考えものね」と訳のわからない言い訳をしながら拾い上げたところで、岸が得意げに説明を始める。
「革製のブレスレット! しかも筆記体で今日の日付と名前が書かれてるおしゃれ仕様! ちなみに私も作ったから、三人だけのお揃いやで!」
こげ茶色をベースにした革製のブレスレット。結合部分は編み込まれており、裏側に今日の日付、表側に俺の名前が筆記体で書かれている。え、筆記体で書かれた俺の名前、更にカッコよくね?
「そうそう、こういうのだよな。現金とかじゃなくて、お揃いのさ。すっげぇ嬉しい。ありがとな、岸」
「やっぱりこういうのってセンスよね。欲望まみれのプレゼントするやつなんてゴミよゴミ。ありがと春乃」
「そんなこと言ったら僕は薫ちゃんと夏野さんとお揃いのアクセサリーを買っちゃいます」
「締め上げよう」
「もう締め上げ終えたわ」
「ほんとだ……」
いつの間にか俺の後ろで千里がぴくぴくと震えるだけのナマモノと化していた。早業すぎる。朝日がやりなれているのか、千里がやられなれているのか。恐らくどっちもだろう。
そうして千里がもうすぐ死ぬというところで、日葵がじーっと早速つけた俺のブレスレットを羨ましそうに見ていた。何? そんなに可愛い顔しても俺のこれからの生涯と全財産と臓器提供しかしませんよ?
「三人だけお揃いなんてずるい」
「ん-? んふふ。羨ましいやろ?」
「私もほしい」
「ん-せやなぁ。じゃあ後で場所教えたるから、今度氷室くんと一緒に行って来たら? ブレスレットだけやなくて色んなアクセサリー作ってもらえるし、二人だけのお揃い作っても」
「な、なな何で恭弥とだけなの!? 三人だけお揃いずるいなーって思っただけで、私も同じものほしいなーって思っただけで、別に恭弥とお揃いのものが欲しかったわけじゃなくて」
「私とお揃いのもの欲しかったのよね!!!!!!!!!」
「ううん。三人がお揃いのもの持ってるなら、私と織部くんも三人と同じものほしいなぁって」
「冷静に返された……」
温度差が激しすぎる。さては日葵、朝日の対応に関しては完璧になってるな? さっきまで顔を赤くして慌てて手をぱたぱたさせていたのに、朝日への返事はきょとんとして冷静に。流石に朝日がかわいそうに思えてきた。
にしても、なんで岸は自分と俺と朝日にだけブレスレットを作ってくれたんだろう。岸なら五人分作ってきてくれそうなもんなのに。お財布事情もあるかと思うが、それならそれで「お金があらへんくて」ってはっきり言うだろうし、そもそもお金がないなら自分の分も作らないはずだ。日葵か千里が「自分の分もほしい」って言いだすことが予想できないやつじゃない。
「俺もほしいなぁ。どこで作れんの? 岸さん」
お前は作るなバカ。
「そんじゃいよいよ日葵か薫ちゃんの番やけど……あかん。目に見えて緊張しとるわ」
「だいじょうぶだよー薫。よちよちー」
「触らないで」
「おい、今触らないでって聞こえたぞ?」
「あんたが薫ちゃんに言われたのよ」
嘘だろ。薫と同じ声で「触らないで」って聞こえたと思ったらまさか薫が「触らないで」って言っただなんて。ただ俺は薫をよしよし撫でただけなのに。……いや、中学三年生の女の子に「よちよちー」はないか。いくら妹だとはいえ配慮が足りなかった。次からもよちよちしよう。薫可愛いし。
割と本気で弾かれた手を死体になった千里で冷やそうとして「僕生きてるんだけど」と千里に手を掴まれて遮られながら日葵と薫を待つ。もしかしてプレゼント渡したくないとか用意してないとかじゃないよな? と不安になるが、二人がそんなことをするはずがない。千里と朝日と違って心があるんだ。俺と同じだな。
「はぁ、日葵。日葵の私へのプレゼントが『愛』だってことはわかってるから、恥ずかしがらなくていいのよ」
「お前が恥ずかしいんだよ発情猿」
「は? 私に恥ずかしいところなんてあるはずないでしょ。見なさいこの誰がどう見ても抜群の容姿」
「写真撮ってて思いますけど、朝日さん画になりますもんね! 画にはなりますもんね!」
「でしょ?」
「お前はつづちゃんが毒を吐いたってことに気づけ」
画にはなるってそれ以外はダメってことだぞ。いい風に解釈するな。俺も前同じこと言われて「だろ?」って得意げになって、千里に「毒吐かれてるよ」って指摘されたからわかるんだ。つまりそれって俺と朝日の知能が同じってことじゃね?
「聖さん。織部のちんちんっていつからついてたんスか?」
「そうねぇ、いつごろだったかしら」
井原はマジで黙っといてくれ。口説く気がまったく見えないから安心っちゃ安心だけど、話題が劣悪すぎる。お前以上にバカ丸出しにできる人間なんて存在しないだろ。あと聖さん、千里のって最初っから生えてたんじゃないんですか? 千里は後天的に男になった?
「ひーまーりー。引きずれば引きずるほど恥ずかしくなるで? ここはバンって女の度胸見せたれ!」
「わ、ちょ、待って春乃!」
痺れを切らした岸が、日葵の背中を押して俺の前まで連れてくる。抵抗しながら俺の方へくる日葵はベリーキュート。朝日はあまりの可愛さにつづちゃんに札を渡して写真を撮ってもらっていた。つづちゃんが写真関連になると倫理観ぶち壊れんのを利用してんじゃねぇよ悪魔め。
朝日に、俺もあとで払うから頼んだぞ。とアイコンタクトで伝えてから、俺の近くまできた日葵を見る。隣で「私じゃまかな?」と可愛らしく首を傾げる薫に、こっそり「めっちゃくちゃ緊張するから隣にいて」と頼れる兄貴らしく言ってやった。ふ、我ながらカッコいいぜ。
「ねぇ、私からじゃないの? なんで氷室が先なの?」
「緊張する方が先のがええんちゃう?」
「は!? 私にも緊張するでしょ! 日葵は私を愛してるんだから!」
「クソキショ粘着ストーカーみたいなこと言うなや」
あまりにも暴言過ぎる。朝日も流石にショックだったようで、「それより重い愛よ?」と拗ねて、拗ねてねぇじゃねぇか。怖すぎる。
「ん、ん-……ん。恭弥、えっとね。ものじゃなくて、予約みたいなものなんだけど……」
「予約?」
「うん、ちょっと待ってね」
言って、日葵はカバンをあさり始め、一枚の紙を取り出した。
え、紙ゴミ? 日葵からもらえるものなら何でも嬉しいけど、紙ゴミ? 混乱する俺に、日葵はその紙を差し出した。
その紙には、立ち並ぶ屋台と夜空に咲く花火が映し出されていた。どうやら祭りのチラシのようで、開催期間が書かれている。俺の間違いじゃなければ、さっき聖さんにもらったチケットと同じ場所で開催されるもので、ってことはあのチケットはこの祭りの花火を見るための……。
祭りのチラシ? 予約?
「私からのプレゼントは、私とお祭りにいける権利、みたいな……」
どうかな? と不安げに首を傾げる日葵に、俺はフリーズした。朝日は暴走した。